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「目的の宝庫」SDGsをイノベーションへ OKIの事例から

「目的の宝庫」SDGsをイノベーションへ OKIの事例から
沖電気工業顧問/横田俊之

横田俊之(よこた・としゆき)
1960年生まれ。83年通商産業省(現・経済産業省)入省。中小企業庁次長や日本貿易振興機構(JETRO)ニューヨーク事務所長などを歴任。2016年に沖電気工業(OKI)入社。18年4月から21年3月まで執行役員兼チーフ・イノベーション・オフィサー(CINO)を務める。現在は顧問。

企業の成長に不可欠なイノベーションを、一握りの「天才」に頼るのでなく、全員参加の「仕組み」にする。そしてSDGsに掲げられた社会課題の解決を、その軸に据える――。社会インフラに関連した事業を手がける沖電気工業(OKI、東京)が、そんな取り組みを進めている。中央官僚から転じ、イノベーション・マネジメントシステム(IMS)「Yume Pro」の土台を築いた横田俊之氏に、IMSの意義やSDGsの活用法を聞いた。(編集部・竹山栄太郎)

Keywords
イノベーション・マネジメントシステム(IMS)

企業にイノベーションをうながすための仕組み。欧米を中心に導入企業が増えているとされる。2013年からISO(国際標準化機構)で国際規格の設計がおこなわれ、19年7月に「ISO 56002」が発行された。

イノベーションをシステマティックに

――Yume Proが始まった経緯を教えてください。

2017年4月にOKIの政策調査部長に就き、月に1回、経営会議で政策動向の話をすることになりました。8月のテーマがたまたまイノベーション政策で、準備のためにインタビューした一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)の西口尚宏・代表理事の話が印象に残ったのです。

沖電気工業顧問の横田俊之氏

西口さんの話はこんな内容でした。「イノベーションは一握りの天才が起こすものと思われてきたが、いまはシステマティックに、高い確率でイノベーションを起こすIMSが国際的な潮流になりつつある。将来、IMSを整備していない会社は生き残れなくなる可能性がある」。経営会議でこれを報告したところ、社長の鎌上から「OKIもIMSをやりたい。横田さんが責任者になって進めてほしい」と言われました。

OKIにも一握りの天才はいました。たとえば、ATMの前身のキャッシュディスペンサーは現金を引き出すことしかできず、各金融機関には、現金を補充するための人件費がかかっていました。そこである開発者が考え出したのが、入金されたお金の真贋(しんがん)判定をして出金用に使えるようにした「紙幣還流型」のATMです。でも、そんなに次から次へと都合よく天才は出てきません。だからIMSが必要なのです。

17年10月にプロジェクトチームを立ち上げました。それに先駆けてまず、全役員や新規事業開発経験者、50人にインタビューしました。「10年くらい前にも似たような取り組みを行ったけど、うまくいかなかったんだ」と言う人もいて、社内の空気は冷めていました。また、「会社がどちらのほうを向いているのかわからない」という声もありました。そういう50人の声を社長に直接ぶつけ、大激論をへてまとめたのが、Yume Proです。18年4月にイノベーション推進部ができ、SDGsに掲げられている社会課題の解決を目指すYume Proが始まりました。

Yume Proのロゴ。「Yume」は、OKIが2006年に制定したブランドスローガン「Open up your dreams」、「Pro」は夢の扉を開くプログラム、プロジェクト、プロフェッショナルにちなむ。SDGsの17色を使い、共創パートナーと一緒に社会課題を解決しながら、OKIがスパイラルアップしていくイメージを表現している(OKI提供)

困りごとを起点に

――SDGsをテーマにしたのはなぜですか。

OKIはものづくりの会社で、技術力は高い。ですが、大手通信会社、金融機関、官公庁など優良顧客に恵まれてきたがゆえに受け身体質で、提案能力に欠けていました。いままではお客さんに困りごとを言ってもらい、OKIの技術力でソリューションを提供すればよかったのです。しかし昨今は、お客さんも自分が何に困っているのかわかっていないケースが増えています。

そこで、お客さんの先にいるエンドユーザーや、エンドユーザーを取り巻く社会環境の変化にフォーカスし、社会課題解決のためのソリューションをOKIの側から提案し、ビジネスをつくるスタイルに転換しなければならない。そう考えたのです。イノベーションの分野の第一人者で、JINのChairperson・理事を務める紺野登先生は、「イノベーション近視眼」という言葉を使います。目先の自社事業のことばかり考えていると、イノベーションは生まれません。それを矯正するためには、「目的やビッグピクチャーに立ち返ることが大事だ」と教わりました。

一方、SDGsは社会課題の大目録みたいなもので、宝の山です。目先にとらわれず、目的に立ち返り、お客さんの困りごとから新しいビジネスアイデアを考えていこうというのが、Yume Proのポイントです。

――社内に浸透させるのは、むずかしくなかったですか。

役員や部門長らを皮切りに、年間約1000人を対象に研修を続けています。営業出身でSDGsに熱心な会長の川崎にも先頭に立ってもらい、拠点を回ってセミナーも開いてきました。確かに、なかなか浸透しない部分はありますが、現場での取り組みも少しずつ出てきています。たとえば、中部支社では、SDGsをテーマにしたセミナーを開催しました。これをきっかけとして、地元の銀行などとSDGsからビジネス機会を考えるワークショップを展開しています。

