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SDGsは「問い」、自治体は「手触り感」のある取り組みを

SDGsは「問い」、自治体は「手触り感」のある取り組みを
撮影・仙波理
慶應義塾大学大学院特任助教/高木超

自治体はSDGsにどう取り組むべきか。慶應義塾大学大学院特任助教としてSDGsと自治体の関わりを研究するかたわら、神奈川県鎌倉市などのSDGs推進アドバイザーも務める高木超さんは、日々の業務をSDGsの視点から問い直し、「手触り感」のある取り組みを推進することが大切と語る。(聞き手 編集部・金本裕司)

――多くの組織や人々が関わるSDGsの中で、自治体はどう位置づけられていますか。

「国連が2015年に採択した『持続可能な開発のための2030アジェンダ』では、政府、企業といった主体はじめ、すべての人々の参加を求めています。その中に地方政府(地方自治体)も含まれています」

「日本では、2019年12月に政府が決定した『SDGs実施指針改定版』で地方自治体に、期待される役割が詳しく書かれています。部局を横断した体制づくりや取り組みの必要性、地域の実情に合わせたローカルな指標を設定することも挙げています」

「地方創生」と密接につながるSDGs

――SDGsは政府が掲げる「地方創生」とも密接につながっていると思います。

「自治体は人口減少、少子高齢化、地域経済の縮小などに危機感を持っています。学校が廃校になったり、鉄道が廃線になったりすれば地域は持続可能ではなくなってしまいます。そこで、SDGsの持続可能性という視点と地方創生は、密接に関連するといえます」

「政府は、2017年の『まち・ひと・しごと創生総合戦略』改訂で、『地方創生の一層の推進に当たっては、SDGsの主流化を図り、SDGs 達成に向けた観点を取り入れ、経済、社会、環境の統合的向上等の要素を最大限反映する』と打ち出しました。18年度から始まった『SDGs未来都市』の選定も、自治体の動きを促すうえで大きな意義があったと考えられます」

――「主流化」するというのはどういう意味なのでしょうか。

「自治体が地方創生を行う中で、SDGsを補助的に考えるのではなく、計画策定から実施、評価に至る段階で、分野を横断してSDGsの観点に立った検討を行い、最大限計画や事業に反映することが求められているといえます」

日々の業務にSDGsの視点を

――自治体がSDGsに取り組む際に、重視すべきことはなんでしょうか。

「計画を作るときに、この政策はSDGsの目標の何番達成に貢献しますというラベル貼りだけになってはいけないと思います。例えば、貧困問題の解決に関連する政策であれば、SDGsの目標1『貧困をなくそう』の達成に貢献すると分類するのは分かりやすいのですが、それだけで政策の中身が変わるわけではありません。計画の検討だけでなく、日々の業務でもSDGsを意識することが必要です」

「例えば、内閣府が東日本大震災の被災3県を対象に行った調査では、生理用品や子どもの粉ミルクに対する要望の件数に、男女間で大きく差がありました。行政が災害備蓄品を検討する際に、担当課が男性職員だけだったら、これらの必要性に十分に気づけるでしょうか。そこで、SDGsの目標5『ジェンダー平等の実現』の観点で点検すると、女性の声を聞いてみようという考えが出てくる。そうやって、政策の質を高めることが住民の生活の質を向上させることにつながります」

「自治体が広報を作成するときも、『ブ』と『プ』のような似通った文字は明朝体では判別しづらいので、判別しやすいユニバーサルデザインフォントを使うとか、色の見え方が人それぞれであることに配慮して、すべての人に情報が正確に伝わるようにカラーユニバーサルデザインを使って作成しようとか、現場で考えることが大切です。SDGsを計画レベルで検討することは当然重要ですが、現場レベルでの手触り感のある活用も必要だと思います」

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撮影・仙波理

SDGsは「問い」と考えて

――役所の企画部門が、きれいな計画書を作るので終わってはいけない、ということですね。

「私は『SDGsは問い』だと思っています。『貧困をなくそう』というのは目標でもありますが、貧困をなくすために自分たちは何ができるだろうかと考える問いでもあります。SDGsは持続可能な地域について考えるきっかけを自治体職員に与えてくれるのです」

