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東日本大震災から復興、SDGsの理念で

東日本大震災から復興、SDGsの理念で
宮城県東松島市の渥美巌市長(同市提供)
宮城県東松島市長/渥美巌

2011年3月11日、東日本大震災で津波に襲われた宮城県東松島市は、市街地の約65%が浸水し、死者・行方不明者合わせて1133人という甚大な被害を受けた。あの日から10年。復興を進めてきた東松島市は「誰一人取り残さない」というSDGsの理念を大切にして、被災者や高齢者が安心して住めるまち、子どもたちを安全に育てられるまち、自ら再生可能エネルギーによる電力をつくることなどで災害に強いまちを目指してきた。SDGsによる復興と新しいまちづくりについて、渥美巌市長に聞いた。(聞き手 編集部・大海英史)

東日本大震災で津波により浸水した宮城県東松島市の赤井地区(同市提供)

東松島市は、宮城県東部に位置する人口約3万9千人のまちです。海・山・森・川と豊かな自然に囲まれ、日本三景の一つ「松島」の東端にある「奥松島」、日本三大渓の一つ「嵯峨渓」など、自然景観が豊かなところです。JR仙石線の駅が市内に八つ、三陸自動車道のインターチェンジも三つと交通の便が良く、仙台市までは35~40kmで、通勤・通学も比較的容易です。

宮城県東松島市の位置(同市提供)

気候は、夏涼しく、冬は雪が少なく、暮らしやすい土地です。旧北上川や鳴瀬川、吉田川などから豊富な栄養分が海に流れ込み、特産品の海苔は、皇室献上品に選ばれる奉献乾海苔(ほしのり)品評会で20年に1位、2位になりました。カキも1年で成熟する早熟で、生で食べておいしいなど、海の幸が自慢です。

市内には航空自衛隊松島基地もあります。基地所属の「ブルーインパルス」が有名で、日常的に空を彩ります。

2011年3月11日、あの日から

東日本大震災では甚大な被害を受けました。死者が1109人、行方不明者が24人を数え、宮城県内で3番目の多さです。1万1千棟以上が半壊以上の被害を受けました。市街地の約65%が浸水し、全国の被災自治体のなかで浸水被害の面積は最大です。

復興は、国の財政支援のもと、復興・創生期間の最終年である20年度中にハード事業はほぼ完遂します。全国の自治体からたくさんの派遣職員の応援を受け、ここまできました。市民を代表し、あたたかな応援に感謝申し上げます。

宮城県東松島市の浸水被害区域(同市提供)
東日本大震災で被害を受けた東松島市の野蒜(のびる)地区(同市提供)
復興からのまちづくりとSDGs

震災の影響で、被災地では人口減少に拍車がかかりました。地域経済は活力を失い、地域のつながりも希薄になりました。

震災からの復興に向け、2千人を超える市民との話し合いを経て、11年12月、「東松島市復興まちづくり計画」を策定しました。基本方針として掲げたのは、「災害に強いまちづくり」や「持続可能な地域経済・社会を創るまちづくり」などです。災害への強靭性、地域経済・地域社会の持続発展を進めるという点で、その後の15年に国連で採択されたSDGsの理念と同じ考え方でした。

宮城県東松島市が目指す「環境未来都市」から「SDGs未来都市」へのイメージ(同市提供)

「復興まちづくり計画」に基づく取り組みは、環境・社会・経済の三つの価値を創造する先導的なプロジェクトであると評価され、11年に国から「環境未来都市」に選定されました。

16年には政府にSDGs推進本部が設置されます。東松島市の震災復興と環境未来都市の取り組みは、政府の「SDGs未来都市」と重なるため、最初のSDGs未来都市に応募し、18年6月、全国で選定された29自治体のうち、被災3県で唯一、選ばれました。

東北SDGs未来都市サミットを開催
宮城県東松島市の渥美巌市長(同市提供)

「選ばれて喜んでいるばかりでなく、発信していこう」。そう考えた私の発案で、同じくSDGs未来都市に東北から選ばれた秋田県仙北市、山形県飯豊町に声をかけ、19年1月25日に「第1回東北SDGs未来都市サミット」を開催しました。地方都市におけるSDGsの理念を全国に発信する目的で、三つのSDGs未来都市の首長が東松島に集い、意見交換しました。

SDGsの考え方は復興推進に非常に役立っています。ハード事業だけでなく、被災者の心の復興・心のケアを図る、再生可能エネルギーの導入率を向上させるといった取り組みは、経済・社会・環境の課題解決を目指すSDGsの理念と親和的です。

