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食品ロスは温暖化の主犯格? 知られざる気候変動との関係 

食品ロスは温暖化の主犯格? 知られざる気候変動との関係 
食品ロス問題ジャーナリスト/井出留美

井出留美(いで・るみ)
奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学)、修士(農学)。ライオン、青年海外協力隊、日本ケロッグ広報室長などを経る。東日本大震災で支援食料の廃棄に衝撃を受け、自身の誕生日でもある日付を冠した(株)office3.11設立。第2回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門、Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018、令和2年度 食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。近著に『食料危機』『捨てられる食べものたち』など多数。

2021年8月9日、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、人間が温暖化を推し進めてきたことに「疑いの余地がない」とする報告書を発表した。国連のグテーレス事務総長は「人類にとってのcode red(非常事態)」と警告した。だが、食品ロスが気候変動に大きく影響していることは、まだあまり知られていない。

温室効果ガス排出量は自動車に匹敵

公表されたのは、地球温暖化の科学的根拠をまとめた作業部会の最新報告書。IPCCとは、国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)が、気候変動の問題を科学的に解明し、その取り組みを分析するために1988年に共同で立ち上げた組織だ。

報告書は「人間が地球を温暖化させてきたことは疑う余地がない」とし、「現在の状態は何千年もの間、前例がなかった」と指摘した。早ければ2030年代半ばまでに気温上昇抑制の目標が突破されてしまうという。

「気候変動を抑制する」といった時、対象として思い浮かぶのは化石燃料、飛行機や自動車かもしれない。スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリさんが、国際会議の開催地に飛行機ではなくヨットで移動するのは有名な話だ。「飛行機と食品ロスのどちらが気候変動に影響するか?」と聞かれれば、きっとほとんどの人が「飛行機」と答えるだろう。

しかし、環境NPOの世界資源研究所(WRI)がまとめた11〜12年のデータを見ると、食品ロスから排出される温室効果ガスの量は8.2%で、飛行機から排出される1.4%よりもずっと多い。

食品ロスから排出される温室効果ガスは自動車と肩を並べるほど多い(出典:World Resources Institute)

IPCCの報告書「気候変動と土地」では、10〜16年に排出された温室効果ガスのうち、8~10%は食品ロスから出たものと推定されており、自動車から排出される量(10.0%)とほぼ同じである。

食品の生産・加工・包装・流通・保管・調理・消費・廃棄など、食に関わるすべての活動を指す「食料システム」にまで話を広げると、世界で排出される温室効果ガスのうち、21〜37%は「食料システム」から排出されたものだとIPCCは推定している。21年3月に「ネイチャー」誌に掲載された研究でも、温室効果ガスの3分の1は「食料システム」が排出源であるとされている。

「国」に見立てれば世界第3位

ところが、気候変動と食品ロス削減に取り組む英国の非営利団体WRAP(ラップ)は、「英国市民の80%以上は気候変動を懸念しているが、気候変動と食品ロスに関係があると考えている人は32%にすぎない」と報告している。

気候変動と食品ロスの関係を認識している人が少ないのは米国も同じだ。アプリを通して余った食品をシェアする事業を展開する「Too Good To Go(トゥー・グッド・トゥー・ゴー)」の東海岸責任者、ゲイリーン・クイン(Gaeleen Quinn)氏は、「最近の調査では、ニューヨーカーの88%が気候変動を懸念しているが、食品ロスが気候変動に関係すると認識している人は多くない」と語っている。日本でも気候変動の記事を目にしない日はないが、気候変動と食品ロスをセットにした記事は見かけない。

下のグラフは、温室効果ガスの排出量が多い国を示したものだ。世界最大の排出国は中国、2番目が米国、3番目がインド、4番目がロシアとなっている。日本はグラフにはないが、第5位だ。世界の食品ロス(Food Loss and Waste、オレンジで示した部分)を国に見立てると、米国とインドの間に入る。食品ロスは、世界第3位規模の排出源なのだ。気候変動に食品ロスがこれほど大きく関わっているのに、なぜ知られていないのか、不思議なくらいだ。

