SDGs ACTION!

食品ロスの対策方法 今からできることを現状や取り組みとともに紹介

食品ロスの対策方法 今からできることを現状や取り組みとともに紹介
食品ロスの現状と家庭・企業でできる対策(デザイン:吉田咲雪)
食品ロスマイスター/廣澤克美

食品ロスという言葉をよく聞くようになりましたが、それは企業の話で、個人には関係ないのでは?と思われる人も多いでしょう。しかし、意外に個人、家庭によるロスも多いのです。冷蔵庫からしなびた野菜が出てきたことはありませんか? そんな小さなロスをなくすだけで全体的に減らしていくことができます。

art_00297_著者_廣澤克美さん
廣澤克美(ひろさわ・かつみ)
食品ロスマイスター。(一社)日本専門家検定協会代表理事。札幌市出身。札幌市ごみ減量キャンペーンの一環である食品ロスの監修を4年間務める。明治、大正生まれの両祖母が物や食料を大事にする暮らしをみて育つ。独立後は企業とフードバンクをつなげる、食品ロスをわかりやすく啓蒙(けいもう)するなどの活動をしている。日本、中国で片付けに関する著書多数(ペンネーム広沢かつみ)。

1.食品ロスの現状

(1)そもそも食品ロスとは

「食品ロス」とは、「食べきることができなかったので捨てた」「いつの間にか腐っていたので処分した」など、本来は食べられたのに、きちんと管理しなかったために捨てることになった食品をいいます。

食品リサイクル法が2000年に施行されてから、食品ロスに関する関心は高まってきました。

恵方巻きやオリンピックの配布弁当を大量に廃棄したというニュースを見聞きした人も多いと思いますが、「食べられるのに廃棄する」とはまさにそれらのことです。このほか、ニュースにはなっていなくてもスーパーやコンビニのお総菜、レストランのビュッフェ、宴会料理などで残り、捨てられてしまう総菜、食品が日々出ています。

また、最近では新型コロナウイルス感染症拡大も大きな影響を与えています。緊急事態宣言の発出によって、給食が停止されたり、商業施設が休館したりして、仕入れたばかりの冷凍できない食材が廃棄されるケースもありました。

SDGs目標12「つくる責任、つかう責任」には「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる」というターゲット(12.3)も設定されています。持続可能な社会をつくるためにも食品ロスの問題は重要です。

SDGs目標12アイコン

(2)日本の食品ロスの現状

前述の「本当は食べることができたのに腐らせて捨ててしまう」食品というのは日本でも多く出ており、農林水産省と環境省の推計によれば2020年度の食品ロス総量は522万tです(参照:食品ロスとは丨農林水産省)。

522万tとだけ聞くとピンと来ないかもしれませんが、世界各国で飢えに苦しむ人々への食料援助分の420万t(2020年)を上回ります。また、国民1人あたりに換算すると、1日約113g、つまり茶わん1杯分の食べ物を廃棄している計算になります。

ご飯茶わんに盛られた食べ物
ご飯茶わんの写真

食品ロスは工場や店舗などで生じることだと思われる人が多いのですが、実は家庭でも多く発生しています。

食品ロス総量522万tのうち、「家庭系食品ロス」は全体の47%(247万t)。対して、飲食店や製造など企業全体では、53%(275万t)となっており、1:1に近い数字となっています。

2020年度の「家庭系食品ロス」と「事業系食品ロス」
2020年度の「家庭系食品ロス」と「事業系食品ロス」(農林水産省HPなどの情報をもとに筆者作成)

2.食品ロスによって引き起こされる問題

食品ロスは、エネルギー不足や貧困国の飢餓、環境汚染といった他の問題にもつながっています。以下では食品ロスが引き起こす三つの問題について解説します。

(1)資源やエネルギーの不足・枯渇

食品ロスは、世界全体の資源やエネルギーの不足・枯渇へつながる懸念があります。地球上の食料も資源も限りがあるためです。食料を生産するにも、加工製造や運搬・販売するにも、家庭で保管・調理するにもエネルギーや水といった資源がつきものになります。あまりにも多くの食料がつくられ、運ばれ、廃棄されると、これら資源・エネルギーがムダに消費され、不足することになり、最悪の場合、枯渇する懸念があるのです。

