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【読み解き IPCC報告書】執筆者の江守正多氏が解説する、これだけは押さえておきたいポイント4点

【読み解き IPCC報告書】執筆者の江守正多氏が解説する、これだけは押さえておきたいポイント4点
IPCCの報告書(AR6 Climate Change 2021: The Physical Science Basis)の表紙。 出典:https://www.ipcc.ch/report/ar6/wg1/
国立環境研究所地球システム領域副領域長/江守正多

国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は2021年8月、第1作業部会の第6次評価報告書「気候変動2021:自然科学的根拠」(IPCC WG1 AR6報告書)を公表した。主執筆者の一人で、国立環境研究所地球システム領域副領域長の江守正多氏に、報告書の主なポイント4点を解説してもらった。報告書の意義や私たちができる「アクション」も聞いた。(構成 編集部・竹山栄太郎)

Keywords
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)

Intergovernmental Panel on Climate Change。気候変動について、最新の研究成果を評価する国際的な組織。1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)によって設立され、日本を含む195の国と地域が参加している。事務局はスイス・ジュネーブ。90年以降、5~7年ごとに報告書をまとめており、第1次評価報告書(90年)が92年の気候変動枠組み条約、第2次評価報告書(95年)が97年の京都議定書の採択につながったように、気候変動をめぐる国際交渉に強い影響力を持つ。2007年にはアル・ゴア元米副大統領とともにノーベル平和賞を受賞した。作業部会は三つあり、第1が自然科学的根拠、第2が影響・適応・脆弱(ぜいじゃく)性、第3が気候変動の緩和を担う。

江守正多(えもり・せいた)
1970年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。97年から国立環境研究所に勤務し、2021年から現職。IPCC第5次、第6次評価報告書の主執筆者。専門は気候科学。9月発売の書籍「最近、地球が暑くてクマってます。」の監修を務めた。

四つのポイントは?

今回公表された第1作業部会の報告書は、全12章、計4000ページ近くにおよぶ。政策決定者向け要約(SPM)と、より簡略化されたヘッドライン・ステートメント(HS)の和訳が、気象庁のウェブサイトに掲載されている。IPCCは来年2月に第2作業部会、3月に第3作業部会の報告書を公表し、9月に統合報告書をまとめる予定だ。

【1】地球が人間の影響で温暖化していることに「疑う余地がない」

気候の現状について「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と明記された。これまでは不確かさを含む表現が使われてきた。温暖化が主として人間活動に起因するとする確度は、新たな報告書が出されるたびに高まっており、前回の第5次評価報告書(2013~14年)では「可能性が極めて高い(95%以上)」とされていた。今回、「疑う余地がない」とはっきり言い切ったのが大きな違いだ。

疑う余地がないというのは、たとえばお風呂に水を張ってお湯を沸かしたときに「何でお湯が沸いたんですか」と聞かれたら、「ガスを燃やして加熱したからだ」と答えるしかないのと同じことだ。確度が高まってきた理由は、実際の気温上昇が続いていることに加え、観測データの精度が上がり、シミュレーションも改良され、プロセスの理解も深まったためだ。

世界平均気温の変化を示すグラフ。左のグラフでは、近年の温暖化は過去2000年以上例のないものだということが示されている(記事中のグラフの出典はいずれもIPCC WG1 AR6報告書

【2】いくつかの種類の異常気象に人間活動が影響していることも疑う余地がない

2018年の西日本豪雨や猛暑について、温暖化がなければ雨量はもっと少なく、あれほどの高温にもならなかったはずだという研究が国内で発表されている。世界中でおこなわれた同様の研究をふまえ、今回、人間活動の影響で異常気象が激甚化していることがはっきりと書かれた。

このような気象現象は「極端現象」(extreme events)と呼ばれ、統計的に変動が激しいので、これまでは明言が難しかった。さいころを振って大きい目が続いたからといって、偏る原因があるのかどうかはわからないようなものだ。ただ、平均気温が上昇傾向にあるなかでさらに変動が起きるため、極端な高温は起きやすく、極端な低温は起きにくくなる。また気温が上がれば水蒸気が増え、大雨も起きやすくなる。そう考えると、異常気象の激甚化傾向の原因が人間活動にあることは当然と言え、報告書でも強調されている。

