カーボンニュートラルとは? 意味やポイント、最新動向をわかりやすく解説

気候変動対策は人類にとっての喫緊の課題です。各国が達成を急ぐカーボンニュートラルとは何か。「パリ協定」や「COP26」、日本政府の動向などもあわせ、わかりやすく解説します。
目次
1.温室効果ガスの排出実質ゼロを目指して
(1)カーボンニュートラルの定義
カーボンニュートラルとは、気温上昇の主な原因である温室効果ガスの排出を極力抑えつつ、出てしまった分に関しては同じ量を吸収・除去することで、排出量を実質的にゼロ(正味ゼロ・ネットゼロ)にすることです。「カーボン」は炭素、「ニュートラル」は中立を意味し、「脱炭素」「カーボンゼロ」とも言います。
温室効果ガスには二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロンガスなどがありますが、最も多いのが二酸化炭素(CO2)で全体の9割を占めています。CO2の主な発生源は化石燃料(石炭、石油、天然ガスなど)の燃焼によるものです。また、CO2の吸収源である森林の減少も、大気中のCO2が増加している原因のひとつです。
日本の温室効果ガスの排出量は、リーマンショックの影響で2008、9年度と減少しましたが、景気回復に伴い上昇し、東日本大震災以降さらに増加しました。2013年度をピークに減少に転じ、2020年度の排出量はCO2換算で11億4900万t(速報値)です。減少の要因には、省エネ技術の進歩や再生可能エネルギー(再エネ)の導入拡大などがあげられています。また2020年度は新型コロナウイルス感染症の拡大で、経済が停滞した影響もあるようです。
(2)CO2の具体的な削減方法とは?
カーボンニュートラルに向けた具体的な方法としては、電気の使用量を減らす省エネ、エネルギー効率のいい機器や設備の使用、化石燃料の使用減、再エネや原子力発電の利用、植林や森林管理などがあります。また、大気中に存在するCO2や燃料の使用時に排出されたCO2の回収・貯留(CCS)といった「ネガティブエミッション」技術や、削減できなかった排出量を別の場所の温室効果ガスの削減活動に投資することで埋め合わせる「カーボンオフセット」も注目されています。
(3)気候変動に疑いの余地なし
カーボンニュートラルが急がれるのは、化石燃料の消費量が増え、大気中の温室効果ガス濃度が上昇し、気候変動が進んでいるためです。近年の海面水位の変化や、洪水、干ばつ、記録的豪雨や猛暑も気候変動の影響とみられており、さらなる甚大な自然災害、感染症などによる健康被害などが発生する可能性が指摘されています。
国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第6次評価報告書によると、産業革命前に対して2019年時点で大気中のCO2濃度は約47%高くなっており、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と明記。温室効果ガスの排出量の水準や将来の社会像をもとに五つ用意したシナリオのどれをたどっても、「1850~1900年の世界平均気温からの上昇幅が2030年前後には1.5℃を超える」との推計を公表しました。
2.地球サミットから始まる気候変動対策の歴史
(1)「リオ地球サミット」から「パリ協定」へ
世界では以前から気候変動について議論されてきました。1992年、「地球サミット」(ブラジル・リオデジャネイロ)で「国連気候変動枠組み条約」の署名が開始され、1997年には京都で開催された気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)で、「京都議定書」が採択されました。
先進国の温室効果ガス排出において法的拘束力のある国ごとの削減数値目標などを定めたもので、日本は、2008年からの5年間で1990年比マイナス6%の目標を達成しました。しかし、中国やインドなどの開発途上国にはそもそも削減義務がなく、アメリカは未締結。カナダも途中で脱退してしまいました。2020年までの枠組みでしたが、日本も2013~2020年は参加していません。
京都議定書の後継として、2015年のCOP21で採択されたのが「パリ協定」です。初めてすべての国が参加する点が話題になり、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分に低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という目標が掲げられました。一時離脱した米国も、2021年に政権交代したバイデン大統領のもとで復帰しました。
さらに2018年、「温度上昇1.5℃以下を達成するには、2050年ころまでの温室効果ガスの排出を実質ゼロにする必要がある」という「IPCC 1.5℃特別報告書」がまとめられました。
(2)「COP26」では先進国vs途上国の対立も
コロナ禍で1年延期の末、2021年にイギリスで開催されたCOP26は、排出量削減にかかる資金拠出や石炭火力発電の継続を端緒とした先進国と途上国の対立が懸念されていました。
結果、インドが2070年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする宣言を出し、中国と米国が10年にわたって気候変動対策での協力体制を強化すると共同宣言するなど、歩み寄る姿勢が見られました。2021年11月時点で140カ国以上が2050年までのカーボンニュートラルの実現を表明しています。
3.気候変動対策で経済成長も
(1)成長戦略への転換とESG投資
気候変動対策を通じて、経済的な成長を果たそうという動きも世界で高まっています。欧州連合(EU)は2019年12月、「欧州グリーンディール」を打ち出し、2030年までに1990年比で温室効果ガス排出55%削減、2050年までに実質ゼロの達成を法制化しました。
新型コロナからの経済復興にあたっても「グリーン・リカバリー」を掲げ、コロナ復興予算(EU7カ年予算および復興基金)計1.8兆ユーロのうち30%を気候関連にあて、気候変動対策と経済復興を推進する構えです。米国はバイデン政権発足後、インフラ・クリーンエネルギー分野に4年で2兆ドルを投資すると発表。雇用創出と経済回復を図るとしています。
こうした傾斜を促しているのが金融です。ESG(環境、社会、ガバナンス)を重視した投資が主流になりつつあり、環境などに配慮した持続可能な経営方針を打ち立てなければ国際的に資金を調達するのが難しくなっています。民間企業も生き残りをかけてネガティブエミッション技術の開発やサプライチェーンの脱炭素化に取り組み出しました。
(2)日本政府の取り組み
日本では、2020年10月、菅義偉首相(当時)が「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と宣言。12月には、経済と環境の好循環につなげることを掲げた「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が策定されました。
2021年4月には主導権を握ろうとする米欧中の動きなどを受けて「2030年度までに2013年度比46%削減を目指す」(2020年度は18.4%減)とさらなる目標を発表。後継の岸田文雄首相も、2021年12月の臨時国会における所信表明演説で、「気候変動問題を新たな市場を生む成長分野へと大きく転換する」と明言しています。
「グリーン成長戦略」では、エネルギー関連産業、輸送・製造関連産業、家庭・オフィス関連産業など、技術革新での成長が期待できる14分野を設定。それぞれの目標や実行計画を立て、税や規制など「あらゆる政策を動員する」としています。「2050年で年額 190 兆円程度の経済効果が見込まれる」という試算もあります。
(3)求められる社会システムのチェンジ
ただ、COP26期間中、国際環境NGO「気候行動ネットワーク」が気候変動対策に消極的だと判断した国に贈る「化石賞」に日本が選ばれました。世界の電力部門のCO2排出の7割を占め、温暖化の最大原因となっている石炭火力にいまも電源の32%を依存し、2030年でもなお19%を維持するエネルギー政策が「受賞理由」です。
日本が気候変動に正面から取り組む国として国際的な信頼を得るためには、社会システム全体が変わらなければ実現することができません。一人ひとりが生活や消費のあり方を変えるだけでなく、強い意思を示して政府や企業を動かせるかが問われています。
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