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「LGBTが生きやすい世の中に」 《ドロンジョ様》がもくろむ日本企業と社会の変革【#チェンジメーカーズ】

「LGBTが生きやすい世の中に」 《ドロンジョ様》がもくろむ日本企業と社会の変革【#チェンジメーカーズ】
虹色ダイバーシティ提供
虹色ダイバーシティ代表・理事長/村木真紀

社会課題解決のために奮闘するキーパーソンを紹介するシリーズ「#チェンジメーカーズ」。第2回は、企業向けのLGBT施策の研修や政策提言をおこなう認定NPO法人「虹色ダイバーシティ」(大阪)代表・理事長の村木真紀さん(46)。自身も経験した当事者の「生きにくさ」と、その解消に向けた活動について尋ねました。(聞き手 編集部・竹山栄太郎)

村木真紀(むらき・まき)
1974年生まれ。茨城県出身。コンサルティング会社などの勤務を経て2012年に虹色ダイバーシティを立ち上げ、翌13年にNPO法人化。調査や講演活動をおこなう。社会保険労務士。著書に「虹色チェンジメーカー LGBTQ視点が職場と社会を変える」。
Keywords
LGBT

Lはレズビアン(女性同性愛者)、Gはゲイ(男性同性愛者)、Bはバイセクシュアル(両性愛者)、Tはトランスジェンダー(出生時に割り当てられた性別と異なる性で生きる人)の頭文字をとった言葉。Q(クエスチョニング=自身の性のあり方が定まっていない、またはクィア=性的少数者全体を包括する言葉)を加えた「LGBTQ」、多様な性のあり方を表す「+」をつけた「LGBTQ+」と呼ばれることもある。LGBTの支援者を「アライ」という。

企業の施策、次の一歩へ支援

――「虹色ダイバーシティ」を立ち上げた経緯を教えてください。

私は茨城県出身ですが、茨城では同性愛者として生きられないと思い、大学から関西に住んでいます。民間企業に就職し、うまくいかないことが続いて転職を繰り返しました。うつになって会社を休んでいたときに、海外での企業のLGBT施策をインターネットで見て、日本に広めたいと思ったのが活動のきっかけです。

バリバリ働きたかった自分がうまく働けなかった要因は、それまで感じてきた「生きにくさ」にあるんじゃないか。周りのLGBTにもうつを患う人は多く、自分ががんばればどうにかなるレベルを超えているんじゃないか、と思ったんです。企業向けのコンサルタントをしていたので「企業としてできることがあるのでは」と考えました。

2012年、五輪直前の英国でLGBTに関する国際会議に参加し、グローバル企業が生き生きと自社のLGBT施策を発表しているのを見て衝撃を受けました。多くの資料を持ち帰り、日本語に訳して企業に紹介するところから始めました。

村木真紀さん(左から2人目)と虹色ダイバーシティのメンバー(虹色ダイバーシティ提供)

――企業向けの研修では、どんなことを伝えていますか。

日本では、職場でのLGBT保護は限定的で、政府のセクハラ・パワハラ防止指針に少し書かれているだけです。ハラスメント防止措置が企業の義務ですが、罰則はありません。まずは企業独自の差別禁止ポリシーに、性別や障害だけでなくLGBTも明記してほしいと話しています。また、相談窓口となる人事や健康保健センター、管理職といったセクター別の研修も提供し、相談を受けやすくするようにしています。

福利厚生の対象に同性パートナーやその家族を含めることも求めています。私の周りにも子育て中の同性カップルがいますが、子どもを産んでいないほうの親は育児休暇などの制度が使えず、有給休暇でやりくりしているのが実情です。

研修先で講師を務める村木真紀さん(虹色ダイバーシティ提供)

制度を整えても実際に利用できるかは別の話です。現場で安心して制度を使える雰囲気にするには「心理的安全性」が必要です。心理的安全性を高めるには、いろいろな施策をミックスして数を積み上げると効果があると調査で出ています。あらゆる手立てをとることが大切です。