世界中の食品ロスをまとめると、世界第3位の温室効果ガス排出源となる(出典:World Resources Institute)

20年12月16日に富山県で開催された食品ロス削減全国大会では、小泉進次郎環境大臣が「食品ロスの削減なくして二酸化炭素の実質ゼロはない」とメッセージを発していたが、日本でもなかなか浸透しない。「パリ協定」に署名した国・地域は190以上あるが、そのうち食品ロス削減を対策に盛り込んだのは、わずか11にとどまるという。食品ロスはあまりに身近すぎるため、かえって目に入りにくいのかもしれない。

日本では、食品ロスは生ごみとして焼却処分される場合がほとんどだ。焼却すれば、当然、二酸化炭素が発生する。一方、生ごみを埋め立てる国もあるが、そうすると二酸化炭素の25倍以上の温室効果があるメタンが発生してしまう。焼却にせよ埋め立てにせよ、食品ロスを出すことは気候変動に大きな影響を及ぼす。

食品リサイクル会社に運び込まれた恵方巻きとみられる食材(撮影・朝日新聞)

1ドル投資で14倍のリターン

「プロジェクト・ドローダウン(PROJECT DRAWDOWN)」は、世界の70人の科学者と120人の外部専門家による検証に基づき、地球温暖化を「逆転」させる100通りの解決策を提示している。解決策は電気自動車、スマートグリッド、環境再生型農業、植林、太陽光発電など100種類用意されており、それぞれが二酸化炭素の削減量、費用対効果、実現可能性でランクづけされている。食品ロスの削減は、その中で堂々3位になっている(山と溪谷社『ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法』参照)。

また、カナダ・マニトバ大学特別栄誉教授のバーツラフ・シュミル(Vaclav Smil)氏は、著書『Numbers Don't Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!』(NHK出版)の中で、食品ロス削減に1ドル投資すれば14倍のリターンが見込めるので、すぐに行動を起こすべきだとしている。

食品ロスは気候変動の大きな要因だが、これを削減すれば、気候変動対策として実現可能性と費用対効果が極めて高い解決策でもあるのだ。

東南アジアやアマゾンの熱帯雨林を焼きはらって農地を開拓することで、「食料システム」は生物多様性損失の最大の要因(損失の80%)となってしまった。森林破壊と気候変動によりアマゾンの熱帯雨林では、吸収される二酸化炭素よりも排出される二酸化炭素の方が多くなっているという。コロナ禍での脆弱性や持続可能性の破綻が明らかになっている「食料システム」は、環境活動家から気候変動問題解決の次のターゲットとされてもいる。

アマゾンの山焼き=1983年(撮影・朝日新聞)

10年で量が2倍に

21年7月に発表された、世界自然保護基金(WWF)と英国の大手小売「テスコ」の報告書から、全世界で25億tの食品ロスが発生していることがわかった。国連食糧農業機関(FAO)が11年に発表した食品ロスの推定値は13億tなので、これまでの推定値の2倍近くにもなる量だ。また、生産された食品のうち40%は食べられずに廃棄されていることも明らかになった。11年の調査では約33%とされていたので、こちらも見直しが必要となりそうだ。

私たちは生き物の命をもらって食べている。牛や豚など家畜を育てるにも、稲やトマトなどの野菜を栽培するにも、多くの人手がかかっている。食べられるように加工し、スーパーやコンビニに運ぶのにも、多くの人手とエネルギーが使われている。

食品ロスを出すと、生き物の命を無駄にするだけではなく、大勢の人の苦労と貴重な資源やエネルギーを無駄にし、ごみ処理場で生ごみを焼却処分するのに膨大なコストを使い、気候変動に悪影響を与える温室効果ガスを出すことになる。

食品ロスは気候変動に甚大な影響を及ぼすということを、もっと多くの人に知ってもらい、少しでも日々の行動を変えてほしいと願わずにはいられない。食品ロスを削減することは、私たち一人ひとりにできる気候変動対策なのだから。

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