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FIP制度とは? 仕組みやFIT制度との違い、今後の見通しを解説

FIP制度とは? 仕組みやFIT制度との違い、今後の見通しを解説
FIP制度の仕組みとFIT制度との違い(デザイン:増渕舞)
千葉みらい電力代表社員/森田一成

2022年4月1日から再生可能エネルギーのFIP制度が開始されました。再エネを応援したいと思っている人でも、FIP制度についてはよくわからないという人が多いのではないでしょうか。この記事では、再エネの専門家が、FIP制度の概略やFIT制度との違いを簡潔に解説します。

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森田一成(もりた・かずなり)
千葉みらい電力合同会社 代表社員。特定非営利活動法人自然エネルギー千葉の会 代表理事。フリーエディター、フリーライター。再生可能エネルギーのポテンシャルに着目し、市民の目線から再エネの普及を目指して活動中。有志の市民が出資して運営する「市民太陽光発電所」を3基手がけている。

1.FIP制度とは

FIP制度とは、再生可能エネルギー発電事業者が卸電力取引市場や相対取引で売電したとき、その価格に一定のプレミアム(補助額)が上乗せされる制度です。FIPとは「フィードインプレミアム(Feed-in Premium)」の頭文字をとってつけた名称です。

太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、発電時に二酸化炭素を排出せず、資源も枯渇しないすぐれた発電方法ですが、初期費用が大きくなるなど競争力の面で従来の電源(たとえば火力)に劣っていたことで普及が遅れていました。

再エネ事業の自立化を促進しつつ、支援する目的で2012年に導入されたのが「固定価格買い取り(FIT)制度」です。FIT(フィードインタリフ、Feed-in Tariff)制度とは、再生可能エネルギーの電気を、電力会社が一定価格で一定期間、買い取る制度を言います。このFIT制度によって、太陽光発電を中心に再エネは急拡大することになります。

2021年10月22日に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」においては、2030年度までに再生可能エネルギーを日本の主力電源とし、全電源の36~38%をまかなうことが目標として掲げられています。この大きな目標を達成するために、FIT制度の弱点を補い、さらなる再エネの普及を目指す仕組みがFIP制度なのです。

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出典:資源エネルギー庁「FIP制度の詳細設計とアグリゲーションビジネスの更なる活性化」

FIP制度は事業者への一定の負担があるため、小さな規模のものはFITを残し、大きな規模のものからFIPへと移行する形となっています。

太陽光発電の例を一部挙げます。50kW未満の低圧区分は、これまで通りFIT制度が適用されます(10~50kW未満には災害対策・自家消費の地域活用要件が求められます)。50~1000kW未満はFITかFIPの選択制です。そして、1000kW以上はすべてFIPの適用を受けます。

2.FIT制度とFIP制度の違い

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市民出資で運営されている大網白里第1市民発電所(筆者提供)

FIT制度とFIP制度の違いはどういう点にあるのでしょうか。

先ほどFIT制度の導入で再生可能エネルギーが急拡大してきたことを指摘しましたが、一方でこの制度にはいくつかの問題点も見えてきました。

一つは「再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)」という形での消費者負担の増大です。2019年度(2019年5月から2020年4月まで)の再エネ賦課金は1kWhあたり2.95円でしたが、2020年度が2.98円、2021年度が3.36円となり、電気使用者の負担がじりじりと上がってきています。

さらにFIT制度では、再エネ事業者の参入障壁を引き下げるため、電力市場からは切り離された固定価格で買い取りが行われてきましたが、電気の需要と供給のバランスを意識する必要が出てきました。太陽光発電の急激な拡大によって、昼間の時間帯など需要を上回る電気の供給が発生し、ロスが目立つようになってきたのです。

一方、新しいFIP制度ではプレミアムを交付することで再エネ事業者の後押しをしつつ、需要がつねに変動する電力市場への統合を促すものになっています。また、それを通じて消費者の負担を軽減させることを目指しています。

こうした事情をふまえて、FIT制度とFIP制度との違いを、いくつかの観点から具体的に見ていきましょう。

(1)売電収入の決まり方

まず、売電収入に関してです。FIT制度では、どの時間帯に発電しても価格は同一で、電力会社による全量買い取りが保証されます(ただし、条件によっては出力制御もあります)。

それに対しFIP制度では、卸電力取引所(JPEX)での販売か小売り電気事業者などとの相対取引によって売電を行います。価格は市場が決めますが、プレミアムによりFITと同程度の収益が確保されます。

(2)インバランスの取り扱い

つづいて、需要と供給のバランスについてです。電気はためておくことができないため、「在庫」ということがありえません。需要と供給をつねに一致させ、バランスを保っておく必要があります。

電気の需要と供給の不一致を「インバランス」といいますが、FIT制度では「インバランス特例」によってこの需要と供給の調整が免責されていました。

一方、FIP制度は電力市場への統合がテーマですので、バランシングが求められます。まず事業者は発電量の「計画値」を作成し、実際上の発電をそれと一致させるようにします。計画値と実績値の差分=インバランスについては、ペナルティーとしてコストを支払うことになります。

(3)非化石価値取引

もう一つ重要な指標が、「非化石価値取引」が可能になったことです。非化石価値とは化石燃料を使わない発電方法で発電された電気の「CO2を排出しない価値」のことを指します。具体的には、再生可能エネルギーと原子力由来の電気が有している価値になります。

FIT制度においては、再エネ賦課金によって消費者が費用を負担しているので、非化石価値は消費者に分配されていると考えられます。したがって、FIT電源から非化石価値を取り出して取引することはできませんでした。一方、FIP制度では市場及び相対取引で売買されるので、非化石価値取引が可能になります。

