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修学旅行でSDGs体験、駒場学園高の事例から ビジネスパーソンのためのSDGs講座【16】

修学旅行でSDGs体験、駒場学園高の事例から ビジネスパーソンのためのSDGs講座【16】
横田アソシエイツ代表取締役/横田浩一

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横田浩一(よこた・こういち)
慶応義塾大大学院特任教授。一般社団法人アンカー代表理事。企業のブランディング、マーケティング、SDGsなどのコンサルタントを務め、地方創生や高校のSDGs教育にも携わる。岩手県釜石市地方創生アドバイザー、セブン銀行SDGsアドバイザー。共著に「SDGsの本質」「ソーシャルインパクト」など多数。

修学旅行を探究学習の一部として位置付け、SDGsをテーマにした学びの場に活用しようという学校がある。2021年12月に修学旅行を実施した駒場学園高等学校(東京)の取り組みを紹介する。

市の魅力向上策をプレゼン

駒場学園高では、2021年から修学旅行を「SDGs体験旅行」としている。2021年12月に北海道、島根県、広島県、愛媛県、福岡県、鹿児島県など9コースに分かれて、普通科の2年生約500名が5日間の修学旅行に参加した。SDGs教育の一環として、事前に半年以上かけ、総合的な探究の時間をつかって地方創生や各地域の現状について学んだ上で体験旅行を実施。帰った後に事後学習もおこなった。生徒たちの体験内容を、島根県と北海道の例で見てみよう。

島根県松江コースでは、「松江を豊かにする」をテーマに、「松江市観光PR」と「玉造温泉活性化」の二つのプロジェクトに分かれ、東京の高校生の視点でシティープロモーション案を提案するプレゼンテーション大会を実施した。

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松江市でのプレゼンテーション大会(TOKYO EDUCATION LAB撮影)

「松江市観光PR」プロジェクトでは、「松江グラマーを増やそう」と題して、市の公式インスタグラムの有効活用策を発表したチームが優勝した。現状の課題を分析し、若者にとって親しみやすい内容の投稿や、写真映えするスポットの新設などを提案した。

もう一方の「玉造温泉活性化」プロジェクトで優勝したのは、家族連れをターゲットにした温泉周辺でのキャンプ場整備を提案したチーム。竹林面積の広さに着目し、サステイナブル(持続可能)な視点で、竹をつかったキャンプ用品やグッズを販売するというアイデアを盛り込んだ。

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松江市での生徒のプレゼンテーション(TOKYO EDUCATION LAB撮影)

審査員として参加した上定昭仁・松江市長は、「松江の魅力と課題に着目して、探究学習に来ていただいたことをとてもうれしく思います。事前によく勉強されていて、2日間のフィールドワークも経て、率直で説得力のあるご提案をいただきました」とあいさつした。

小さな町でフィールドワーク

北海道コースでは、旭川空港の近くにあり人口が増加している東川町(人口約8400人)、SDGsの取り組みで有名な下川町(人口約3100人)という、小規模ながらサステイナビリティーの高い二つの町でフィールドワークを実施した。

東川町では、「移住者、起業者、留学生」の話を聞くまちづくりワークショップを開き、日本語学校で学ぶ留学生や、NPO法人大雪山自然学校で働く移住者の藤木加奈子さん、新聞社を辞めて東川町でコーヒーショップを経営する轡田(くつわだ)芳範さんらに話を聞いた。

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東川町でコーヒーショップを経営する轡田さんの話を聞く生徒(筆者撮影)

翌日は旭山動物園(旭川市)を訪れ、ボルネオオランウータンを見学。生息地でパーム油の原料となるアブラヤシの農場が広がり、生物多様性が脅かされていることを学ぶ。それから東川町内を散策し、町の地域通貨(ポイント)であるHUC(ひがしかわユニバーサルカード)をつかって、地域内経済を回すとはどういうことかを考えた。

そして、街おこしのアイデアをポスター形式にまとめ、松岡市郎・東川町長をはじめとする役場や地域おこし協力隊のメンバーにプレゼンした。

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ポスターセッションで発表する生徒(筆者撮影)

さらに、生徒たちはアイヌの文化を学ぶプログラムも体験した。2007年の国連総会で「先住民族の権利に関する国際連合宣言」が採択されたことを受けて、日本でも2019年、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)が施行されている。東川町は、1903年に生まれ19歳の若さで亡くなったアイヌ文化伝承者、知里幸恵さんをモデルにした映画「カムイのなげき(仮題)」の制作を決定している(2023年秋公開予定)。

