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誰が気候変動の影響を受けるのか データで見るSDGs【3】

誰が気候変動の影響を受けるのか データで見るSDGs【3】
日本総合研究所シニアマネジャー/村上 芽

art_00099_著者_村上芽
村上 芽(むらかみ・めぐむ)
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネジャー。金融機関勤務を経て2003年、日本総研に入社。専門・研究分野はSDGs、企業のESG評価、環境と金融など。サステイナビリティー人材の育成や子どもの参加に力を入れている。『少子化する世界』、『SDGs入門』(共著)、『図解SDGs入門』など著書多数。

「脆弱な人」とは

前回は、大気中のCO₂濃度の上昇が、気温だけではなく海の水や氷の変化を通じて様々な気象災害につながっていること、さらにそれらがSDGsの達成を困難にしているということを取り上げました。

今回は、特に「誰が」気象災害の悪影響を受けやすいのかを見ていきましょう。

異常気象は先進国でも開発途上国でも起こり得ますが、それが実際の「被害」になるかどうかは、起こる場所によって変わってきます。被害をなるべく小さくするための予防ができていればいるほど、また、発生したあとの復旧・復興への余力があればあるほど、より「強靭性(レジリエンス)がある」と考えることができます。

SDGsでは、17の目標ごとに具体的な行動を記した169のターゲットを掲げています。このうち、気候変動への強靭性を高めることと関係が深いものは少なくとも三つあるのですが、そのひとつ、ターゲット1.5では、「2030年までに、貧困層や脆弱な状況にある人々の強靭性(レジリエンス)を構築し、気候変動に関連する極端な気象現象やその他の経済、社会、環境的ショックや災害に(対する=筆者補足)暴露や脆弱性を軽減する」とあります。

では、「脆弱な人」とは具体的に誰か。SDGsでは「子供、若者、障がい者(その内 80%以上が貧困下にある)、HIV/ エイズと共に生きる人々、高齢者、先住民、難民、国内避難民、移民を含む」としています(外務省「仮訳」P6 パラグラフ23)。このうち、難民と国内避難民に注目してみましょう。

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衛生状態が悪化しているシリア北西部イドリブ県カファルルシンの避難民キャンプ。新型コロナウイルスの感染者の発生が心配されていた(2020年3月、朝日新聞社)

帰還できない難民

難民と国内避難民のもっともわかりやすい違いは、国境を越えるかどうかです。国内避難民は、難民と同じような理由(政治的な迫害、紛争、内乱、武力による強制立ち退き、自然災害など)で自宅に住めなくなり、国内で避難生活を送っている人のことを指します。2019年時点の国内避難民は、約4570万人。難民の倍以上、発生したとされています。

「国内で避難生活」は、日本にとっても人ごとではありません。2021年は東日本大震災から10年となりましたが、復興庁の3月の発表によれば、約4万1000人がいまだに避難生活を余儀なくされています。台風や洪水でも、大きな被害を受けて仮設住宅などで避難生活を始める人が毎年発生しています。

世界に目を向けましょう。図1を見てください。UNHCRによると、難民の数は増加傾向にあるにもかかわらず、もとの国に帰れた人(帰還数)は減少傾向にあります。2020年時点の難民は約2067万人にのぼりますが、2010~2019年の10年間の帰還数を合計しても約374万人にしかなりません。多くの人が帰れないまま、外国で暮らしているのです。

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ちなみに、難民の発生国は偏っており、上位5カ国で全体の67%を占めています。受け入れ国も、まずは近隣国になることが多いことから、上位5カ国で39%となっています(図2)。

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(出所)UNHCR https://www.unhcr.org/refugee-statistics/ の掲載情報から筆者・編集部作成

都市部のレジリエンスは

難民の帰還が難しくなっているのはなぜでしょう。ひとつには、もともと住んでいたところが洪水被害などで住めなくなってしまったり、あるいは、干ばつなどで農業の生計を立てられなくなってしまったりしたことが考えられます。最大の難民発生国であるシリアも、これに当てはまるかもしれません。

シリア難民が発生した直接の理由は内戦ですが、もとをたどれば、地中海東部で2000年代に起きた厳しい干ばつで農民が打撃を受け、生活への不安や不満を抱えて都市に移住せざるを得なかった人が多かったそうです。この干ばつは、気候変動の影響を受けているというしかないほど過酷なものだったという研究もなされています。

また一般的に、帰還できたとしても、計画性なしに都市部に住み始める元難民が多いようです。都会は確かに仕事が見つかりやすいかもしれませんが、難民生活を送っているあいだに職業的なスキルが落ちていることが多く、住宅環境のよくないところに住むしかないことが多いといわれます。人口が密集し、災害対策などなされていないような地域を巨大な嵐が襲ったらどうなるでしょうか。

日本は難民受け入れの非常に少ない国です。今後も気候変動による難民が増え続けるようなら、受け入れという形の支援を検討する必要があるでしょう。一方で、政府の「SDGsアクションプラン2021」には、「世界の強靭化・自然災害リスク削減の推進に向けた国際貢献」ともあります。途上国の都市のレジリエンスを高めるような支援においても、帰還者を意識した具体的な設計が重要になるのかもしれません。

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