ESG投資とは? 言葉の意味、一般的な投資との違いを解説 金融・経済から見えるSDGsのトレンド【1】

SDGsの達成に向けて、企業の変革を後押しするマネーの力に注目が集まっています。この連載では、SDGsに関連した金融業界のトレンドや動向を、大和証券グループのシンクタンク・大和総研金融調査部SDGsコンサルティング室の研究員が交代で解説していきます。(月1回掲載予定)

株式会社大和総研 金融調査部 兼 政策調査部 研究員。2018年大和総研入社。研究・専門分野はESG投資、環境・エネルギー政策。著書に『この一冊でわかる 世界経済の新常識2022』(日経BP、共著)、ほか学術論文(共著)を複数執筆。修士(工学)。
環境・社会・ガバナンスを考慮した投資
「ESG投資」という言葉を知っているだろうか。世間では気候変動に対する関心が高まっているが、金融業界で注目されるキーワードがESG投資だ。
実はこの両者、まったく関係がないわけではない。ESGという略語は、それぞれEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字を表しており、Eの中には当然、環境問題の一種である気候変動も含まれる。これらESG要素を考慮する投資手法がESG投資というわけだ。
では、今なぜESG投資が注目されているのだろうか。言葉の定義やその他の投資手法との違いなどから、ESG投資とは何かをひもといてみよう。
ESG投資とPRI(責任投資原則)
ESG投資の始まりは、2006年に国連が公表したPRI(責任投資原則)である。詳細は図1の通りだが、ここではESGという要素のほか、投資家が責任ある投資を行うための6原則が提唱された。PRIへの署名は、これからの投資行動にESG要素を反映していく意思を明確にすることを意味している。

PRIの署名機関数の推移を見てみよう。原則が公表された2006年から2021年までに約60倍に増えている。2015年には世界最大の投資家である日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が署名したことで、国内でも一層関心が高まった。

経済的リターンが前提の投資手法
次に、ESG投資とその他の投資手法との違いを、経済的リターンと社会的リターン(インパクト)の視点から見てみよう。経済的リターンとは金銭的・財務的なリターン、社会的リターンとは環境・社会問題の改善を指す。
今までの投資手法などを整理すると、経済的リターンを追い求めるのが一般的な投資、社会的リターンを最も重視するのが寄付となる。多くの社会課題が包摂される、ESG要素を考慮するESG投資はその間に位置するといえよう。社会的リターンを得ることを意図するインパクト投資も同様だ。

とはいえ、ESG投資は経済的リターンの獲得を前提とする。前述のGPIFをはじめ、受託者責任を負っている多くの機関投資家がESG投資を行っているのは、ESG要素が投資パフォーマンスに影響するとされているためである。
受託者責任とは、受託者が受益者の利益を最大化する義務と責任を負うというものであり、機関投資家は、年金基金や保険会社など、顧客から集めた資金をまとめて管理・運用する投資家を指す。例えば、年金基金は受益者である年金加入者の年金を運用しているため、年金基金はこの利益の最大化を目指すことになる。
各国・地域によって解釈が若干異なるものの、基本的に利益とは経済的リターンを指し、これを追求するという前提は各国共通である。
ESG要素を考慮すると投資の経済的リターンにも正の影響があることが、多くの学術論文で確認されている。ESG投資は受託者責任に反するものではないという認識は世界的に広がっており、日本においてもESG要素の考慮は受託者責任を果たす上で望ましい対応と位置づけられている。
ESGの要素と取り組みへの評価
では、ESG要素とは具体的に何を指しているのだろうか。
Eは気候変動や生物多様性などの環境問題、Sには従業員の健康や地域社会などステークホルダーにかかる社会的な問題、Gは取締役会の構成や法令順守といった企業統治にかかる要素が含まれる。2021年のCOP26(気候変動枠組み条約締約国会議) で話題になった気候変動も、ESG要素で言えばEの一部にすぎない。ESG要素はもっと包括的に企業経営にかかる機会やリスクを整理したものといえる。

もちろん、企業の事業内容によって、これらの要素における重要度は変わってくる。通常、投資家がESG投資を行う際は、企業の公開情報(統合報告書やウェブサイトなど)やエンゲージメント(企業と投資家との対話)などによって企業の取り組みぶりを評価する(以下、ESG評価)。仮に、複数の企業が同じ情報を公開する、あるいは同じ経営ビジョンを投資家に伝えた場合でも、業種等が異なればESG評価には差異が生じうる。
狭義のESG投資と広義のESG投資
最後に、改めてESG投資の定義について考えたい。
ここまで述べた通り、ESG投資は経済的リターンを得ることを前提とした、財務情報以外にも多様に存在するESG要素を考慮する投資手法である。ただ、ESG投資という言葉に厳密な定義が存在するわけではない。
海外では環境や社会を考慮する投資を総称して「サステナブル投資」という言葉も使われている。日本でいうところのESG投資はサステナブル投資と同義の使われ方をすることが多い。サステナブル投資を推進する国際団体GSIA(Global Sustainable Investment Alliance)の定義を参照すると、サステナブル投資の手法の一つとして「ESGインテグレーション」があり、海外でESG投資という場合、基本的にはこのESGインテグレーションを指すようだ。

ESG投資の定義については、JSIF(日本サステナブル投資フォーラム)の荒井勝会長が「日本サステナブル投資白書2020」(2021年4月発行)の解説で、単にESG投資とするのではなく、ESGインテグレーションを指す「狭義のESG投資」や、GSIAのサステナブル投資と同義となる「広義のESG投資」といった使い分けを提唱している。
日本の官公庁の公表文書でも「ESG投資」は広い意味で使われることがほとんどのため、この連載では「ESG投資」を広義にとらえて使用していくが、 筆者は荒井会長の案に賛成である。
海外の文献では、ESG InvestmentよりもESG IntegrationやESG Incorporation(あるいはIncorporate)という表記を見かけることが多く、より詳細な言葉の使い分けがされている。このような使い分けがあると、少なくとも文献によってESG投資の定義が異なることは起こり得ないだろうし、それを読み解く金融関係者もいちいち定義を気にすることもなくなる。
ESG投資が拡大している現状を踏まえると今後、より深い議論が求められるのは間違いない。その際に、言葉の定義などの前提知識が異なると誤解が生じたり論点があいまいになったりする可能性が否めない。今すぐにすべてを改めることは難しいが、そろそろESG投資をはじめ、関連する言葉を精査・再定義する段階にきているのかもしれない。
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