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国連の報告書2023GSDRに向けた道のり 蟹江教授が読み解くSDGs@米国【4】

国連の報告書2023GSDRに向けた道のり 蟹江教授が読み解くSDGs@米国【4】
慶応義塾大学大学院教授/蟹江憲史

蟹江憲史さん
蟹江憲史(Norichika Kanie)
慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。専門は国際関係論、地球システムガバナンス。国連が4年に一度まとめる『グローバル持続可能な開発報告書(GSDR)』において、2023年版の執筆を行う世界の15人の専門家のうちの1人。近著に『SDGs(持続可能な開発目標)』『SDGs入門:未来を変えるみんなのために』など。政府SDGs推進本部円卓会議メンバー/国連大学サステイナビリティ高等研究所客員教授を兼任。2021年8月から約1年間の予定で米国滞在中。

SDGsの進み具合を評価する

ワシントンD.C.周辺のコロナの状況はかなり改善し、2021年8月の渡米以来、新規感染者数は最も少なくなっています。学校でもマスク着用は“On or Off, it’s just me.”という標語のもと、義務ではなくなりました。個人や家族の考え方に委ねようという方針です。こうして多様性を尊重するところは、アメリカの良いところだと感じます。

仕事についても対面の機会が増えてきました。実際に人に会う機会が増えてくると、気持ちも盛り上がります。米国でいろいろなことを吸収する機会がいよいよ来たというワクワク感があります。

渡米した一番の目的は、国連が4年に一度出版する「持続可能な開発に関するグローバル報告書(Global Sustainable Development Report, GSDR)」の執筆を進めることです。

最初のGSDRが出版されたのは2019年です。それ以前にも、2014年から3年間、国連の経済社会部が中心となって試行版が出されていました。その後、国連事務総長によって指名された15人の独立科学者(Independent Group of Scientists, IGS)によって執筆されるように形が整えられました。次の出版は2023年となっており、私もその執筆者の一人に指名されています。

GSDRのページ
国連サイト内にあるGSDRのページ

SDGsには、目標とターゲットが定められていますが、実施メカニズムが国連で詳細に決まっているわけではありません。この点が従来の国際合意とは大きく異なるところで、ルールではなく、目標を設定することで世の中を動かす「目標ベースのガバナンス(Governance through Goals)」という形態をとっています。

その中で大事になるのが、進捗を計測する/評価することです。計測し、評価することによって、いつどこで何が足りないのか、あるいは、いつどこで何が余っているのか、がわかります。そうして初めて「だれ一人取り残されない」ために、どのように物事を動かしていけばよいか、ということもわかります。

評価が大事だというのは、例えば学生さんのテストと同じです。テストの本来の目的は、結果に一喜一憂することではなく、何が得意で何が不得意かを把握することにあります。そうして初めて理解度がわかり、次に何をすればよいかがわかるのです。

IPCCの報告書と似た役割

SDGsに関して、国連ではこれを二つの方法でおこなうことにしました。一つは、グローバルで指標を設定し、その数値を中心に、進捗(しんちょく)を明らかにすること。これは、毎年7月ごろに、国連事務総長から報告書が提出されます。

もう一つが、GSDRです。数値では測りきれないことも、国際機関や国、あるいは研究機関やシンクタンク、NGOなどからの報告書や学術論文などから実態が明らかになることもあります。それらを含めて総合的に評価し、次へのステップとして何ができるのかを示すのがGSDRです。

その意味では、気候変動問題について各国政府と政府から選ばれた専門家が報告書を書くIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の報告書と似たようなところがあります。

発表されるごとに社会の注目を浴びるIPCCの報告書と比べると、認知度は劣るGSDRですが、私自身はSDGsができることが決まった2012年の国連持続可能な開発会議(リオ+20)のころから注目しています。SDGsにとっては、GSDRがIPCCの報告書と同じような重要性を持つことになりそうだ、と当初から考えていたからです。

GSDR2019年版の表紙
GSDR2019年版の表紙
リオ+20の関連イベント
リオ+20の関連イベントで地球をかたどった風船を持ち上げる子どもたち=2012年(撮影・朝日新聞)

GSDRでは、あちこちに分散している情報と評価を集めて再検討することが役割と考えられており、これによって科学と政策のインターフェイスを強化することが求められています(リオ+20成果文書「The Future We Want」パラグラフ87)。

