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サントリー、「働きがいも経済成長も」の取り組み ビジネスパーソンのためのSDGs講座【5】

サントリー、「働きがいも経済成長も」の取り組み ビジネスパーソンのためのSDGs講座【5】
横田アソシエイツ代表取締役/横田浩一

横田浩一(よこた・こういち)
慶応義塾大大学院特任教授。企業のブランディング、マーケティング、SDGsなどのコンサルタントを務め、地方創生や高校のSDGs教育にも携わる。岩手県釜石市地方創生アドバイザー、セブン銀行SDGsアドバイザー。共著に「SDGsの本質」「ソーシャルインパクト」など多数。
従業員の約76%が仕事にやりがい

SDGsの目標の一つが「働きがいも経済成長も」(目標8)だ。

目標8の働きがいは「若者や障がい者を含む全ての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事」を達成すると項目にあるように、ダイバーシティー(多様性)とディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を目標とする。

一方、「持続可能な消費と生産に関する10年計画枠組みに従い、経済成長と環境悪化の分断を図る」とあるように、目標8の経済成長は経済の成長と環境の保護の両立を目指す。

サントリーの取り組みを例に見ていこう。

サントリーでは、76.2%の従業員が自らの仕事にやりがいを感じており、65.6%が満足しているという結果が2019年の社内調査で出た。筆者は大手企業の従業員満足度を見ることがあるが、これは大変高いスコアだ。

サントリーグループの理念体系(サントリー提供)

そもそも働きがいと働きやすさは別だ。働きがいとは自分自身の成長、顧客や仲間からの感謝、達成感などが動機づけ要因と呼ばれる。働きやすさはワーク・ライフ・バランス、雇用の安定性や人間関係などの働きがいを阻害する要因を取り除くもので、衛生要因と呼ばれる。働き方改革の多くは働きやすさ改革であって、それを推進してもそれだけでは働きがいは上がらない。

働きがいを感じる理由とは

サントリーの場合、働きがいを感じる従業員の割合が高い理由として、同じ価値観や意識が共有されている要因が大きい。働きがいは10年以上前から高く、以前はサントリー大好き人間で均一化、同質化された大家族のような集団だったことによるものだ。

サントリーのチャレンジは、ダイバーシティーを進めてもやりがいや満足度を下げないことにある。10年前は均一化や同質化が課題だった。それを打破するため、ダイバーシティーを進めると、「暗黙知」(経験や勘など、言語で表すのが難しい主観的な知識)で行っていた仕事を、「形式知」(文章や図表など、客観的に説明できる知識)にして伝えなければならない。

昔ながらの「仕事は先輩の背中を見て学ぶ」「あうんの呼吸」ではダメだ。ただ、暗黙知を形式知にすることにより仕事のスピードが低下し、共通の価値観が微妙に崩れ、従業員満足度は落ちるのではないか。筆者はそう考えた。

だが、それは違った。ダイバーシティーを進めても、働きがいや従業員満足度は低下しなかったのだ。

サントリーは「水育」(水に関する教育)に力を入れる(サントリー提供)

理由として考えられるのは、サントリーが大切にしている「利益三分主義」や「やってみなはれ」などの創業者精神に賛同し、共感した社員が多く、従業員満足度は変化しなかったということだろう。

例えば、社内調査では「顧客に対して届けている商品に誇りをもっている」という項目は働きがいと同様に高い。それは「水と生きる」という価値観を共有していることや、会社が文化社会貢献、震災復興支援に力を入れていることなども影響していると人事部は考えている。

子育てを支えるチェックリスト

ほかにも従業員を支える人事施策がある。インクルージョン(受容、包摂)としては、多様性を生かすマネジメント、心理的安全の担保、多様性支援を推進している。

一例を挙げると、子育て中の社員に対する施策は大変ユニークだ。

育休後の社員フォローアップセミナー(サントリー提供)

「産休・育休から復職したばかりの社員は家庭重視なので、仕事を減らそう」という勝手な思い込み、上司の勝手な推測でマネジメントをすると、本人にとって働きがいのミスマッチが起こることもある。育児をしながらでも、もっと働きたい社員もいるのだ。

