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再生可能エネルギーで切り開く~CO₂排出ゼロを目指して

洋上風力は再エネの救世主か? 首相の「カーボンニュートラル」宣言が「追い風」

洋上風力は再エネの救世主か? 首相の「カーボンニュートラル」宣言が「追い風」
「秋田潟上ウインドファーム」。この洋上にも風車が設置される。(ウェンティ・ジャパン提供)

菅義偉首相は2020年10月の所信表明演説で、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「2050年カーボンニュートラル」を打ち出した。約120カ国が「50年実質ゼロ」を掲げるなか、日本の目標は「50年までに80%削減」にとどまっていた。政府は洋上風力発電など再生可能エネルギー普及に向け、ようやく重い腰をあげた格好だ。(フリーライター・菅沼栄一郎)

「原発頼み」から風力へ軸足

それまでの政府の温室効果ガス削減は「原発頼み」を続けてきた。1997年、京都で開催されたCOP3でまとまった京都議定書を受けた「地球温暖化対策推進大綱」(98年)は「10年までに原発20基増設」との政府計画に基づいたものだった。

東京電力福島第一原発事故後、2018年の「エネルギー基本計画」でも、30年度の電源構成が石炭火力26%、原発20~22%に対し、再生エネは22~24%。再生エネのうち風力はわずか1.7%にとどまった。風力発電導入量が世界で20番目(19年)の日本は、「周回遅れ」と言われていた。

首相の「50年実質ゼロ」宣言は、日本の風力発電に「追い風」となった。首相の表明後、政府が昨年12月にまとめた「洋上風力産業ビジョン」では、2040年までに30~45GW(ギガワット)(=3000万~4500万kW)の導入を目指す考えを打ち出した。

原発30~45基分に相当する。現在の洋上風力発電はわずか0.4万kW(陸上風力は400万kW)だけ。20年間で7500倍以上にする壮大な目標だ。実現すれば、これまでの「原発頼み」部分が、そのまま洋上風力に置き換わる格好だ。

具体的には、19年春に施行された「再エネ海域利用法」(海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律)で、事業者が最長30年間、海域を占用できるようになり、事業に乗り出す環境を整えた。

政府はすでに、秋田県の「能代市・三種町・男鹿市沖」「由利本荘市沖(北側・南側)」と、千葉県銚子市沖、長崎県五島市沖の4海域を「促進区域」に指定している。

秋田県沿岸部に立ち並ぶ風車群=2020年8月21日、秋田県潟上市、撮影・朝日新聞

年平均7mの風、秋田が最有力

秋田県は、風力発電で全国トップクラスの発電量を誇り、国内最大の洋上風力発電計画が進んでいる。2カ所の「促進区域」のほか、「八峰町・能代市沖」「潟上市・秋田市沖」が有力な候補地で、「八峰町・能代市沖」は9月中に「促進区域」に指定される見込みだ。

男鹿半島をはさんで、日本海南北120kmの遠浅の海岸線のほぼすべてが洋上風力の適地とされたのは、年平均7mのコンスタントな風が吹くからだ。すでに、陸上には300基以上の風車が並ぶが、計画が実現すれば、沖合にも合わせて最大出力約200万kW(原発2基分)の洋上風車(着床式、浮体式)が並ぶことになる。

秋田県内には、一部の住民が、景観破壊や風車の低周波被害を心配して、計画に反対する署名を集めるなど、批判的な意見もある。洋上風力計画はこうした意見を聞きながら進められているが、風という地元の貴重な資源を、地域の活性化にどうつなげるかという課題でもある。

秋田県の二つの促進区域では、第1ラウンドとして、事業者の公募が行われ、5月末までに2地域で延べ10事業体が名乗りをあげた。オーステッド(デンマーク)やエクイノール(ノルウェー)といった欧州の先端企業と日本の大手電力会社や総合商社などが10のコンソーシアム(企業連合)を組んで参加。地元の秋田県からは「ウェンティ・ジャパン」や建設、銀行などもエントリーした。現在政府が審査中で、10月下旬にも選定される。

英国の洋上風力発電所。英国は世界最大の洋上風力発電国=2021年5月、撮影・朝日新聞

地元企業も参入、地域の活性化につながるか

ウェンティ・ジャパンは、地元の北都銀行の支援を受けて2012年に設立された会社だ。同社の佐藤裕之社長は「地域の資源である風を、何としても地域の発展に結び付けたい」と言う。13年には、県内の建設業・製造業や大学など約100団体に呼びかけ、風力発電事業に関わる研究・開発に産学官で取り組む協議体「秋田風作戦」を立ち上げた。風車1本あたり1万点以上と言われる風車部品の製造やメンテナンスなど関連産業の地元展開に道筋をつける活動を展開してきた。

