SDGs達成のために、私たちが考えるべきこと、やるべきこと

【対談】 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授 蟹江 憲史 氏 × 神田外語大学グローバル・リベラルアーツ学部 教授 兼 学長補佐 石井 雅章 氏
国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向け、小中高校生からアイデアを募集する「SDGs クリエイティブアイデアコンテスト 2021」が開催される(主催:朝日新聞 SDGs ACTION!、共催:アドビ株式会社)。コンテストの審査員を務める、蟹江憲史教授と石井雅章教授に、SDGsの最新動向、私たちが取り組む意義、そして、GIGAスクールデバイスが学校に整備される中で最適な活用機会となる同コンテストへの期待について語り合って頂いた。
──コロナ禍の今、SDGsはどのような方向に向かっているのでしょうか?
蟹江 コロナによって世の中のシステムが非常に脆弱(ぜいじゃく)で持続的ではない仕組みだったということが明らかになりました。社会がサステナブルではなかったということですね。コロナ禍によりSDGs達成が遠のくことも懸念されますが、だからこそSDGsを加速させていこうという機運が世界的に高まっている面もあります。SDGs達成へ向けた取り組みが、これから進展していく可能性は十分にありますね。
石井 コロナはこれまでの歩みを止めることになりましたが、普段はなかなかできない振り返りをおこなういい機会になったとも言えます。「2030アジェンダ」では、トランスフォーミング(変革)が大事な考え方ですが、「自分たちの事業活動はどのような価値を世の中に生み出しているのか」を改めて問い直し、その仕組み自体を作り替えていく必要性を多くの人が意識できるようになったのではないかと感じます。
──SDGs達成のためには、どのような考えや行動が必要なのでしょうか?
蟹江 SDGsに取り組むに当たっては、ホリスティック(包括的)な視点で、17目標全体を考えることが重要になってきます。大きく言えば経済、社会、環境ですが、何か1つが良くてもダメです。SDGsは169のターゲットも含め、全体で1つと考えていかなくてはいけません。
石井 「2030アジェンダ」やSDGsには、持続可能な世界を達成するというひとつの大きなビジョンが示されています。関心がある目標に取り組むこと自体は悪いことではありませんが、目標のたんなる紐付けではなく本来目指している持続可能な世界というビジョンを明確に意識することが重要です。
蟹江 日本ではSDGsの認知は広がっているのですが、行動につながっていないような気がします。ヨーロッパの先進的な国では、SDGs自体はあまり知らなくても、行動を起こしている人が多いと感じます。これからの日本では教育を通して知ることも含め、目に見える行動に移していくことが必要なのではないでしょうか。
石井 持続可能な世界は、人類が未だ実現したことがない壮大な目標と言えます。ですから、誰かがやり方や答えを教えてくれるようなものではありません。だからこそ、みんなで一緒に取り組みながら、大人も子どもも年齢や立場を超えて共に学んでいく、そんな行動が必要になってくるでしょう。

──若い人のSDGsに対する意識はどうなっているとお考えですか?
蟹江 今の若い人は、リーマンショック、東日本大震災が続き、現在はコロナ禍。前の世代が非日常だと思うようなことが日常的に起こっています。だからこそ、持続可能な世界にしなければいけないという思いが私たちの世代よりも強いと感じます。
石井 若い人たちは、今の社会の仕組みのまま、この先、生きていくことはできないと気付いているのではないでしょうか。だからこそSDGsに対する関心も高いのだと思います。私たちの世代のようにある程度の経験を積み重ねると「まあ、そういう仕組みだから」と変に慣れてしまい、変化を諦めてしまうこともあります。
蟹江 SDGsは「17の答えが書かれた問題集」だという表現を私は時々します。でも問題の解き方は載っていません。「どうやって、この貧困をなくす答えに導いていくのか、それを考えていきましょう」という話です。そんな発想の転換をしていくことが、これからの時代には必要になってくるのではないでしょうか。
──教育現場やデジタル活用におけるSDGsについては、どうお考えですか?
石井 教育現場においてSDGsを取り上げる機会が増えていることは確かです。SDGsは包括的なテーマを扱うのであらゆる教科で扱いやすい一方、従来の単元に当てはめて「SDGsと関連することを学びました」で終わってしまう面もあるような気がします。各目標に関することをバラバラに学ぶのではなく、これからどう生きていきたいのか、自分たちなりのビジョンを作ってみて、それをアジェンダやSDGsと照らし合わせてみるような取り組みが、もう少し出てきてもいいのではないかと思います。
蟹江 教育現場でICT化が進んでいますが、SDGsの達成にもデジタル活用の可能性を感じています。例えば、問題を一気に解いたり、測れなかったものを測りやすくしたり。特にSDGsの進捗度を可視化するために、デジタルデータを使いジェンダー指数を視覚化するなど、測ることは大事になってくるでしょう。デジタル技術の活用により、さまざまな変化や動向が分かるようになると、次のアクションを実行しやすくなります。
石井 デジタル技術は、いろんなところにアクセスして、時間と空間を渡り歩くことができる点が大きいですよね。文字情報だけでなく、音声や動画などの情報を通して、いま自分が生きている世界とは違う境遇で生きている人々がたくさんいることを実感することができます。デジタル技術とデータは人の価値観を変える大きな力を持っているので、もっと積極的に活用していくべきだと思いますね。

