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フードドライブに力入れるイトーヨーカ堂 架け橋役に見いだす新たな価値

フードドライブに力入れるイトーヨーカ堂 架け橋役に見いだす新たな価値
来店客から寄贈食品の米を受け取る従業員(イトーヨーカ堂提供)
フリーライター/石渡真由美

「フードドライブ」を知っているだろうか? 家庭で消費しきれない食品を集め、自治体や地域のフードバンクなどへ寄贈する活動だ。「捨ててしまうのはもったいない」と思っても個人で寄贈するのは大変だし、どこに届けていいのかもわからない人は少なくない。そんな消費者とフードバンクとの架け橋役に、イトーヨーカ堂が取り組んでいる。

全国44店舗で累計27tの寄贈食品

フードドライブやフードバンクは1960年代にアメリカで発祥した活動だ。日本では、2004年に関連したNPO法人が初めて認証され、少しずつその活動が知られるようになった。

イトーヨーカ堂は2019年、神奈川県のフードバンクかながわから協力を頼まれたことがきっかけになった。一部の店舗で特設カウンターに「フードドライブ回収ボックス」を設置し、期間限定のイベントとして実施した。

やってみると、「寄贈できる食品が家にたくさんある。食べられるのに捨てられる食品を必要とする方々にお届けできるのは嬉しい」「期間限定にせず、これからも続けてほしい」という声が予想以上に多く上がり、顧客の食品ロス削減や食の支援に対する意識の高さを実感。2020年6月から、常設化した。

横浜別所店を第1号に、現在は神奈川で18店舗、埼玉で14店舗、大阪・兵庫で7店舗、北海道・東北で5店舗、計44店舗で、フードドライブ回収ボックスを設置している。集まった食品は、累計で約27t (2022年1月末現在)。お米、缶詰、レトルト食品などが多いという。

回収ボックスは、主に店舗入口の従業員の目が届く場所に設置している。なかにはサービスカウンターで顧客から直接、寄贈食品を預かる店舗もある。

そうすることで、「『いただきものだけど、私1人では食べられないから』『ニュースで毎日のごはんが十分に食べられない人がいると知って、いてもたってもいられなくなって』といったお客様の声を直接聞くことができ、従業員からお客様にご協力への感謝の言葉をお伝えすることもできる。「食品ロスの削減」と「貧困問題」の解決につなげることができます」とCSR・SDGs推進部 マネジャーの大日向晃子さん。

回収ボックスに寄贈される食品は地域によって異なるが、各店舗から一定エリアごとに物流センターに集められ、提携する自治体やフードバンクに引き渡される。そこから各地域の社会福祉施設や子ども食堂などに配送している。

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フードバンクかながわに届けられた食品(イトーヨーカ堂提供)
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回収ボックスに寄贈食品を入れる子ども(イトーヨーカ堂提供)

店舗発でも家庭発でも 食品ロス削減は企業の役割

寄贈食品が集まったボックスを回収するには人手がかかるし、トラックを走らせれば燃料費もかかる。なぜここまでフードドライブに力を入れるのだろうか。

イトーヨーカ堂を傘下に持つセブン&アイグループは、2019年に策定した環境宣言『GREEN CHALLENGE 2050』で、2050年までに食品廃棄物量の75%削減(売上100万円あたりの発生量、2013年度比)と食品廃棄物のリサイクル率を100%にする目標を掲げ、食品ロス削減へ向けた取り組みをグループ全体で進めている。グループの売り上げの約6割が食品を占める企業としての責任と考えているからだ。

同グループでは、2008年に食品リサイクルと農業復興の実現を目指し、環境循環型の自社農場「セブンファーム」を開始。現在、全国に13拠点ある店舗から出る販売期限切れの食品を堆肥(たいひ)へリサイクルしたり、出荷できない規格外の野菜をオリジナルドレッシングに活用したり、あるいは小さな子どもが安心して遊べるよう、口に入れても安心な素材でつくったクレヨンを開発・販売したりと、食品ロスの削減対策に力を入れている。

イトーヨーカ堂としても、適正量を仕入れることはもちろん、食材のバラ売りや小分けパック、カット野菜といった商品をそろえることで、顧客が必要な分だけを購入できるように工夫し、家庭からの食品ロスを減らす取り組みを推進してきた。

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規格外野菜で作った「顔が見える野菜。クレヨン」 
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食品リサイクルと農業振興の両輪を掲げて環境循環型農業を行う農業生産法人「セブンファーム」(イトーヨーカ堂提供)

日本の食品ロスの量(農林水産省の推計値)は、2019年度で570万t。600万tだった2018年度から1年間で30万t減少したが、まだ課題は多い。

2019年度の内訳を見ると、外食産業や製造業、卸・小売業などのような事業系からのロスが309万tで全体の約54%。残りの約46%の261万tは家庭から出ている。こうした実態を受け止め、店舗で発生する食品ロスも一般家庭で出る食品ロスも削減していくことが重要だと考え、フードドライブに取り組むことを決めたという。

