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「みどりの食料システム」、国連で提唱へ 化学農薬・肥料の大幅低減、農水省の「高い目標」の行方は

「みどりの食料システム」、国連で提唱へ 化学農薬・肥料の大幅低減、農水省の「高い目標」の行方は
たわわに実った稲。コンバインで刈り取り作業が進む=2020年10月、福岡県朝倉市、撮影・朝日新聞

農業離れや地球温暖化など農林水産業をとりまく環境が厳しさを増すなか、農林水産省が「みどりの食料システム戦略」をまとめ、9月に開催される首脳級の「国連食料システムサミット」で、日本政府として提唱する。環境に優しい農業を育て、「食」の持続可能性を守ることが目的で、CO₂排出ゼロや化学農薬・肥料の大幅低減、有機農業の大幅拡大など、これまでの方針の大転換ともいえる高い目標が並ぶ。日本のSDGs達成や環境対策へ貢献することをめざすという新戦略の行方は。(編集部・金本裕司)

温暖化加速と生産基盤の衰退が背景

昨年10月、菅義偉首相が温室効果ガスの排出量を2050年に実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を打ち出した。農林水産業は温暖化の影響を大きく受ける分野で、農水省は検討を本格化し、今年5月に「みどりの食料システム戦略」を公表した。

戦略づくりの背景には、①温暖化による自然災害や環境の悪化②生産者の減少・高齢化や地域の衰退③新型コロナの影響によるサプライチェーンの混乱――などがある。

同省などによると、世界の温室効果ガスの排出量(2007~16年平均、CO₂換算)は約520億トン。このうち農業(畜産業含む)と林業の排出が4分の1を占める。

日本の温室効果ガスの排出量は約12億トン(2019年度)。他国との産業構造の違いなどから、農林水産分野の排出は3.9%(約4750万トン)と比較的少ない。

<世界と日本の農業水産分野の温室効果ガス(GHG)排出量>

(農水省提供)

しかし、この100年でみると日本でも平均気温が1.26度上昇し、毎年のように大雨や洪水などが起こり、生産環境への影響は大きくなっている。

生産者の数も激減している。同省によると1995年には256万人、平均年齢59.6歳だった担い手は、19年には140万人まで下がり、平均年齢は66.8歳に上がった。先細りは顕著になっている。

さらに、新型コロナの感染拡大による輸出規制やサプライチェーンの混乱は、食料生産を支える肥料原料、エネルギーの多くを海外に頼る日本には大きな影響がある。たとえば、基本的な肥料である窒素、リン酸、カリウムはほとんど輸入に頼っており、輸入が大きく減れば深刻な事態になる。

       <主な肥料原料の自給率>

(農水省提供)

こうした日本の農林水産業を取り巻く懸念にどう対応するか。
同省の秋葉一彦・環境バイオマス政策課長は「地球の健康にやさしい農業でなければなりません。また、担い手が少なくなるなかで農業に取り組むには、効率化しないといけない。それらを達成するためにはイノベーション(技術革新)が必要と考えました」と語る。省内の議論、22回の関係者のヒアリングを重ねてできあがったのが今回の戦略だという。

2050年までにCO₂排出ゼロに

戦略には非常に高い目標の数値が並ぶ。
まず、温室効果ガス対策では「2050年までに農林水産業のCO₂排出ゼロ」を掲げた。農林水産業の温室効果ガス約4750万トンのうち、約34%がCO₂によるもの。ハウス栽培やトラクター、漁船などで使う化石燃料によって出る。省エネ化や電動化によって減らしていき、2050年までに、まずCO₂の排出量をゼロにしようという目標だ。

一方、CO₂の25倍の温室効果があるとされるメタンは全体の46%を占める。これは、水田から発生するものや牛のげっぷ(消化管内発酵)などによるものだが、「牛を飼うのをやめることはできないので、げっぷの出にくい飼料を開発するとか、中干し(※田んぼの水をいったん切って土壌を乾かすこと)などの水田管理技術の徹底に加えて、メタン発生の少ないイネ品種の開発などに取り組んでいきます」(秋葉課長)という。

青空が広がる牧野に放たれた牛たち=2021年4月、熊本県阿蘇市、撮影・朝日新聞

化学農薬50%、化学肥料30%低減

化学農薬は2050年までに、使用量50%低減(リスク換算)を打ち出した。ドローンを使って害虫被害の確認をしてピンポイントで散布し使用量を減らしたり、環境へのリスクがより低い農薬に転換したりする。化学肥料も同年までに、使用量30%低減をめざす。これらの目標実現のためには、ドローンのようなイノベーションは不可欠だ。

