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フードテックが広げる未来、栄養改善や途上国支援へ 東京栄養サミット関連 国連WFP共催ウェビナー採録

フードテックが広げる未来、栄養改善や途上国支援へ 東京栄養サミット関連 国連WFP共催ウェビナー採録
セミナーに登壇した(左上から時計回りで)国連WFP日本事務所代表の焼家直絵氏、フードテック・エバンジェリストの外村仁氏、不二製油グループ本社特別顧問の清水洋史氏、林原社長の安場直樹氏

国連世界食糧計画(WFP)と朝日新聞社総合プロデュース本部は、12月7、8日に日本で開催される「東京栄養サミット2021」に関連したオンラインセミナー「未来をつくる食料支援とフードテック」を、11月24日におこないました。飢餓や栄養不良をなくすことの重要性や、技術革新を通じた取り組みについて登壇者が語り合いました。当日の様子を紹介します。アーカイブ動画も見られます。

【動画の流れ】
(0:00~)開会・来賓挨拶
(14:30ごろ~)第1部 基調講演Ⅰ「国連WFPの取り組みについて」(焼家直絵氏)
(40:30ごろ~)第2部 基調講演Ⅱ「Food Techの潮流と社会貢献」(外村仁氏)
(1:09:10ごろ~)第3部-ⅰ 協賛社プレゼンテーション「企業が実施する食や栄養問題への取り組み」(林原・安場直樹氏、不二製油グループ本社・中村彰宏氏)
(1:25:20ごろ~)第3部-ⅱ パネルディスカッション「『栄養』の再定義と技術の可能性~日本企業の役割とは~」(焼家氏、外村氏、安場氏、不二製油グループ本社・清水洋史氏)

国連WFP、年1億人超を支援

セミナーでは、まず朝日新聞社の五老剛・総合プロデュース本部長があいさつ。続いて、来賓の外務省の三宅伸吾・外務大臣政務官、農林水産省の新井ゆたか・農林水産審議官(ビデオメッセージ)がスピーチした。

第1部では、国連WFPの焼家直絵・日本事務所代表が「国連WFPの取り組みについて」と題して、WFPの活動や世界の飢餓・栄養不良の現状を紹介した。

WFPは世界最大の人道支援機関。SDGsの2番目のゴールである飢餓の撲滅を使命とし、世界80カ国以上で食糧支援をしている。2020年は1億1500万人を支援。ノーベル平和賞も受賞した。ただ、20年の世界の飢餓人口は最大8億1100万人にのぼり、コロナ禍の影響もあって前年から増加している。30年には6億6000万人が飢餓に苦しむと予想されており、「飢餓をなくすという目標の達成は非常に難しくなっている」という。

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国連WFPのコロナ禍の対応(提供)

焼家氏は、飢餓や栄養不良の主な原因として、紛争や貧困、自然災害、新型コロナウイルス、ジェンダー格差、気候変動などがあると説明。「安全で栄養価の高い食糧を手頃な価格で入手することが非常に重要となっている」としたうえで、「緊急の行動が取られなければ、栄養不良で1日に258人もの子どもが死亡する可能性もある」と訴えた。

WFPは緊急事態に対応する緊急支援と、自立をうながす開発支援を両輪でおこなっている。緊急支援では、「民間企業の知見やサービス、特にイノベーションテクノロジーを取り入れることで支援の効率化を目指している」(焼家氏)といい、モバイルソリューションの活用や、記録のクラウド化、ドローンとAI(人工知能)を使った災害被害の状況把握などを挙げた。

開発支援では、乳幼児や妊婦への栄養支援や学校給食支援もしており、焼家氏は「大切な時期に栄養をとれるようにすることで、貧困のサイクルを打ち切り、自立をうながしている」と説明。「飢餓の撲滅には民間企業や政府、みなさまの協力が必要です。今後日本においても支援の輪が広がることを願っています」と呼びかけた。

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国連WFP日本事務所代表の焼家直絵氏

スタートアップも大企業も参入

第2部では、フードテック・エバンジェリストの外村仁氏が「Food Techの潮流と社会貢献」と題して講演した。

外村氏はフードテックについて、「フード業界の問題や課題に、テクノロジーや資金が流れ込んで新しく生まれたハイブリッドな産業の一つ。食品そのものだけでなく、パッケージやフードロス、調理のテクノロジーなど非常に範囲が広い」と説明した。先進地の米国ではマイクロソフトの元CTO(最高技術責任者)ネイサン・ミアボルド氏が2011年に出した料理科学本をきっかけに、フードテックが注目されるようになった。日本でもその後フードテックへの関心が高まり、20年には雑誌や本で取り上げられるようになり、「フードテック元年」とも呼べる状況になったという。

