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食品ロスに取り組む! 自治体に広がる「フードドライブ」

食品ロスに取り組む! 自治体に広がる「フードドライブ」
神奈川県庁のフードドライブで集まった食品(県提供)

「フードドライブ」ということばを見聞きするようになった。自宅や商店などで使い切れず、冷蔵庫や収納庫に残っている食品を持ち寄ってもらい、それを子ども食堂や福祉施設に届ける活動だ。いま、多くの自治体がこの活動に取り組み始めている。もともとは食品ロス対策として始まったが、自治体は「子どもの貧困」やコロナ禍で生活が苦しくなった人たちへの支援という福祉政策の面も強く意識しているという。積極的に取り組む神奈川県、東京都目黒区、大田区の動きをリポートする。(編集部・金本裕司)

食品ロスはいまどうなっている?

消費されずに捨てられる食品はどのくらいあるのか?

農水省の推計(2018年度)によると、年間600万t。食品ロスへの意識の高まりもあり、前年度より12万t減少している。国民1人当たりでみると、1日約130g(茶わん1杯分のご飯に相当)、年間では約47kgになる。

食品ロスには、メーカーや飲食店など事業者から出るものと、家庭から出るものの2通りがある。600万tの内訳は、事業系が324万t、家庭の分は276万tで、半分近くが家庭からだ。事業系は、売れ残って賞味期限がきたものや客の食べ残しなど。家庭では、作りすぎや賞味期限がきてしまったものなど様々で、果物などの皮を厚くむきすぎた分も含まれる。

art_00220_本文1 食品ロス量円グラフ H30年度農水省
             (農水省ホームページから)

食品ロス対策として2019年10月、「食品ロス削減推進法」が施行された。自治体、事業者、消費者それぞれの責務や役割を定めていて、自治体については「食品ロスの削減に関し、地域の特性に応じた施策を策定、実施する責務を有する」としている。また、毎年10月を「食品ロス削減月間」に定めている。

全国フードバンク推進協議会の米山広明事務局長は「法律ができたことで、自治体は積極的に取り組むようになったし、民間企業でもロス削減の活動に社内の合意がとりやすくなった」という。

「フードドライブ」と「フードバンク」

「ドライブ」は、寄付や寄付の運動などをさす。「フードドライブ」は、自治体や町内会、NPOなどに家庭や商店などで使い切れなかった食品を持ち寄ってもらい、有効に使おうという活動だ。

一方の「フードバンク」は、安全に食べられるのに処分されてしまう食品を企業などから寄贈してもらい、食べ物に困っている施設や人に提供する活動をさす。地域の「フードドライブ」で集まった食品が、地域のこども食堂や「フードバンク」に提供される。

自治体にとっては、食品ロス対策と同時に、生活に困る世帯を支援する社会福祉の意味も大きく、フードドライブの動きが加速している。

東京都を例にとると、11月1日現在で、62区市町村のうち半数以上の37区市(21区、16市)が、何らかの形でフードドライブを実施している。

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神奈川県庁で行われたフードドライブ=2021年8月25日

県庁がハブになりフードドライブを推進/神奈川県

神奈川県は、県庁がハブになってフードドライブを推進する取り組みを行っている。

県はSDGsに積極的に取り組む企業や団体を「SDGsパートナー」として登録する制度を設けており、現在約500団体。この夏から、そのパートナーなどに向けて、フードドライブの実施方法や集まった食品をどこに提供するかなど実践的なオンライン説明会を実施。食品ロス削減月間を中心にフードドライブを実施するよう呼びかけてきた。

県庁自身も、「呼びかけるだけでなく、まず自分たちでやってみよう」(いのち・未来戦略本部室の沖田弓弦室長代理)と、8月下旬から9日間、県庁内4カ所でフードドライブを試行した。食品を寄付したのは職員が中心で、缶詰、レトルト・インスタント食品、お菓子、米、乾麺など1094 品、約416kgが集まった。その経験を踏まえて、9月末に再度オンライン説明会を実施し、パートナーの108人が参加した。

県はフードドライブの取り組みを、食品ロス対策を超えた施策と位置づけている。県の山口健太郎理事(いのち・SDGs担当)は、「従来から食品ロス対策としてフードドライブという考え方はあったが、今回は『誰も取り残さない』というSDGsの考え方を入れるのがポイントでした。フードドライブを通じて、子どもの貧困や、コロナ禍で弱い立場にある女性への対応として何ができるか、行政からの発信が大切だと考えました」と語る。

