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ディーセントワークとは? 定義やSDGsとの関係、実現方法を解説

ディーセントワークとは? 定義やSDGsとの関係、実現方法を解説
ディーセントワークの定義と実現方法(デザイン:吉田咲雪)
社会保険労務士/北村庄吾

ディーセントワークとは、「働きがいのある人間らしい仕事」であり、SDGsや働き方改革と深い関係のある言葉です。所得の格差や長時間労働といった課題を抱える日本において、取り組むべき重要なテーマとなっています。本記事では、ディーセントワークの定義や実現のポイントをご紹介します。

art_00347_著者_北村庄吾さん
北村庄吾(きたむら・しょうご)
1961年熊本生まれ。中央大学法学部卒。社会保険労務士・行政書士・ファイナンシャルプランナー。「人事・労務のプロフェッショナル」「年金博士」など、さまざまな顔を持つ。著書に『人事・労務の超基本』(かんき出版)、『令和3年度版 やさしくわかる給与計算と社会保険事務のしごと』(日本実業出版社)などがある。YouTube「週刊人事労務チャンネル」も運営。

1.ディーセントワークとは

「ディーセントワーク」(decent work)とは、日本では「働きがいのある人間らしい仕事」と訳され、「生きがいを持って安心して働ける環境づくり」という意味が込められている言葉です。1999年に開催された第87回ILO(国際労働機関)総会において、フアン・ソマビア事務局長(当時)が提唱しました。

(1)ディーセントワークとSDGs

「SDGs」とは、Sustainable Development Goalsの略称で、2030年までに達成すべき持続可能な開発目標です。2015年の国連総会で採択されました。「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」などの17の目標で構成されていますが、その八つ目の目標「働きがいも経済成長も」、すなわち「持続可能な経済成長および完全かつ生産的な雇用と働きがいのある雇用の促進」という目標のなかに、ディーセントワーク推進が掲げられています。

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(2)ディーセントワークに必要な四つの戦略目標

ディーセントワークは、1999年に開催されたILO総会や、2008年の「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」において、以下の四つの戦略目標にもとづいて初めて実現できるとされています。

1. 仕事(雇用)の創出… 国や企業による仕事(雇用)創出などの支援
2. 社会的保護の拡充…社会保障の充実や安全で健康的に働ける職場環境整備
3. 社会対話の推進と紛争解決…職場での問題や紛争の平和的解決の促進
4. 労働(仕事)における権利の保障…労働者の権利の保障、尊重

この流れを受けて、2012年に日本政府が閣議決定した「日本再生戦略」においてもディーセントワークの実現が盛り込まれています。

2.ディーセントワークが重要視される理由

世界には、20億人以上の人が食べる物に困っている事実があります(参照:The State of Food Security and Nutrition in the World 2019:ユニセフ)。

ディーセントワークを推進すれば、平等な扱いや公平な処遇といったことが労働環境にもたらされるでしょう。それによって、賃金の引き上げや社会保障の充実などが実現でき、所得の格差が縮まっていきます。

日本においても、正規雇用者と非正規雇用者との所得の格差などが問題になりました。国税庁の「令和元年分 民間給与実態統計調査」では、正規雇用の平均給与が503万円なのに対し、非正規雇用が175万円となっており、給与差が328万円となっています。

また、日本の労働環境は国際社会のなかでも後れをとっています。2013年5月17日には、「多くの労働者が非常に長時間の労働に従事し、過労死が発生し続けている」と国連の社会権規約委員会から勧告を受けています。

これを受け、働き方改革を推進するための法改正がおこなわれ、2019年から順次、施行されています。長時間労働に関しては、1カ月100時間以上または複数月平均80時間を超える時間外・休日労働が禁止され、ハラスメントでは、「パワハラ」が「マタハラ」「セクハラ」に続き規制の対象となりました。

しかし、都道府県労働局に寄せられる労働相談は依然として年間100万件を超え、個別の労働紛争に関する相談件数の内訳は2012年度以降、職場内での「いじめ・嫌がらせ」がトップとなっています。

長時間労働やハラスメントから、精神疾患を発症し、自殺に至る件数も高止まりの状態です。精神疾患による労災の申請件数も年間2000件を超えています。

ディーセントワークを推進することで、所得の格差だけでなく、こうした長時間労働やハラスメントの課題も解決できるようになるでしょう。なぜなら、推進によって、働くうえでの権利の保障や労働者の安全への配慮が確立されるからです。

そのため、日本においてもディーセントワークを推進することが求められています。

3.日本が定めるディーセントワークの「4項目」

日本では、ディーセントワークを推進するために、厚生労働省がディーセントワークそのものを以下のように整理しています。

1. 働く機会があり、持続可能な生計に足る収入が得られること
2. 労働三権などの働く上での権利が確保され、職場で発言が行いやすく、それが認められること
3. 家庭生活と職業生活が両立でき、安全な職場環境や雇用保険、医療・年金制度などのセーフティネットが確保され、自己の鍛錬もできること
4. 公正な扱い、男女平等な扱いを受けること

引用:ディーセントワークと企業経営に関する調査研究事業報告書p.2(2012):厚生労働省

ディーセントワークの実現には、まずこの4項目をおさえることが大切です。そのうえで、企業としては、労働に関する法令を順守した形での就業規則の整備や教育研修などを通じた意識改革が必要となります。一方、労働者も、法令を知り、法令違反に対して毅然(きぜん)とした対応をすることが求められます。

