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漁業の持続可能性とは データで見るSDGs【7】

漁業の持続可能性とは   データで見るSDGs【7】
日本総合研究所シニアスペシャリスト/村上 芽

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村上 芽(むらかみ・めぐむ)
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト。金融機関勤務を経て2003年、日本総研に入社。専門・研究分野はSDGs、企業のESG評価、環境と金融など。サステイナビリティー人材の育成や子どもの参加に力を入れている。『少子化する世界』、『SDGs入門』(共著)、『図解SDGs入門』など著書多数。
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サンマの水揚げ。この数年、各地で激減している(撮影・朝日新聞)

ウナギの輸入量は……

第6回では、肉の消費、とりわけ牛肉について取り上げました。今回は、肉と並んで重要なたんぱく源である魚についても見てみましょう。

毎年夏になると、ウナギの値段が話題になります。日本人が大好きなウナギについては、水産庁に専用のページもあり、ウナギ漁業全般や、特にニホンウナギとその種苗(シラスウナギ)の保護などに関する情報がまとめられています。

ちなみに、マグロについても同様の専用ページがあります。

ウナギの供給量については、1950年代から最近までの国内生産量と輸入量に関するデータがあります。増減が激しいのは輸入量です。最も多かったのは2000年で年間13万3211tでしたが、13年には1万8258tに減少し、この数年は3万t台で推移しています。00年以降、国内生産量は2万t前後で、大きくは変わっていません。

このほか、チリ産のサケ・マス、ベトナム産のエビ、米国産のタラ類などが、「水産物で輸入されているもの」として思い浮かびます。

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土用の丑の日(撮影・朝日新聞)

日本が「赤信号」なのは……

では、世界の漁業全体はどうでしょう。

国連食糧農業機関(The Food and Agriculture Organization of the United Nations、FAO)には、FishStatというデータベースがあります。漁業の方法(遠洋漁業、養殖など)や、魚の種類ごとに詳しい情報を得たい場合には便利です。ただ、画面上でさっとデータを調べたいときの手軽さでいうと、少々ハードルが高いのも事実。そんなときは、FAOのデータを基にしている世界銀行のデータ集を活用する手があります。「漁業の全体像を国別に知りたい」という時にはお手軽です。

これで見ると、世界の漁獲量は、ほぼ一貫して増えています。全世界で2億t超と、前回取り上げた肉の生産量の3分の2弱ですが、健康志向などを反映して、肉の伸びよりも魚の伸びのほうが大きくなっています。

国別の推移を見ると、1980年代までは日本の存在感が大きかったですが、90年代以降は中国の伸びが圧倒的です。最近ではインドネシアも大きくなりました。全体として伸びている部分の多くは海と淡水(湖など)での養殖であり、沿岸部での開発が進んでいることがうかがえます。

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(出所)世界銀行“Total fisheries production”

ではこれらの漁業全体のうち、どの程度が「持続可能な漁業」と言えるのかというと、「包括的なデータはまだない」のが現状です。

SDGsの進捗状況を取りまとめている国連のSDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)の「SDGs Today」では、「目標14:海の豊かさを守ろう」について、二つのデータセットを用意しています。白化する恐れのあるサンゴ礁(単位:サンゴ礁の数)と、世界の漁業活動の時間数(単位:時間)です。

また、目標14にひもづけられたSDGsの指標(ターゲット)には、

・乱獲や消失の恐れのある資源からの漁獲量の割合
・底曳網(そこびきあみ)漁業(trawling)や桁網(けたあみ)漁業(dredging)の割合
・廃棄処分された漁獲物の割合

といった漁業に直結する指標や、海の保全エリア面積、海水の汚染度、生物多様性の保全など、広く海洋環境に関するものが含まれています。

国連の「持続可能な開発報告書」の世界地図では、一つひとつの指標について、国ごとに「目標達成」(緑色)から「達成までほど遠い」(赤色)まで色分けされているため、特徴がわかりやすくなっています。例えば「乱獲や消失の恐れのある資源からの漁獲量の割合」を見ると、日本は「赤信号」(達成までほど遠い)です。

図表 乱獲や消失の恐れのある資源からの漁獲量の割合

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出所)国連「持続可能な開発報告書2021」 Sustainable Development Report 2021 (sdgindex.org)

こうした指標のほかに、FAOにはSDGsデータ特集もあり、SDGsの達成に向けて、様々な見方や説明方法があることがわかります。

「おいしさ」に加えて

国際機関などから離れて、身近なところからも考えてみましょう。

持続可能な水産物というと、「海のエコラベル」とも呼ばれる「MSC認証」や、養殖版の「ASC認証」のついた商品を目にする機会が増えてきました。民間の認証や格付けを運営している組織の連合である、Certification and Ratings Collaborationの報告書によると、水産物全体の約25%が、何らかの認証や好ましい格付け結果を取得しているとのことです。

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MSC認証ラベル(左)。ほかにも、様々な認証ラベルのついた水産物が売り場で見かけられるようになった(撮影・朝日新聞)

国や地域、魚介類の種類によってかなり差はあるようですし、例えばASC認証付きの中国産の冷凍アサリと、認証はないが近くで取れた国産アサリのどちらがサステイナブルか――。輸送にかかるエネルギーも考えに入れだすと、なかなか判断が難しくなりますが、「おいしさ」に加えて「どこで、誰が、どんな漁で獲ったのか」を想像しながら眺めてみると魚や貝もまた違った姿に見えてきて、データを読むのが面白くなるかもしれません。

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