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SDGs達成のカギを握る環境問題への取り組み WWFと考える~SDGsの実践~ プロローグ

SDGs達成のカギを握る環境問題への取り組み WWFと考える~SDGsの実践~ プロローグ
米航空宇宙局(NASA)提供
WWFジャパン事務局長/東梅貞義

今や流行語大賞にもノミネートされるほど広く認識されるようになったSDGs。期限とされる2030年までに、本当に達成できるのでしょうか? この新シリーズでは、環境保全に取り組む国際環境保全団体WWFジャパン(世界自然保護基金ジャパン)が、SDGs達成に貢献するためのカギとなる視点や取り組みを、世界の最新の動きと共に紹介します。

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東梅貞義(とうばい・さだよし)
1965年生まれ。国際基督教大学卒業後、英国エディンバラ大学で自然資源管理を専攻し、修士号(Master of Science)取得。1992年にWWFジャパンに入局し、日本国内の重要湿地の保全活動に携わる。自然保護室長やシニアダイレクターとして野生生物、森林、海洋水産、気候・エネルギー、国内の自然保護活動を統括してきた。2020年7月から事務局長。

意識すべき17目標の「つながり」

SDGsに掲げられた17の世界的目標のうち、どれが自社のビジネスに深く関係しているのか。また、どのような貢献が可能なのか。目標単位で活動を検討している企業関係者の方も多いと思います。しかし、SDGsの各目標は本来、個々に独立したものではありません。

たとえば、貧困や自然破壊、エネルギー、生産や消費といったSDGsの重要な課題は、その根本的なところで相互に深く関係し、連鎖した形で生じています。そして国際的には、こうしたSDGsの目標は他の課題や全体との「つながり」の中で達成していくべきものとされています。

下の図を見てみましょう。これは17の目標の関係性を示したものです。一番下には目標6の水、13の気候変動、14の海洋、15の森林などの陸域に関する目標が置かれています。これはあらゆる命の営みを支える母体である、地球の自然環境そのものに直結する目標です。その一つ上の層を形成するのは、人の社会の形成と発展にかかわる目標。そして、人の社会活動の一つとしての経済に関する目標が、さらにその上に乗る形で位置付けられています。

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「経済」「社会」に関わるSDGsの達成は、「自然環境」に関するSDGsの達成に依存している(出典:ストックホルム・レジリエンス・センター)

この構図は、3段重ねのウェディングケーキに見立てて「ウェディングケーキモデル」と呼ばれています。経済の目標は社会に関連した目標に支えられ、さらにその2分野の目標は自然環境に関係した目標に支えられていることを示しています。つまり、社会的分野での目標の達成を目指すならば、それを支える自然環境関連の目標の達成にもしっかりと目を向け、取り組みを行っていかなければならない、ということです。

逆に、自然環境関連の目標が十分に達成できていない場合、その土台の上に建てられた社会や経済の目標は、仮に一部の達成が可能であったとしても、十分で永続的な達成は難しいということになります。

「8目標が達成困難に」国際機関が警鐘

そして、その危機は実際に起きようとしています。2019年、政府間組織「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)」は、自然・生物多様性がこのまま減少を続けると、SDGsの目標のうちの八つと、それに属する35ターゲットの達成が困難になる、と警鐘を鳴らしました。

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IPBESの報告書では、貧困(1)、飢餓(2)、健康(3)、水(6)、まちづくり(11)、気候変動(13)、海の豊かさ(14)、陸の豊かさ (15)の44のターゲットの80%(35ターゲット)が、生物多様性の減少トレンドにより達成が困難となると指摘している(ストックホルム・レジリエンス・センターの資料をもとに編集部作成)

達成困難とされる八つの目標のうち四つが、SDGs全ての土台にあたる自然環境や生態系に関連した目標で占められています。そして、実際にこの自然環境の劣化や喪失は過去半世紀の間、着実に進んできました。

WWFが2年に一度発表している、環境破壊の現状を示した報告書『生きている地球レポート(Living Planet Report)』では、1970年以降、地球上の生物多様性の豊かさが、実に68%も失われたことが示されました。

この生物多様性の豊かさを示す指数(LPI:Living Planet Index)は、世界各地の湖沼や河川といった「淡水」、サンゴ礁などの「海洋」、さまざまなタイプの森林をはじめとする「陸域」のそれぞれに生息する約4400種の脊椎(せきつい)動物について、約2万1000の個体群の規模の変化を基に試算されています。つまり、この指数が68%減少したということは、1970年以降、水、海、陸の生物多様性を構成するさまざまな野生生物とその生息環境が、それだけ豊かさを失い、劣化し、失われてきた危機的状況を意味しています。

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世界の「生きている地球指数」(出典:WWFジャパンのウェブサイト

