脱炭素社会を若者の手で Green innovation代表理事の菅原聡さん【中高生のための朝日SDGsジャーナル】

気候変動の大きな要因と考えられる二酸化炭素の排出を減らすため、世界では新たな技術の開発や法律の整備、経済の枠組みづくりが進んでいます。官民の枠を超えてこの問題について話し合う場所づくりと、若い人材の育成に取り組む一般社団法人Green innovation代表理事の菅原聡さんに、活動の意義や目的を聞きました。
一般社団法人Green innovation代表理事。早稲田大学卒業。NPO法人GLOBE PROJECT創設者/代表理事。(株)リクルートで事業開発やサステナビリティ推進に携わった後、Minit Asia Pacific Co.,Ltd.でCSOとして経営戦略に従事。
地球環境の危機と「グリーン革命」
コロナ禍による経済的ダメージからの復興と、脱炭素社会への移行を同時に達成しようとする動きが近ごろ急速に進んでいます。2050年カーボンニュートラルという目標達成に向けて、EUは約94兆円規模のグリーンリカバリーファンドを立ち上げ、米国のバイデン政権は4年間で約200兆円をこの分野に投資する計画を発表しました。また現在は、温暖化対策の不十分な国からの輸入に対して事実上の関税を課す「国境炭素税」の検討も進んでいます。
「これは脱炭素化に向けた取り組みであると同時に、社会経済システムそのものの転換を図る動きでもあります。つまり、産業革命に次ぐ大きな『グリーン革命』が進行しているということです。EUや米国の動きは、その中での主導権争いという側面もあると思います」。そう語る菅原さんが心配するのは、日本ではこうしたシステムチェンジに向けたうねりがまだまだ小さいこと。産官学が連携し、大人と若者が対話をしながらこのうねりを加速させていかなければという思いが日に日に強くなってきました。

対話と共創によるシステムチェンジ
さまざまな場所で菅原さんがそんな話をしたところ、賛同してくれる人は日本にも少なくありませんでした。「同じ危機感を持つ人たちが、それぞれの知識やアイデアを持ち寄ってこの問題に向き合い、システムチェンジを起こすためのエコシステム(生態系:立場の違う人たちの有機的なつながり)をつくりたいと考えたんです」。2021年7月、企業や省庁、経済団体、大学などから多くの賛同者を集め、Green innovationの活動がスタート。10月には2050年の主役である大学生や若手のビジネスパーソン、官僚などを集めたアカデミーが開講しました。
エネルギーシステムを脱炭素化するには何が必要か。食料システムを持続可能にするために土地や水、海洋の利用はどうあるべきか。人口が集中するなかで環境負荷の低い都市をどうデザインするか。そして資源を使い尽くすだけの「直線型」から「循環型」へと社会をどう移行していくか。アカデミー受講生にはそうした学びを通して大局を見る目を養い、実現可能なビジネスや起業プラン、政策立案について考えることが求められています。「すでに有望なアイデアがいくつも生まれています。いずれはこのアカデミーから生まれたビジネスや政策を、具体的にサポートするところまで私たちができたらと考えています」

30年後の自分を想像してみよう
菅原さんたちが目標とするのは、2030年までに1000人のイノベーターを育成すること。「私たちはそれを、Be the Changeという言葉で表しています。自分自身が変革の主体となる人。言い換えれば、未来を誰かのせいにしない人。それがイノベーターだと思います」
気候変動への対処が遅い、あるいは不十分と思える企業や政府に対して若者たちが怒る気持ちはわかるものの、この問題に「悪者」はいないと菅原さんは言います。「より良い未来を実現したいという思いはみんな同じはずだからです。世代やセクターを超えて建設的に対話をしながら、共創を生み出していくことが重要だと考えています」


自分自身、高校までは将来の目標も定まっていなかったという菅原さんは、中高生のみなさんに30年後の自分を想像してみることを勧めます。「その時自分はどこで何をしているか。世界は平和で誰もが豊かになっているか。具体的に考えてみることで、行きたい場所や夢が見つかると思います。僕自身の次の夢は、2030年に1000人のイノベーターを集めた同窓会を開くこと。そこでまた新しい世の中への仕掛けができたらと思っています」

2050年に脱炭素社会を実現することをめざし、いま必要な人・企業・地域のイノベーション推進をサポートするために2021年に設立。菅原聡さんが始めたこの活動には、顧問を務めるサッカー元日本代表監督の岡田武史さんをはじめ、大学の教授や名誉教授、若手の起業家や社会活動家、経済界の重鎮など、幅広い分野の人たちが賛同し推進されています。
現在進行中のアカデミーに参加する1期生は、大学生が100人と企業や省庁の若手が30人。各界で活躍中の人たちによる講義や、原発事故のあった福島県でのフィールドワークなどさまざまなプログラムを経て、グループごとにビジネスや政策のアイデアを検討し、2022年3月のフォーラムで発表する予定です。
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