外村氏がパートナーとして参画するベンチャーキャピタルのスクラムベンチャーズでは、20年9月から、食にかかわる企業と世界のスタートアップをマッチングして新事業の創出をめざすプログラム「Food Tech Studio - Bites!」を始めた。「日本の食品会社は、実は『世界最初』を生み出してきた元祖イノベーター。その底力と、新興イノベーターの新しい考え方やスピード感を一緒にして何かできないかと思った」。選ばれた85社のスタートアップのなかから、肉や魚を常温で流通させる技術を持つ香港企業などの例を紹介した。

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「Food Tech Studio - Bites!」の概要(外村氏のプレゼン資料から)

また、外村氏は「フードテック全般の進展、飢餓の撲滅や栄養不足の解消には、大企業が動くのがたいへん大事だ」としたうえで、大企業による取り組み例として日清食品グループの「完全栄養食」の研究にふれた。とんかつ定食などを試食した経験を語り、「普通にうまい。ナポリタンは田舎の喫茶店で食べるナポリタンそのものだが、中身をみるとカロリーは半分、食塩は3分の2などと見えないところで工夫している」と紹介。「フードテックを知ってどう使うか、どう選ぶかが社会課題の解決に役立つ」と語った。

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フードテック・エバンジェリストの外村仁氏

トレハロースを農業で活用 林原

第3部の前半は、「企業が実施する食や栄養問題の取り組み」として、協賛企業の株式会社林原と不二製油グループ本社株式会社がそれぞれの活動を紹介した。

創業138年の林原は、岡山で水あめ製造業として事業を始めた。微生物や酵素を自然由来の原料と掛け合わせることで多機能糖質を開発し、製菓や健康食品などの素材を提供している。社長の安場直樹氏は「創立当初から、人々の生活をより良くしたいという思いでさまざまな素材を開発している。その原点は、長年培ってきたバイオ技術を駆使して、自然の恵みを生かしながら、どのようにして持続可能な社会に貢献するのかということだ」と述べた。

林原が開発した多機能糖質「トレハロース」には、野菜や果物の鮮度を保持して賞味期限を延ばしたり、たんぱく質の劣化を防いで品質を保ったりする効果があり、食品だけでなく農業分野でも注目されているという。安場氏は「化学肥料や農薬を減らし、気候変動に影響されない作物の生産維持に向けた取り組みを積極的に始めています」と説明したうえで、「地球の健康、すべての人にウェルビーイングを、というゴールに向けて、持続可能な社会の実現に貢献してまいりたいと考えています」と語った。

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トレハロースの効果(安場氏のプレゼン資料から)
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林原社長の安場直樹氏

大豆に注目 不二製油グループ本社

不二製油グループ本社からは、執行役員で未来創造研究所長の中村彰宏氏がプレゼンテーションをおこなった。不二製油グループ本社は1950年設立で、「植物の力を最大限に活用することで素材を提供し、お客さまの困りごとを解決することをモットーにしている会社」(中村氏)だ。パーム油やカカオ、大豆を原材料に、植物性の油脂や業務用チョコレート、ホイップクリーム、マーガリンなどに加工するほか、大豆を肉のように加工した食材を提供している。

中村氏は、不二製油グループ本社が大事にしている言葉として「PBFS(Plant-Based Food Solutions)」と「人のために働く」の二つを挙げ、「食品素材を通じて、食の偏在、環境負荷、高齢化、人権といった課題を解決していきたい」と話した。特に注目してきた素材として大豆を挙げ、肉と比べて生産時に使う水やエネルギーが少なくて済み、栄養素をバランスよく含んでいるという利点を説明した。不二製油グループ本社では、「USS(ウルトラ・ソイ・セパレーション)」という技術で大豆のクリーム、チーズなど乳製品の代用品をつくっているとして、「サステイナブルフードのプラットフォーマーとして、地球の健康と人の健康に貢献していきたいと思っています」とまとめた。

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不二製油グループ本社が掲げる「PBFS」(中村氏のプレゼン資料から)
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不二製油グループ本社執行役員の中村彰宏氏

新しい食、おいしさも追求

第3部後半は、「『栄養』の再定義と技術の可能性~日本企業の役割とは~」と題したパネルディスカッション。焼家氏、安場氏、外村氏に不二製油グループ本社の前社長で特別顧問の清水洋史氏が加わり、議論を深めた。コーディネーターは朝日新聞SDGs ACTION!の高橋万見子編集長が務めた。

まず大豆の活用が話題にのぼり、不二製油グループ本社の清水氏は「飢餓と先進国の飽食という二つの問題を解決できるのが大豆だと思います」。林原の安場氏は「プラントベースドフードはいろいろ出てきたが、まだおいしくない。いかにジューシーにおいしく食べられるようにするかの研究開発を進めています」と述べた。

