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気温上昇がなぜ問題なのか データで見るSDGs【2】

気温上昇がなぜ問題なのか データで見るSDGs【2】
日本総合研究所シニアマネジャー/村上 芽

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村上 芽(むらかみ・めぐむ)
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネジャー。金融機関勤務を経て2003年、日本総研に入社。専門・研究分野はSDGs、企業のESG評価、環境と金融など。サステイナビリティー人材の育成や子どもの参加に力を入れている。『少子化する世界』、『SDGs入門』(共著)、『図解SDGs入門』など著書多数。
地球の気温はもう瀬戸際に

今回は、人口とならんで21世紀の2大メガトレンドといわれ、また、最大のリスクともいわれる気候変動を取り上げ、それがSDGsの達成にどのようなインパクトをもつのか、世界気象機関(WMO)の報告書をもとに読み解いてみましょう。

気候は、人の体と同じように複雑で、多様な要素からできあがっています。そのため、記録的な大雪が降ったり、極端な寒波や熱波が起こったりしても、即、「温暖化のせいだ」と言い切ってしまっていいだろうか、とためらわれるかもしれません。

けれども、地球の気候は、もはや遠慮していてはいけない状態にあります。WMOが2020年12月に発表した同年の世界の気候に関する報告書によると、10月までの時点で気温は既に19世紀末より1.1~1.3℃高くなっています。

報告書の中から、米国、英国、欧州と日本の気象庁など、五つの観測機関のデータを反映させたのが、図1の折れ線グラフです。世界の平均気温という一つのことを表したいのに「なぜ五つも?」と思われるかもしれませんが、それぞれ実測値に加えてシミュレーションに基づいた地球全体の気温を推計しているため、あえて一つに絞らず、五つをあわせて大きな傾向をとらえてみましょう。

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私たちが今、目指している「2050年、カーボンネットゼロ」という厳しい目標値は、気温上昇を+1.5℃に抑えるために必要なラインですが、気温のほうはもう、瀬戸際にあることがわかります。しかも、現時点で1.2℃「程度」にみえるのは平均気温の上昇であって、現実には世界各地で毎年、厳しい異常気象が起こり続けています。

大至急、効果の出る気候変動対策を実行しなくてはなりません。では、例えば省エネに努めたり再生可能エネルギーを増やしたりすることが、どのような気候変動対策になるのか、改めて整理してみましょう。

陸だけでなく、海も温められている

気候のシステムを理解するのは大変ですが、わかりやすい図がWMOにあります。WMOでは、気候変動に関する主要な七つの指標を決めており、図2ではそれを青で示しています。

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すごろくのようなこの図のスタート地点(左上)にあるのは「①CO₂濃度」です。CO₂ (二酸化炭素)が増えて空気中の濃度が上がると、それが温室効果となって、陸・海・大気を温めます。それが、「②地表面温度」と「③海洋熱含量」となります。温室効果はまた、氷圏を解かすので、「④氷河質量」「⑤海氷域の面積」「⑥海面上昇」に影響します。このほか、海洋はCO₂を吸収するのですが、負担がかかりすぎると「⑦海洋の酸性化」を引き起こしてしまいます。

②から⑥の指標の増減と、温暖化とは関係なく気候が持っている変化のサイクル(エルニーニョ現象やジェット気流の弱まりなど)が影響しあって、極端な気象が引き起こされ、それが自然災害につながります。

図2を眺めていると、「海」や「氷」という漢字がたくさん出てくると思いませんか。陸での生活が暑くなるだけではなく、海もまた同じように温められており、氷が解けていることがわかります。

地球上の平均気温の上昇は、特に北極圏で激しくなっています。北極の氷が解けると、何が起きてくるのでしょう。船が通れるようになるので、北極航路の開発にビジネス機会を見いだす企業もあります。ただ、地球環境にとっては非常に大きな変化であり、わからないことが多くあります。生態系を脅かす懸念があるため、「わが社は利用しない」と宣言する企業もあります。

なお、この七つの指標については、WMOの発表している報告書や資料によって微妙に英語表記が異なっており、特に決まった番号があるわけでもないので、少し迷子になりそうなのには注意が必要です。

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2020年7月、九州を襲った豪雨は観測史上最大となる降水量を各地にもたらした。増水で崩れた球磨川沿いの堤防(朝日新聞撮影)

異常気象による自然災害は、私たちの生活に影響を及ぼします。それをSDGsと結びつけてみましょう。WMOは10の目標との接点を挙げています。例えば「目標2:飢餓をゼロに」は、農業と直結しています。誰もが、安全で栄養のある食事を一年中とれるようにするには、十分な農作物が安定して収穫できることが必要不可欠だからです。

CO₂以外の温室効果ガスも削減を

もう1点、注目しておきたいポイントは、CO₂以外の温室効果ガスの存在感です。多種多様な気体のなかで、CO₂だけが温室効果を発揮するのではありません。国際的な気候変動対策で定義されている温室効果ガスは、CO₂、メタン(CH₄)、一酸化二窒素(亜酸化窒素ともいう。N₂O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFC)、パーフルオロカーボン類(PFC)、六フッ化硫黄(SF₆)の6種類です。

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このうち、CO₂、CH₄(メタン)、N₂O(亜酸化窒素または一酸化二窒素)をWMOでは「ビッグ3」と名づけ、濃度の上昇に警鐘を鳴らしています。N₂Oは最近、国際的な研究がまとめられ、人為的な理由での排出量が増えたことがわかってきています。

CO₂以外の五つの温室効果ガスは、CO₂よりも全体に占める割合は小さいですが、温室効果が高いことや、性質によって大気に長い年月残るものもあり、それぞれ、削減が必要なことに変わりはありません。

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