──「SDGsクリエイティブアイデアコンテスト2021」についてお話をお聞かせください。
石井 「SDGsクリエイティブアイデアコンテスト」は、昨年も作品審査に携わらせていただいたのですが、「こういう発想や表現が出てくるんだ」という新鮮な驚きがありました。今年も子どもたちには自由に発想を広げてもらいたいですね。ひとつ申し上げるとすれば、アイデアはしっかりした分析や深い洞察があってこそのものと言えます。逆に、いくら勉強して調べても、学んだことを自分なりのアイデアとして昇華できないままでは非常にもったいない。アイデアと現状分析のバランスをうまく考えて表現してもらえたらいいかなと思います。
蟹江 私は今回初めて審査するので、クリエイティビティがどのような形で出てくるのか非常に楽しみにしています。また、SDGsをテーマに据えることで、何かやろうとしている人たちの視野が広がることを期待します。SDGsに対するホリスティックな視点を大切にして、作品作りに励んでみてください。
石井 持続可能な世界の実現を考えることは、答えのない課題に向き合うことです。そのような学びには、仮説を立て、試してみることが大事。だからこそ繰り返しが簡単にでき、何度でもチャレンジしやすいデジタルツールはぴったりです。今回のコンテストはAdobe Spark(アドビスパーク)を使っての応募になります。Adobe Sparkを活用すれば、Webページの中に動画を埋め込んだり、図表やインフォグラフィックを入れたりすることができます。クリエイティブな表現を通じて、見ている人の感情に訴えることができれば、次の行動を呼び起こすきっかけになるかもしれません。そのためのストーリーを伝えるツールとして、Adobe Sparkは最適だと思います。
蟹江 たしかに、SDGsやサステナビリティを考えるのにストーリー性は重要になってきますね。課題の背景にあるストーリーが伝わって来ないと、次の行動に移せないし、その先の未来も見えて来ないですから。
石井 SDGsに向けた解決アイデアの作品をつくること自体が、未来へのアクションだと言えますね。
蟹江 子どもたちが自分たちの未来のストーリーを想像しながら作品創作に取り組んでもらえれば、SDGsをより自分ごと化しやすくなると思います。

──コンテストについて、アドバイスなどあればお願いします。
蟹江 SDGsに対してどうアプローチするかは自由です。身近な生活からでもいいし、グローバルな観点からでもいいし、テレビで途上国の現状を見たことがきっかけになってもいいです。ただ、そのアプローチに対して、自分は何ができるのかというところに結び付けることが大事。それも含めてクリエイティビティなのではないかと思います。
石井 SDGsに関する知識を得ることも重要ですが、「どうしてこういうことが起きているのか」「どうしたらもっと良くなるのか」といったSDGsの背景にある原因や背景への知的好奇心を大切にして、次につながるものをどんどん生み出していって欲しいですね。
蟹江 コンテストはちょうど夏休みが作品応募期間になりますので、時間にとらわれずに自由に発想をしてみてください。コロナの状況にもよりますが、いろいろな場所に行ったり、いろいろな人に会ったり、コンテストをひとつのきっかけとして様々な経験をしながら、SDGsを学んでもらえるとうれしいです。
石井 学校関係者の方々、保護者の方々へのお願いです。ついつい大人の理想や知識を当てはめたくなってしまいますが、そこはグッと我慢しましょう。SDGsは私たち大人が、答えを持っているような課題ではありません。子どもたちが考え、表現するものを尊重しながら、共に学んでいきましょう。
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。SDGs推進本部円卓会議メンバー、国連大学サステイナビリティ高等研究所シニアリサーチフェローも務める。専門は国際関係論、地球システムガバナンス。国連がまとめる『グローバル持続可能な開発報告書(GSDR)』において、2023年版の執筆を行う世界の15人の専門家のうちの1人。
神田外語大学グローバル・リベラルアーツ学部 教授 兼 学長補佐。専門は環境社会学で「日本企業の環境対策」や「持続可能な社会システム論」が主な研究テーマ。一方で、「未来の学びと持続可能な開発・発展研究会(みがくSD研)」のメンバーとして、SDGsやPBL(問題解決型学習)、越境研究者について、市民・行政・企業などと連携しながら実践的な研究に取り組んでいる。