(2)貧困国の飢餓

肉や乳製品、卵を生産するには、家畜の餌としてたくさんの穀物が必要になります。この穀物を家畜の餌ではなく貧しい国の人々の食料に回せば、多くの人が飢餓から救われます。肉や乳製品、卵を廃棄することには、重い責任がともなうと考えるべきでしょう。

(3)環境汚染

食品ロスは、環境汚染にもつながります。食品の廃棄ゴミ(食品廃棄物)は水分を含むため、通常のゴミより重くて燃えにくく、運搬や燃焼の過程でより多くの二酸化炭素を排出することになるからです。また、海外から大量に輸入される食品の運搬の際にも二酸化炭素は排出されています。二酸化炭素の排出による地球温暖化は、洪水や干ばつなどの気候変動をもたらし、農作物の収穫にも影響がでてきます。

3.食品ロスの原因

では、なぜ食品ロスが引き起こされるのでしょうか。以下ではまだまだ知らない人も多い事業者側の食品ロスの主な原因を三つ取りあげ、解説します。もちろん、食品ロスの発生原因には消費者側のものもありますので、そちらは後ほど対策とあわせて紹介します。

(1)「見た目重視」で販売する食品を選ぶため

一つ目の原因は「見た目重視」で販売する食品を選んでいることです。例えば、曲がったキュウリや網目が切れたマスクメロン、爪が欠けたカニなどは、味に全く問題がないにもかかわらず、見た目が完璧ではないため売り物として扱われない場合があります。また、パッケージや缶などがぶつかって少し凹んでいる商品も店頭に並ばないことがあります。

このように、食べられるのに見栄えが悪い、または完璧ではないだけで売れなくなるため仕方なく廃棄されている食品があるのです。また、流通だけでなく生産・加工段階で、形の悪い物や切れ端なども廃棄されています。

(2)「品切れにしたくない」という経営判断があるため

二つ目の原因は「品切れにしたくない」という経営的な判断があることです。例えば、営業時間中に品切れにしたくないという理由で、多く仕入れをおこなう小売店や飲食店があります。しかし、閉店時間にちょうど売り切れることはまれであり、翌日に賞味期限が切れてしまう食品は廃棄せざるをえません。

このほか、ビュッフェや宴会でも終了後に大量の料理が余ります。この場合も品切れを防いだり量が少ないなどのクレームを避けたりといった理由で食品ロスが生じています。

こうした食品ロスを減らすためには「店側は過剰に仕入れない、または作らない」「客側は品切れていたらあきらめる、クレームをつけない」という意識を当たり前のものにしなければなりません。

(3)「1/3ルール」という業界ルールがあるため

三つ目の原因は「1/3ルール」によるものです。「1/3ルール」とは製造者・販売者・消費者の3者で賞味期限を1/3ずつ均等に分け合うルールで、食品業界に浸透した商慣習のことです。

例えば、賞味期限が3カ月の商品がある場合、製造者は製造から1/3にあたる1カ月以内に販売者(小売り)に引き渡さなければならず、販売者は仕入れてから1カ月以内に販売しなければなりません。それぞれ賞味期限の1/3を超えてしまうと流通させることができなくなります。

もちろん、残りの1カ月(1/3)は消費者の食べられる期間となりますが、製造者・販売者が1/3の期間で流通させられなかった食品のほとんどは廃棄ということになります。

4.現在おこなわれている食品ロス対策

(1)日本における食品ロス対策

こうした食品ロスを削減すべく、日本では、2019年10月に施行された「食品ロス削減推進法」により毎年10月に啓発活動が強化されたり、各自治体での取り組みが積極的におこなわれたりしています。

