「誰もが楽しめる街へ」 目の不自由な人のイルミネーションツアー、東京・丸の内で

冬の風物詩・イルミネーションを、目の不自由な人たちにも楽しんでほしい――。そんなイベントが12月中旬、東京・丸の内で開かれた。視覚障害者たちがボランティアのガイドに付き添われながらイルミネーションの下を歩き、おしゃべりしながらクリスマスシーズンの華やいだ街の雰囲気を楽しんだ。(編集部・竹山栄太郎)
ボランティアがサポート
東京駅周辺の丸の内仲通りでは、街路樹を彩るイルミネーションの点灯に合わせて、路上に公園空間をつくる社会実験「Marunouchi Street Park 2021 Winter」が12月25日まで開かれている。目の不自由な人のためのウォーキングツアー「MSP Illumination Tour!」はこの一環で15、16日の夜におこなわれた。空間のデザインや設計を手がける乃村工藝社が主催し、NPO法人大丸有エリアマネジメント協会と、障害者雇用支援に取り組むベンチャー企業のスタートラインが協力した。


ツアーに参加したのは視覚障害のある16人。乃村工藝社と三菱地所グループの社員らがサポートした。1人の視覚障害者に2人のボランティアが付き添い、安全を守りながら約300mの距離を案内する。事前に、スタートラインの担当者がそれぞれに配慮が必要なことや楽しみにしていることを確認したり、ボランティアに参加者と話すときのポイントをレクチャーしたりしたという。

参加者たちは、シャンパンゴールドに彩られたイルミネーションの下をのんびりと歩いた。ときおり立ち止まってストリートピアノの演奏に聴き入ったり、物にさわって感触を確かめたりもした。ガイドは「ここは地面が鏡のようになっていて、イルミネーションの光が反射するんです」「岩手県の小岩井農場のウラジロモミを使ったクリスマスツリーです。本物のモミの木なんです」などと様子を伝えていた。


いつもは家のなかでじっと…
ツアーに参加した重田雅敏さんは網膜色素変性症という病気を患い、20年ほど前に失明した。光が反射する「光の回廊」や、屋外なのに温かい「ホットベンチ」の説明を聞いて気に入ったといい、「都市に遊びの場所があることがとても大事だと思いました。普通の街は殺風景で、殺伐として人が行き来するだけという感じがありますけど、丸の内の人は幸せだなと思います」と話した。
「最初はどんなふうになるかなと思いましたが、新しい発見もあり、思ったよりずっと楽しかったです。いつもは家のなかでじっとしていることが多いので、いろんな方としゃべりながら歩けるのはいい経験でした」

スタートラインは2009年創業で、首都圏に障害者向けのサテライトオフィスを設けたり、障害者がハーブや葉物野菜を育てる屋内型農園「IBUKI」を運営したりもしている。街プロジェクト担当リーダーの眞島哲也さんは「心のバリアフリーを進めることを意識しました。今回のイベントは大きな第一歩ですが、『誰もが楽しめる街』は当たり前のようでまだまだ難しい。思いのある人たちと一緒にアクションし続けていきたいと思っています」と話した。
アイマスクで体験
筆者も事前に、アイマスクをつけた状態でツアーを体験させてもらった。ガイド役の乃村工藝社の安藤薫さんに、コートの左腕の部分をつかませてもらいながら、目の不自由な人たちが歩いたのと同じルートを歩いた。
ルートの最初にあるのが、重田さんも気に入ったという「光の回廊」だ。アスファルトの路面とは足の感触が変わり、自分の足音がこつこつと聞こえる。「床面がミラーのようになっていて、私たちの両脇にあるイルミネーションが映り込んでいます」と安藤さん。その先には「ピンク色のクリスマスツリー」が飾られている、と聞いた。


歩いているうちに人の話し声が近づいてくる。ぶつかるのでは? と思って足がすくんだ。「コーヒーを売るキッチンカーが止まっていて、お客さんが並んでいます。家族連れ、カップルの方と、年齢層や男女もさまざまです」と安藤さんが教えてくれた。もうしばらく行くと、今度はカン、カンという甲高い音。何だろう? 「斜め右にビリヤード台が3台置いてあるんです」
さらに進むと、2階建ての「インフォメーションセンター」がある。「2階に上がってみましょう。右手で手すりにおつかまりください」。安藤さんに勧められ、コートから手を離すと、頼るものがなくなり急に不安になった。右手を左右に動かすと、ひんやりとした棒のような手すりが見つかった。段差がどれくらいあるのか、階段は続くのかもう終わりなのか。おそるおそる上っていった。「20人ぐらいが入れるスペースになっていて、フォトスポットにもなっています。木の枝が近くまで伸びているので、イルミネーションの電球を触れるんです」。ゆっくり手を伸ばすと、ペンのような細いかたちの何かが手に触れた。

並んで歩いた時間は15分ほどだったが、安藤さんの話を聞きながら「シャンパンゴールドのイルミネーション」や「ピンク色のクリスマスツリー」、ビリヤードをする人々の姿など、クリスマスシーズンのにぎやかな街の光景を自分なりに思い描いた。革靴の底でちょっとした段差を感じたり、声の大きさで近くの人との距離を測ったりしながら、普段歩くときにはあまり気にならない街の表情を読み取れた気がした。それと同時に、ガイドなしには楽しく歩き通せなかっただろうとも感じた。
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