「私は、『整理』『点検』『共有』の3段階でSDGsを使ってみてくださいと言っています。SDGsの枠組みで既存の取り組みを『整理』するのが最初です。整理すると、自分たちがやっていることが、ここにつながっているんだということが見えてくる。内陸の自治体で川の清掃をする場合、そのごみは放っておけばいずれ海に流れ着くのだから、清掃作業は目標14の『海の豊かさを守ろう』の実現につながっています。整理することで、これまで見えなかった価値を再確認することもできます。次に、既存の取り組みに足りないところを、SDGs視点で『点検』し、政策をアップデートしていく。そしてアップデートした政策を国内外に発信し、『共有』して学び合うことが大事です。SDGsというのは193カ国の共通言語です。同じ枠組みを用いることで、互いに理解がしやすくなります」

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SDGsミーティングで議論=2019年7月
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たくさんの声が寄せられた=2019年5月(いずれも金沢市提供)
金沢市と京都・亀岡市にみるSDGs

――様々な自治体の取り組みの中で、注目されているところは。

「SDGsは計画段階から住民などのステークホルダーとともに考えることが大切です。その点で、特に金沢市の取り組みに注目しています。同市は、2019年にSDGsを進めていく道しるべとなる『金沢ミライシナリオ』をつくる過程で、多様なステークホルダーが集まり『SDGsミーティング』と呼ぶ対話の機会を設けました。自分たちでSDGsをかみ砕いて、まちに何が必要か、話し合って決めた好事例です」

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使い終わったパラグライダー生地をエコバッグに作り変える「FLY BAG Project」。
象徴となる巨大バッグがJR亀岡駅北口に浮かんだ=2019年7月 (亀岡市提供)

――京都府亀岡市のアドバイザーも務めておられますね。

「アドバイザーをしているからではないのですが、亀岡市の取り組みは注目に値すると思っています。亀岡市は、アート(芸術)の力を活用してSDGsの達成に向けて取り組んでいます。例えば、市内のパラグライダースクールで役目を終えたパラグライダー生地を廃棄するのではなく、再利用をしてバッグにするワークショップに取り組みました。さらに『HOZU BAG(ホズ・バッグ)』というオシャレなマイバッグに生まれ変わらせ、販売もしています。廃棄物の再利用という環境面だけでなく、雇用や産業の創出といった経済や社会の面にも相乗効果をもたらします」

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「HOZU BAG」(THEATRE PRODUCTS 提供)

「SDGs未来都市」選定を目的にしない

――コロナ禍は収束が見えてきませんが、SDGsにどんな影響を与えたでしょうか。

「SDGsの進捗に影響していることは国連からも発表されています。貧困の問題を例にすれば、コロナによって産業が停滞し、雇用を奪われ、貧困に陥ってしまうという影響が考えられます。一方で、産業が停滞したことなどにより、2020年の温室効果ガスの排出量が減少する見込みであることも報告されています。SDGsは幅広い分野の目標が含まれているので、目標ごとに様々な影響が生じています」

――最近のSDGsの動きで気になっていることはおありですか。

「自治体側が、政府が選定する『SDGs未来都市』に選ばれることを目的にしてしまい、『申請書類をどのように仕上げたらいいか』『どういったことを書けば通りやすいか』と考えてしまわないか心配しています。これから申請する自治体が、『自分たちの地域に必要かは分からないけれど、ほかの自治体が行っているから、似たような事業をやろう』と考えてしまっては本末転倒です。SDGs未来都市という手段が目的化してしまうことを危惧しています」

「ウォッシュ」を怖がらず「はじめの一歩」

――実態がないのに、企業などがSDGsに取り組んでいるようにPRする「SDGsウォッシュ」といったことばもあります。

「もちろん意図的なSDGsウォッシュは問題外です。一方で、企業だけに限りませんが、ウォッシュと言われるのを怖がって、本当はSDGsに取り組みたいけれどもできないという人が出てくるのは、もったいないと感じています。ウォッシュということばを必要以上に怖がるのではなく、誠実に取り組む中で改善し、アップデートしていくことも必要です。まずはSDGsに関心を持ち、その実現に向けて自分たちで考えて取り組んでみるという『はじめの一歩』を踏み出すことが大切だと思います」

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撮影・仙波理

高木 超(たかぎ・こすも)
1986年、東京都生まれ。2012 年から神奈川県大和市役所職員。17年に退職し、米国のクレアモント評価センター・ニューヨークでSDGsを研究。19年4月から慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任助教。神奈川県鎌倉市や京都府亀岡市のSDGs推進アドバイザーも務める。著書に『SDGs×自治体 実践ガイドブック 現場で活かせる知識と手法』(学芸出版社)、『まちの未来を描く!自治体のSDGs』(学陽書房)など。
「超(こすも)」の名は、両親が国境を超えて働く人になってほしいという願いを込め、「コスモポリタン」から名付けたという。
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