(4)FIT制度とFIP制度の違いまとめ

FIT制度とFIP制度との違いを表にまとめました。

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3.FIP制度の四つのキーワード

FIP制度について、四つのキーワードに沿ってさらに詳しく見ていきましょう。

(1)基準価格

FIP制度における基準価格は、FIT制度の固定価格(調達価格)に当たるものです。

前述したとおり、FIP制度は電力市場への統合を促しつつも事業者の投資インセンティブを確保するものです。FIT価格と同じく、再生可能エネルギー電気の供給のために通常必要な費用と事業者の利益を基礎として算出します。

FIP制度開始以降、しばらくはFIT価格と同水準にすることが定められており、プレミアムが交付される20年間は固定となります。

(2)参照価格

参照価格は、市場取引などによって事業者が期待できる収入を指します。市場価格とイコールではなく、市場価格をもとにして次の計算方式で算出します。

・参照価格の計算式
参照価格=市場価格+非化石価値市場の価格-バランシングコスト

バランシングコストについては、後述します。

(3)プレミアム

基準価格と参照価格の差がプレミアムとなります。つまり、FIP制度では、事業者は参照価格にプレミアムを加算された価格を収益として得るということです。

・プレミアムの計算式
プレミアム=基準価格-参照価格

基準価格は20年間固定ですが、参照価格は市場価格に連動しますので毎月変動します。また、それにともないプレミアムも毎月変動します。

電力市場の価格が高騰し、参照価格が基準価格を超えることもありえます。その場合、プレミアムは0円となります。

(4)バランシングコスト

前章で計画値と実績値のインバランスについては、ペナルティーとしてコストを支払うことを説明しました。これを「インバランスリスク」といいますが、太陽光発電や風力発電を行っている事業者にはかなりの負担となるといえます。太陽光・風力は自然変動が大きく、事前の予測が難しいからです。

そこで、このインバランスリスクを軽減させるための経過措置として、変動電力である太陽光・風力については一定の額を交付することとなりました。これをバランシングコストといい、2022年度は1kWh当たり1.0円が交付され、今後順次縮小されていきます。

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北海道幌延町の風力発電所(撮影・朝日新聞)

4.FIP制度によって考えられる影響

FIP制度の目標は二つあることを述べてきました。一つは、事業者の投資インセンティブの確保。そして、もう一つは消費者の負担抑制です。

しかし、この新制度にはそれらにとどまらない可能性があります。FIP制度導入によって考えられる影響にはどんなものがあるでしょうか。

(1)事業者の側から

再エネ発電事業者の目線から見てみます。FIP制度下では、多様なビジネスモデルの展開が考えられます。

①アグリゲーター事業の活発化

FIP制度開始によって、アグリゲーター事業の活発化が予想されます。アグリゲーターとは発電事業者と需要家の間に入って、需給調整やエネルギーマネジメントを行う者です。いわば、「電気の仲買人」です。

FIP制度によって、発電事業者には需給のバランシングが義務付けられましたが、小規模の事業者には大きな負担となります。そこで、アグリゲーターが小規模の事業者を束ね、バランシングの代行、蓄電池などを活用したバックアップを行うというわけです。

②PPA事業の拡大

PPAとは「Power Purchase Agreement(電力販売契約)」の略で、再生可能エネルギーの電気を購入したい需要家と再エネ発電事業者が契約を結んで電気を売買する仕組みです。

太陽光発電の場合、FIP制度では事業展開が難しいと判断した事業者によって、FIPを利用しないPPAのスキームが選択されていくことが予想されます。プレミアムを受け取らなくとも、需要家との相対取引で十分利益を確保できるケースがあるからです。これは、いわばFIPの反作用です。

③多様な売電戦略

FIT制度のもとでは全量買い取りが約束されていましたが、FIP制度下では売電戦略を練る必要が出てきます。

たとえば太陽光発電は正午に一番発電しますが、電力市場では一番安くなる時間帯です。そこで、太陽光パネルを西向きに設置し、価格が高くなる夕方に発電量を増やすということも考えられます。

小水力発電の場合、FIT制度の全量買い取りでは24時間発電できる「流れ込み式」が一番有利でしたが、FIP制度が始まることで時間帯によって発電量を調整できる「貯水池式」などが増えていくという予想もあります。

(2)需要家の側から

電気の購入者=需要家サイドから見るとどうでしょうか。

近年、「実質100%の再生可能エネルギー電気を使用」とうたう企業・団体が増えてきました。たとえば再生可能エネルギー100%を推進する国際ビジネスイニシアチブ「RE100」には、世界に名だたる企業が参加しています。

気候変動への対策が喫緊の課題となり、企業活動も環境への貢献度をものさしとする時代になっています。「再エネ実質100%」をアピールしたい企業・団体は、非化石価値市場から非化石証書を購入することで、それを可能にします。

FIT制度の導入によって、これまでも再生可能エネルギー電気は拡大してきました。しかし、FIT制度では再エネ賦課金によって消費者が環境価値を分有していると考えるため、FIT電源を使用していても、それを再エネ電源として主張することはできませんでした。

FIP制度開始によって非化石価値市場が活性化することで、需要家が非化石証書を購入する機会が拡大することが予想されます。

5.FIP制度は再エネ主力電源化のステップ

再生可能エネルギーが他の電源とのコスト競争に打ち勝ち、自立した電源へと成長するための一階梯(かいてい)となるFIP制度。FITが「ホップ」ならば、FIPは「ステップ」となることでしょう。

日本の脱炭素社会化を実現するためには、再生可能エネルギーの主力電源化という「ジャンプ」が必要になります。社会全体のバックアップがもちろん必要になりますが、再エネ事業者の経営戦略と創意工夫がより一層求められることになるでしょう。

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