「青い地球のためにアクションし続ける」 きっかけは大震災、自然エネルギーで地域貢献【#チェンジメーカーズ】

社会課題解決のために奮闘するキーパーソンを紹介するシリーズ「#チェンジメーカーズ」。第4回は、自然電力(福岡市)の共同創業者で代表取締役の川戸健司さん(41)。2011年の東日本大震災直後に風力発電会社の同僚3人が独立起業した電力会社で、売電収益の一部を地域の農業振興などに活用しています。そのねらいとは。(聞き手 編集部・竹山栄太郎)
1980年生まれ。千葉県野田市出身。慶応大学理工学部卒業後、2004年に風力発電会社に入社。11年3月の東日本大震災をきっかけに退社し、同僚だった磯野謙さん、長谷川雅也さんと3人で同年6月、自然電力を設立した。組織マネジメントや働き方、資金調達などを担当する。
風力発電会社から3人で独立
――創業の経緯を教えてください。
共同創業者の3人は、もともと全国で風力発電を手がけるベンチャー企業に勤めていました。転機になったのは2011年3月の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故です。
当時、同世代の同僚たちと「僕たちにできることは何だろう」と毎夜語り明かしました。10人ぐらいで「誰かが何かやってくれるのを待つのではなく、自分たちでできることを始めよう」と話すなかで、「それなら起業しようよ」と言ったのが共同創業者になる3人でした。後にわかったことですが、お互いになんとなく「この3人なら」と感じていたようです。震災から3カ月後に自然電力を設立しました。

3人の原体験はそれぞれ違います。僕の場合は、戦後まもなく農薬の会社を立ち上げた祖父の影響がありました。「ちゃんと作物が育ち、日本のみんながご飯を食べられるようにしたくて起業した」という話を小さいころから聞き、僕自身も食料やエネルギーといった、人が生きるために必要なものを一生の仕事にしたいなと思っていました。
学生時代、たまたま風力発電会社でアルバイトをしました。あるとき発電所を開発していた地域の人から、「何もないこんな地域に産業をつくってくれてありがとう」と言われたんです。風の強い場所はなかなか農業に向かず、大きな街に育ちにくい。再生可能エネルギーは地球環境にいいだけでなく、地域に新たな産業をつくれる点がすばらしいと感じ、その会社に就職しました。
実績がある会社だったので、残ったほうが有利な点があったのも事実です。それでも自分たちで起業したのは、「責任がより重いけれどやりたいようにできる」と考えたからです。また、風力以外の再エネに取り組みたい思いもありました。

「パーパス」重視、人材集結
――ドイツのjuwi(ユーイ)社との出会いについて教えてください。
ユーイは我々と理想を同じくする「お兄さん企業」で、技術を教わるだけでなく、勇気ももらいました。自然電力を立ち上げた当初は固定価格買い取り制度(注)の導入前で、仕事がまったくなくて時間があったので、今後の再エネ業界を考えようと、環境先進国のドイツに共同創業者3人で視察に行きました。訪ねたなかの1社がユーイでした。
(注)FIT。再生可能エネルギーによる電気を国が決めた価格で電力会社に買い取らせる仕組みで、2012年7月に導入され、再エネの普及につながった。
多くの会社が大都市にオフィスを構えていたのに対し、ユーイは田舎に街をつくり、そこで従業員が暮らし、街全体がユーイを応援していました。周辺には当然、太陽光パネルや風車があり、環境と労働、生活のすべてに一本の軸が通っていると思いました。ユーイ側と面会してすぐ、3人で「ここと組みたいね」と話しました。まずは業務提携して1件のメガソーラー・プロジェクトを手がけ、13年に合弁会社をつくりました。
――自然電力グループの事業内容を教えてください。
発電所の開発と建設を中心に、土地を見つけ、資金を集めて設計・建設し、発電所のメンテナンスや電力の小売りもおこなうといったように、バリューチェーン(価値の連鎖)の最初から最後までを手がけてきました。開発実績は共同開発やコンサルティング、海外のものも含め、原発1基分にあたる約1GWにのぼります。国内外で完工済みの発電所の数は、太陽光87カ所、風力2カ所、小水力1カ所、バイオマス1カ所です。
小売りの電気の多くは卸市場で調達していますが、自社でつくった電気を直接契約者に届けるビジネスも始めています。今後はデジタル技術を駆使して電気を使いやすいかたちに加工し、販売するところまで広げ、脱炭素化を進めたい企業から頼られる存在になりたいと考えています。

当社の強みの一つが、会社の存在意義を示す「パーパス」です。「青い地球を未来につなぐ。」を掲げ、売り上げや利益よりも優先させています。英語では“We take action for the blue planet.”。青い地球のためにアクションし続ける会社でいたいということです。当社にはパート・アルバイトを含めて約280人の従業員がいますが、国籍は20以上、年代も20代から70代までと幅広い。パーパスに共感して優秀な人材が集まった結果です。
地域還元で賛成派増やす
――地域還元の取り組みが評価されています。
理由の一つは、前職の風力発電会社でたびたび建設反対運動に直面した経験があるからです。そのとき感じたのは、反対する人は地域人口の数%で、賛成も反対もせず「意見は特になし」という人が非常に多いということ。賛成派を増やし、地域の人たちどうしで必要性を議論してもらわなければ、再エネはなかなか広げられないと考えていました。
ただ、地球環境へのメリットだけを説いても独りよがりになってしまいます。「自然電力が来てから地域が潤った」とか「若者が元気そうにやっている」とか、とにかく地域の人がいいと思ってくれることをやらなければ、と考えたんです。そこで、売り上げの一部を地域に還元することを始めました。