また、劣化が進む水、海、陸の自然環境は、SDGsの目標6、14、15にそのまま対応しています。こうした地球上の生物多様性の劣化は、SDGsの社会分野でIPBESが達成困難と指摘する四つの目標のみならず、他の上位の目標にも影響を及ぼす可能性があり、SDGsの達成を困難にする深刻な危機でもあります。

SDGsの目標については、とかく「どの目標が自社の産業分野やビジネスに関係しているのか?」という点に目が行きがちですが、実際のところは、直結する目標以外にも深くかかわる重要な目標が存在することを、忘れるべきではありません。

世界のリーダーたちが感じている危機

このような生物多様性の喪失が続く現状に対し、世界のビジネス界のリーダーも危機感を募らせています。

世界経済フォーラムが2021年に発表した報告書『The Global Risks Report 2021』では、「ビジネスに及ぼす影響の大きさ」と「発生する確率」の二つの軸で見た時、1位の気候変動対策の失敗、2位の感染症のパンデミックに次ぐ三つ目の大きなビジネス上のリスクとして、生物多様性の減少が挙げられました。

ビジネスへの影響の大きさの軸だけで見ると、気候変動対策の失敗がリスクのTOP5に初めて入ったのは2013年。その後、2021年までにリスクの1位に2回、2位に3回選ばれました。一方、生物多様性の減少がTOP5に入ったのは2020年が初めてです。この数年で、ビジネス界がこの問題をいかに重視するようになってきているかがわかります。

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The Global Risks Report 2021の図表をもとに編集部作成

水、海、陸、三つの生物多様性と気候変動にかかわる四つのSDGs目標の達成がいかに重要であり、その失敗がいかに世界的なビジネスリスクにつながるか。これについては、ビジネス界だけでなく、各国の政治の世界においても、過去2年間に広く認識されるようになりました。

まず、2020年9月に開催された「自然と人々のためのリーダーズ・イベント」で、世界の約70カ国・地域の代表が「自然回復の誓約:Leaders Pledge for Nature」を交わし、2021年12月現在その数は93に増え続けています。これは、各国政府が2020年以降に向けた生物多様性保全のための野心的な世界枠組みを進展させ、2030年までに、生物多様性の減少を回復に反転させることを約束したものです。日本も遅まきながら、2021年5月に菅義偉首相(当時)が誓約への参加を表明しました。

2021年1月にフランスで開かれた生物多様性ワンプラネット・サミットでも、フランスとコスタリカの呼びかけにより「自然と人々のための高い野心連合(High Ambition Coalition for Nature and People)」が発足。日本を含む50以上の国と地域がこれに参加し、2030年までに世界の陸域と海域の30%を保護区とすることを約束しました。またこの中で、イギリス政府は30億ポンド(約4400億円)の支援を表明。フランスも気候変動に関連した海外援助の30%を自然環境の力を利用した対策(Nature-based solutions)に充て、生物多様性保全を支援すると表明するなど、各国政府による意欲的な取り組みが発表されました。

気候変動対策についても、アメリカでは大統領選挙前の2020年後半から、バイデン大統領候補(当時)が「2050年までに米国の温室効果ガスの排出量を実質ゼロ」にすることを公約。さらに、大統領就任後の2021年4月には、自ら主催した気候変動サミットにおいて、2030年までに米国が排出量を50~52%削減する目標(2005年比)を掲げることを公表しました。

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気候変動サミットで発言するバイデン米大統領=2021年4月22日、米国務省ウェブサイトの中継動画から

求められる取り組みと変革

日本でも2020年10月、菅首相(当時)が所信表明演説で、日本として2050年にカーボンニュートラルを目指す方針を発表。翌年4月の気候変動サミット直前には「2030年度までに温室効果ガスの46%削減(13年度比)を目指す」という目標を決定し、さらに「50%の高みに向け、挑戦を続ける」ことを表明しました。

こうした動きをふまえ、2021年11月に開かれた国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)や、2022年4月に第2部が開催される国連生物多様性条約締約国会議(CBD-COP15)での議論と決定が、どのような形で各国の政策や経済に影響を及ぼすのか。注目していかねばなりません。

2021~22年は、SDGsの根幹を支える、自然環境に関連した四つの目標をめぐるさまざまな取り組みが、国際的にも大きな転換点を迎えるタイミングです。そして、生物多様性回復と気候変動対策、いずれの取り組みにおいても重要になるのは、2030年、2050年という「ゴール」に設定されている年。それまでに、それぞれ何を実現するのか? 各国政府とビジネス分野の関係者には、目標を厳しく定め、ゴールを目指した取り組みと変革(=トランジション)を進めていくことが求められるでしょう。

本連載では次回以降、SDGs達成に向けた世界の取り組みや、こうした観点に立った本質的な取り組みの具体的な事例、企業がアクションを起こす方法を紹介していきます。

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