OKIのSDGs研修(同社提供)

「Yume Proチャレンジ」というアイデアコンテストも行っています。2018年度の大賞となったサービスロボット「AIエッジロボット」は、警備や施設管理といった現場での人手不足を解消するものです。19年度の多点型レーザー振動計は、工場で設備が故障してしまう手前で不具合を見つけて保守するもので、これも「レジリエントな(強靭〈きょうじん〉性のある)産業インフラ」というSDGsの課題からの提案です。どちらもまだ仮説検証の段階ですが、事業化を目指しています。

AIエッジロボットと多点型レーザー振動計(OKI提供)

顧客に当たって仮説検証

いまの我々の強化ポイントの一つは、「机上の空論ではだめだ」ということです。「本当にお客さんがお金を出してでも欲しいと言ってくれるものか、お客さんのところに行って、エビデンスをとってこい」と言っています。プロダクトをつくり、それをどうお客さんに売るかという「プロダクトアウト・マーケットイン」ではなく、何をお客さんに買ってもらえるかという「マーケットアウト・プロダクトイン」に、仕事の仕方を変えなくてはいけません。

実顧客などに何度も当たりながら仮説を検証していくことは、イノベーション活動のなかで一番心が折れそうになるプロセスです。たとえば、商店街を飛び込みで回り、相手にされなくても気にせずに、軽やかに動き続けるメンタルがなければいけない。今年3月に審査会を開催したYume Proチャレンジ2020では、実際に顧客に当たって仮説を検証した事例が目立ち、OKIのシニア・アドバイザーをお願いしている守屋実さんから「OKIさんの印象が変わりました」と評価してもらえました。まだ入り口ですが、「これは最強の入り口です」と言われ、すごくうれしかったですね。

沖電気工業顧問の横田俊之氏

――社内ではどんな体制をつくってきたのですか。

IMSに関する国際規格ISO 56002では、(1)機会の特定、(2)コンセプトの創造、(3)コンセプトの検証、(4)ソリューションの開発、(5)ソリューションの導入という5段階のイノベーション・プロセスが定められています。イノベーションの起こし方をプロセスで定義しているわけです。

「Yume Proプロセス」はISO 56002に対応するかたちで、8段階を設けています。ビジネスプロセスのほかに、研究開発の仕方を定めた「Yume Proテクノロジープロセス」も作成しています。これは研究者自らが想定顧客にヒアリングし、ビジネスモデルを描くことから始まります。プロセスを定義することで、SDGsに掲げられている課題解決から入ることや、想定顧客の声を聴くことを決まりごとにしています。

20年4月、イノベーション推進部と研究開発センターが一緒になり、イノベーション推進センターとなったことで、研究開発とビジネス・コンセプト創造が相乗効果を発揮しながら進められる体制が整いました。

Yume Proプロセスと、Yume Proテクノロジープロセス(OKI提供)

現在、ISOではIMSの認証規格「ISO 56001」策定のための議論が進んでいます。OKIでは、ISO 56001が発行されたときに、いの一番で認証を受けられるよう22年度中に「IMS Ready」な状態をつくるという目標を掲げています。

全社で意識共有、社外にも宣言

――SDGsの分野は多岐にわたります。自社の事業とどう結びつけ、絞り込んだのでしょうか。

SDGsのなかでどこに焦点をあてるのかを「イノベーション戦略」として絞り込み、今年1月に公表しました。ISO 56002では「機会に関する意図」が、イノベーション・プロセスの最初に位置づけられています。新規事業部門がビジネスモデルをつくり、事業部門にうまくバトンタッチするうえでも、独りよがりになってはだめで、「全社的にここを目指す」という意識を共有していくことが非常に大事です。また、社外に宣言することによって、共に課題解決を目指すパートナーの開拓にもつながります。

OKIのイノベーション戦略。「金融・流通」「物流」「高度遠隔運用」「防災」「ヘルスケア」「製造」「海洋」「建設/インフラ」「交通」の九つの注力分野を設定し、2030年までの行程と「目指す姿」を示している(同社提供)

IMSで本当にうまくいくの、と半信半疑の社員も多いと思います。実際にイノベーション・プロセスから事業を起こし、成果を出していくのが今後の課題です。

沖電気工業顧問の横田俊之氏

――「SDGsで新規事業をつくれ」と言われ、途方に暮れているビジネスパーソンにアドバイスをお願いします。

自分たちの事業を出発点にすると、発想は広がりません。テクノロジードリブンから、課題解決型に発想を変えましょう。目的に立ち返る必要もあります。SDGsは目的の宝庫。考えるきっかけにしてはどうでしょうか。

沖電気工業(OKI)
本社・東京都港区。1881(明治14)年創業。日本最初の通信機器メーカー。ETC料金所システムや消防システム、市町村防災行政無線システムといった社会インフラ関連事業を手がける。ATM(現金自動出入機)では国内トップクラスのシェア。2021年3月期の売上高は3928億円、本業のもうけを示す営業利益は95億円。
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