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学校にICTを GIGAスクール構想が担う「人」づくりとは

学校にICTを GIGAスクール構想が担う「人」づくりとは
撮影・朝日教之
文部科学省 大臣官房審議官/塩見みづ枝

政府が進めるGIGAスクール構想。「すべての小中学生に1人1台のコンピューター端末を」という方針ばかりがクローズアップされがちだが、端末を配ればそれで終わりという話ではない。学校教育におけるICT(情報通信技術)の活用という、これまで議論されながらなかなか実現しなかった大きな変化を一気に進める狙いは何か。そのことは子どもたちの生きる力をどう伸ばすのか。文部科学省の塩見みづ枝・大臣官房審議官に聞いた。

2020年1月に東京都渋谷区の小学校で開かれたICT活用の公開授業(撮影・朝日新聞)
持続可能な社会の創り手を育てる

――まず、GIGAスクール構想とは何か、わかりやすく教えてください。

現在の小学校学習指導要領の前文にこんな言葉があります。「一人一人の児童が、自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにする」。ここにあるように、持続可能な社会の創り手を育てることが、今後の教育がめざす方向であり、GIGAスクール構想もこのなかに位置づけられています。

経済協力開発機構(OECD)の国際学力調査などを見ると、日本の子どもたちは知識・技能についてはよく身についていますが、自分の頭で考え抜く思考力や、身の回りの課題を自分ごととしてとらえ、その解決のために主体的に学ぶ姿勢などの面ではやや弱いと言われます。そうした力を伸ばすうえでも、ICTの活用が鍵を握る、というのが私たちの考えです。

――方向性はよくわかりますが、なぜICTなのでしょう。

中央教育審議会(中教審)が今年1月に出した答申では、これから実現すべき学びのあり方として「個別最適な学び」と「協働的な学び」という二つがあげられています。これに沿って考えてみましょう。授業中に問題を解くなかでつまずいた子がいるとします。そのつまずきは、どこから始まったのか。デジタル端末であれば、学習履歴をさかのぼることができるので、見つけやすいという利点があります。同じ教室で、よく理解している子どもはさらに高度な問題に挑戦することもできるでしょう。これが「個別最適な学び」の一例です。ある課題について、自分と他の子がつくった資料を多面的に見比べたり、リモートで議論したりという「協働的な学び」でも、ICT環境だからこそ実現できることは多いと思っています。

ICTで大きく広がる学校の可能性
撮影・朝日教之

――具体的にはどんな活用が想定されていますか。

たとえば中山間地域で生徒数が非常に少ない学校などでは、子どもたち一人ひとりのニーズに沿った教育を提供することが難しい場合もあります。多様な科目選択の幅を用意してあげたいと思っても、そうした学校では1人の先生がいくつもの役割を兼務しなければならないといった現状があるからです。しかしICTで他の学校とつなぐことで、住み慣れた地域に暮らしながら幅広く質の高い教育を受けることも可能になります。

海外の学校との交流もこれまでとは比較にならないほど容易になり、生きた外国語を学ぶ機会も増えるでしょう。また不登校や病気療養中の児童・生徒が、画面越しではあってもクラスメートと一緒に授業を受ける機会をつくることもできます。ICTは空間を超えるツールですので、外部の専門家に子どもたちが直接インタビューをするというような活用も考えられるかもしれません。

――何かユニークな先行事例がありますか。

自分たちのまちの商店街の現状を調べ、他の地域と比較しながらにぎわい創出のアイデアを考える、というような学びは多くの学校が取り入れています。その成果を発表する際に、プログラミング学習で子どもたちが開発したアプリを活用するなど、教科横断的な学びを工夫している学校も少なくありません。

発見する、知識を共有する、議論する、表現する、発表する。学びのなかでICTを活用できる場面は大いにあります。これまで学校現場が試みたくても諦めていた多様な学びを実践するうえで、こうした環境整備が役立つことを期待しています。

効果を検証しながらより良い制度へ

――1人1台端末の配備はどの程度進んでいるのでしょうか。

自治体によって多少前後することもありますが、この3月末でひととおり行き渡る予定です。ただし端末を配ればそれで終わりではありません。デジタル教科書などの教材の研究や、子どもたちを指導する先生方への情報発信にも、同時並行で取り組んでいます。ハード、ソフト、人材の三位一体で進めなければ、この構想が本当に意義あるものにはならないと思うからです。

撮影・朝日教之

私たちはこれが日本の学校教育を大きく変える転換点になることを願っていますが、もちろん従来のやり方をすべて捨ててしまおうというのではありません。研究の結果、手を動かして文字を書くという行為が記憶の定着に関わっているのであれば、今後も紙の教科書とデジタル教科書をうまく併用するなど柔軟に進めていくことが大切です。

――ICTは情報の収集・解析にも役立つので、学習の効果検証がしやすいという利点もありますね。

そうですね、私たちも学校現場から得られるエビデンスをうまく活用して、施策の見直しや強化につなげていきたいと考えています。先行した学校の例では、子どもたちはすぐに端末やソフトの使い方を覚え、大人も驚くほど柔軟に学習に取り入れているようです。私たちが子どもから学ぶことも多いかもしれません。

――ただ、指導にあたるのはICTに明るい先生ばかりではありません。現場には戸惑いもあるようですが。

新しい取り組みですので、導入期には多少の「生みの苦しみ」があることは覚悟しています。学校や先生方になるべく負担をかけないよう、文部科学省としてICT活用教育アドバイザーやGIGAスクールサポーターなどの専門家を配置し、相談・支援体制の強化に努めています。「StuDX Style(スタディーエックス スタイル)」というサイトでは、全国の教育委員会との連携を深め、現場に役立つ情報の共有と議論を進めていく予定です。一度軌道にのることができれば、先生方の校務の負担を減らし働き方を変えるなど、メリットも多いはずだと考えています。

社会の課題解決に子どもたちの力を

――この構想の実現は、本来はもう少し遅い予定だったと聞きました。

1人 1台端末の配備は計画よりも3年前倒しで実施されています。新型コロナ感染拡大による昨年の全国的な休校を経て、遠隔授業やオンデマンド学習の環境整備が重要であることを、私たちも痛感しました。コロナ禍は社会のありようを大きく変えていますが、せめて少しでも前向きな変化につなげていけたらという思いで、批判も覚悟のうえで実施を決めたものです。私たちも走りながら考えていきますので、学校や保護者のみなさま、そして子どもたちにもぜひ一緒に取り組んでいただけたらと思います。

――これだけ変化の大きな時代には、教育も変化を恐れてはいけないということですか。

そう思います。SDGsの理念にも通じますが、この社会を持続可能にするには、いま解決していかなければならない課題が多くあります。しかし、どんな課題もその解決を実行するのは「人」です。人を育てる教育は、あらゆる社会課題の解決に根本でつながるものと考えています。

自分の周囲を見回すだけでは見えない世界のありようを子どもたちが知るために、そして未来を担うのは自分なんだ、自分はこの世界の課題解決を担っていける存在なんだと理解してもらうために、学校教育にできることはまだ多いはずです。GIGAスクール構想が、そのために役立つことを願っています。

塩見 みづ枝(しおみ・みづえ)1990年文部省入省。文化庁文化部、千葉県教育庁などを経て2004年文部科学省教育制度改革室長、18年総合教育政策局社会教育振興総括官。20年 10月から現職。
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