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再生可能エネルギーで切り開く~CO₂排出ゼロを目指して

東芝、石炭火力発電所建設をやめ、再生可能エネルギーを軸に

東芝、石炭火力発電所建設をやめ、再生可能エネルギーを軸に
東芝/車谷暢昭社長

東芝が石炭火力発電所の新規建設から撤退し、太陽光発電などの再生可能エネルギー分野に力を注ぐことになった。東芝は原子力、火力などの発電所建設を手がけ、エネルギー産業を支えてきた。しかし、すでに海外の原子力発電所建設事業からは撤退し、石炭火力発電所建設からも退く。その背景とは何か。名門企業が再建の核に据える再生エネ事業の将来像はどのようなものか。三井住友フィナンシャルグループ副社長・三井住友銀行副頭取を務め、2018年から東芝のCEO(最高経営責任者)として再建を進める車谷暢昭社長に聞いた。(聞き手 編集部・大海英史)

車谷暢昭社長(東芝提供)

地球温暖化が人類共通の課題となっています。欧州では石炭火力の全廃方針が出されるなど、現在の大きな流れのなかで社会にどう貢献し、社会的責任を果たすべきか。そう考えたとき、エネルギー供給サイドにいる企業として、石炭火力発電所の新規受注をやめるという判断になりました。

石炭火力発電所の新規建設をやめることはもともと、2019年度から5カ年の中期経営計画「東芝Nextプラン」でも検討していました。社会的なインパクトも大きいので、社会に対するコミットメント(約束)として、いつ表明するかを考えていました。

カーボンニュートラルに貢献を

そんなとき、二酸化炭素(CO₂)の排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を中国が60年、米国が50年、日本も50年までに目指すという目標が示され、世界の足並みがそろってきました。そこで20年11月のタイミングで、石炭火力からの撤退を表明させてもらったのです。

顧客や国によっては低効率の石炭火力を高効率のものにしたいというニーズやメンテナンスもあります。そうしたものは継続します。しかし、ビジネスとして石炭火力発電所を新たにつくっていくことはしません。

東芝として、30年度までに温室効果ガスを半減

東芝は30年度までに19年度比で温室効果ガスを50%削減する目標を立てています。20年12月には、温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」(世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をするため、今世紀後半に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする)に沿った企業の中長期的な削減目標「SBT(科学的根拠に基づいた排出削減目標)」の認定も取得しました。

東芝グループが取り組む温室効果ガス削減の目標(東芝提供)

30年度までの削減のアプローチは三つあります。

第一に、東芝グループの事業活動にかかる燃料使用や電力使用からの排出量を28%削減します。

第二に、バリューチェーン(原材料調達、物流、販売、廃棄など)で発生する排出のうち、販売したエネルギー供給製品・サービスの使用(発電プラントなど)による排出量を50%削減します。石炭火力の新規建設をやめることや高効率の火力発電に更新すること、再生エネに移行することで進めます。

第三に、バリューチェーンで発生する排出のうち、販売したエネルギー消費製品・サービス、たとえばビル関連の空調機器や照明機器、昇降機などによる排出量を省エネ性能の向上やデジタル技術の活用で機器の負荷を低減させるなどして14%削減します。

これらのアプローチで、東芝グループの温室効果ガスの排出量は19年度の6億2367万tから30年度にはおよそ半分まで減る見込みです。

車谷暢昭社長(東芝提供)
30年度に再生エネ事業を6500億円に

東芝の再生エネ事業の売り上げは19年度に約1900億円でした。これを25年度に3500億円、30年度には3倍超の6500億円まで拡大したいと考えています。そのために20~22年度の3年間で研究開発と設備投資を合わせて1600億円規模の投資をします。

IEA(国際エネルギー機関)の試算では、世界のエネルギー関連投資はいま年間80兆円規模ですが、50年に向かって今後は年間140兆円規模に拡大する見込みです。私たちの予測では、日本も今後10年で再生エネ関連投資は50兆~80兆円規模が必要になると計算しています。

パリ協定や日本のカーボンニュートラルの目標を達成するには、それくらいの投資が必要なのです。これからは大きな再生エネ市場が立ち上がってきます。そこに東芝の事業や技術が貢献できると考えています。

再生可能エネルギー関連投資の予測と東芝の再生可能エネルギー関連事業の売り上げ目標(東芝提供)
新しい薄膜太陽電池を25年に

東芝の再生エネ事業は、大規模な太陽光発電所「メガソーラー」の設置では国内トップです。これまでに小規模なシステムも含めて公共・産業向けを3000カ所以上に納入してきました。

東芝が手がけた「たはらソーラー・ウインド発電所」(愛知県田原市、画像を一部修正、東芝提供)

次世代技術として、屋根やガラス窓、壁に貼り付けられる「ペロブスカイト薄膜太陽電池」の開発も進めています。約30㎝角で20%の熱効率を目標にしており、将来的に実現すれば、たとえば車のボンネットに貼ることができて、街乗りの車であれば無充電で走れます。

重いパネルではなく軽量なので、建物への負荷も小さく、どんな建物にも簡単に美しく施工できます。まずは建物の屋根などで25年の実用化を目指しています。

地球上のエネルギーはすべからく太陽エネルギーを元にしており、それを使う技術が進化し、ブレークスルー(突破)すれば、温暖化問題はかなり解決します。

これまでは人間の生産活動のために太陽光を使う技術が追いついていませんでした。今後、原子力や火力とまったく違うエネルギーとしてブレークスルーすれば、社会は大きく変わるでしょう。