例えば、宴会などで大量の食事が残されてしまうことを防ぐ「3010(さんまるいちまる)運動」(開始30分と終了10分前は食事に集中しよう)という啓発や、食品を買うときは奥の商品ではなく賞味期限が近い商品が置いてある手前から買おうという「てまえどり」の訴求などです。

2012年度から推計が開始された食品ロス量の推移をみると、2016年度以降、食品ロス量が減少してきているので、身近に浸透しているといえます。

食品ロスの推移グラフ
食品ロスの推移グラフ(食品ロス量の推移(平成24~令和2年度)|農林水産省を参考に筆者作成)

(2)先進国における食品ロス対策

日本以外の国でも食品ロス対策はおこなわれています。

例えば、アメリカをはじめとする海外では、レストランでの食べ残しを持ち帰るための「ドギーバッグ」なるものが推奨されています。

筆者は、コロナ禍前、毎月上海や北京などに出張していましたが、食べ残しを持ち帰りたいと言えば容器やポリ袋をいくつも出してくれて、スープやカレーの類まで入れてくれました。日本のように食べ残しの持ち帰りを拒むお店は、著者の知る限りありませんでした。

このほか、ドイツのお店では売れ残りのパンを回収し、翌日に低価格で再販したり、粉砕してパン粉にしたりすることが日常的におこなわれています。西欧の企業では、リンゴジュースの製造過程で廃棄されるリンゴの皮を使ったフェイクレザーの開発を成功させました。

また、フランスでは大型スーパーに限り、売れ残りや賞味期限切れの食品を廃棄することを禁止しています。

5.これからおこなうべき具体的な食品ロス対策(家庭の場合)

前述したように、食品ロスは家庭からも多く発生しています。では、どのような対策があるでしょうか。

(1)第一に買いすぎない

家庭で出る食品ロスの多くは「買った食品を忘れていた」「使い切れなかった」というのが原因です。

ほとんどの家庭が、冷蔵庫の底でひからびた野菜が発見された、使いかけの調味料や食材があちこちから見つかったものの消費期限が切れていた、などの経験をされています。

特にサラダ用の野菜や消費期限が短い生鮮食品は、すぐに傷んでしまいます。また、保存期間が長いからといって買いすぎると期限内に使いきれない場合もあります。

買い物に行くときは、冷蔵庫の7割以上が空になってから、何が不足しているのか、何を今週使うのかを計画的に考え、メモをとってから買い物に行くようにしましょう。

また、新製品や限定品などに目を奪われずに、食べきれるのかを自問自答して買うべきです。多くの家庭の冷蔵庫に、目新しさで買ってみたものの口に合わなかった調味料が多々入っているのを目にします。

足りなければ買い足せばよいので、買いすぎないことが食品ロスを防ぐ最大の行動です。

(2)冷蔵庫と食品ストックの整理収納を定期的におこなう

買った食材を忘れないためには、決めた食材を同じ場所に毎回しまうことが有効です。

スーパーなどで食料品が種類ごとに並んでいるように、家庭でもいつも同じ場所に同じ種類の食材を配置すれば、何が減って、何が残っているか一目でわかります。

家庭での在庫確認は家計を管理するうえでも大切なことです。できるだけ透明な容器に入れることで在庫の状態が一目でわかります。

整理された冷蔵庫の例
整理された冷蔵庫の例
透明な容器を使った収納の例
透明な容器を使った収納の例

また、備蓄を含めたストック品も、しまったままにしておかないようにしましょう。多くの家庭で備蓄の食品をしまいっぱなしにし、消費期限を切らして処分するということを経験しています。

備蓄を含めたストック食材は、「買う」「ストックする」「使う」をローテーションしていけば、ムダにすることはありません。同じく冷凍庫の食材も、1~2カ月を目安に総入れ替えにするつもりでローテーションさせましょう。

