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ソーシャルサーカスが生む信頼と協調 「障害」を超えて、多様性の芸術祭へ

ソーシャルサーカスが生む信頼と協調 「障害」を超えて、多様性の芸術祭へ
(撮影・朝日教之)

「ソーシャルサーカス」という言葉をご存じですか?

障害のある人もない人も、みんなが一緒にサーカスの練習をし、技術を習得することを通じて、信頼関係を深め、協調性や自尊心、問題解決能力を育てようという活動。2年前に、国内でも初の団体が誕生し、4月24日、東京・池袋の池袋西口公園野外劇場で初の公演が行われました。主催したのは公益財団法人「日本財団」。新型コロナに対応する緊急事態宣言の発出で、一般の観客を入れての公演はとりやめ、関係者に限った形で演技を披露しました。公演の様子は6月1日から、日本語、英語の字幕と日本語音声ガイド付きのYouTubeの公式チャンネル (https://www.youtube.com/c/TrueColorsFestival)で世界に発信する予定です。(編集部・金本裕司。写真はいずれも朝日教之撮影)

森に迷い込んだ旅芸人と虫の「共演」

午後6時。池袋の東京芸術劇場前に、高さ4㍍の支柱が立てられ、薄暮の中で1時間の公演が始まった。

サーカスのタイトルは、「T∞KY∞(トーキョー)~虫のいい話~」。虫たちのすむ森に迷い込んだ2人の旅芸人が、最初はおっかなびっくりだったが、様々な個性を持つ虫たちとの交流を通じて、互いの信頼感を育て、「共生社会」の大切さに気づくという物語。

そのストーリーに沿って、車椅子の人や、ダウン症など障害がある人と健常者が一緒にサーカスの大技やコミカルなダンスなどを披露した。

主役の旅芸人は、かおり(小川香織)さんと、トッチ(高橋徹)さんだ。ダウン症のかおりさんは、2014年からパフォーマンスに参加している。

トッチさんは、団体の中では「アカンパニスト(伴奏者)」という役割を担っている。自ら演技するだけでなく、障害者が安心して演技できるよう寄り添い、補助する役回りで、この団体の特徴の一つだ。

旅芸人の2人。前がかおりさん、後がトッチさん

物語のハイライトは、虫たちの肩の上に立ったかおりさんが、後ろ向きにジャンプする場面だ。高いところが苦手で、最初は腰が引けていたかおりさんが、仲間に励まされて、「オッケー」の合図とともに、つかんでいたポールから手を離し、ジャンプする。人間と虫たち、仲間の間で信頼関係ができたことを表す場面だ。

主役のトッチこと高橋さんは2014年からこうした活動に関わっていて、絵本作家でもある。高橋さんは「障害のある人と健常といわれる私たちが一緒になって演技をする様子を多くの人に見てもらい、多様性の素晴らしさを見てほしい。障害者への壁や差別をなくすことにつなげたい」と話す。

もう一人の主役かおりさんは、公演でもかぶっている帽子回しの演技が得意で、「くるりん帽子のポーズとお皿回しが得意。みんなに見てもらうのが楽しい」。

足が不自由で車椅子の三浦美友紀さんは、東京都三鷹市の福祉作業所に勤める。今回が初参加で、アリの役。「障害を持っている人も、どんどん外に出るのがいいと思います。体を動かすのは楽しい。次はアリ以外の役に挑戦したい」と言う。

三浦美友紀さん

このソーシャルサーカスを担当したのは、NPO法人「スローレーベル(SLOW LABEL)」(横浜市)。パフォーマンス集団「シルク・ドゥ・ソレイユ」の支援を受け、2年前に 「SLOW CIRCUS PROJECT(スローサーカスプロジェクト)」を立ち上げ、本格的にソーシャルサーカスに取り組んでいる。今回は、計43人が公演に参加した。

