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性的少数者が安心して住める足立区に

性的少数者が安心して住める足立区に
撮影・朝日教之
東京都足立区/近藤弥生区長

「このまちでは怖くてカミングアウトはできない」。東京都足立区は昨年、区議の発言をきっかけに、LGBTの人たちからそんな言葉を向けられた。「100年に一度」と自ら位置づける大きな変化の時を迎えている同区は、この課題にどう向き合うのか。東京23区で唯一の女性区長、近藤弥生さんに、LGBTと社会、ジェンダー平等、そして区の将来像を語ってもらった。(聞き手 編集部・金本裕司)

「私は普通じゃない?」

――昨年9月、白石正輝区議がLGBTなど性的少数者に関する発言をし、大きな波紋を呼びました。発言をどう思われましたか。

「白石議員の発言は本会議場でのことですから、私もすぐ横で聞いていました。発言の中で、『普通の結婚をして、普通に子どもを産んで、普通に子どもを育てる』と聞いた時、私は結婚していないし、子どももいないので、この議員の範疇では私は普通ではないんだな、という思いがまっさきに浮かびました。普通というのはいったい何だろう、という疑問が非常に大きかったですね」

LGBTの人たちから要望書を受け取る近藤区長(右)=11月10日、足立区役所 (撮影・朝日新聞)

――3回にわたって、関係の団体のみなさんとも会われました。

「お目にかかった方の中に、足立区で長くご商売をしているお宅に生まれた方がおられました。ご本人は親ともうまくいっているし、ご近所の方ともよい関係を続けているが、『足立区ではカミングアウトはできない、やはり怖い』とおっしゃっていた。LGBTの方が、怖くてこの地域には住めないと発言されたことは、自治体の長としてはショックでした。これまで、高齢者や障がい者にやさしいまちづくりをしようという議論は議会でも出ていましたし、区民の要望もありました。しかし、LGBTに対応しようという話は、議会からも区民からもごくごく少数でした。足立区では機は熟していないのかな、と思っていたのです。しかし今回、みなさんのお話を伺って、現実に息苦しさを感じながら生きていることがひしひしと伝わってきました。機が熟するうんぬんではない、と思いました。そこでパートナーシップ・ファミリーシップ制度の要綱を定めて、4月1日から実施することを決め、1月29日の記者会見の中でもお話ししました」

「ただ、要綱の制定は始まりの始まりです。実際には入院する、子どもを預ける、家を借りるといった際に問題が生じると聞いています。その時に、一方の当事者になる業界の方々に理解していただかないといけません。すべてはこれからなんです」

(足立区資料から)

多様性を尊重できる社会へ

――「人や国の不平等をなくそう」というSDGs(持続可能な開発目標)の目標にも関連した問題です。

「LGBTへの理解は、マルかバツかという話ではありません。まさにそれが多様性ということです。多様性の尊重を正面から否定する人は少ないとは思いますが、各論になると今回のような議論になる。多様性を尊重することや、『誰一人取り残さない』というSDGsの考え方にまだ現実が追いついていないなと感じざるをえません」

――団体の皆さんの要望には制服の自由化もありました。

「ブレザーの制服なら、スカートでもズボンでもおかしくなく着られます。ところが、セーラー服や学生服の学校では、そうもいきません。制服は校則で決められていますが、区が決めるのではなく、長い伝統の中で、セーラー服がいいよといった地域のみなさんの考え方で決まってきたものです。教育委員会がこれから保護者や地域の方と相談していくと聞いています」

女性にたくさんの選択肢を

――東京23区では、女性の区長は近藤さんだけです。国会議員でも女性の少なさが指摘されています。ジェンダー平等はSDGsの目標でもありますが、現状をどうお考えですか。

