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長野、県民ぐるみで目指すゼロカーボン

長野、県民ぐるみで目指すゼロカーボン
長野県上田市の「岡崎酒造」の屋根一面に置かれた太陽光パネル。岡崎謙一社長と「上田市民エネルギー」の藤川まゆみ代表
長野県

長野県は昨年10月、2050年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにする「長野県脱炭素社会づくり条例」(ゼロカーボン条例)を制定した。都道府県の条例としては初めてで、「県民総ぐるみの運動により持続可能な脱炭素社会を実現し、国際社会の先導役として将来へ良好な環境を引き継ぐ」と宣言した。同県の取り組みを現場からリポートする。(フリーライター・菅沼栄一郎)

「再エネ3倍以上」を目指して

2019年6月に軽井沢で開かれたG20エネルギー・環境関係閣僚会合での「長野宣言」を契機に、同県は議会などで議論を重ね、同年12月に「2050年ゼロカーボンへの決意」とともに「気候非常事態宣言」を表明した。

これに基づき、20年4月には「気候危機突破方針」として、ゼロカーボンを実現するためのロードマップを示した。その大きな柱は、①最終エネルギー消費量の「7割」削減②再生可能エネルギーの「3倍以上」拡大だ。具体策としては、「エネ消費7割削減シナリオ」では「住宅など建物の断熱」性能の向上などをあげる。「再エネ3倍以上拡大シナリオ」の軸は、太陽光、バイオマス、小水力・地熱による発電拡大だ。

まずは、「再エネ3倍以上拡大シナリオ」の現場から訪ねよう。

左から藤川さん、辻さん夫妻
「相乗りくん」が強い味方

「信州のすべての屋根にソーラーを」と屋根上太陽光発電の旗を振るのが、「上田市民エネルギー」(藤川まゆみ代表)。屋根スペースを活用したい「屋根オーナー」と、太陽光パネルの設置費用を出資する「パネルオーナー」を結び付け、太陽光発電を増やしていく「相乗りくん」という仕組みだ。

昨年8月、東御(とうみ)市のブドウ畑が広がる地域にある築150年の古民家で、太陽光発電が動きだした。2階の屋根に置いた24枚のパネルは、7.68kWを発電する。

数年前に千葉県から移住した辻新一郎さん(55)と佳苗さん夫妻が、古民家を購入し、シェアハウスとして2階の4部屋(一部メゾネット)を家賃3万円から4万円で募集し、県外も含めて30代から70代の借り手がついた。

佳苗さんは、「昼間は太陽光で発電した電気を使い、余った電気は電力会社に売電します。みなさん光熱費が助かると喜んでいます」と言う。メンテナンスも「相乗りくん」にお任せだ。

太陽光発電は「一石四鳥」

藤川さんは、「20年間で考えれば、電力会社に電気代を払い続けるよりも、太陽光発電を導入した方が安い電気が使える」と強調する。

資源エネルギー庁のデータで計算すると、当初の設置費用が29万円/kW 、20年間のランニングコストが6万円/kWかかるとして、これらの費用を20年間の予測発電量で割ると、1kWhあたり14.58円。いまの電気代は全国平均で約25円。「1kWh あたり10円安く、クリーンな電気が手に入り、余ったら21円で売れる(※2020年度申請の場合)。ゼロカーボン推進にも貢献できちゃうので一石四鳥です」

2011年の東日本大震災後、藤川さんは「上田市民エネルギー」を設立し、12年3月、「相乗りくん」1号が発電を始めた。

パネルオーナーは全国どこからでも10万円から参加可能で、売電収入を得られる。屋根オーナーは設置費用不要で電気が使え、将来は設備が自分のものになる。現在、パネルオーナーは延べ約270人で、51軒の屋根に設置されている。

こうした活動が認められ、18年に環境省の「グッドライフアワード」で環境大臣賞(地域コミュニティ部門)を受賞した。

藤川さんは昨年夏、上田市の中心街の酒造メーカー「岡崎酒造」にも太陽光パネルを設置した。岡崎酒造は寛文5(1665)年からこの地で、菅平水系の水を生かしながら、地酒「信州亀齢」を造り続けてきた。倉庫の屋根に敷き詰められた44枚のパネルは14.08kWを発電する。