ブドウ棚で農薬を散布するドローン=2020年6月、山梨県甲州市、撮影・朝日新聞

有機農業の面積を100万ヘクタールに

もう一つ、化学農薬・肥料の低減につながるのが、「有機農業に取り組む面積の割合の拡大」だ。戦略では「2050年までに、全耕地面積の25%、100万ヘクタールに拡大」という目標を打ち出した。現在、日本の耕地面積は約440万ヘクタール。うち有機農業の面積は、2018年度の統計で約2.4万ヘクタール、0.5%程度で、相当高い目標だ。

しかし、世界の有機食品市場はこの10年で倍増して10兆円を超えており、その趨勢(すうせい)に日本も追いついていかなければならないと考えている。また、国内の新規営農者の2~3割が有機農業に取り組んでいることから、若い世代に目を向けてもらえるような指標を掲げる必要もあると判断した。

2030年と50年の2段階で目標設定

戦略では、CO₂排出ゼロや化学農薬低減など14項目の目標(KPI)を打ち出し、段階的に進める方針だ(表参照)。めどとしては、2030年までは今ある技術を業界全体や全国に広める段階、40年までに革新的な技術の開発を進め、最終目標の50年までにその技術を全国に展開することを描いている。

          <2030年と50年までの主な目標>

              ◇    ◇    ◇

新戦略は、有機農業を飛躍的に拡大したり、化学農薬を半減したりするなど、かなり高い目標を設定した。これまでの政策を大転換させる内容でもあり、農業団体や関係業界の反発も予想される。担当の秋葉・環境バイオマス政策課長に聞いた。

秋葉一彦・環境バイオマス政策課長

――「生産力の向上」と「持続性」を両立させるというのは簡単ではないでしょうし、数値目標も相当高いものだと思います。農水省として農林水産業や食料システムへの危機感から出たものですか。

これまでの取り組みの延長では、その両立は不可能です。ですから、イノベーションによって両立を実現していきましょうということです。現在の地球環境や生産者の減少・高齢化などを考えると、高い目標に向かっていかないと、食料システムの維持はままならないと思っています。

――化学農薬や化学肥料の低減では、関係業界などから異論が出るのでは。

すでに、たくさんの声をもらっています。よく、使っていいと農水省も言ってきたものをどうして減らさなければならないのかと聞かれます。もちろん、生態系に影響を及ぼすことはないと評価されて使っているのですが、たとえば殺虫剤は虫を殺すのだからリスクはあります。そういうものを減らして環境への負荷を軽減しましょうということです。また、農薬も工業品なので作る過程でCO₂を排出しますから、それも減らしましょうと。肥料でも同じです。

メーカーの売る量が減るといった意見もあります。しかし、今だって生産人口の減少や規模の縮小で、販売量は減っています。これからは、メーカーには局所的な散布とか、そのために必要な観測の技術などを提供するといったサービスも増やしていってもらえればと思います。

――専門家の間には、農水省はEUの「Farm to Fork (ファーム・トゥー・フォーク=農場から食卓まで)」戦略(注)をまねているのではといった批判もあるようです。

EUをまねしたわけではありません。何回も意見交換をし、高い目標だが実現は可能だと考えて作ったものです。まだ少ないですが、有機農業はすでに2万ヘクタール以上でやっています。また、化学農薬50%低減、化学肥料30%低減は「とっくにやっているよ」という大きな農家もいっぱいあります。まったく不可能な数字ではないと思っています。

(注)EUが2020年5月に公表した。2030年までに化学農薬50%削減、肥料20%削減、有機農業面積25%以上という目標を掲げた。

――今後、この戦略にどう具体的に取り組みますか。

食料システムの構築には、資材やエネルギーの「調達」から、「生産」「加工・流通」、さらに「消費」という各段階での取り組みが必要です。それぞれの段階でイノベーションを進めないといけません。「消費」という点では、これまで農水省は国産の農産物をたくさん買ってもらいましょうという販売促進的な施策でした。しかし、最近「エシカル消費」と言われますが、環境にやさしいものを使いましょう、といった国民的な運動にも取り組まないといけないと思っています。

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