呼びかけの結果、10月の月間中に約50の企業や団体がフードドライブを実施した。スーパーや生協、学校、サッカーチーム、金融機関などが参加し、県弁護士会も取り組んだ。県も10月半ばから、本庁と県内4カ所の県政総合センターで、2度目のフードドライブを実施。8月の試行を上回る1827品、約653kgが集まった。2回の合計で1tを超えた。

各団体に寄せられた食品などは、それぞれで地域の子ども食堂や福祉施設に提供してもらう。一種の「地産地消」だ。遠くまで輸送したりすると経費がかかるうえ、輸送に伴うCO₂排出を避けるという考え方に立っている。「輸送を含め、引き渡しまでがフードドライブですよとお願いし、理解してもらっている」(沖田室長代理)という。県に集まった分は、地元で活動する「フードバンクかながわ」などに寄贈した。

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目黒区の「フードドライブ」窓口=目黒区総合庁舎内のエコライフめぐろ推進協会

常設のフードドライブ窓口を設置/目黒区

東京都目黒区では今年4月、外郭団体の「エコライフめぐろ推進協会」(区総合庁舎別館6階)が、常設のフードドライブ窓口をオープンした。この5、6年、区のイベントに合わせて何度か試行していたが、「アンケートで意見を聞いところ、常設してほしいとの声が多かった」(染木伸宏・エコライフめぐろ推進協会管理係長)という。

提供を求める食品は、神奈川県と同様に米や缶詰、レトルト食品などで、賞味期限まで2カ月以上あり常温保存ができるもの。区報や本庁や出先に置くチラシなどで呼びかけた。4月から9月までに寄付した人は92人。2225点、522.9kgが集まった。

寄せられた食品は、福祉施設やフードバンク「セカンドハーベスト・ジャパン」に提供している。町会などで独自にフードドライブを実施しているところもあるが、区の出先などに常設の窓口を作るかどうかは今後の課題だ。

協会の活動目的は、食品ロスをなくすことが主眼。「困っている人にお渡しするためにはたくさん集まった方がいいが、われわれの目的からすると、食べきってもらい、ここに持ち込まれるものが減っていくことが望ましい」(染木さん)という面もある。協会としては、フードドライブと並行して、区のエコプラザなどで、食品ロスをなくす啓発にも力を入れている。

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大田区のフードドライブに集まった食品(大田区役所提供)

年に3回、フードドライブを実施/大田区

大田区は、区内でどの程度の食品ロスが発生するかを調べたことがある。一般廃棄物の処理計画(2016年度)を作成する際に推計したもので、年間約3600t、清掃車約2000台分に相当する未利用食品が廃棄されていた。

この3600tをいかに減らすかが、大田区の食品ロス対策の課題の一つだ。「ご家庭で眠っている食品があれば、回収場所までご持参ください。お持ちいただいた食品は区内のひとり親家庭を支援するフードバンクや子ども食堂などへ寄付いたします」と呼びかけ、2017年9月から定期的にフードドライブを実施してきた。実施する場所は、本庁舎と4カ所の特別出張所。区の社会福祉協議会とも連携している。

18年度からは年3回実施している(20年度はコロナ禍のため2回)。年々提供される食品の量は増えているといい、19年度は3回で計1160kgだったが、20年度は2回で1000kgを超えた。

21年度も、第1回が約366kg、第2回が約431kgと増加傾向にある。「フードドライブの認知度が上がったことと、区民の意識が上がってきた結果」(星野倫隆・区環境計画課係長)と見ている。

提供する人は、食べなかったお歳暮を、という高齢者から、子どもが食べきれなかったものを届ける子育て世代まで様々という。集まった食品は、社会福祉協議会を通じて福祉施設や子ども食堂に届けている。ひとり親家庭を支援しているフードバンク「グッドネーバーズ・ジャパン」(同区)も提供先だ。

岡本輝之・環境計画課長は「食品ロスへの取り組みはもちろん、ひとり親家庭への食品の支援といった福祉的な目的の両方が自治体の役割と考えています」と話している。

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