LGBT施策に取り組む企業は、20年時点で大手企業の4割になりました。業界トップが始めたら他社も続くという同調圧力の結果でもありますが、最初の一歩を踏み出す企業が増えてきたのはいいことです。私たちはさらに次の一歩を踏み出せるように働きかけています。

スティグマとトラウマ

――村木さん自身も感じたというLGBTの生きにくさとは。

私は小さい頃から女の子っぽい服が嫌でした。いまでも覚えているのは七五三で、着物を着るのを泣いて拒否し、すごく暗い顔をして写真に写っています。小学校で「○○くんかっこいい」みたいな話が出ると、疎外感を感じました。そのころ好きだったのはギリシャ神話や千夜一夜物語。ゼウスが男の子を誘惑するとか、月の女神ダイアナが女性を従えるとか、同性愛らしき話が出てくるんです。自覚しないまでも、どこかひかれたのだと思います。

高校は地元から遠い学校を選びました。雑誌でエイズの特集記事を読み、海外のゲイカップルの姿を初めて目にしました。みんなに見てほしいと思って教室に置いたんです。当時からアクティビスト心が芽生えていたのかもしれません。高校生のときに同級生から告白されて、やっと自分が同性愛者だと自覚しました。同性愛を辞書で引くと「異常性欲」と書かれていた時代。茨城では生きられないと思い、必死で勉強して京都大学に進学しました。

いま振り返れば、うまくいかなくなるとそのコミュニティーから逃げることを繰り返してきたんだと思います。彼女も職場も何度も変わって心が疲れ、ゲイの友人が自死したことが重なって会社に行けなくなってしまったんです。

村木真紀さん(虹色ダイバーシティ提供)

子どものときの私は先生から見たら優等生、何の問題もなかったと思います。実際には、誰にも内心に踏み込まれたくなくて、周囲に壁をつくっている子でした。それは、「同性愛=悪いもの」というスティグマ(偏見)を自分自身が抱えていたからです。誰もわかってくれない、知られてはいけない。

スティグマの次にくるのはトラウマです。私自身も少し「オトコオンナ」とからかわれたりしましたが、いじめを受けた経験があるLGBTはたくさんいます。「治らないのか」と親に病院に連れていかれたり、信頼した人にばらされたりする人もいます。結婚や葬式といった親族が集まる大事な場面で自分を否定されることもあり、大きなトラウマになります。さらに、身近な人からの悪意のない一言や、SNSのコメント欄による日常的な傷つき体験もあります。

最近は行政や企業などでいい動きがたくさん出てきています。でも、だからこそ「世の中は変わっているのに自分だけ取り残されている」と感じる人がいます。理解してほしい一方、簡単に理解しているなんて言われたくない、という葛藤も生まれています。心に巣くうスティグマから、自己肯定感が低く、健康に幸せに人生を歩むロールモデルが見えにくいということもあります。このように、生きにくさの原因は複合的なのです。

私は、LGBTが自死などでもう死なないで済むようにするには、こつこつと生きやすい社会づくりをしていくしかないと思っています。家庭、学校、職場、地域、あるいは趣味の世界。全部がインクルーシブ(包摂的)にならなければ、生きやすくはなりません。私の場合は仕事にかける思いが強く、コンサルティングの仕事が好きだったので、まず職場から手をつけました。

SDGsを困りごと解決に

――日々どんな思いで活動しているのですか。

いまは初めて天職に巡り合えたような気持ちで、うきうきと仕事をしています。いろんな会社を経験したことが力になっているし、調査研究も好きです。パートナーシップ制度(注)を導入した自治体を塗った日本地図があるんですが、気分は(天下統一をめざすゲームの)「三国志」や「信長の野望」。「ここを塗りつぶしたから、次はここいけるんちゃう」などと考えるのが楽しいです。

(注)同性カップルを結婚に相当する関係と認める制度。2015年11月の東京都渋谷区と世田谷区を皮切りに、全国で導入が進んでいる。渋谷区・虹色ダイバーシティの共同調査によると、21年7月1日時点で導入自治体は110、人口カバー率は37.8%。

