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「生態系」をどう数えるか データで見るSDGs【8】

「生態系」をどう数えるか データで見るSDGs【8】
日本総合研究所シニアスペシャリスト/村上 芽

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村上 芽(むらかみ・めぐむ)
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト。金融機関勤務を経て2003年、日本総研に入社。専門・研究分野はSDGs、企業のESG評価、環境と金融など。サステイナビリティー人材の育成や子どもの参加に力を入れている。『少子化する世界』、『SDGs入門』(共著)、『図解SDGs入門』など著書多数。
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「面積」でとらえる

2021年から2030年までの10年間は、「国連生態系回復の10年(UN Decade on Ecosystem Restoration」となっています。主導するのは、国連環境計画(UNEP)と国連食糧農業機関(FAO)です。

「生態系の回復」とは、何を指すのでしょう。FAO駐日連絡事務所の説明を見ると「土地景観や湖、海などの生態系の劣化を転換させ、生態学的機能を取り戻す過程」とあります。

「生態系」は、生き物どうし、あるいは生き物を取りまく環境すべて(水や大気、光、気象、地形など)との相互関係を総合的にとらえるものです。英語では「ecosystem(エコシステム)」と表現されます。

ひとつの池といった小さな単位にも生態系はありますし、広大な森林もまた生態系です。使い方によっては、地球全体をとらえることもあります。「生態系」という言葉を聞いたときには、どこからどこまでの範囲のことを言っているのか、確認するのが第一歩となるわけです。

では、これを「回復」させるとは、具体的にどういうことでしょう。どんなデータがあるのか探そうとして、ちょっと立ち止まってしまいました。企業でも個人でも、なにか目標を立てるときはまず現状を把握して、立ち位置を理解しようとします。同じ発想で、「まず、いま生態系は何個なの?」と考えたのです。ところが、どう数えるのかが、なかなか一筋縄ではいきません。

art_00184_本文1_沼とトンボ

先ほども述べたとおり、生態系の大きさはまちまちだからです。では、「生物の種類の数」としてみたらどうでしょう。今度はそこに、「未知」という世界が広がっています。すでに知られている生物の種類は約175万種と言われていますが、知られていないものを含めると500万種、3000万種、11000万種など、様々な説があります。今わかっている生物だけを対象に保全を考えても、的外れになってしまう可能性があります。

こうした混乱を避けるため、生態系や生物多様性の保全に関するデータは、「面」でとらえるものが多くなっています。たとえば、ある国の制度上保護されている陸地や海の面積、森林面積、持続可能な経営認証付きの森林面積といった指標です。

見やすいUNBLのデータ

では具体的に、こうした指標をわかりやすく示している国連の取り組みを見てみましょう。「UN Biodiversity Lab (UNBL)」(国連生物多様性ラボ)というサイトでは、世界地図の上で様々なデータを見たり、ダウンロードしたりすることができます。

国名を入れて検索すると出てくる「tree cover loss」は、米国のメリーランド大学がグーグル社や米国地質調査所(USGS)、米国航空宇宙局(NASA)とともに整備したデータに基づいています。天然の森林でもプランテーション(大規模農園)でも、5m以上の高さで林としての密度があれば「tree cover」とカウントされ、それがなくなると「tree cover loss」とカウントされます。

このデータを使って、日本と、面積の近いマレーシア、ベトナムの3カ国について、01年以降のtree cover lossを比較してみましょう。グラフのように、マレーシアが突出して多くなっています。20年間に、日本では国土面積の2%にあたる7595㎢、ベトナムでは9%の3万651㎢が失われる中、マレーシアでは25%に相当する8万3898㎢が消失しています。

グラフ:3カ国のtree cover lossの推移

単位:㎢

art_00184_本文2_グラフ

マレーシアはもともと国土の6割以上が森林で覆われている国で、2019年には合板などの輸出量で世界7位につけるなど、木材関連の輸出国です。

かつて、丸太を多く輸出していたこともありましたが、資源枯渇や違法伐採の取り締まり強化によって減少しました。輸出を禁止した州もあります。また、パーム油の産地でもありますが、もとになるアブラヤシ(高さは5m超)のプランテーションについては面積を増やしているとされ、ここでいう「loss」の多くは、やはり森林と見られます。

このように、一見わかりにくい「生態系回復」ですが、見やすいように工夫された国連のサイトからは、さらに詳しく知りたくなるようなデータや切り口が出てきます。ぜひ、UNBLのデータをいろいろと検索してみてください。

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マレーシア・サラワク州のアブラヤシ農園(撮影・朝日新聞)
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