西日本豪雨で多くの家が屋根まで冠水した岡山県倉敷市内=2018年7月(撮影・朝日新聞)

【3】世界の気温上昇幅は2030年前後に1.5度を超える見通し

今回の報告書では、温室効果ガスの排出量の水準や将来の社会像をもとに五つのシナリオを設けている。このうち、今回追加された「非常に低い」(SSP1-1.9)シナリオが、パリ協定(注)がめざす気温上昇を1.5度に抑えられた場合にあたり、2050~60年の間に世界の二酸化炭素(CO₂)排出量を実質ゼロにする必要がある。現在の各国目標の合算に近いのは「中間」(SSP2-4.5)シナリオで、今世紀末には気温上昇幅が2度を超えてしまう。

(注)2015年に採択された、20年以降の温暖化対策の国際ルールで、「産業革命前からの世界平均の気温上昇を2度よりかなり低く、できれば1.5度に抑える」ことを掲げている。

五つのシナリオごとのCO₂排出量の推移。水色の「非常に低い」シナリオでは2050~60年の間に実質ゼロとなり、その後マイナスに転じる
五つのシナリオごとの世界平均気温の変化

報告書では、五つのシナリオのどれをたどっても、1850~1900年の世界平均気温からの上昇幅が2030年前後に1.5度を超えそうだとしている。そのため、IPCCが2018年に出した「1.5度特別報告書」で「30~52年に1.5度上昇」としていたよりも、「予想が早まった」という指摘もある。ただ、IPCCは評価方法が違うため、比べるべきでないとしている。

IPCC WG1 AR6報告書をもとに編集部作成

いずれにしても、21~40年平均で上昇幅が1.5度を超える可能性が5割以上あることが示された。だが、仮に上昇幅が1.5度を超えても、その瞬間に世界が終わるわけではない。冷静に受け止め、引き続き1.5度未満と脱炭素をめざすべきことに変わりはない。

【4】可能性は低いが、起きたら影響が大きい事態も考慮に入れる必要がある

たとえば、世界平均の海面水位の上昇幅は今世紀末時点で最大でも1mぐらいだと考えられていたが、南極の氷床が不安定化して崩壊することがあれば今世紀末で1.7mぐらい、そして2300年には15mにまで上昇する可能性があるということが書かれた。海面上昇は数千年先まで続く可能性もある。

ほかにもアマゾンの熱帯雨林がどんどん枯れてしまうなど、一定のラインを超えると劇的な変化が起きて元に戻れなくなる「ティッピングポイント」(転換点)が存在する可能性が示された。現在の科学ではよくわかっていない、あるいは「可能性が低い」と評価されることについても考慮に入れなければいけないとしている。

世界平均海面水位の変化。グラフの破線は、「非常に高い」シナリオのもとで南極の氷床が不安定化した場合に急激な海面上昇が起こるという予測を示す

厳密で透明、プロセスに信頼を

報告書の重要性やメッセージについて、江守氏に尋ねた。

――IPCCの報告書がなぜ重要視されるのでしょうか。

まず、IPCC自体は研究機関ではなく、世界中の研究者が書いた論文を評価する機関です。そして、その報告書を政府と科学者が協力して発行することが特徴です。各国政府の代表団がどんな報告書をつくるかを決め、科学者が集まって作成し、最後に政府が承認します。そのためどの国の政府も、国際交渉の科学的な前提として、この報告書を無視することはできません。これが非常に重要です。

そのような報告書なのでとても丁寧につくられています。今回は途上国も含む66カ国から200人以上の執筆者が集まりました。1万4000本の論文を引用し、3回のレビュー(査読)のプロセスも経ています。レビューには世界中の専門家がコメントでき、7万8000件のコメントが寄せられました。執筆者が一つひとつ対応し、コメントと対応はすべて公開されています。このように厳密で透明性の高いつくり方をしている例はほかになく、プロセスを信頼してほしいと思います。