東川町を訪れた生徒たちからは、「町の人同士のコミュニケーションがよくとれている」「個人事業主が多い」「HUCは便利」などの意見があがった。

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アイヌ文様の切り絵を体験する生徒たち(筆者撮影)

間伐作業やシイタケ工場を見学

下川町では森林に入って間伐作業を見学した。生徒たちは、雪が積もるなかで作業する大変さを感じつつ、大自然を堪能したようだ。木材をチップにする工場やバイオマス施設、そしてバイオマス施設で出る熱を利用したシイタケ工場も見学し、サーキュラーエコノミー(循環型経済)について学んだ。

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森林の中で間伐作業を見学(筆者撮影)

翌日は森林組合を訪ねて林業への理解を深め、トドマツを原料にしたアロマ製品の開発に取り組む女性起業家と、トドマツの葉の匂いを嗅ぐ体験をした。その後、地元の移住者4人の話を聞いた。そのうちの一人、大石陽介さんは静岡県出身で、静岡県の小学校教員を経て、家族で北海道に移住してきた。生徒たちは大石さんがなぜ移住し、どんな仕事をしているかについて説明を受けた。

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アロマ製品の開発に取り組む女性起業家(左)の話を聞く(撮影筆者)
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下川町への移住者の話を聞く。写真(右奥)は静岡から移住した大石陽介さん(筆者撮影)

移住者引きつける町

下川町は、2017年の第1回ジャパンSDGsアワードでSDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞に選ばれた町だ。森林を中心とした循環型経済の構築に取り組み、若い移住者を多く引きつける町として、SDGsの視点から学ぶポイントは多い。

多くの生徒が、「行動力の大切さを感じた」「熱い思いがある」「自分の得意なことや好きなことを生かして町に貢献していてすごいと思った」「人と人とのつながりが強い」「木を徹底的に活用している」「ゴミのリサイクルへの意識が高い」など、移住者の生き方や循環型経済に対して興味を持った。

また、二つの町での体験を通して、「将来は都会であくせくするより東川町や下川町のような田舎で充実した生活を送りたい」「どちらも都市に住む人とは違い、余裕がある」との意見を出した生徒もいた。このようなことは、実際に訪れ、会って体験しないとわからない。地方で生きることの意味を感じ取ったようだ。

同行した長田一郎先生は、「従来のキャリア学習とはすっかり変わった全く新しいキャリア学習です。『よい大人』(注)たちにたくさん会って、人生観や幸福観を育んでいくという狙いで構築されたキャリアプログラムがZ世代以降の生徒には必要だと、今回の探究型SDGs修学旅行に参加した生徒たちを見て確信しました」と話していた。

(注)筆者は、キャリア教育において自らの意思で自分の人生を選択し、かつ社会性の視点をもって行動している大人のことを「よい大人」と呼んでいる。今回の修学旅行をサポートするなかで、この考え方を生徒や教員にも紹介した。

生き方変える体験に

事前、事後の学習に時間をかけていることも、今回の体験旅行の特徴だ。総合的な探究の時間を活用し、地方創生や地域のサステイナビリティーについて、地元の人に提案できるレベルまで事前学習をおこなう。講師は筆者や地方創生、SDGsに詳しい大学生が手伝う。

駒場学園高の卒業生で、青山学院大学でSDGsの活動に取り組む4年生の大川真央さんは、事前学習や修学旅行に参加した。「自分の在学中にはこのような修学旅行はなく、当時あれば参加したかった。今の高校生は良い機会を与えられていると思う。母校の教育プログラムに少しでも貢献できてうれしい」

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振り返りの生徒の感想(筆者撮影)

このような体験は生徒の生き方を変える可能性がある。移住者のように自分の人生を自分で切り開く人を見て、生徒は自分のキャリアを考え始めるし、自分で進路を決めることの重要さを学ぶ。最高のキャリア教育だ。

また、今後自分で旅行するときの目的も変化していくと考えられる。サステイナブルな視点で地域を見て、その地域の人に会うということを志向するようになり、特定の地域に関係性を持つようになる人も増えるだろう。地域の側からみれば、生徒たちを迎え入れることは関係人口増のための良い打ち手だ。

生徒にとっても地域にとっても良い機会や学びとなる、このような修学旅行の取り組みを広げたい。

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