二つ目の理由は創業者個人の目標とも言えるのですが、新しい資本循環の仕組みを構築したいからです。いまの資本主義は、これまでの発展を支えたすばらしいものですが、経済的なリターンを追い求めがちで、地球環境を維持するための投資にはつながりにくいという問題があります。未来にとってよい投資にお金を回し、子や孫にとって住みやすい地球を保つことが必要です。
具体例として、当社のメガソーラーがある熊本県合志(こうし)市では、地域の人と一緒に地元産のハーブを入れたクラフトビールや、野菜チップスをつくって販売しました。その小さな成功モデルをもとに、地域のリーダーを育成するプロジェクトを企画し、さらに市と防災協定を結んでいます。メガソーラーの売電収益の一部を活動全体の資金源として活用しています。

――2020年末から21年初めにかけて、卸電力の市場価格高騰の影響で顧客を失いました(注)。
(注)厳しい寒さや燃料の液化天然ガス(LNG)不足によって電力需給が逼迫(ひっぱく)し、電力会社が電気を売買する日本卸電力取引所(JEPX)では翌日に引き渡す電気の取引価格が前年の10倍以上に高騰。市場価格と連動する料金プランの契約者の電気代がはね上がった。電気の調達を市場に頼る新電力各社にとっては仕入れコストの急上昇となり、経営への打撃となった。
当社は小売りの電気の多くを市場から仕入れ、市場価格の変動リスクをお客さまに引き受けてもらうことで料金を抑える仕組みにしていました。ただ、このときは電力料金が通常の数倍にまではね上がったため、家庭用の場合で3万円まで当社が負担することにしました。お客さまが再生可能エネルギー嫌いになることは避けたかったからです。他社への契約切り替えを促したこともあり、契約者数は20年12月時点の約1万2000件から21年3月末には約3300件まで減りましたが、誠実に対応することを大事にしました。
その後は変動リスクを抑えた新料金プランをつくり、移行を進めています。広告を大々的に打ってもう一度個人客を増やそうとは考えていません。小売り自体は続けますが、少し方向転換し、より地球へのインパクトが大きい企業向けや他社を通じた販売に力を入れていきたいと思っています。

自然エネ100%、カギは「心を動かす」
――「自然エネルギー100%の世界をつくる」という目標をどう実現しますか。
やるべきことは三つあります。一つ目はコストを下げること、二つ目は安定供給の仕組みを整えることです。この二つには政策や電力網の状況がかかわってきます。
大事なのは三つ目で、電力を消費する個人や企業に「再生可能エネルギーに切り替えたい」と思ってもらわないと、どんなにコストが下がっても100%の実現はとても無理です。そのためには頭でなく、心を動かさなければいけません。「かっこいい」「おしゃれ」でもいいし、あるいは「子どものため、孫のため」でも、理由はいろいろあっていいのですが、特に個人に対してはこれまでと違ったアプローチが必要かなと思っています。
カーボンニュートラルへの関心の高まりは、ビジネスの追い風という以前に、うれしいですね。十数年前にはほとんど誰も再エネに注目していませんでしたから。
――多様な人材がいることで、マネジメントがたいへんな面はないのですか。
多様性に力を入れている意識は特にないんです。もともと、気候変動問題は日本だけで取り組んでも解決しないので、世界中で事業をしたいと思っていました。意欲のある人がたまたま外国人でも受け入れてきた結果、いろいろな国籍の人が集まりました。気をつけていることは、会議の資料を日本語・英語で併記し、同時通訳をつけるなど、言語の壁を取り除くことぐらいです。
シニアの人たちは、経験をいかしてベンチャー企業を補完してくれています。コンサルティング会社や発電所に勤めていた人たちが、年下の人たちに技術を伝えたいという思いを持って働いてくれており、いい組み合わせになっています。

――私たち一人ひとりができるアクションとは何でしょうか。
まずは知ることです。気候変動の大きな要因は二酸化炭素、二酸化炭素排出の大きな要因は電力であり、家庭の電力消費量も多い。「地球ってこんな状態なんだ」と事実を知ってもらうだけでも行動は変わるのではないでしょうか。そして気づいた人に選択肢を提案するのが我々のような事業会社の責務です。

具体的に個人ができることとしては、再生可能エネルギーの電気に切り替え、省エネに気をつかうこと。単純に電気を消すこともそうですし、電力消費が少ない最新鋭の家電に切り替えたり、電力消費を「見える化」するアプリを導入したりすることも有効です。

朝日新聞SDGs ACTION!副編集長。2009年に朝日新聞社入社。京都、高知の両総局を経て、東京・名古屋の経済部で通信、自動車、小売りなどの企業を取材。2021年にSDGs ACTION!編集部に加わり、2022年11月から副編集長。
-
2021.09.25「気候変動は待ってくれない」 大学を休学し、中高生に講演する二十歳の環境活動家【#チェンジメーカーズ】
-
2021.10.06「『脱石炭火力』なくして気候変動の解決なし」 発電所建設反対のうねりをつくり、《環境分野のノーベル賞》に【#チェンジメーカーズ】
-
2022.04.26再エネ拡大による日本経済への影響 金融・経済から見えるSDGsのトレンド【4】
-
2022.04.06FIP制度とは? 仕組みやFIT制度との違い、今後の見通しを解説
-
2022.02.10カーボンニュートラルとは? 意味やポイント、最新動向をわかりやすく解説
-
2022.11.06SDGsとは 17の目標と日本の現状、身近な取り組み事例をわかりやすく解説