SDGsは非常に多様な分野にわたっているので、オリジナルな評価を独自に行うことには膨大な作業を伴います。ですので、既存の評価や報告を集めてSDGsの達成という観点から再評価し、政策を形成する人たちが使える形で整理することが求められているわけです。私はこれを「評価の評価」と呼んでいます。

まさに、気候変動においてIPCCがおこなっているのと同じような役割です。しかもGSDRでは、政策指向が明確に示されています。ここでいう政策とは、政府に限定した狭義の政策ではなく、企業やNGO、国際機関などが実施する戦略や行動も含めた広義の政策です。つまり、SDGs達成へ向けて行動したい人の手助けになるような報告書だということです。

対面での議論、今春にも

執筆へ向けた議論はすでに2020年から始まっていますが、これまでは全てオンラインミーティングでした。ジェンダーや年齢はもちろん、地域的な広がりなどについてもあらゆるバランスを加味して選ばれたグループなので、皆が参加できる時間にオンライン会議を設定すると、場所によっては早朝や深夜といった時間帯になります。

日本にいるときは深夜のミーティングが多かったのですが、ワシントンD.C.に来てからは早朝のミーティングが多くなってきました。いかに重要な会議であっても、早朝や深夜のミーティングが続くのは、なかなか辛いものがあります。

そんななか、2022年1月には対面ミーティングが計画されましたが、オミクロン株の流行でいったんは延期に。ようやく春に向けて実現できそうな気配になってきました。これまでいろいろと議論を重ねてきた仲間とようやく初めて直接会う、というのも不思議な気がします。

国連本部ビル
ニューヨーク市マンハッタンにある国連本部ビル(Getty Images)

中身は、いよいよ草稿に向けた最終段階に入ってきています。我々のあいだで「ゼロ・ドラフト」と呼んでいる報告書の原型を3月末から4月にかけて完成させるため、かなり集中的な執筆プロセスに入ってきているというのが今の状況です。

六つの分野を動かす四つのテコ

全容が明らかになるのは、ハイレベル政治フォーラム(HLPF)の時期になりそうです。

HLPFとは毎年7月、持続可能な開発の進捗を点検するために開かれる会合です。4年に一度は国連の最高機関である国連総会のもとで開催されることになっており、2023年に国連総会の下で行われるHLPFが、GSDR発表の場にもなります。その前年となる今年のHLPFは3年ぶりに対面開催となりそうです。

全容はそれまでお預けとなりますが、概要を少しだけお話ししておきたいと思います。

「未来は今:持続可能な開発を実現するための科学」と題された2019年版のGSDRを読んでいただくと、2023GSDRのベースがわかるかと思います。そこでは、SDGsが必要とする変革を実現するために、四つのレバー(日本語では「テコ」と翻訳するのがいいように思います)と、六つの入口があることが示されています。

四つのテコとは、
・ガバナンス
・経済と資金
・個人と集団行動
・科学技術

六つの入口は、
・人類のウェルビーイングと能力
・持続可能で公正な経済
・持続可能な食料システムと健康な栄養
・普遍的アクセスを伴うエネルギーの脱炭素化
・都市と都市周辺の開発
・公共財としての地球環境

です。6分野の活動において、いかにテコを動かしていけるかが変革の鍵を握るというわけです。

図:変革実現のための四つのレバー(テコ)と六つの入り口

変革実現のための四つのレバー(テコ)と六つの入り口
出典:GSDR2019年版

変革への舵切りに極めて重要

2019年のGSDR作成時を考えると、SDGsができてからまだ時間が経っておらず、したがって実績もそれほどありませんでした。こうしたことから、2019GSDRは概念的な記述が多くなっています。

2023GSDRでは、多くの事例を取り入れることを考えています。コロナ禍でSDGs達成の道のりが後退した世界の現状と目標とのギャップを明らかにすると同時に、2030年の目標達成に必要な変革の種を見いだしたい。さらに、その種を育てて横へと展開し、社会全体の変革へとつなげていくための方策も示していきたいと考えています。

次のGSDRは2027年ですから、変革に向けた舵(かじ)を切るためには今回の報告書が極めて重要だということがおわかりになるでしょう。

3月29日にはジャパンSDGsアクションフォーラムが日本で開催され、2023GSDRの進捗状況が報告されるとともに、変革の種やテコの実践例が議論されます。これを皮切りに、世界各地でのGSDRのためのコンサルテーションが始まります。これらのプロセスに参加する人が増えることは、報告書の意義を高めることにもつながります。優良事例を発信する一つの機会ととらえ、どんどんインプットをいただければありがたい、と思っているところです。

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