「ローリングストック」のイメージ
「ローリングストック」のイメージ。ローリングストックとは定期的に食べて、食べた分を買い足し備蓄すること

(3)作りすぎない

作りすぎたおみそ汁や煮物を廃棄する家庭が多くあります。作りすぎてしまったと思ったら小分けにして冷凍をする、味付けを変えて翌日の献立にするなどの工夫をしましょう。

また、大きい鍋やフライパンを持たないのもおすすめです。

(4)アプリを活用する

賞味期限切れをお知らせする「賞味期限管理アプリ」や、冷蔵庫にある材料で作れるレシピアプリなどがあります。

また、お店や飲食店で売れ残りそうな商品を格安ないしサブスクで購入できるアプリ(Let、WakeAi、TABETE、Haiki0など)も多々ありますので、お得かつ食品ロスに貢献ができます。

都心に限るものもありますが、地域限定で活用できるアプリや情報もありますので、探してみてください。

6.これからおこなうべき具体的な食品ロス対策(企業の場合)

(1)別製品への加工や寄付をする

日本の企業は、商品を不足させてはいけないと作り続けていますが、廃棄を少なくすればコストを抑えられるので、本来ならば数量をコントロールするほうが経営にもいいはずです。

大企業が食品ロス対策を実施した事例は多々報道されますが、実は、中小企業も地域に貢献したさまざまな対策、取り組みをしています。

例えば、余ったパンを酵母に活用してクラフトビールを製造する、捨てられる農作物を加工品にする、地域のフードバンクや児童養護施設との連携で過剰在庫の寄付をおこなう、などです。

また、外食産業や宿泊業の企業のなかには、食べきれない量の宴会料理やコース料理を出すより、「質より量」のメニューを出す方向にシフトし、食品ロス対策だけでなく顧客満足度の向上にもつなげている企業もあります。

こうした取り組みを参考に、自社ではどんなことができるか検討するといいでしょう。

(2)SNSを使って処分されてしまう商品や食材の購入を呼びかける

SNSを使って、処分されてしまう商品や食材の購入を呼びかけるのも、おすすめの対策です。

SNSを使った呼びかけは昨今反響が大きく、例えば2020年、北海道産の牛乳が大量にあまり、酪農業者を助けようとSNSで呼びかけた「牛乳チャレンジ」は消費を大幅に押し上げました。

堅苦しい知識の啓発より、誰かのためにという思いやおいしそうなどというエモーショナルな訴求のほうが、多くの人が実行するきっかけになります。

多くの人はメリットのある行動しかしません。「誰かのため」は自分の心を満たすというメリットがあります。隠して大量に廃棄してしまうより、正直に困っていると声を上げた方が廃棄をせずに済むでしょう。

このSNSを活用した呼びかけはしばらくの間、有効性があると思います。

7.食品ロス対策のヒントは昔の人の知恵と暮らしにある

漁村に住んでいた明治生まれの筆者の祖母は、食べられない部分の野菜くずや魚の内臓、おひつにこびりついたご飯粒は「魚が食べてくれるから」とすべて海に流していました。また、昔、アイヌの人々は食べ物の全てを余すことなく食べ、活用していましたし、冷蔵庫などがないから長持ちさせるための保存法にもたけていました。

祖母から「旬の食材」を食べるよう教えてもらうこともありましたが、それは季節にあった栄養をとる大切さを学ぶ機会であり、食材に対する「ありがたさ」を学ぶ機会でもありました。現在は1年中何でも手に入ります。こうしたありがたみの無さも食料のムダを産む要因の一つであるように思います。

現代人は便利な暮らしゆえ、食品をムダに廃棄するようになったのかもしれません。食品ロスの対策に取り組むときは、まず昔の人の知恵と暮らしを知ることから始めるのもよいでしょう。

(2022.3.12更新)内容を追加しました。

この記事をシェア
関連記事