「正義の味方」感はあんまりないんです。たとえば、「ヤッターマン」などの正義の味方は基本的に受動的で、やられたらやり返すだけ。世界を守ると言いつつ現状維持が目的ですよね。私は変革が目的なので、ヤッターマンの世界なら、悪党のリーダーのドロンジョ様のほうが共感できます。仲間を集めて知恵を巡らし、使えるものは何でも使い、学校から家庭から職場から、変えられるところを変えていく。

いまの挑戦の一つは、20年から始めた「Business for Marriage Equality」。企業に婚姻の平等、つまり同性婚の法制化への賛同を呼びかけるキャンペーンです。すでに179社(21年9月16日時点)が集まり、21年中に200社をめざしています。企業が法整備に向けて公に声を上げるなんてそうあることではなく、世論を変える力になると思います。その会社の従業員や家族は数十万人います。自分が関係者のLGBTなら、どれだけ救われる気持ちになるでしょうか。

SDGsには実はLGBTのことは一言も書いていません。国連加盟国のなかにはLGBTが罪になる国もあるからだと聞いています。ただ、SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」のなかには当然LGBTも含まれるはずで、困りごとの解決に使えると思います。少数派の目線から社会を変えるLGBTの経験を生かして、ほかのマイノリティーの問題や気候変動などに対してもできることもある気がしています。

インタビューに答える村木真紀さん

同性婚の法制化、もう待ちたくない

――同性婚についての考えを聞かせてください。

一刻も早く整備してほしい。これから各地で地裁判決(注)が出てくるたびに、「早く」と訴えていきます。同性婚を認める法律がないことで絶望して亡くなったり、家族を維持できなくなったりする人がいるかもしれない。本当に命にかかわることです。

(注)同性どうしの結婚が認められないのは憲法違反だとして、各地の同性カップルが2019年2月に東京、大阪、札幌、名古屋の4地裁、19年9月に福岡地裁に国を提訴した。21年3月、札幌地裁は同性婚を認めない民法や戸籍法の規定が「法の下の平等」を定めた憲法14条に違反するとの初判断を示した。

札幌地裁の判決後、「違憲判決」と書かれた紙を掲げる弁護士ら=2021年3月17日、札幌市(撮影・朝日新聞)

公民権運動がまさに同じでしたが、マイノリティーの運動が社会的に盛り上がったとき、穏健なマジョリティーは「待て」と言うものです。私は学生時代からLGBTの運動にかかわってきたので、もう四半世紀以上も待っています。「慎重な検討を要する」と言う人たちに、その間ずっと傷つき続けている人の存在は見えていないのかもしれません。

私もわかってほしいからこそ、怒ったり泣いたりせず、冷静に話す努力をします。これは、努力してそうしているということをわかってほしいんです。周囲で多くの人が亡くなっているんです。どれだけ傷ついてきたのか。気持ちは噴き出しそうですし、怒りたい、泣きたいです。もう待ちたくないです。

企業向けのコンサルティングをしていたこともあり、いままであまり表だってアドボカシー(政策提言)をしてきませんでした。でも、いまは正面切ってやらなきゃ、と覚悟を決めました。必死になって権利をとろうとしている背中を、LGBTの若い人たちに見せなくてはと思っています。

――一人ひとりができるアクションとは何でしょうか。

私たちは「NIJI BRIDGE」というサイトでLGBTに関するデータをまとめ、アクションの提案をしています。「『Business for Marriage Equality』への賛同を自社に呼びかけよう」「裁判の応援に行こう」といったアクションを並べ、情報をSNSでシェアできるようにしています。

NIJI BRIDGEの画面。SDGsの目標16(平和と公正をすべての人に)と目標10(人や国の不平等をなくそう)のアイコンの色を使っている(出典:NIJI BRIDGE

「自分の地域でパートナーシップ制度があるかを調べよう、ないなら市長に手紙を書こう」「動画配信サイトでLGBTに関する作品を見よう」ということも呼びかけたいです。差別的な言動を見聞きしてすぐに「NO」と言えるかは、どれだけ自分ごとにできているかにかかっています。可能なら家族で作品を見て、この問題への共感をはぐくんでほしいと思います。

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