サステナブルファッションとは? ~ファッションとSDGsの基礎知識~

ファッションを取り巻く世界とSDGsとは、無縁ではありません。アパレル業界は、原材料調達から生産、使用、廃棄の各段階での環境負荷が大きく、さまざまな社会課題も指摘されています。ファッションとSDGsの関係を、わかりやすく説明します。
目次
1.ファッションとSDGs
(1)持続可能性が求められる、ファッション業界の課題とは?
「サステナブル(持続可能な)ファッション」とは、原材料の調達から生産、流通、着用、廃棄されるまでのライフサイクルにおいて、将来にわたり持続可能であることを目指し、生態系を含む地球環境、ファッションに関わる人や社会に配慮した取り組みのことです。
ファッション産業に「サステナブル」が求められるようになった背景には、世界的なファストファッションの需要拡大で大量消費、大量廃棄が繰り返されて環境への負荷が極めて大きいことや、生産段階の多くが途上国にあり、労働問題や人権問題などを抱えている事例が表面化したことにあります。また、工場や企業がグローバルに分業化されているため、複雑なサプライチェーンの全体像を把握するのが難しいことも国際的な課題です。
これらファッション業界の課題解決に向けた取り組みは、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」、目標12「つくる責任つかう責任」、目標13「気候変動に具体的な対策を」などに関わっています。
(2)消費者から見た「エシカルファッション」
ファッションのサステナブルな取り組みは、「エシカルファッション」と言われることもあります。農薬や化学肥料に頼らないオーガニックコットンなど環境負荷の少ない素材、動物に配慮した環境下で刈られた毛皮や羽毛、生産者のために適正価格で取り引きするフェアトレード、リサイクルや地産地消など、「エシカル(倫理的)」な社会を意識したファッションのことです。
「サステナブルファッション」と「エシカルファッション」の違いは明確ではありませんが、「サステナブル」を使うときは、環境面を中心とした企業側から見た取り組みを指すことが多く、「エシカル」を使うときは、「エシカル消費」といわれるように、倫理面を重視した消費者の行動、価値観を指すことが多いようです。
2.ファッション業界の現状と問題
(1)環境負荷が大きいファッション業界
衣服の製造にはさまざまな資源が必要で、環境への負荷も発生します。過剰在庫やライフサイクルの短期化による大量廃棄も深刻です。
原材料の調達段階では、コットンなど天然素材の栽培のために化学肥料による土壌汚染や水を消費し、ポリエステルなど合成繊維の製造のために石油資源を使用し工場ではCO2を排出しています。環境省によると、国内で服1着をつくるのに排出されるCO2は約25.5kg(500mLのペットボトル約255本の製造時排出量に相当)、使われる水は約2300L(浴槽約11杯分)と換算しています。
1年間に供給される衣類は81.9万tで、その9割にあたる78.7万tが1年で手放されています。手放された衣類の2/3が廃棄され、1日あたりに焼却、埋め立てられる衣服の総量は約1300t(大型トラック130台分)。毎年、衣服から出るマイクロ・プラスチック50万t(500億本分のペットボトルに相当)が海洋に放出されています。
(2)労働・人権問題に注目集まる
ファッション業界の課題として、環境だけでなく労働・人権問題にも注目が集まるきっかけとなったのが、2013年にバングラデシュのラナ・プラザというビルで起きた崩壊事故です。ビルには世界的なアパレルメーカーの下請け縫製工場が複数入居し、縫製工場の労働者を中心に1000人以上が犠牲になったことから、「ラナ・プラザの悲劇」と呼ばれました。
事故で多くの犠牲者が出た背景には安全管理の不十分さがあったとされ、この事故を機に多くのアパレルメーカーの生産委託先である途上国の工場で常態化していた長時間労働、女性の低賃金労働、児童労働などの問題が浮き彫りになりました。
近年、アパレル業界を揺るがしているのが、中国・ウイグル族の強制労働問題です。新疆ウイグル自治区は、良質な「新疆綿」の産地として世界のアパレル企業が供給元としていますが、中国による強制労働の疑いがあるとして欧米が問題視しました。
2021年1月に、ファーストリテイリングが展開する衣料品チェーン大手「ユニクロ」のコットンシャツが、新疆ウイグル自治区の強制労働をめぐる米政府の輸入禁止措置に違反したとの理由から、米税関・国境警備局(CBP)によりロサンゼルス港で輸入が差し止められていたことが発覚。疑惑の目が向けられました。ファーストリテイリングは、「サプライチェーンで強制労働などの深刻な人権侵害がないことを確認している」などと説明に追われました。
3.進むイノベーション
(1)企業・日本政府の取り組み
各国の企業は環境負荷を少なくするため、さまざまな取り組みを始めています。2019年にフランスで開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)で、グッチなどを手がけるケリング・グループが主導して「ファッション協定(The Fashion Pact)」を締結しました。
協定では、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)や低負荷資材調達などの「気候変動」、自然生態系の保護や森林管理などの「生物多様性」、有害なプラスチック包装材の削減などの「海洋保護」という三つの環境目標を掲げました。欧米の高級品ブランドを中心とするファッション・テキスタイル企業70社以上が参加(2021年現在)。2020年に日本企業では初めてアシックスが加盟しました。
日本国内でも2021年8月、サステナブルなファッション産業への移行を目的とした「ジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)」が設立されました。正会員13社、賛助会員15社の計28社(2021年11月現在)が業界の共通課題について共同で解決策を導き出すとし、「適量生産・適量購入・循環利用によるファッションロスゼロ」「カーボンニュートラル」を主な目標として掲げています。
日本政府も、サステナブルファッションの推進には「社会全体での取り組みが不可欠」として、2021年8月に「サステナブルファッションの推進に向けた関係省庁連携会議」を発足。消費者庁、経済産業省、環境省の3省庁が連携して、事業者・消費者双方に向けた取り組みを計画的に進め、イベントなどを通じて普及啓発の活動をしたり、消費者の意識改革を促したりするといいます。
(2)個人にも求められる消費への意識改革
サステナブルファッションの実現のためには、政府や企業の取り組みだけでなく、消費者が意識を変えることも欠かせません。2000年前後生まれのZ世代を中心とする若年層では、元の製品より付加価値をつけて再利用する(アップサイクル)アイテムや古着を好んでおしゃれに着こなすなど、サステナブルファッションへの関⼼が高まっていると言われています。ただ、環境省が15歳以上を対象におこなった調査では、「59.2%がサステナブルファッションに関心はあるが、その9割は行動に移せていない」と指摘しています。
消費者も、「服を長く大切に着る」「リユース(再利用)ファッションを楽しむ」「環境にやさしい作られ方かチェック」「服を資源として再活用する」などの身近なアクションを意識することが求められています。
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