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海を汚し続けるプラスチックごみ データで見るSDGs【10】

海を汚し続けるプラスチックごみ データで見るSDGs【10】
日本総合研究所シニアスペシャリスト/村上 芽

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村上 芽(むらかみ・めぐむ)
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト。金融機関勤務を経て2003年、日本総研に入社。専門・研究分野はSDGs、企業のESG評価、環境と金融など。サステイナビリティー人材の育成や子どもの参加に力を入れている。『少子化する世界』、『SDGs入門』(共著)、『図解SDGs入門』など著書多数。

2050年には魚の量を上回る

2015年ごろからSDGsと並行して広く知られるようになった環境問題が、海洋プラスチックごみではないでしょうか。筆者は先日、高校生がSDGsに取り組むコンテストに関わりましたが、選ばれるテーマからも、海洋プラスチックごみへの関心の高さを感じました。

art_00227_本文1(カミロビーチ)
プラスチックごみに覆われたハワイ島のカミロビーチ(2017年、撮影・朝日新聞)

海洋プラスチックごみがどんなに深刻な問題であるのかを説明する際、非常にインパクトがあるのが、「2050年には、海の魚の量を海洋プラスチックごみの量が上回る 」という比較です。最近は、あまり正確な出所の記載なく使われることも多いですが、16年のダボス会議で英国 のエレン・マッカーサー財団が発表した報告書「The New Plastics Economy: Rethinking the Future of Plastics」に記載されました。

なお、この報告書は17年12月にThe New Plastics Economy: Rethinking the future of plastics & catalysing actionに進展し、21年7月にも更新されています。

報告書の注釈22と25には、以下の前提が書かれています。

・重量での比較であること

・海にたまっているプラスチックごみの量:1.5億t(15年)

・海に流出しているプラスチックごみの年間量:10年に800万t、15年に910万t。これをもとに25年までの伸び率を年率5%とし、25年~50年までは国際機関が予測したGDPの長期成長率を勘案し、年率3.5%とする

・海洋の魚資源は、50年まで不変とする

その後、18年にカナダのシャルルボワで開かれたG7サミット(主要7カ国首脳会議)では「海洋プラスチック憲章」が採択され、19年に開かれたG20大阪サミットでは「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が発表されました。

art_00227_本文2(G20安倍首相)
G20大阪サミットで議長国会見に臨む安倍晋三首相(撮影・朝日新聞)

現在、世界のさまざまな国で使い捨てプラスチックに対する規制が強化されています。一方で、漁業で使われる網がそのまま海に廃棄されているなど、容器や包装物以外の原因も明らかになってきました。

データ基盤を作ろうという動きもあります。日本政府も20年9月、「海洋プラスチックごみのモニタリング手法調和とデータ整備に関するG20ワークショップ」を開催し、モニタリングデータの共有システムを提案しています。

国連環境計画の最新リポートは……

直近はどうでしょうか。国連環境計画が21年10月21日に発表した「From Pollution to Solution: a global assessment of marine litter and plastic pollution」は、全151ページのうち参考資料だけで35ページに及び、先行する研究や文献を、かなり網羅的に押さえています。

データに関する主な点は以下のとおりです。

・1950年から2017年までに製造されたプラスチック製品は、累計92億t。うち、いまも使われているのは29億tで、3分の1に満たない。半分以上の53億tが埋め立て・廃棄され、10億tが焼却された

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出所:国連環境計画「「From Pollution to Solution: a global assessment of marine litter and plastic pollution」P18 Figure iより筆者和訳

・現在、海中にあるプラスチックごみは、7500万t~1.99億tと推計

・海のエコシステムへのプラスチックごみの排出は、推計で16年に900~2300万t。プラスチックの製造量は今後も増加し続け、ごみも増えていく見込み

・すべての海洋ごみのうち、少なくとも85%がプラスチック。海の生物に致命的な影響を及ぼしている。温室効果ガス吸収の観点からも、プランクトンやマングローブ、藻類、サンゴ礁などに悪影響が及ぶ

・沿岸部や港湾、養殖などにかかる清掃関連費用は、18年に世界全体で60~190億ドルにのぼると推計され、世界経済の隠れた負担になっている

・20年にプラスチック関連市場は5800億ドルだったが、海の自然資本に及ぶ損失は、金銭評価で毎年2兆5000億ドルにのぼる

・特に生態系や人間の健康へのリスクが高いホットスポットがわかってきている。地中海、北極海、東南アジア沿岸部が代表例。魚介類への依存の大きい先住民コミュニティーで影響が大きい

・プラスチック製造に伴うCO₂排出量は40年までに2.1Gt(1ギガトン=10億t) に増え、世界のカーボンバジェット(※)の19%に達するという推計もある

※カーボンバジェット 気温上昇をあるレベルに抑えようとする場合に上限となる温室効果ガスの累積排出量(過去の排出量+これからの排出量)。過去の推計排出量はわかるため、気温上昇を何度までに抑えたいかを決めれば、今後、どれくらい温室効果ガスの排出余地があるかが計算できる。

・プラスチックのリサイクル率は10%に満たない。生分解性と表記されているプラスチックも、実際に分解されるまでには長期間を要し、そのあいだに一般のプラスチックと同じくらいのリスクがあるといえる

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リサイクル用に圧縮して積まれた容器包装プラスチック(撮影・朝日新聞)

いかがでしょう。世界中でさまざまなイニシアチブによりプラスチック対策が進められてはいるものの、まだまだ状況を反転させる勢いとは言えないようです。

データ整備についても、重量に関する推計値などにはまだかなり幅があるように思えます。「誰が、どこで、どれだけ出しているか」を知りたいと思っても、データが大きすぎて想像がつかない感覚になります。

一人ひとりがやるべきこと

国内では、東京湾、伊勢湾、大阪湾、別府湾などでマイクロプラスチックに関する実態調査がおこなわれています。調査方法は、海で浮遊物をすくいあげて顕微鏡で調べるという、非常に細かい作業の積み上げです。大阪府が実施した調査結果を読むと、発泡スチロールやスプーンなどの食器、食品容器など、私たちが生活で身近に使うものが原因であることがわかります。

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東京湾で採集されたムラサキイガイ。体内から繊維状のマイクロプラスチックが見つかった(撮影・朝日新聞)

電気などのエネルギー消費では「電気代」「ガソリン代」といった指標があるのに対し、私たちの生活にこれまで「プラスチック使用料」のようなものはありませんでした。国内で20年7月から実施されたレジ袋の有料化は、唯一それに近いものであるといえるでしょう。

まずは、一人ひとりがこうしたプラスチックごみの特性を理解したうえで、使用量を減らす工夫を続け、ごみ収集やリサイクルシステムがまだ脆弱な地域や国に改善を求めていく必要がありそうです。

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