東芝が開発を進める「ペロブスカイト薄膜太陽電池」(東芝提供)
大規模な水素製造「福島水素エネルギー研究フィールド」

東芝は水力の発電設備も国内トップです。さらに、発電機を駆動させる水車の回転速度を水の落差や出力に応じて効率よく変える「可変速揚水発電所」は世界トップです。地熱発電のタービンなどの発電機器の納入は世界トップクラスですし、風力も発電機の開発・販売を進め、洋上風力発電への参入も準備しています。

Keywords
揚水発電

発電所の上部と下部にダムを持ち、電力需要が少ない深夜に余る電力を使って下部のダムから上部のダムに水をポンプでくみ上げ、電力需要が多い昼間に上部のダムから下部のダムに水を落として発電する。大きな「蓄電装置」として、昼間の電力のピークを機動的にまかなえる。

水素製造の開発も進めています。福島県浪江町で、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、東北電力、東北電力ネットワーク、岩谷産業、旭化成と進める「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」です。

東京ドーム約5個分にあたる約22万㎡の敷地に世界最大級の10MW(水素製造用電力)の水素製造装置と20MW(設置容量)の太陽光発電設備を備えており、20年3月に稼働し始めました。太陽光発電による再生エネを利用して水素を大量につくる技術の確立を目指しています。

福島県浪江町にある「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」(東芝提供)

水素は電気エネルギーに変換される工程でCO₂を排出せず、電力を大量に長期に貯蔵できます。水素と空気中の酸素を反応させて電気を起こす「燃料電池」は水を排出するだけのクリーンな電気ですので、発電による熱電供給や、水素を燃料とする燃料電池車に活用されることが期待されます。

欧州の航空機メーカー、エアバスは将来的に飛行機を水素で飛ばそうと考えています。モビリティー(乗り物)から出るCO₂は大きいですから、船や車も水素で動くようになれば、CO₂排出を大きく削減できます。水素エネルギーが一気に広がれば、東芝が紡いできた技術が生かされるのではないかと思っています。

車谷暢昭社長(東芝提供)

東芝は水力、火力、原子力とエネルギー関連事業を長くやってきました。時代によってその中心は変遷してきました。いま石炭火力が終焉を迎え、再生エネにバトンタッチしたということではないでしょうか。強制的に規制するやり方もあるでしょうが、やはり技術の進化で対応していくのが最もいいのではないでしょうか。私たちはこのパラダイムシフト(転換)に合わせて、政府の施策に足並みをそろえながら、貢献していきたいと考えています。

東芝グループの再生可能エネルギー関連の主な事業(東芝提供)
マイクロRNA検出など、医療分野でも貢献

東芝ではSDGsの17目標を分析し、事業活動や企業活動に関係の深い10目標にとくに力を注いでいます。

SDGsの17目標のなかで東芝がとくに力を入れる10目標(東芝提供)

そのなかに目標3「すべての人に健康と福祉を」があります。

東芝は医療分野で、がんの早期発見のため、マイクロRNAの検出技術の開発を東京医科大や国立がん研究センターと進め、21年度中の事業化を目指しています。

血液の1滴、2滴からマイクロRNAを検出することによって、がん患者をステージ0の段階で99%の精度で識別することができます。0ですから、目に見える前の早い段階でがんを見つけたり、膵臓がんのような見つけにくいがんを早期発見できたりするため、生存率が劇的に変わるのではないかと期待しています。

わずかな血液でがんを検出するマイクロRNAチップと検査装置(東芝提供)
血清をスポイトでマイクロRNAチップに移す研究員(東芝提供)

東芝独自のナノサイズのカプセル「生分解性リポソーム」に内包した治療遺伝子を、がん細胞に正確・高効率に運ぶ「がん指向性リポソーム技術」も信州大学と共同開発しました。外科手術ではなく、がん細胞を直接攻撃できる技術として、患者の負担を軽くでき、高い治療効果も期待できます。このように、ステージ0でがん細胞を発見し、早い段階で直接攻撃できれば、医療の改革になります。

ナノサイズのカプセル「生分解性リポソーム」(東芝提供)
技術の力で社会に貢献を

東芝の技術力は高いと思っています。それをどうビジネス化していくか、発明的な技術をどのようにして社会実装(研究成果を社会課題解決のために応用すること)するか。まさに再生エネも医療も社会のニーズが高まっており、東芝はこの動きのど真ん中にいると思っています。社会のニーズに合致しない企業は生き残れません。社会実装が可能なものを早く実現するよう努力したい。

わたしは3年前に東芝に来ましたが、技術の力でSDGsに役立てる会社だと実感しています。この技術力を生かして日本を代表するSDGsへの貢献企業になりたい、そう思っています。

車谷暢昭社長(東芝提供)
東芝
1875年に田中久重が創業した田中製造所(後に芝浦製作所)と1890年創業の白熱舎(後に東京電気)が1939年に合併して東京芝浦電気になり、84年に東芝に改称した。日本初の水車発電機、ラジオ受信機、電気洗濯機、電気冷蔵庫、電気掃除機、トランジスタ式テレビ、電子レンジ、1万2500kW原子力用タービン発電機、MRI(磁気共鳴断層撮影)装置などの開発や販売の歴史があり、家電からAV、ノートパソコン、半導体、鉄道車両、原子力などの重電まで製造する総合電機メーカーだった。海外メーカーとの競争激化や経営不振で各事業を売却するなどして、現在はエネルギー、ビル・施設や鉄道・産業システムなどの社会インフラ、電子デバイス、デジタルソリューションを主力事業とする。2020年3月期(連結)の売上高は3兆3899億円。従業員数(連結)は12万5648人(20年3月末時点)。本社は東京都港区芝浦。
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