由利本荘市では、自動車部品や航空機関連機械の製造を専門とする「三栄機械」が、米国のゼネラル・エレクトリック(GE)の発注を受け、風車の基礎工事で使うテンプレート(※風車のタワーを建てる際に基盤になる部分)などを4年前から100台以上生産している。

海外の風車メーカーはこれまで、企業秘密保持のためにメンテナンスの重要な部分は他社に触れさせない方針だったが、ここにきて、秋田市の設備工事会社「羽後設備」がGEから保守点検作業を受注。GEで研修を受けた6人の作業チームが、県内外で保守作業を任されるなど、関連産業のすそ野が広がりつつある。

◇     ◇     ◇

「目指すのは『メイド・イン・秋田』の風車」という、ウェンティ・ジャパンの佐藤裕之社長に、今の思いを聞いた。

佐藤社長(撮影・梶原将氏)

風力発電は「環境にやさしい」

――風力発電、なかでも洋上風力のメリットを教えてください。

風力発電は、いろんな電源のなかで、最も「可塑性」があります。何かというと、風車はくっつけたり、外したりが簡単です。ボルトを外して分解すれば、原状回復が簡単にできるし、環境にもとてもやさしい。コンクリートの土台は作りますけれど、あんな基礎はダムに比べればはるかに小さい。
利用期間20年、洋上30年で、お役御免になれば、分解すればいい。洋上なら、海底地盤のレベルで切って埋め戻す。後は、金属だから腐食して土に戻る。海草やプランクトンの栄養にもなるから、魚も増えますよ。

沖合の「浮体式」は、海底ケーブルがコストに見合うのか、という議論になるかもしれません。その場合は、電線ではなく、発電した電気で海水から水素を作り、船などで運ぶ方法も検討すべきです。モデル地域を作れないか、議論を少しずつ進めています。

――「ウェンティ・ジャパン」が設立されて来年で10年になります。「地元の資源を生かして地域の産業拡大につなげる」構想は進んでいますか。

「企業秘密」の壁はなお、高いですね。多くの欧州メーカーは、風車の重要部分をオープンにしていません。エンジニアはビジネスクラスで飛んできて、金出せば直してやるよ、というスタンスです。これがいまだに風車業界の常識です。

しかし、5年前、ゼネラル・エレクトリック社(GE)の当時CEOだったジェフリー・イメルトさんと短時間、話をするチャンスがあった。彼は「ローカライゼーション(地域化)」ということを言い始めていた。そこで、「僕たちは秋田でおたくの風車を使って事業をしようとしている。メンテナンスや部品の一部を作ることができないか。それがあなたの言うローカライゼーションではないか」と聞いたのです。彼は「そうだ」と答えてくれた。いまでは、GEとの連携がかなり広がっています。

風車の高さは、陸上だと80~100mですが、洋上風力になると200mになる。部品、部材も巨大で重くなります。欧米のメーカーにとっても、地元で作らないとコストが合わない、という場面が出てくる。

海外企業の「植民地」にはしない

――秋田県は人口減少率が7年連続で全国ワースト1。総人口は100万を割りました。この風を資源として、巻き返しを図りたいところです。

秋田の大事な地域資源なのだから、海外や中央の大手企業の「植民地支配」の道具にはさせたくない。「地元資本主義」をきちんと理解してくれるところでないと、組みません。そうした考えと実績への理解が広がれば、地域の風力産業や再エネ産業そのものが、地元に産業・経済利益をもたらすことになると思っています。

<風力発電のコスト> 

風力発電企業の関係者によると、風車の設置費用は平均で、風車代金、工事代金、開発費用、金融機関からの借り入れにかかわる費用を合わせて、1MW(メガワット)あたりざっと3億円。洋上風力の場合はだいたい、「地上風車の倍」という。同県由利本荘市沖では、800MW(風車60~70基)規模の洋上風量発電が計画されており、約4200億円の見込み。原発1基分(1GW程度)で計算すると、約5000億円余りとなる。これに対し、原発の建設費は、メーカーや商社によると1兆円以上とされる。
一方で、経産省が8月3日に公表した電源別に試算した発電コストによれば、2030年時点で、原発はkW時あたり「11.7円以上」(15年試算では10.3円)。これに対し、陸上風力は「9.9~17.2円」(同13.6~21.5円)、洋上風力は「26.1円」(同30.3~34.7円)だった。ただ、原発は今後、福島第一原発の事故処理費用が膨らみ、コストが増える可能性がある。


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