コロナの感染拡大で1年延期に

今回のソーシャルサーカスは、日本財団が2019年秋から主催している「True Colors Festival――超ダイバーシティ芸術祭」の一環だ。

同財団では、この芸術祭を「パフォーミングアーツを通じて、障害・性・世代・言語・国籍など、個性豊かな人たちと一緒に楽しむ芸術祭です。誰もが居心地の良い社会の実現につなげる試みです」と位置づけている。

当初は、2020年7月に開幕予定だった東京オリンピック・パラリンピックに向けて、障害の有無や、性別、国籍、世代などを超え、いろいろな立場の人たちが、音楽や演劇などを楽しむ、さまざまな企画を1年かけて実施する予定だった。

しかし、新型コロナの感染拡大で、昨年3月以降の企画は中止もしくは延期とし、オンラインで実施できる企画にいったん注力することに方針転換した。

昨年6月以降は、

①世界15の国・地域の46人の障害のあるアーティストが参加した「スタンド・バイ・ミー」のミュージックビデオの発表(6月)

②障害者をはじめ、性、国籍などのさまざまな社会的マイノリティーに光を当てた28の映像作品が視聴可能なオンライン映画祭(12月)

③車椅子や義足など、さまざまな体型の当事者であるモデルとデザイナーの対話と葛藤を記録した映像作品「『対話する衣服』-6組の“当事者”との葛藤-」の上映(2021年3月)――をそれぞれ実施してきた。

今年になっても、コロナの収束は見えないものの、感染対策に取り組みながら観客を迎えて、対面で行う企画を再開することを決定。

3月から4月にかけ、障害や性など多様な背景を持つシニアがセックスを通じて人生を語るドキュメンタリー演劇「私がこれまでに体験したセックスのすべて」の公演を、京都、東京で計7回実施した。

それに続く対面型の催しが、今回の池袋でのソーシャルサーカスの公演だった。

「障害者芸術祭」から「超ダイバーシティ」へ

日本財団による多様性をテーマとしたパフォーミングアーツの取り組みは、2006年にラオス、ベトナムで「障害者国際芸術祭」を開催したのが始まり。15年以上の歴史を持つ。

日本財団で「超ダイバーシティ芸術祭」のプロデューサーを務める青木透さんは「2018年にシンガポールで開催した『アジア太平洋障害者芸術祭~True Colours~』を経て、この取り組みが大きく進化することになりました」と語る。

日本財団の青木透さん

同年3月に行われた芸術祭では、3日間の会期中に22カ国100人以上の障害のあるアーティストがステージに立ち、シンガポール大統領らを含む約1万人が公演を見た。

青木さんは「その時のパフォーマンスの質の高さは、『障害のある人のパフォーマンス』といったとらえ方を超えた、すばらしいものでした」と言う。

公演を見た財団の幹部も、「理屈を抜きにして心を揺さぶるパフォーミングアーツは、世の中の多くの人たちの障害者やマイノリティーに対する見方を揺り動かす可能性がある」と痛感し、「東京オリンピック・パラリンピックに向けてより大きな形でやっていこう」と判断したという。そして、スタートしたのが、「True Colors Festival――超ダイバーシティ芸術祭」だった。

主催者の意識の変化は、催しのタイトルにも反映させた。

2018年のシンガポールまでは「障害者芸術祭」と、「障害者」という言葉を使ってきたが、今回は「超ダイバーシティ芸術祭」。障害や性別、国籍などを「超」えて、「多様性」(ダイバーシティ)を当たり前のものとして受け止めようという思いが込められている。

コロナによる延期、そして今年再開した芸術祭のハイライトがこのソーシャルサーカスだった。しかし、緊急事態宣言が発出され、ぎりぎりで観客を入れない公演を選択せざるを得なかった。

2年越しの公演を多くの観客に見てもらえなかったことは、関係者にとっては非常に残念な結果だ。しかし、今回は日本語と英語の字幕と日本語音声ガイドをつけてこの活動を世界に発信し、次の機会を期すことになった。

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