複数の店舗で展開するようになったのは、神奈川県で行った最初の試みを聞いたほかの自治体やフードバンクから「うちもお願いしたい」と協力依頼があったり、顧客から「困っている人たちを自分も支援したい」といった声が寄せられたりしたことが大きい。

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農林水産省の資料をもとに編集部作成

空になったトラック利用、大型スーパーの強み生かす

大型スーパーだからこそ、実現しやすい面もあった。イトーヨーカ堂は食品だけではなく、日用品や衣類なども扱う総合スーパー(GMS)だ。ここに来れば、一通りのものがそろう。小売専門店よりも顧客数が多いし、高級品中心の百貨店に比べると来店頻度も高い。

毎日利用するスーパーにフードドライブ回収ボックスがあれば、はじめはその存在に気がつかなくても、他の顧客が寄贈しているのを見て関心を持ったり店からの呼びかけで知ったりする機会も多い。周知が広がれば寄贈食品も集まりやすくなる。

トラックの有効利用にもつながった。神奈川県内の店舗では週1回、入荷商品を下ろして空になったトラックが寄贈された食品を積み込み、最寄りの物流センターに運び込む。埼玉県では2週間に1回、大阪府・兵庫県は3週間に1回の割合だ。

店舗への納品後の空いたスペースと既存の物流ルートを活用するだけなので、わざわざ新たにトラックを手配する必要もガソリンなどの追加コストも発生しない。多拠点展開し、日常的に物量網を整えているGMSならではの強みだ。

顧客と従業員の反応、見えてきたもの

スタートしてまもなく2年。どんな手応えを感じているのだろう。

CSR・SDGs推進部マネジャーの大日向晃子さんは、「ニュースでとりあげられたり学校でSDGsを学んだりする機会が増え、食品ロスや貧困に対する問題意識はかなり浸透しているように感じます。コロナ禍で生活困窮者が急増して子どもの貧困率が高まっていることも社会課題になっており、何かできないかと思っていた皆様から、『身近な場所で回収してもらえて大変助かる』『毎日行くイトーヨーカドーで気軽に社会貢献ができて嬉しい』などの声をたくさんいただいています」。

実際、寄贈食品は、日に日に増えている。当初は「一人暮らしで全部食べられない」と高齢者が寄贈するケースが多かったが、最近は小学生の子どもが自分のお菓子を入れたり、若い世代の男性が買い物ついでに購入したものの一部を入れたりする姿を見かけるという。

もちろん、課題もある。

例えば、「栄養のあるものを食べて」と良かれと思ってのことなのか、バナナや魚といった生ものが入っていたり、「このくらいならまだ大丈夫だろう」と思うのか、賞味期限切れの食品が入っていたりする点だ。

店舗から必要な人の手元に届くまで、商品の引き取り、仕分け、配達などある程度の期間が生じるため、フードドライブで受け付け可能な食品には、「賞味期限が2カ月以上残っているもの」「常温保存ができるもの」などいくつかの条件がある。こうした内容を広く知ってもらうために、店でチラシを配布したりポスターや冊子で紹介したりするようにした。

それでも、従業員からは「お客様への感謝をお伝えでき、受け取り可能な食品は何かといったコミュニケーションも取れる」「地域ケアプラザの方たちとの交流を地元の情報誌に紹介いただいた」「社会貢献だけでなく、企業のイメージアップになっている」などの声が寄せられているという。顧客と一緒に取り組むフードドライブは、従業員のウェルビーイングにもつながっているようだ。

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横浜別所店のサービスカウンター近くに置かれた回収ボックス。多いときは1日で箱がいっぱいになる(イトーヨーカ堂提供)

総合スーパーの新しい存在価値を示す

長引くコロナ禍で生活困窮者が増えていることもあり、イトーヨーカ堂は今後1〜2年のうちに、フードドライブを全店で実施できるようにする予定だという。

ただ、地域によっては設置が難しいケースもある。

神奈川県のように大規模なフードバンクがあるところはスタッフの数も多く、受け渡しがスムーズにできる。北海道・札幌の4店は、近くにあるフードバンクが直接に回収に来てくれるので負担が少ない。

だが、十分な保管場所や人手がなければ何らかの手立てを講じなければならず、時間がかかる。実施する店舗が増えるごとに、物流会社に協力を依頼するのも一手間だ。それでも、「できる限り多くの店舗で実現できるよう努力していきたい」とイトーヨーカ堂は意気込みを見せる。

SDGsの浸透やコロナ禍による生活や経済への影響が深刻になるなか、人々のあいだには「モノを買う」という欲求だけではなく、「困っている人を助けたい」「社会貢献したい」という共助の気持ちも高まっている。

少子高齢化やアマゾンのようなネットスーパーへの対応を迫られている総合スーパー。こうした顧客の潜在的なニーズにも応えていくことが、新たな存在価値を示すビジネスチャンスになるかもしれない。

石渡真由美
石渡真由美 ( いしわた ・まゆみ )
「教育」「生き方」をテーマに多数の媒体で取材執筆。ライターをしながら、“古き良きものは使って残す”をコンセプトに、祖父が残した築96年の古民家(登録有形文化財)でレンタルスペースと写真室を運営している。
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