若者世代へ目配りを データで見るSDGs【4】


株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネジャー。金融機関勤務を経て2003年、日本総研に入社。専門・研究分野はSDGs、企業のESG評価、環境と金融など。サステイナビリティー人材の育成や子どもの参加に力を入れている。『少子化する世界』、『SDGs入門』(共著)、『図解SDGs入門』など著書多数。

気候変動問題で立ち上がる若い世代
2021年4月22~23日に、米国のバイデン大統領の音頭で開催された気候変動サミットでは、40カ国・地域のリーダーたちがパリ協定に沿って気候変動対策を強化すると表明しました。
同じ22日、米国下院の監視・改革委員会の環境小委員会の公聴会には、スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリさんらがオンラインで参加し、温室効果ガス排出の多い産業への補助金をなくすなどの対策を求めました。
グレタさんがスウェーデンの国会議事堂前でのストライキを始めたのは18年8月で、当時15歳でした。19年の国連気候行動サミットでのスピーチを経て今年18歳の彼女が、コロナ下でも活動を続けていることがわかります。
グレタさんにとどまらず、多くの若い世代がオンラインで気候変動対策強化を求める意見を出しています。国連のなかでは、子どもの権利を推進するユニセフが若い活動家らを支援しており、バングラデシュやフィジー、タンザニアなど、様々な国の若者による意見や行動例をユニセフのサイトで見ることができます。
失業率は深刻
グレタさんたちを含む「子ども(children)」「若者(youth)」とは、0~24歳までの年齢のグループを指します。国連の定義では子どもは18歳未満、若者は15~24歳までだからです。そして、前回取り上げた難民や国内避難民と同じ、「脆弱(ぜい・じゃく)な人」としてSDGsに明記されています。
生まれて間もない乳幼児を含む低年齢の子どもはともかく、15~24歳という若者もまとめて「脆弱な人」というのは、非常に大きなくくりだと思われるかもしれません。この背景には、若者の失業率、家庭環境などの格差による学習経験やスキルの不足、さらに居場所のなさや引きこもりといった課題があります。
経済協力開発機構(OECD)のデータを使って主要国の若者の失業率を見てみましょう。

日本はOECD(緑色破線)よりも低い水準で推移しており、19年で約4%でしたが、欧米の主要国は、OECDより高位にあることがわかります。少子化の影響で新卒採用の確保が難しいという声が、特にコロナ前までは強かったので、想像しにくいかもしれません。なかでもフランスでは20%超の水準が続いており、事態は深刻といってよいでしょう。
労働力年齢(64歳まで)全体での失業率(紺色点線)と比べると、若者の失業率のほうが一貫して高く、19年では6.5ポイントの差がついています。リーマン・ショック後の09年には9.7ポイントも開き、スキルや経験が浅く非正規の仕事しか得られなかった若者が受けた影響が大きかったことがうかがわれます。
脆弱さ意識した支援必要
20年のデータがそろえば、新型コロナウイルス感染症の深刻な影響が数字からも読み取れるようになるでしょう。20年8月、ILO(国際労働機関)が「Youth&COVID-19」という緊急調査を発表しました。18~29歳が対象で、特にインターネットでの回答が可能な、大学卒等の高学歴者が多くを占めた調査でした。
それによると6.9%がコロナで失業し、10.5%が待機状態にあり、さらに、世界で65%の学生の学習時間が減少しました。

冒頭で紹介したように、気候変動への危機感から、行動を起こしている子ども・若者世代はたくさんいます。ただ、今後、カーボンニュートラルな世界を達成するためには、一部の人にとどまることなく、より多くの人がこれからの世界に合致するような技術や経験を身につけることが求められます。
にもかかわらず、若者世代はもともと失業率が高く、そこにコロナによる悪影響がのしかかってきています。「若者=元気、将来がある」と片付けず、「脆弱さ」をあわせもっていることを意識したうえで、彼らがサステイナブルな世界に向けて貢献できるよう、研究開発や職業訓練を支援していく必要があります。
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