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東急が目指すサステナブルなまちづくり

東急が目指すサステナブルなまちづくり
東急/高橋和夫社長

首都圏で東横線、田園都市線などを運行する東急は、事業での使用電力を再生可能エネルギーで100%まかなうことを目指す国際イニシアチブ「RE100」に、国内の鉄道会社として初めて加盟した。背景には、渋沢栄一を祖とするまちづくり、多摩川をきれいにする取り組み、渋谷や二子玉川、たまプラーザなどの沿線開発を進めてきた歴史がある。高橋和夫社長に東急が目指すまちづくりについて聞いた。(聞き手 編集部・大海英史)

東急電鉄の路線図(東急提供)
東急世田谷線を再生エネ100%で運行

2019年10月に鉄軌道事業を含む企業グループとしては国内で初めて、事業活動で使用する電力を再生エネ100%に転換することを目指す国際イニシアチブ「RE100」に加盟しました。

50年までの約30年間の道筋が全て具体化できているわけではありません。しかし、目標への入り口をしっかり定めようと考えました。

東急電鉄の路線は、複数の鉄道会社の路線に乗り入れています。私たちだけで再生エネへの切り替えを進めるわけではなく、各社との協力も重要となります。

そこでまず、相互乗り入れのない東急世田谷線(三軒茶屋―下高井戸)を19年3月末から再生エネ100%の電力で動かし始めました。東北電力グループが持つ水力・地熱発電所に由来する電力を使っています。

東急世田谷線を走るSDGsトレイン「美しい時代へ号」(東急提供)
多摩川をきれいにする取り組み

今から40年以上前、高度経済成長期を経て、東急線沿線を流れる多摩川は水質汚濁が目立っていました。そこで1974年、「とうきゅう環境浄化財団(現・東急財団)」を設立し、地域で活動する企業の社会的責任として多摩川とその流域の環境浄化活動をスタートしました。

多摩川流域の環境に関する研究助成や環境活動への支援のほか、多摩川の自然や動物などを紹介する環境学習副読本(「ようこそ多摩川へ」)を94年から流域の小学校などに無償で配布しています。多摩川をきれいにしていくのは地域の子どもたちであり、大人になって持続可能な環境づくりを実践する人材の育成につながります。

環境への取り組みはいま始まったわけではありません。沿線地域が持続可能であるために環境と人材育成を大切にしてきた歴史があるからです。

多摩川の鉄橋を走る東急大井町線の電車(東急提供)
「ようこそ多摩川へ」の表紙(東急財団提供)
「ようこそ多摩川へ」の内容(東急財団提供)
渋沢栄一に始まるまちづくりの理念

東急は「まちづくり」を中心にしてきた会社です。1918年、源流となる田園都市株式会社を渋沢栄一翁がつくりました。良い環境の住宅地をつくるため、当時は何もなかった郊外にまちをつくり、必要なサービスを提供していきました。

その一つに鉄道があり、百貨店があります。郊外にまちをつくり、そこへの交通を整備するために鉄道を敷く、ということを繰り返してきた歴史です。

こうした歴史があるため、沿線や地域の住民に幸福になっていただくということが、企業としての責任と考えています。利益を上げるだけでなく、地域とともに成長するという特徴があるのです。

たとえば、当社は大手私鉄では初めて、2020年3月までに全駅(世田谷線、こどもの国線を除く)にホームドア・センサー付固定式ホーム柵を設置し終えました。ホーム上の安全を確保し、人身事故を防ぐため、コストをかけ、当初計画から前倒しで完了させました。事故発生による遅延が減り、安定運行にも大きく寄与しています。

東急線の各駅に設置されているホームドア(東急提供)

このように、まちづくりや鉄道事業を通じて社会課題を解決するとともに、事業では難しいことを東急財団などで取り組んでいます。

人材育成も大きな柱です。東急グループの礎を築いた五島慶太が創設した五島育英会によって運営される東京都市大学のほか、亜細亜大学も東急グループと深いつながりがあります。

コロナ禍で職・住・遊の接近も

新型コロナウイルスの感染が拡大する前は、とくに田園都市線の混雑が大きな課題となっていました。当社は渋谷駅周辺の再開発も進めて、さらに多くの人に来ていただけるよう取り組んでいるのだから、混雑対策にも正面から向き合わなければなりません。輸送力増強に向けた投資も継続的に実施してきました。

撮影・朝日教之

しかし、コロナ禍の影響で、利用客は足元では前年比約35%減、収束後に回復したとしても以前の水準には戻らないと思います。従前どおりの輸送力増強が本当に必要なのかどうか、いま一度検証しているところです。

