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【夫婦別姓問題、どうしますか?】プロローグ 選択的夫婦別姓、政治の表舞台に 推進派だった岸田首相はどうする?

【夫婦別姓問題、どうしますか?】プロローグ 選択的夫婦別姓、政治の表舞台に 推進派だった岸田首相はどうする?
最高裁の判断を受け、取材に応じる申立人と弁護士ら=2021年6月23日、東京都千代田区(撮影・朝日新聞)

選択的夫婦別姓の議論が久しぶりに政治の表舞台に登場している。自民党総裁選では河野太郎氏や野田聖子氏が首相になった際には実現したいと掲げ、立憲民主党も衆院選の公約として打ち出した。新しく首相に就任した岸田文雄氏は、選択的夫婦別姓を推進する自民党の議員連盟の呼びかけ人として名を連ねているが、総裁選の際には「議論すべきだ」と述べるにとどまった。この問題は過去四半世紀ほどの間、何度も政治の場で議論されては実現しないまま時がすぎた。果たして今度はどうなるだろうか。(編集委員・秋山訓子)

96%が夫の姓名乗るのが現実

日本で夫婦同姓の規定が設けられたのは明治時代の民法だ。1898年に家制度の導入とともに、妻が夫の姓を名乗る夫婦同姓が定められた。だがそれより以前、1876年の太政官指令では妻は実家の姓を名乗ることとなっていた。

夫婦どちらかの姓を名乗る現行の制度は1947年の民法改正による。夫の姓を選ぶ夫婦が圧倒的に多く、2015年で96%にのぼる。

選択的夫婦別姓の議論が表舞台に登場するようになったのは1990年代になってからだ。85年に男女雇用機会均等法が制定され、女性の社会進出が加速した。結婚しても、働き続ける人が増え、結婚前の名字をそのまま使い続けられないと、あれこれ不都合が生じるようになっていた。

96年に法制審議会が選択的夫婦別姓の導入を盛り込んだ民法改正案を答申する。しかし、自民党内の反対が強く、政府は民法改正案の提出を断念した。

自民党の別姓推進の動きは挫折

21世紀になると、自民党の中から選択的夫婦別姓実現に向けての動きがおこる。野田聖子氏や笹川堯氏らが中心となって推進派の議員連盟を結成した。保守派の理解を得るために、山中貞則氏や野中広務氏など長老の参加も得た。

それでも、党内の反対が根強いとみると、推進派は原則は同姓とし、例外的に夫婦別姓を認める「例外的夫婦別姓」制や、家庭裁判所に許可を求める制度を案出するが、結局党内の合意は得られなかった。

それ以降、自民党内での本格的な議論は進まなかった。夫婦別姓に反対する安倍晋三氏が長く政権を担ったことも大きな要因だ。

なぜ自民党には強固な反対派が存在するのか。大きな理由の一つが支持団体だ。神社本庁の関連団体の「神道政治連盟」が代表例で、選択的夫婦別姓に強く反対している。決して規模は大きくはないものの、自民党が2009年に野党に転落した際、政権側に走った団体もあるなかで、自民党を支持し続けた心強い存在なのだ。

民主党政権でも別姓は実現ならず

では、一方の野党はどう動いてきたのか。ほとんどの野党が選択的夫婦別姓には賛成で、何度も選択的夫婦別姓の議員立法を国会に出してきた。

民主党が2009年に政権の座につき、弁護士で、社会党時代から長く選択的夫婦別姓に賛成してきた千葉景子氏が法相に就任すると、実現への期待が高まった。しかし、当時は民主党、社民党、国民新党の連立政権であり、一角を担う国民新党の幹部、亀井静香氏が別姓に強く反対したために、実現することはなかった。

政治が止まっていた間、動きがあったのは司法だ。2015年に最高裁の大法廷で、民法の夫婦同姓制度は「社会に定着しており、家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられ、その呼称を一つに定めることには合理性が認められる」として合憲だと判断を下した。同時に国会で議論すべきこと、と政治の場にボールを投げたが、安倍政権下で動きは起こらなかった。

世論も徐々に選択的夫婦別姓にシフトしている。内閣府が18年に公表した世論調査では、選択的夫婦別姓を「導入してよい」と考える人は過去最高の42.5%で、「導入する必要はない」とした29.3%を上回っている。また朝日新聞の世論調査では、自民党支持層で見ても、17年の調査から賛成が上回っている。