サントリーでは「育児のサポート体制を把握している」「次の子の希望やその時期について、本人の希望を知っている」「保育所で預かってもらえる限界時間」など17項目のチェックリストをつくり、上司が把握するようにしている。このような心理的安全性を担保した多様性施策が働きやすさを向上させ、働きがいを阻害する要因を取り除く。

■上司の理解促進 出産育児編 主なチェックポイント(抜粋)
・育児のサポート体制を把握している
・パートナーとの家事の分担内容について知っている
・保育所で預かってもらえる限界時間
・子どもの健康状況
・メンバーの働き方の希望について把握している
・次の子の希望やその時期について、本人の希望を知っている
・短時間勤務をいつまで継続するかメンバーとすり合わせている
・自己啓発について、具体的な目標・スケジュールを確認し、よりスキルアップするための後押しをしている
・メンバーにこの部署でのミッション、期待することを明確に伝えている
(こんなことまで?と思うかもしれませんがここまでの共有があってこそ、安心して業務を進められます~)

子育て中社員に対する上司のチェック表(一部)

「やんちゃ人材」など人材採用も多様化

人材採用も多様化している。性別や国籍だけでなく、例えば「やんちゃ人材」に代表される個性の多様化を進めている。

「やんちゃ人材」とはその名の通り、優等生だけでなく元気のあるやんちゃな人材や異能人材を入れることによって、均一化、同質化を防ぐ。サントリーでは、採用の現場で言葉として以前から普通に使っているそうだ。

ほかにも、インクルージョンの取り組みとして、多様性を生かすマネジメントの推進、ネットワーキングや啓蒙活動を通して心理的安全の担保、ハンディキャップ、シニア、LGBTQなどの多様性支援を行っている。

このように、ダイバーシティー・インクルージョンを進めても従業員満足度は下がらず、多様性が増加するとイノベーション(技術革新)を起こすチャンスは増え、組織の柔軟な変化対応力が経済成長を支えるはずだ。この両輪をサントリーは実現している。

従業員にとって良い会社とはなにか。

「一人ひとりの従業員が実現したいことと会社として実現したいことのベクトルが合っていることが良い会社ではないかと、学生時代にサントリーのグループディスカッション面接で話をしたことがある。それは今でも変わっていないと思う」と成瀬雅昭人事部部長。それは多様化が進んでも変わらないということだ。

成長と環境保護の両立に取り組む
ペットボトルの水平循環(サントリー提供)

経済の成長と環境の保護の両立を目指す取り組みとしては、水のサステナビリティー(持続可能性)を上位に掲げ、水管理や水源保全、水教育の推進に取り組む。

昨今の海洋プラスチックなどの環境課題にも対応し、「プラスチック基本方針」を策定した。さらに、ペットボトルリサイクルの一部工程を省くことで、環境負荷低減と再生効率化を同時に実現する「FtoP ダイレクトリサイクル技術」を世界で初めて開発し、2030年までにグローバルで使用するすべてのペットボトルをリサイクル素材あるいは植物由来素材100%に切り替える。

このような新たな化石由来原料の使用ゼロの実現を掲げ、トータル500億円にのぼる規模の大きな投資を予定している。国内清涼飲料事業における中期目標としては、2025年までに全ペットボトル重量の半数以上に再生ペット素材を使用していくことを掲げる。

サントリーグループ「プラスチック基本方針」(2019年5月策定)

サントリーグループは、商品の源泉である自然の恵みに感謝し、多様な生命が輝き響きあう世界の実現にむけて、循環型かつ脱炭素社会への変革を強力に先導します。

プラスチックはその有用性により、われわれの生活にさまざまな恩恵をもたらしています。当社が使用するプラスチック製容器包装が有用な機能を保持しつつも、地球環境へネガティブな影響を与えないよう、多様なステークホルダーと、問題解決に向けた取り組みを推進していきます。また、問題解決に向けサントリーグループ社員の一人ひとりが責任ある行動に努め、持続可能な社会を率先して実現します。

「働きがいも経済成長も」は大切なテーマだ。両方あってこその企業価値だ。

利益など財務的評価ももちろんだが、これからは働きがいや人材価値そして環境対応などの無形の資産が、企業価値として多様なステークホルダーに評価される。そんな時代なのだ。

(「ビジネスパーソンのためのSDGs講座」は毎月1回で連載します)

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