「区長の前に、1997年から10年間、都議会議員を務めていました。初めて一般質問をした時に『保育の充実』を取り上げたのですが、議場からのヤジで、『3歳児神話を知らないのか』『女が働いて子どもを預けるようになって、日本の子どもは悪くなったんだ』と言われました。私は自民党所属でしたが、身内からヤジが飛び、『女は子育て』という分業の考えが根強いのだなと改めて思い知らされましたね」

「私は、女性が社会進出できる仕組みづくりを一つの目標として議員になったので、これは大変だなと感じました。ただ、そのころある人が、『他人の考え方を白から黒へと変えさせるのは大変なエネルギーがいる。それよりも、困っている人が選択できるメニューをたくさん作り、テーブルに並べてあげればいいのでは』とアドバイスしてくれました。これだなと思いましたね。その考え方は区長になった今も変わっていません。生き方を固定化せず、フレキシブルに生きていけるように選択肢を用意したいと思っています」

――女性議員を増やすためには何が必要でしょうか。

「議員の何分の一かを女性にしようという考え方には正直、抵抗感があります。自分の力ではい上がってこられないからルールを作ってというのは、逆に自分たちを小さく見ることにつながるのではないかと感じるからです」

「ただ、現状を見ていると、何らかのルールでもない限り、『指導的地位』に就く女性を3割にというのはなかなか難しいですね」

大学と区民が交流できるまちづくり

――区のまちづくりのために、積極的に大学を誘致されてこられました。

「大学生がまちを闊歩していて、学生と交流があったり大学の授業を体験できたりということがないと、将来何になりたいか、何を勉強したいかと聞かれても、子どもはなかなかイメージがわかないと思います。大学があり交流が生まれることは、子どものキャリアデザインの一環とも考えています」

「区長になった時、区には放送大学と東京藝大の千住キャンパスがあるだけでしたが、今は五つの大学があります(4月からは六つに)。千住のまちは、東京電機大学が移転して変わりました。新しいものと、歴史的なものが混在するおもしろみのあるまちになりつつあると思っています。この成功を千住エリアにとどめず、『エリアデザイン』という考え方で区内に広めたいと思っています。今年4月には、花畑エリアに新たに文教大学のキャンパスが開設する予定です。また、現在は荒川区にある東京女子医大の東医療センターが江北エリアに移転を予定しており、夏ごろには竣工します。竹ノ塚駅の高架化が来年度実現し、新たなまちづくり計画に入っていきます。まさに今、足立区は100年に一度の変化の真っただ中、しっかりとやっていきたい」

足立区のエリアマップ。現在の5大学は千住エリアにある。(足立区提供)
撮影・朝日教之

ワクチン確保ときちんとした情報を

――いま自治体にとって新型コロナ対応が喫緊の課題だと思いますが、最も大変なのはどの点ですか。

「なんといってもワクチン接種への対応です。国からは、3月中旬から下旬までにまず65歳以上の人へ接種券を発送し、4月には接種を開始できる態勢をつくるように言われています。足立区の人口は約70万です。仮に50%の方が接種を希望するとして、一人が2回打たないといけないので、延べ70万回の接種をしなければならない。この回数をどこで、何人の医師でこなせるか。1年間毎日接種したとしても、1日2000回の接種になるのですが、この数をどうこなすのか、頭の痛い問題です。国はファイザーと契約したと言いますが、本当に薬液が回ってくるのかどうか、現在のところ不確かなままです」

「コロナ対策の特別定額給付金の時も、スピードを競う自治体間の競争のようになりました。今回もそうなりかねません」

――コロナ対策で国に要望するとすれば何でしょうか。

「必要な量の薬液を、必要なタイミングで安定的に供給してほしいということが第一です。次に情報不足の問題です。本当に情報が少なく、マスコミやテレビの情報しかないのが現状です。国にはきちんとした情報をぜひお願いしたいです」

近藤弥生(こんどう・やよい)
1959年、足立区生まれ。青山学院大学卒業後、警視庁に勤務。税理士を経て、1997年、都議会議員初当選。2007年から区長、現在4期目。
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