――報告書から、私たちはどんなメッセージを受け取ったらいいでしょうか。

科学は精緻(せいち)になりました。でもパリ協定への対応など、やるべきことについては今までと変わりません。すなわち、1.5度特別報告書に書かれている「気温上昇を1.5度に抑えるために2050年前後に世界のCO₂排出量を実質ゼロにし、それ以外の温室効果ガス排出量も大幅に減らす」ということです。明確になった科学の知見を改めて受け止め、目標をより強い決意でめざしてほしいと思います。

海洋浸食が進むモルディブのマーメンドゥー島=2018年2月(撮影・朝日新聞)

――日本政府は昨年以降、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロとし、30年度に13年度比で46%削減する目標を打ち出しました。この方針や企業の対応に対する評価は。

いままでより格段に踏み込んでおり、大きな進歩です。一方、いまの世界は五つのシナリオのなかの「中間」シナリオをたどっており、日本だけの問題ではないといってもまだ取り組みが不十分です。必ずしも「いますぐ脱炭素の目標時期をもっと早めるべきだ」と言いたいわけではありませんが、挑戦の途上であるという認識は必要だと思います。

企業も「脱炭素をめざす」顔をすることが標準になったのはいいことです。ただ、金融界などからの「外圧」で仕方なく掲げたが本音ではピンと来ていない、という例もあるのではないでしょうか。気候変動の原因に責任がない人たちが最も深刻な被害を受ける不正義な構造を是正すべきだという意味で、「気候正義」という言葉があります。気候変動は国際的な人権問題、あるいは将来世代との間の人権問題です。気候変動を止めることには倫理的に大きな意味があり、私たちはそれをめざすべきだという納得感をもっと共有してほしいです。

――10月末から英国で国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が開かれます。日本の役割は。

新興国も含め、石炭火力発電所の廃止に各国がどれぐらい踏み込めるか、日本がどこまで貢献できるかが一つのポイントです。石炭火力に未練を残しているようだと、議論をリードすることは難しいでしょう。

長崎県にある石炭火力発電所=2020年3月(撮影・朝日新聞)

「システムチェンジ」後押しを

――SDGsと気候変動の関係についてどう考えますか。

1.5度特別報告書にも書かれているとおり、SDGsと1.5度目標は当然両立しなければいけません。そのためには、気候変動対策がSDGsのほかの目標に悪影響を及ぼすような方法は避けなくてはいけません。たとえばメガソーラーの自然破壊を是正したり、バイオ燃料と食料の競合を防いだりすることが必要です。

今回の報告書の社会経済シナリオのうち「SSP1」は、リサイクルやシェアリングがうまくいき、大量生産・大量消費ではなく、格差が少なく、教育水準が高く、国家間関係も良好という世界です。このように持続可能性のある世界なら、1.5度や2度の目標を達成するシナリオは描きやすい。一方、持続可能ではない社会経済をベースにすると、温暖化しやすくなると言えます。

――気候変動を止めるために、一人ひとりができるアクションとは何でしょうか。

「システムチェンジ」をどう後押しするかがポイントです。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんの言葉に、“We need a system change rather than individual change. But you cannot have one without the other.”(個人の変化よりもシステムの変化が必要だが、一方がなければ他方を得ることはできない)というものがあります。個人がエコに気をつけていても、全く気をつけていない人がいたら簡単に打ち消されてしまいます。でも、システムが変われば、関心がない人もいつの間にか脱炭素に貢献できるようになります。

たとえば、いま店に電球を買いに行くと、ほとんどが白熱電球より消費電力が少ないLED電球になっているので、環境に関心がない人でもLED電球を買います。同じように、車を買いに行けば電気自動車しか売っていないとか、家を建てようと思えばZEH(ゼッチ=エネルギー消費が実質ゼロの住宅)しか建てられない、となればいい。そういうルールづくりを後押しするのが、環境に関心がある人の本質的なアクションです。

みずほフィナンシャルグループの株主総会会場前で、石炭火力発電向け融資の中止を求める横断幕を掲げる環境団体のメンバーら=2020年6月、東京都千代田区(撮影・朝日新聞)

具体的なアクションは人それぞれ。初めの一歩としては、気候変動に関心を持って周りの人と話す、自宅の電気を再エネに変える、選挙の候補者に気候変動に対する考えを質問する、といったことができると思います。

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