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北海道上士幌町はこれで人口を増やした 第4回ジャパンSDGsアワード官房長官賞・2021年度SDGs未来都市

北海道上士幌町はこれで人口を増やした 第4回ジャパンSDGsアワード官房長官賞・2021年度SDGs未来都市
北海道上士幌町のナイタイ高原牧場
北海道上士幌町

牧歌的でのどかな風景が広がる北海道十勝地方。その北部にあって、大雪山国立公園の東山麓に位置する上士幌町は、町域の約76%が森林という自然豊かな町だ。その人口5000人弱の町が、エコと「生きがい」「働きがい」を掲げて、首都圏から若者を呼び込み、人口を上向かせている。政府がSDGsの取り組みを表彰する第4回ジャパンSDGsアワードで、「SDGs推進副本部長(内閣官房長官)賞」を受賞、2021年度「SDGs未来都市」にも選定された。北のまちの「秘策」はどこにあるのか。(編集部・金本裕司)=写真、図表はいずれも上士幌町提供

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上士幌町のプロフィルを簡単に言うと、「人口4980人、牛40000頭、寒暖差60℃の厳しい環境にある、農業が基盤の小規模過疎地域」(町資料、2020年9月現在)となる。面積は東京23区より少し広い。

そして、「日本一広い公共牧場 人気のナイタイ高原牧場」が町のシンボルだ。牧場の広さは東京ドーム358個分、「ナイタイ」はアイヌ語で「奥深い沢」の意。

「合併せず」選択し、SDGsでまちづくり

その上士幌町が現在のような「持続可能なまちづくり」を目指すまでには、「平成の大合併」と呼ばれた時代の前史がある。

同町も、近隣の士幌町との間で合併協議会をつくり、合併後の財政シミュレーションなどを作成し、住民との懇談会を繰り返した。そこで出された住民の多数意見は、町として「自立」する道だった。

最終的に2004(平成16)年に協議会は解散した。町は同年、「自立のための『5』の将来像」を描いた。①森林資源が活かされているまち②観光産業が活発なまち③お互いが助け合い協働するまち④農業が栄え心豊かな農村のまち⑤都市と農山村の交流が活発でにぎわいのあるまち――の五つだ。自立を選択した際の出発点が、いまSDGsへの取り組みを基本に置く上士幌町のスタートラインになった。

前企画財政課主幹の福原英範さんは「単独で生き残る道を選んだころから、環境への配慮や住民参加、農業を基盤としたまちづくりなど、今で言うSDGsに近い取り組みをやってきました」と語る。

人口減少食い止め「V字」目指す

しかし、掲げた将来像の実現は簡単ではなかった。

自立の道を選んだ2004年、町の人口は5400人強。そのままにしていれば、20年には4170人まで落ち込むと予測した。見通しどおり人口は徐々に減っていき、15年には4886人にまで下がった。

なんとかこれに歯止めをかけようと、町が同年策定したのが「上士幌町総合戦略」だ。そこでは、「“人口減少・東京一極集中・ 地域経済の停滞”に歯止め」というスローガンを掲げた。

そして、「お年寄りが亡くなる自然現象は止めようがない。20~40代の若年層に町に来てもらい、高齢化率に歯止めをかける」(福原さん)ことに、計画の主眼を置いた。

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バイオガスプラント

家畜のふん尿を循環させ、電気も雇用も生む

町のプロフィルでもある「牛40000頭」。その家畜のふん尿は、町にとっては大きな「資産」だ。こんな「循環」を行っている。

家畜のふん尿をバイオガスプラントに集める→ふん尿を発酵処理し消化液(※バイオガスを取り出した後に残る液体)をつくる→消化液は有機肥料として牧草地に還元する→その栄養で牧草が成長する→その牧草を牛が食べ、牛乳を生産し、ふん尿を排泄する→ふん尿をバイオガスプラントに運ぶ。

一方、バイオガスプラントではバイオガスが発生する→バイオガスを燃焼させて蒸気を発生させ、タービンを回して電気を生む→電気を町内還元する。

さらに、ふん尿の運搬や消化液の散布、地域新電力の運営などに携わる人が必要になる。

つまり、ふん尿から肥料や電気、雇用など様々なものが生まれるという、そんなサイクルだ。

現在、町内には6カ所のバイオガスプラントがある。町内には約2500世帯、500事業所があり、そのうちの1割、353軒に電力を小売りしている。町はさらに小売りを伸ばしていくことが目標だ。

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ナイタイ高原牧場

都会の若者よ来たれ!

人口減少を食い止め、町を持続可能にするためには、若者にいかに町に入ってきてもらえるかがカギだ。地産地消の再エネや循環型農業などは、エコに敏感な若者たちにはアピール材料になるが、それだけで十分ではない。

そこで、上士幌町では「若者に生きがいと働きがいを」を合言葉に、若者に町へ関心をもってもらうための様々なプログラムに取り組んでいる。その一つが、2020年度から始めた、かみしほろ「MY-MICHIプロジェクト」だ。「都会でどう生きるか悩んでいるような若者たちに、上士幌で1、2カ月、仕事、学び、遊びを体験してもらい、自分の生きる道を考えてもらう」(福原さん)という企画だ。若者、なかでも首都圏の若者に関心をもってもらい、上士幌に移り住んでくれる若者たちが増えれば、町の持続可能性につながる、という狙いだ。

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働く
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学ぶ
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遊ぶ

5年間で244人の社会増

こうした努力のかいもあって、町の人口は2015年の4886人で底を打ち、徐々に上向きになった。

町外から移り住む人にあたる「社会増」は、19年度までの5年間で244人になった。そのうち、20~40代の若者は7割を超える。

町では、SDGsの課題の一つ「東京一極集中の是正」に貢献する観点からも、首都圏の若者の転入に大きな期待を寄せており、首都圏からは、16~19年の4年間で118人が町に新たに入ってきている。

こうした若い世代の流入は町の指標に大きな影響を与える。

2017年1月に34.68%だった高齢化率は、20年1月でも34.29%に踏みとどまっている。

また、働く若い世代が町に入ったことが町税にもプラスに働いたとみられ、15年度の7億6200万円が、19年度には9億1100万円に増えた。

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町役場

若者の定着が課題

若者たちは上士幌町でどんな仕事についているのか。

農業が産業の中心なので、大規模な農業生産法人に就職する人が多いという。

一方で、テレワークが定着してきたこともありデザインやウェブ関係の仕事をする人もいるし、整体や助産院を開く人も出てきたという。

上士幌町は、都市部との時間的距離で見ると、札幌市へは高速道路を使って3時間半。東京に行く場合は、帯広の空港まで1時間15分、帯広―羽田が1時間半だ。観光客を呼び込むことも可能な距離で、2017年度に町を訪ねた観光客は約45万人。ナイタイ高原牧場の観光施設や道の駅を整備したことなどで、将来は100万人に増えることを期待しているという。

首都圏などから移り住む若者たちにとっても、十分都市部と行き来できる時間的距離にある。しかし、町を出ていく若者がいないわけではない。福原さんは「仕事上の問題や住みづらいといった話は聞かないが、親の世話や子どもの進学で、転出を余儀なくされるといったケースが多い」といい、町としてもこうした形で離れる人たちは止めようがない。

一定の出入りは前提としながら、町の魅力を伝え、持続可能な町になれるかどうか、北のまちの挑戦は今後も続く。

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旧国鉄士幌線の代表的なコンクリートアーチ橋「タウシュベツ川橋梁」。上士幌町を象徴する建造物だ
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