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先住民族の権利と知恵を生かす データで見るSDGs【5】

先住民族の権利と知恵を生かす データで見るSDGs【5】
日本総合研究所シニアマネジャー/村上 芽

村上 芽(むらかみ・めぐむ)
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネジャー。金融機関勤務を経て2003年、日本総研に入社。専門・研究分野はSDGs、企業のESG評価、環境と金融など。サステイナビリティー人材の育成や子どもの参加に力を入れている。『少子化する世界』、『SDGs入門』(共著)、『図解SDGs入門』など著書多数。
米国=2013年(UN Photo/Rick Bajornas)

先住民族の定義

2015年の国連総会で採択されたSDGsを含む「持続可能な開発のための2030アジェンダ」は、あらゆる国、地域、企業、団体、個人に関わる内容です。このように関係者が多岐にわたることを示すのに、国連では「主要グループとその他のステークホルダー(Major Groups and Other Stakeholders)」という表現を使い、様々な立場の人がサステイナビリティーに関わることを促しています。このグループの一つ、「先住民族」に今回は焦点を当ててみましょう。

先住民族と呼ばれる人々は、全世界に約3.7億~5億人いて、90カ国以上に住んでいるとされます。では具体的には誰のことを指すのか。SDGsの中でも「先住民族(indigenous peoples)」という言葉は使われているのですが、実は、国連で統一的な定義付けはされていません。客観的な定義よりも、当事者が個人や集団として自らアイデンティティーを決めることに重きが置かれているためです。

先住民族の人口統計について、詳しい数字を出している政府もあります。カナダ政府の発表からその推移を見ると、アイデンティティーが重要な要素になっていることがわかります。カナダの先住民族人口は、2016年に約167万人と全体の4.9%を占めているのですが、この割合は1996年には2.8%、2006年には3.8%でした。10年ごとに約1ポイントずつ増えています。先住民族以外の人口を4倍以上上回る伸び率です。寿命の延びや比較的高い出生率による自然増と、自らを先住民族と認める人が増えたことによる社会増の二つが要因だと分析されています。

差別や貧困に直面

先住民族の共通点としては、最初からその地方に住んでいたこと、文化や言語、宗教、生活様式などが、あとからそこに来た民族とは異なっていることがあげられます。「最初から住んでいた」が、まずはポイントになりますし、土地や天然資源、それらに付随する知識や情報を伝えていくことは、先住民族としての帰属意識を育て、生活基盤を維持するために重要な手段となります。

国際連合広報センター、国際労働機関、世界銀行の資料を参考に筆者作成

また、歴史的に差別されてきたり、天然資源へのアクセスを妨げられて貧困に追いやられたりするなど、先住民族は人権に関する課題と切っても切れない関係にあります。

加えて最近は、気候変動の影響も深刻になってきています。例えば、北極圏の気温が上がり氷が解けることは、イヌイットやサミの生活圏が脅かされることにもつながります。海水面の上昇により、ツバルなど南太平洋の小さな島々は水没する危険さえあるといわれます。

急激な災害で生活基盤が失われ、じわじわとやってくる農林水産物の収穫不足や観光資源の喪失・魅力低下により、さらに収入が減ってしまうことも考えられます。世界銀行では、先住民族に限らず、気候変動の影響を受けて、2030年までに約1億人が貧困層に陥る可能性があると指摘しています。

先住民族はもともと低所得であることが多く、「poorest of the poor」といわれることさえあります。気象災害などで農業・漁業や観光で収入を得られなくなり仕事を変えざるを得なくなれば、せっかく守ってきた文化や技術さえ失ってしまう危険があるのです。(世界銀行『“Shock Waves: Managing the Impacts of Climate Change on Poverty” 2016』参照)

森林防火など卓越した技術も

ただ、プラスの面も出てきてはいます。気候変動の緩和(温室効果ガスの排出削減や吸収拡大)や適応(異常気象等への耐性を高めること)の両面で、先住民族がもつ自然への深い知識や経験に、期待が高まっている点です。パリ協定も、適応に関する能力向上に関する第7条の5項で「先住民の知識」に言及しています 。

例えば、オーストラリアのアボリジニは、森林の防火対策について5万年もの歴史を有しており、小規模な火災をうまく活用することで、大規模化を防ぐ技術があるそうです。ブラジルでも、先住民族が管理している森林は、温室効果ガスの排出量が他の保護されていない森林の27分の1に抑えられているという分析もされています。

カーボンニュートラルな世界を目指すために、森林資源の保全を進めることによる二酸化炭素の固定化促進や、海洋資源のバイオマス利用など、自然の恵みをどこまで賢く使えるかに関心が高まっています。今後は、先住民族のアイデンティティーを尊重しながら、知識や経験をデジタル技術と組み合わせるなどして、彼らが活躍できる場を広げていくことが必要だともいえるでしょう。

2006年に国連本部で開かれたセレモニーで演技するアボリジニのダンサーたち(UN Photo/Mark Garten)

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