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SDGs達成は、足元の課題に取り組むことから ~日本政府交渉担当官に意義と課題を聞く

SDGs達成は、足元の課題に取り組むことから ~日本政府交渉担当官に意義と課題を聞く
撮影・朝日教之
外務省/南博大使

日本ではよく「SDGsバッジ」をつけている人たちの姿を見かける。一種のブームと言ってもいいかもしれない。しかし私たちは、SDGs(持続可能な開発目標)とはそもそもどうして設けられたのか、課題とは何なのか、日常生活で何をすべきなのかを考えたことがあるだろうか。外交官の南博さんは、国連でSDGsが議論された際の日本の首席交渉官だった。交渉の過程では何があったのか、現実とのずれはあるのか、私たちは日々の暮らしで何をすればいいのかなど「SDGsの意義と課題」について聞いた。(聞き手 朝日新聞編集委員・秋山訓子)

SDGsには二つのルーツ

――南さんは、2012年のSDGs交渉の最初から採択まで一貫して担当されました。SDGsは、2030年に向けて17の目標(ゴール)と169のターゲット、それに伴う232の指標を示しています。なぜSDGsを策定することになったのでしょう。

「SDGsには二つの起源があります。一つは地球環境に関する『持続可能な開発』という考え方です。1987年に国連『環境と開発に関する世界委員会』が出した報告書がもとになり、92年にはブラジルのリオデジャネイロで『地球サミット』が行われました。世界で初めての地球環境問題に関する大型の国際会議で、そこで打ち出されたのが『持続可能な開発』という考え方でした」

「もう一つは、2001年に途上国の開発のために作られたミレニアム開発目標(MDGs= Millennium Development Goals)です。専門家が策定しました。この期限が2015年で、一定の成果は上げたものの、八つのゴールのうち三つが保健関連であるなど中身に偏りがあり、もっと幅広いゴールが必要ではないかという反省がありました。また、達成度も中国など東アジア諸国は多くのゴールを達成しましたが、アフリカのサハラ以南の国々のようにそうではない地域も多くありました。途上国からは自分たちの問題なのに、策定に関与できなかったなどの不満も出ていました」

「そこで15年を迎えるのを機に、 今度は先進国も含め国連加盟国すべてを対象に、策定も自らで行うということになったのです。最初から加盟国すべてが『自分の問題』として交渉をしていったと言ってもよいかもしれません」

「平和と公正をすべての人に」、小国が主張

――途上国から先進国まで193カ国の参加ということで、歴史や利害、宗教の違いなどを乗り越えての議論だったかと思います。交渉の中で特に印象に残っている場面は?

「目標16の『平和と公正をすべての人に』は、もっとも紛糾したテーマでした。持続可能な開発についての伝統的な考えには、平和や安全の問題は入っていません。しかし英国が、開発の基礎は『法の支配』や説明責任を果たせる政治体制にある、と強く主張したのです。そこに東ティモールが、賛同意見を述べました。同国は1999年に行われた独立を決める住民投票に際して内紛となり、国が大変な騒乱になった。その経験をもとに、平和的な体制、社会に関する独立したゴールが必要だと主張したのです。途上国のグループを『G77プラス中国』と言いますが、その主流派である中国、ブラジル、インドなどは、開発に政治的な問題が入り込むことに強く反対しました。自国の開発に、先進国からの介入、注文が行われることを懸念したためです。小国の東ティモールが反論を述べるのは非常に勇気がいることだったと思いましたが、結局この目標が入ることになりました。とても意義のあることだったと思います」

――気候変動も各国の利害が対立するテーマです。

「これを目標に入れるかどうかも非常に議論になりました。結果として目標13(気候変動に具体的な対策を)にはなりましたが、SDGs交渉の後に行われる2015年12月のパリでのCOP21の合意を事前に予見することができなかったため、ターゲットは具体的ではありません」

「気候変動はSDGsの期限である2030年よりも長期の話です。活動家のグレタ・トゥンベリさんの世代にとっては2050年や60年に地球がどうなるかは切実な問題でしょう。それを私のような50代の人間が交渉していいのだろうかという葛藤が常にありました」

――193もの国が議論をするとなると合意に至るのが大変そうです。

「SDGsの内容を議論していた作業部会では、延々と議論が続き、なかなか結論に至りませんでした。平和や安全、気候変動の問題に加え、例えば、人口や女性の健康に関する概念でも紛糾しました。多くのイスラム諸国や一部のキリスト教国は、人工妊娠中絶などの面で女性の権利を認めようとしなかったのです」

SDGs交渉の準備会合に臨む南さん=2012年5月、米ニューヨークの国連本部 (本人提供)
想定外のパンデミック

――そうやって苦労の末、合意にこぎつけたわけですが、現実とのずれはありますか。

「目標3(すべての人に健康と福祉を)は保健分野ですが、新型コロナウイルスのようなパンデミック(世界的な大流行)への言及はありません。しかし、直接書いていなくても、序文や宣言、それぞれのゴールやターゲットで掲げる原則や方法は、このコロナ禍での危機を克服するための処方箋になりうると思います。つまり、それぞれの課題に取り組むことで、結果としてコロナ禍を克服することになるのではないでしょうか」

――課題は他にどんなことがありますか。

「SDGs達成のために資金が必要なことです。毎年5兆~7兆ドルの投資が必要ですが、途上国への投資は年間2.5兆ドル不足していると言われます。鍵を握るのは民間資金だと思いますが、現在投資の要素にESG(環境、社会、企業統治)を考慮するというESG投資が盛んになってきたのはとても喜ばしいことです。しかしこれも地域的に偏在しています。欧米、日本、中国では盛んになっていますが、アジアの他の国々やアフリカでは非常に少ない。しかも、再生可能エネルギーを中心に投資が活発になっていますが、ジェンダー平等や教育への投資などはまだこれからではないでしょうか」

――日本の課題は何でしょう。

「2030年にあるべき姿から照らして現状を点検し、足りない面での努力を増強することと、苦境にあるほかの国への支援を拡大することだと思います」

撮影・朝日教之
日々の生活の中でできることから

――SDGsが今の地球的な危機を克服するための大事な目標だということはわかりますが、あまりに問題が大きすぎて、日々の暮らしでどうしたらいいのか途方に暮れてしまいそうです。

「私はSDGs交渉を最初から最後まで一貫して担当できて、幸運でした。しかし一方で、外交官として途上国の赴任経験はほとんどなく、現場を知らないのに開発問題についてあれこれ議論するのは口先だけで仕事をしているのではないかという思いが常にありました」

「SDGs担当の後、大使として東ティモールに赴任することになり、開発の現場を見ることができました。地方を訪問し、教育、保健、水などの分野の状況を知りました。首都ディリの海岸や川にはペットボトルなどのゴミが散乱していて、ゴミ拾いの活動が始まり、私も参加しました。もちろんゴミ収集だけではダメで、たとえばプラスチックを減らさなければ問題の解決にはなりません。その一方で、清潔な水をどう確保するかを考えることも必要です。多くの人々が、足元の身近な問題に取り組み、そこを足がかりにして次はどうすればいいかを考えるべきではないでしょうか」

南博(みなみ・ひろし)
1983年、外務省入省。中国大使館、ロシア大使館、国連代表部などに勤務。2012年から15年までSDGs交渉を担当。17年から19年まで在東ティモール大使。現在、広報外交担当日本政府代表・大使。「SDGs――危機の時代の羅針盤」(岩波新書)を稲場雅紀氏との共著で昨年11月に出版。
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