※2017年内閣府「家族の法制に関する世論調査」

<内閣府「家族の法制に関する世論調査」(2017年)>

●仕事と婚姻による名字(姓)の変更

安倍首相の退陣を機に、議論が再燃

選択的夫婦別姓の議論が長いブランクを経て政治の表舞台に登場したのは2020年だ。安倍元首相が退陣し、内閣は菅義偉氏に引き継がれた。菅内閣でも引き続き男女共同参画担当相を務めた橋本聖子氏が、選択的夫婦別姓の導入に前向きな姿勢を示したのだ。菅前首相も、かつて野田聖子氏らとともに選択的夫婦別姓の推進派に名を連ねていた。そういう環境の変化もあり、橋本氏が議論の口火を切ったのであろう。

夫婦別姓慎重派の議員連盟設立総会=2021年4月1日、国会内(撮影・朝日新聞)

男女共同参画基本計画の賛否めぐり、自民激論

同時期に、第5次男女共同参画基本計画作りが進んでいた。パブリックコメントでは、若い世代を中心に選択的夫婦別姓の記述を求める声が上がり、署名も橋本大臣に届けられた。

前向きに取り組もうとする政府とは対照的に、自民党内の同計画をめぐる議論は、選択的夫婦別姓の記述をめぐって大荒れに荒れた。反対派の意見は20年前に時計を巻き戻したようだった。

「家族がばらばらになる」「日本が分断される」「戸籍制度が崩壊する」「子どもがかわいそう」

選択的夫婦別姓に反対する自民党の支持団体は、賛成意見を述べた国会議員の地元議員とも連絡を取り合い、働きかけを強めるなど精力的に活動した。

「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」の設立総会=2021年3月25日、国会内(撮影・朝日新聞)

一方で変化も見られた。今、自民党の衆院議員は当選3回以下がほぼ半分を占める。また、女性の割合も20年前に比べれば増えた。以前の議論の際にはいなかった人たちの意見は、選択的夫婦別姓に賛成するものもかなり多く、明らかに以前とは違っていた。

「若い世代の意見を聞く自民党であってほしい」「選択的なのだから問題はないのでは」「家族の幸せに政治が介入するのはおかしい」

同計画をめぐる延べ7時間にわたる大激論の末、選択的夫婦別姓についての記述は「必要な対応を進める」から「更なる検討を進める」に変更。分量も減って大幅に後退した。しかし、世論調査に表れている国民の声とは開きがある自民党の現状を世の中に知らせる意義は大いにあったといえる。

最高裁の判断について記者会見に臨む申立人と弁護士ら=2021年6月23日、東京・霞が関(撮影・朝日新聞)

ボールは政治に、そして有権者の判断に

21年の6月には、再び夫婦同姓の規定について最高裁の判決があった。夫婦は同じ姓を名乗ると定めている民法や戸籍法の規定が、結婚の自由などを保障した憲法に違反するかどうかが争われた裁判で、最高裁大法廷は再び合憲とする判断を示した。15年の判決を踏襲したのだ。改めて「この種の制度のあり方は国会で判断されるべきだ」と指摘し、政治の場での議論を促した。

菅前首相の退陣表明を受けて行われた自民党総裁選では、河野太郎氏と野田聖子氏が選択的夫婦別姓に賛成、高市早苗氏が通称使用の拡大、岸田文雄氏がさらに議論を重ねるべきだと主張した。

総裁選を制し、新しく首相に就任した岸田氏は、3月に自民党内にできた「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」の呼びかけ人に野田氏とともに名を連ねている。しかし、総裁選にあたってはあくまでも慎重な姿勢を強調した。しかも、政調会長に慎重派の高市氏を起用した。このため、岸田政権がこの問題を進めるのは難しいかもしれない。

新政権が発足し、政治の焦点は迫る衆院選に移る。長年、選択的夫婦別姓を訴えてきた立憲民主党や共産党など野党側は、自民党の「古い体質」の象徴として、別姓やジェンダー問題を争点の一つにするだろう。

自民党の公約はこれまで通り、「旧姓の幅広い使用を認める取り組みを進める」といった通称使用拡大にとどまるのかどうか。
今度は、国民、有権者がボールをもつことになる。

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