4.日本が定めるディーセントワークの「七つの評価軸」

では、実際に日本でディーセントワークを実現するために、企業は何をすべきでしょうか。

厚生労働省では、上記の4項目に基づいて、同じ報告書内で「七つの評価軸」を示しています。この評価軸に沿って、企業として取り組まなければならない対応を整理していきます。

(1)WLB軸

仕事と家庭のバランス(ワーク・ライフ・バランス)が保たれているか、地域活動、自己啓発などと両立できる労働環境かどうかを評価する軸です。

少子高齢化によって労働力人口が減少していく日本では、年齢にかかわらず働き続けることができる環境づくりが求められています。

特別休暇の設定や勤務日時、勤務場所(在宅勤務など)の柔軟な対応、個人事業主として働く仕組みをつくるなど、多様な働き方ができる環境整備が必要です。

(2)公正平等軸

労働者が公正・平等に活躍できる職場かどうかを評価する軸です。2020年からの「同一労働同一賃金」関連法の施行により、非正規労働者と正規労働者の賃金や福利厚生などを能力や仕事の内容を基準に考えていくことになりましたが、性別や雇用形態にかかわらず、能力を正当に評価する仕組み(人事評価制度)を整えることも重要になります。また、障害者や高齢の人にも働く場所(特にハード面での)を提供できる環境づくりも大切です。

(3)自己鍛錬軸

能力開発の機会が与えられ、キャリアアップが図れる職場なのか、また、やりがいをもって働くことができるのかを評価する軸です。

教育訓練体制(新入社員研修など)が充実しており、働く人の希望も踏まえたキャリアアップの仕組みができていることが理想的な姿です。職場内の研修が難しい場合は、社外で研修を受講してもらうといいでしょう。

その際は、働く人の負担をいたずらに増やさないように、受講にかかる費用や勤務日時への配慮について事前によく検討し、きめ細かな体制づくりをしておくのがポイントになります。

(4)収入軸

人としての生活を営める収入を得られる職場かどうかを評価する軸です。

国の賃上げ要請を受けて、企業が賃金の引き上げに積極的に取り組む動きも見られますが、まだ十分とは言えないレベルです。

また、子育てを支援するために子供手当などを拡充した企業もありますが、そもそも企業内託児所の整備が遅れているといった課題があります。また、2025年には団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となり、介護の問題が深刻化します。

コロナ禍の影響でテレワークが推進されていますが、テレワークは仕事と子育てや介護との両立にも有効な働き方です。テレワークをしながら安定した収入を得られる仕組みづくりが、企業には今後求められます。

(5)労働者の権利軸

働く人が、企業と同じ立場で労働条件や職場環境などについて話し合える職場かどうかを評価する軸です。

日本では、労働組合の組織率が16.9%(2021年)にとどまっています。労働組合でなくても、「社員会」など、働く人が意見を言える場をつくることが重要です。

近年の法改正により、労働者の権利や義務も一昔前とは大きく変わりました。健全な職場づくりのためにも、権利・義務の明確化と尊重は重要なテーマです。

(6)安全衛生軸

安全で衛生的な環境が確保・維持されている職場かどうかを評価する軸です。

日本では、身体面の労災事故は、設備・器具といったハード面の環境整備により、かなり減少しました。しかし、長時間労働やハラスメントによる精神疾患などの増加が深刻化しています。特に最近ではコロナ時代でテレワークとなり、コミュニケーション不足の要因もあって精神疾患に陥る労働者は増加しています。

そのため、企業には、長時間残業や休日出勤を減少させる目的での人員配置や業務内容の見直し、良好な人間関係を構築・維持できる環境づくりなど、働く人の心身の安全に配慮することが求められます。

(7)セーフティネット軸

社会保障制度の充実度合いを評価する軸です。

日本では、働き方改革に伴い、多様な働き方のなかで労災保険や雇用保険などの適用が見直されています。

例えば、副業解禁に伴う、2カ所以上の勤務者に対する労災保険の見直しや、65歳以上の複数勤務者に対する雇用保険の適用などです。また、2022年4月からの年金改正では、65歳未満で働きながら年金を受ける人への支給停止基準が見直され、65歳以上も働きながら年金を受ける場合に1年ごとに年金を増額する仕組みができました。

企業としては、こうした法律の改正に伴って変更された内容を理解し、努力義務とされているものについては積極的に導入する必要があるでしょう。また、働く人の混乱・不安を招かないように、そうした対応をしていることを周知する必要があります。

5.「当たり前」が当たり前でなくなってきている

ディーセントワークの進展により、働くうえでのルールなどの制度改正が行われ、日本の労働環境は明らかに変化してきています。

企業の経営者は、働きやすい職場環境をつくらないと、労働力不足の時代に、企業経営の中核である「人」がいないという状態になるかもしれません。

一方、法改正により、働く人も、得られる権利が増えた半面、義務も増えました。働くうえでのリスクなどに関連する仕組みやルールをしっかりつかんだうえで、ご自身のキャリアを積み上げて、人生100年時代に備えていくことが必要です。

一昔前までの日本では「当たり前」であったことが、当たり前でなくなってきたということが、労働環境分野では多く起きています。この記事が、労働環境を見直すきっかけとなれば幸いです。

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