エネルギー消費削減は「断熱」向上で

一方、「最終エネルギー消費量7割削減」目標は、2016年度の18.6万TJ(テラジュール)を4.7万TJに減らすことだ。その戦略の柱のひとつに建物の断熱性能の向上がある。同県の住宅は92%が断熱不足とされるなど、建築物の断熱が進むかどうかが目標達成の成否を占う。

※ジュールは、1ワットの電力を1秒間使用した時に発生する熱量。テラは10の12乗倍(1兆倍)。

ワークショップ3日目(Hakuba SDGs Labのホームページから)
白馬高校、DIYで断熱性能アップ

白馬村の白馬高校では、昨年9月の連休を利用して、教室の断熱性能を上げるDIYワークショップが行われた。

ワークショップを共催した「Hakuba SDGs Lab」によると、3年生を中心に生徒たち十数人が企画を推進した(http://hakuba-sdgs-lab.org/200919_hhs-insulation)。断熱に詳しい建築家や地元の工務店の人たちも、指導にきてくれた。

工事をした教室は3年B組のホームルーム用教室で、3日間で、窓(外部と廊下側)、天井裏、窓周辺の壁を重点に工事した。

担当教師の浅井勝巳さん(42)は、「工事の後で、朝、教室に入ると、ほんのり暖かい、と生徒たちは言います。前日の余熱でしょうか」。他の教室との温度差を詳しく調べる予定だという。

企画を支援した「自然エネルギー信州ネット」は報告(http://www.shin-ene.net/report-01/5310)のなかで、「きちんと断熱された教室は学生たちが集まることで生まれる人の体温のエネルギー(1人100Wといわれる)の発熱がしっかりと室内に残り、部屋を温め続けることができます」としている。

小水力発電、もっと活用を

同県は小水力発電事業も推進する。小水力発電の導入量は、全国でもトップクラスだが、現在1600カ所と言われる導入可能地のうち、まだ50カ所余しか設置されていない。

米子川第一発電所と長野エネルギー開発の山本さん

18年春、長野市の東隣、須坂市から菅平高原に向かう山間部に、米子川第一発電所ができた。県の砂防ダムから引いた水で発電し、最大出力は約200 kW。一般家庭の300世帯相当の発電量にあたる。

この発電所のポイントは、「信州発」の技術を使っていることだ。発電所を運営する「長野エネルギー開発」(須坂市)には5企業が参加した。いずれも、県内に本社があり、太陽光発電や次世代エネルギー開発などに取り組む。外国製が使われることが多い水車などの設備には、信州大の協力も得て、自社開発をした。同社の山本博一専務は、「ここの水は、強酸性のため農業用水には使えませんでしたが、売電収益の一部は流域の環境保全にも生かしていきたい」と言う。

県環境エネルギー課の担当者は、「地域発の技術で生産し、経済も地域内で循環するモデルとして、全国に発信できる再エネ事業になる」と期待している。

【これまでにゼロカーボンシティを表明した都道府県】
(2021年1月13日時点)
「2050年CO₂ゼロ」自治体、全人口の7割超

長野県も表明している「ゼロカーボンシティ」は、2050年までにCO₂排出を実質ゼロにすることを表明した自治体のこと。環境省が主導し、今年1月13日現在で、206自治体(28都道府県、118市、2特別区、48町、10村)。人口を足していくと、日本の総人口の7割にあたる9000万人を突破、約9041万人となった。(県などと市区町村の重複人口を除く)。

19年9月時点で、東京都、山梨県、京都市、横浜市の4自治体だったが、同年末に小泉進次郎環境相が全国に呼びかけて以来、急速に増加した。自治体に引っ張られる形で、昨年10月には、菅義偉首相は政府として「50年までに温室効果ガス排出実質ゼロ」を目指すことを宣言した。

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