外村氏は「体にいいから無理して食べる、というのは長続きしないと思う」と指摘。ラーメンチェーン一風堂が提供している、動物性食材を使わないラーメンの例などを挙げながら、「『我慢して』や『代わりに』ではなく、同じぐらいか、場合によってはよりおいしいものをつくっていくことが大事だ」と述べた。これを受けて、林原の安場氏は「素材メーカーはいままでお客さまの食品メーカーを向いていたが、消費者が何を求めているのかを見ながら開発する重要性を感じています」と述べた。

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林原社長の安場直樹氏
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フードテック・エバンジェリストの外村仁氏

フードテックの途上国支援への導入をめぐって、WFPの焼家氏は、「農業や物流も含め、技術で支援を効率化できる。民間企業の知見や技術をもっと積極的に取り入れたい」と話した。そのうえで「環境に負荷をかけず、また現地で調達やカスタマイズができる素材を使って持続可能性を高めることも重要ではないか」として、太陽光パネルで発電した電気で学校給食を調理する試みを紹介した。不二製油グループ本社の清水氏は「それぞれの文化や歴史をふまえてどういうものがおいしいのかを考えることと、メーカーからみて『これはおいしいはずだ』ということ、両方の要素がなければいけないと思います」と述べた。

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国連WFP日本事務所代表の焼家直絵氏
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不二製油グループ本社特別顧問の清水洋史氏

収率アップや土壌改良へ、農業も進化

また、トレハロースの農業分野への活用について、林原の安場氏は「研究開発を進めている。大豆の成長をうながす根粒菌にトレハロースを加えることで根粒菌が活性化することがわかった。収率を上げ、化学肥料や化学農薬も削減できます」と説明した。不二製油グループ本社の清水氏は、大豆から出るホエーが土壌改良に効くことを披露した。

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朝日新聞SDGs ACTION!の高橋万見子編集長

終盤には参加者から事前に寄せられた質問に答えるコーナーもあった。「寄付をしても人々に届かない気がする。どうすれば力になれるのか」という問いに対し、WFPの焼家氏が「いただいた寄付を確実に届けるために日々現場で努力しています。ウェブサイトにキャンペーンやイベントの情報を掲載しており、『ShareTheMeal』というアプリを使って85円から寄付ができる仕組みもあります。ぜひご理解とご協力をいただければ」と述べた。

「フードテックが抱える課題は」との質問には、外村氏が「テクノロジーが入って産業が変わっていくときには、予期しないことが必ずある。そうなったときにすぐ対処することのほうがより大事です。考え方を変えて、『とりあえずやってみる』ことをやっていただきたい」と語った。

パネルディスカッション登壇者
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国連世界食糧計画 日本事務所代表
焼家直絵氏 Naoe Yakiya
国連WFPの職員として約20年のキャリアを持つ。人道支援や開発支援に携わる多様なポストを歴任し、2017年より国連WFP日本事務所代表に就任。国連WFP入職前は、イラク、コソボ、東ティモールにてNGO、国連平和維持活動などに従事。
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フードテック・エバンジェリスト
外村 仁氏 Hitoshi Hokamura
シリコンバレーで20年以上スタートアップ育成を手がける。フードテックにも黎明期から関わり「Smart Kitchen Summit Japan」「Food Tech Studio -Bites!」などを立ち上げ、日本での普及に尽力。『フードテック革命』監修・共著。スクラムスタジオやAll Turtles、総務省「異能ベーション」等のアドバイザー。
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株式会社 林 原 代表取締役社長
安場直樹氏 Naoki Yasuba
1984年、神戸大農卒。外資系企業3社で事業戦略・営業キャリアを積んだのち、日本企業・技術のポテンシャルを海外に拡げることを自身の使命と感じ、2012年に長瀬産業入社。15年に同社執行役員、2018年より現職。趣味は神社・仏閣巡り。三重県出身。
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不二製油グループ本社株式会社 特別顧問
清水洋史氏 Hiroshi Shimizu
1977年、不二製油に入社。新素材事業部長などを経て2004年、取締役に。常務、専務を経て2013年、初の営業出身者として代表取締役社長に就任。早くからESG経営に舵を切り、会社をけん引した。2015年、持ち株会社移行とともにグループCEO。2021年、後進に道を譲り現職。
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コーディネーター
朝日新聞社 SDGs ACTION! 編集長/高橋万見子
たかはし・まみこ/経済記者として金融、社会保障政策などを担当。2016年から朝日新聞盛岡総局長として、金融、情報通信、新技術のほか、電力・エネルギーや福島の復興などを担当。19年9月からメディアビジネス担当補佐に就任。
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