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丸紅が起こす森からのイノベーション 【4Revs】日本のイントラプレナー①

丸紅が起こす森からのイノベーション 【4Revs】日本のイントラプレナー①
丸紅 チップ・建材部チップ課/橋本大亮 担当課長

イノベーション・プラットフォーム「4Revs」との共同企画となるこのコーナーでは、4Revsが会員向けに提供している情報の一部を紹介していきます。毎月第2週は、世界各地で活動するアントレプレナーや、日本の参加企業でイノベーションを担うイントラプレナーを紹介していきます。


企業がSDGsの達成に取り組む際には、社内にあるリソースをどう活用するかが重要になる。海外に植林地を所有し、製紙業界向けに木材・チップの輸出を手がけてきた丸紅では、広大な森林を活用して持続可能な社会をつくろうと動き出した。4Revsのメンバーでもあり、社外からアイデアを募ろうと動く橋本大亮さん(38)の思いはどこにあるのか。(聞き手・編集長 高橋万見子)

海外に向けオープンコンテスト開始

――会社のリソースを使って、イノベーションを起こすそうですね。

6月7日に、「Marubeni Forest Innovation Business Contest(MFIBC)」をスタートしました。企業やスタートアップ、NPO、教育機関、学生らを対象に、森林資源を活用したイノベーションのアイデアを募集します。

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MFIBCのサイト https://marubeni-forest-innovation.com/

森林は、炭素の吸着や生態系の保護など、エコシステムの維持にたいへん重要な役割を担っています。私たちが豪州やインドネシアに所有している植林地は、木材やパルプ、バイオマス燃料といった生活必需品を生み出す源でもあります。ここで新しいビジネスを創出し、食料、水、生態系、気候変動に関する社会課題の解決に結びつけようというのが、コンテストの狙いです。

7月末に募集を締め切り、1次審査で8組に、2次審査で4組に絞った後、豪州の子会社(WAPRES)を視察してもらいます。最終審査は年明け1月。①持続可能性②拡張性や再現性③実現可能性や革新性④科学的根拠、を評価基準にし、アイデアをまるごと丸紅が買い取るカテゴリーと協業型カテゴリーで1組ずつ優勝者を選びます。

社内でのビジネスアイデア・コンテストはありますが、こうして海外に働きかけてコンテストをやるのは、丸紅としても初めてです。

豪州で見た気候変動のリアル

――これまで、どんな経験をされてきたのですか。

入社したのは2005年です。海外駐在がしたくて、商社を志望しました。願いがかなって、2013年10月から4年半、WAPRESに駐在しました。丸紅が100%出資する豪州の植林事業会社です。1万3000ha、山手線の内側(6000ha)の2倍強という広大な土地に、製紙原料用となるユーカリを植林しています。

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WAPRESの広大な植林地(丸紅提供)

1tのチップをつくるのに、どれだけの労力や情熱が込められているか、現場で勉強できたのは、今でも私の大きな財産になっています。植林は「伐採して終わり」ではなく、植え直すんですね。そのサイクルを続けていく。まさにサステイナブルな世界でした。

一方で、気候変動の影響を強く感じることもありました。一つが、山火事です。植林地の周りは広大な州の天然林なのですが、天然林としての健全性を保つためには、やはり定期的な間伐が必要になります。

ところが、活用先が不十分なために計画どおりの間伐がおこなわれていなかったり、間伐されても林地に置きっぱなしになったりしていました。伐採した木々はカラカラに乾燥するので、火災が起きたときの延焼要因になるんです。

実際、私が現地に住んでいる間にも大きな山火事が2件あり、1件は高速道路が封鎖されて一帯が孤立化するほどの大火事となりました。

WAPRESだけで解決できる問題ではないわけですが、できることはある。2017年から、林地残材と呼ばれる未利用材を使ってバイオマス発電の燃料にするチップへと加工し、日本への輸出を始めました。

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植林地では、木々の育成管理も重要な仕事だ(丸紅提供)

世界の社会起業家と共創も

――4Revsには最初から参加されているんですよね。

 2018年に帰国してしばらくして、上司から4Revsが立ち上がるので参加しないか、と打診されました。私としてもWAPRESでの知見・経験が生かせるのではないかと思い、「ぜひやってみたいです」と答えました。

四つの社会課題について、一世代のうちに解決していこうという構想の検討会・勉強会との説明でしたが、 興味を引かれたのはやはり「環境」分野です。温室効果ガス(GHG)の削減やサーキュラーエコノミーの実現へ、我々が持つ植林地を活用することで何か解決策が見いだせるんじゃないかと。

4Revsの母体であるNPO法人NELIS(ネリス)が世界中に張っている社会起業家のネットワークの存在も、魅力的でした。正直、それまではSDGsとは何か、社会起業家と言われるサステイナビリティーの実践者たちが具体的にどんな課題と向き合い、どんな事業をしているのか、まったくわかっていなかったのですが、4Revsを通じて彼らと知り合い、非常に刺激されました。

時を同じくして、日本でもSDGsが急速に注目を浴びるようになり、丸紅内部でも我々が所有するアセットを使って、何かできないかという機運が生まれていました。そういうなかで、MFIBCも立案していったんです。

もともと、NELISのピーター.D.ピーダーセンさんに丸紅のコンサルタントとしてサポートしていただいているんですが、MFIBCについてもアドバイスを受けました。募集要項や評価基準の作成では、メキシコ、フランス、豪州で活動する社会起業家3人も加わってくれました。

森林保護や環境問題などに知見や経験をもつ社外の人と仕事をするのは新鮮でしたし、より魅力的な英語表現など、日本人にはなかなか持てない視点も提供していただき、非常に有意義でした。

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成長するユーカリの苗。WAPRESでは種の生産もおこなっている(丸紅提供)

10年後、20年後も続く仕事を

――仕事に対する姿勢や価値観など、変化した部分はありますか。

4Revsで活動することで、人類が抱えている問題の大きさに改めて気づかされました。今年も継続して関わりますが、知見を深めるだけでなく、どうやってアウトプットにつなげるか、ここがいちばんチャレンジングです。経済性も伴わなければいけないですし。簡単ではありませんが、何らかの方向性をつくっていきたいと思っています。

自分自身の価値観も変わりました。正直、今までの仕事は営業でもあり、利益追求というところがあった。でも、それだけではだめだな、と。未来に続く、サーキュラーな経済にするために何か新しい価値を創造したい、というモチベーションに変わりました。目先のニーズに応えればいいというビジネスではなく、10年後、20年後も続くプロジェクトを生み出すにはどうしたらいいか、と考えるようになりました。

私だけでなく、同僚も動き出しています。一人は、小麦ブラン、コーヒー豆、日本茶の出がらし、みかんの皮を再利用して、バーベキューやテイクアウトなどで使う容器を作る事業を始めています。使った皿は回収・裁断して堆肥にし、その土で野菜や花を育てることで、食卓に戻す循環を目指しています。

MFIBC事務局のリーダーは、入社2年目のいちばん若い社員に務めてもらっています。若い人たちに、フレッシュな目で次々に新しいアイデアを提起していってほしいので。今年だけにとどまることなく、来年以降も継続できるようにしていきたいと思っています。

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何度でも生まれ変わる循環型食器「edish(エディッシュ)」(丸紅提供)
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