いま私たちはSDGsを復興まちづくり、復興後を見据えたまちづくりの軸に据えています。21~25年度の東松島市第2次総合計画後期基本計画では、まちづくりの将来像を「住み続けられ持続・発展する東松島市」とし、「地方創生のトップランナーをめざす」ことにしています。SDGsに照らし合わせてみることで、市の方針に誤りがないかを確認することができると考えています。

全寮制私立高校を開校
宮城県東松島市にある日本ウェルネス宮城高校(20年4月開校、同市提供)

自治体の課題は人口減少です。20年4月、市内に全寮制私立高校「日本ウェルネス宮城高校」を開校し、市外から若者を呼び込む仕組みをつくりました。市内の二つの中学校を統合した際、使わなくなった校舎をどうするか考え、東京の私立高校を誘致したのです。開校ぎりぎりまで苦労がありましたが、初年度の22人に加え、21年度は50人近い新入生を迎える予定です。

子育て支援にも力を入れています。18歳までの医療費無償化、夜8時まで延長保育をする民間保育所の誘致、放課後児童クラブは学校敷地内または隣接地に整備し、夜7時までの預かりをしています。

市内の8小学校、3中学校にはすべての教室にエアコンを完備し、21年1月末までに全生徒に1人1台、タブレット端末を配布しました(校舎を新築中の鳴瀬桜華小は、新校舎へ移転する4月に配備)。義務教育でのIT環境を整える「GIGAスクール」に向けて、いち早く環境を整えました。

太陽光発電で災害に備える

「復興まちづくり計画」をつくるなかで、分散型の自立エネルギーの導入が必要ではないかという話になりました。東北電力以外からの電力供給を可能にするということです。震災後、長期にわたって停電が続き、低体温症で亡くなった方、人工透析を受けることができなかった方がいました。住民の生命にかかわる事態が生じたのです。市内に自立電源を確保する必要があると考え、具体化したのが、市の赤井地区にある「スマート防災エコタウン」です。

宮城県東松島市にある「スマート防災エコタウン」(同市提供)

スマート防災エコタウン事業は、公営住宅・集会所・周辺の病院などを自営線で結ぶ「マイクログリッド」を築き、太陽光発電などでつくった電力をエリア内で地産地消するものです。災害などで東北電力からの電力供給がストップしても、最低3日間はエリア内のすべての施設に電力を供給できます。

設備を所有する市が一般社団法人「東松島みらいとし機構(HOPE)」に管理業務を委託しています。HOPEは「地域新電力事業」も手がけ、市内に設置された太陽光発電所などから電力を購入し、市内の公共施設などに小売りしています。市役所や市内の小中学校などで使っている電気はすべてHOPEの電力ですから、再生可能エネルギーの地産地消を実現しています。電力の供給管理や電気工作物の保安管理について地元雇用も創出しています。

宮城県東松島市の渥美巌市長(同市提供)
全世代に住みよいまち

30年に向けた東松島市のスローガンは「全世代グロウアップシティ」です。子ども・若者・高齢者の「全世代に住みよいまち」を目指します。

子どもたちには、コミュニティ・スクールとして、保護者だけでなく、地域住民の意見を学校運営に反映させる仕組みをつくっています。そこで地域の大人と語り、学ぶ機会を増やし、知識偏重ではなく、自ら考え自ら行動する力を養ってもらい、将来の地域を担う人材に育ってほしいと思います。

若者に就労の場をつくるため、既存の3工業団地に加え、市内の柳の目地区に新たな工業団地を造成します。高齢者世代に対しては、矢本海浜緑地に宮城県内最大の54ホールを有するパークゴルフ場を開設するなど、高齢者が生涯現役で活躍し続けるまちを目指しています。

コミュニティ・スクールで、地域の人と資源回収に取り組む中学生(東松島市提供)

新型コロナウイルス感染拡大では、市を取り巻く環境が大きく変わりました。市内で使える3割増し商品券の発行、事業者への協力金や家賃助成、ひとり親世帯などへの臨時特別給付金の支給などをしています。

20年12月には「東松島市新型コロナウイルス感染症に係る不当な差別等の防止に関する条例」を施行しました。感染者への誹謗(ひぼう)中傷、差別などを防ぐためです。今後のワクチン接種の体制も整えており、SDGsの理念に基づいて、市民の健康と命を守る取り組みを進めたいと思います。

宮城県東松島市の渥美巌市長(同市提供)
渥美巌(あつみ・いわお)
1947年生まれ。宮城県矢本町(現・東松島市)出身。石巻商業高校卒。矢本町役場で議会事務局長などを務め、95年に47歳で宮城県議会議員に初当選し、連続6期22年務める。この間、2013年12月~15年11月に県議会副議長。17年4月の東松島市長選で初当選(1期目)。
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