これまでは、郊外に住んで都心に出て働くというスタイルが中心でしたが、今後はまさに職・住・遊が接近する可能性があります。一日をその場所で過ごせるというライフスタイルです。

東急田園都市線を走る電車(東急提供)

当社は田園都市線・大井町線の二子玉川(東京都世田谷区)に、まさに「職・住・遊」が一体化した拠点を整備してきましたが、今後はさらに、住居に近いサテライトオフィスなど、働く場所の多拠点化が沿線で進む可能性も見据えています。コロナ禍が落ち着いたところで、次のステップを考える必要があると思っています。

二子玉川駅前の多摩川沿いにある「二子玉川ライズ」のビル群(東急提供)

ショッピングセンターやオフィスビルなどが集まる「二子玉川ライズ」には楽天の本社がありますが、目の前の多摩川がきれいだと社員の皆さんに喜んでいただいていると聞きます。

渋谷の再開発で18年9月にできた「渋谷ストリーム」(地上35階)にはグーグル日本法人がありますが、再生した渋谷川の流れを気に入ってくれたようです。やはり自然との調和が受け入れられる条件なのではないかと思います。

再開発で、つながる渋谷

渋谷の再開発では、渋谷駅に直結する「渋谷スクランブルスクエア」が第1期の東棟は19年11月に開業し、第2期の中央棟・西棟が27年度に開業予定です。建物だけでなく、より開放的に、人が集まれる新しい広場も整備していく計画です。

再開発が進む渋谷駅周辺(東急提供)

もともと渋谷駅周辺はJRの線路と国道246号で分断されて歩きづらい状況でした。それをあと10年ほどで、たとえば、渋谷駅桜丘口の再開発エリアと渋谷ストリームをつなぐデッキが線路の上にできるなど、渋谷駅周辺の再開発で生まれた各施設がつながり、回遊しやすくなります。

東急東横線・地下鉄副都心線、東急田園都市線・地下鉄半蔵門線、地下鉄銀座線、JR各線の改札もエレベーターやエスカレーターでつながります。

渋谷駅周辺の再開発の将来図(渋谷駅前エリアマネジメント提供)
多摩田園都市を高齢化に対応したまちへ

田園都市線沿線は、神奈川県川崎市から同県大和市にかけて「東急多摩田園都市」として60年以上前から開発し、人口約60万人の地域ができました。沿線の発展には成功したのですが、やはり高齢化が進んでいます。山や坂が多い地域を開発しているため、高齢者が移動しやすいまちにしていくことが課題の一つです。

撮影・朝日教之

田園都市線のたまプラーザ(横浜市)では、19年に国内初の「郊外型MaaS(マース)」の実証実験をしました。マースは「Mobility as a Service」の略で、利用者の目的に応じて、バスなどの最適な乗り物がスマホなどで検索・予約・決済できるような移動サービスです。

高齢者が買い物に出かける、働き手が郊外からバスで通勤するなど様々な用途に応じて移動をサポートすることで、まちを活性化し、つくりかえていきたいと考えています。

郊外型MaaSの一つで、買い物などの用途に応じて予約できるオンデマンドバス=2019年の実証実験(東急提供)

高齢化は行政の課題でもあり、沿線自治体の横浜市とは「次世代郊外まちづくり」の推進に関する協定を結んで連携をしています。

これはあくまで一つの例ですが、たとえば、駅から離れた場所に住む高齢者には駅近くに移っていただき、医療設備も整ったコンパクトなまちを行政とも協力してつくり、高齢者が住んでいた家は若者に貸し出してもらって若い世代の流入をはかるといったことも大切だと考えています。

19年11月、田園都市線沿線に、ショッピングモールなどが集まる「南町田グランベリーパーク」(東京都町田市)が開業しました。各施設を屋外で移動するので、コロナ禍にもかかわらず、多くの人が訪れています。

いま、その先の終点、中央林間(神奈川県大和市)のマンション販売も好調です。郊外の暮らしやすいまちに住むという流れができてきているのかもしれません。

撮影・朝日教之
東急
住宅地開発や鉄道整備などをする田園都市株式会社(1918年設立)を源流とし、鉄道部門を分離・独立して1922年に目黒蒲田電鉄として設立された。官僚出身の五島慶太が他の鉄道会社を買収するなどして規模を拡大し、大手私鉄グループをつくった。東横線、目黒線、田園都市線、大井町線、池上線、世田谷線などの路線があり、営業キロは計104.9㎞。連結子会社に東急電鉄のほか、東急百貨店、東急ホテルズ、東急バスなどがある。2020年3月期の営業収益(連結)は1兆1642億円。20年3月末の従業員数(連結)は2万4464人。

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