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再エネ拡大による日本経済への影響 金融・経済から見えるSDGsのトレンド【4】

再エネ拡大による日本経済への影響 金融・経済から見えるSDGsのトレンド【4】
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大和総研/和田恵

art_00364_著者_和田恵さん
和田恵(わだ・めぐみ)
株式会社大和総研 経済調査部 兼 金融調査部SDGsコンサルティング室 研究員。2019年大和総研入社。専門分野は日本経済、SDGs、気候変動。沖縄県SDGsアドバイザリーボード(2021年~)、東京工業大学非常勤講師(2022年)を務める。著書に『この一冊でわかる 世界経済の新常識2022』(日経BP、共著)など。

脱炭素化のカギを握るエネルギー転換部門

2015年に採択されたパリ協定や、2020年に菅義偉前首相が宣言した「2050年カーボンニュートラル」などを受けて、日本でも温室効果ガス排出量の削減に向けた取り組みが活発化している。2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロとする目標の達成のカギを握るのは、二酸化炭素(CO2)排出量が最も多い「エネルギー転換」部門だ(図1)。エネルギー転換には火力発電といった事業用発電やガソリンなどの石油製品製造、ガスや熱供給が含まれる。今回はそのなかでも排出量が最も多く、そして身近な「発電」に焦点を当てる。

発電は天然ガスや石炭など化石燃料によるものと、原子力や再生可能エネルギー(再エネ)など非化石燃料によるものに大別される。カーボンニュートラルの実現には、前者の利用を減らしつつ、後者のうち再エネによる発電をいかに拡大させるかが重要となる。

図1 部門別CO2排出量の割合

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(注)直接排出。
(出所)国立環境研究所より大和総研作成

2030年度に再エネ構成比は4割程度まで拡大

それでは、再エネの拡大についてどのような政策目標が掲げられているのだろうか。

政府は電源構成(各発電の割合)について3年ごとに「エネルギー基本計画(エネ基)」を策定している。最新の第6次エネ基は2021年10月に閣議決定された。そこではカーボンニュートラルの達成期限である2050年を見据え、その途上である2030年度の電源構成目標が示されている。

電源構成目標の内訳を見てみよう(図2)。

図2 第6次エネルギー基本計画の電源構成

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(出所)資源エネルギー庁より大和総研作成

2020年度で20%だった再エネの構成比は36~38%程度と、第5次エネ基(22~24%程度)から15ポイント前後も引き上げられた。内訳は太陽光が14~16%程度、水力が11%程度、風力が5%程度、バイオマスが5%程度、地熱が1%程度(第5次エネ基:太陽光7.0%程度、水力8.8~9.2%程度、風力1.7%程度、バイオマス3.7~4.6%程度、地熱1.0~1.1%程度)である。反対に引き下げられたのが火力発電(2020年度実績:76%)で、構成比は前回の56%から41%程度へと低下した。

再エネは主力電源と位置付けられ、特に太陽光と風力の開発に注力する方針だ。太陽光による発電量は固定価格買い取り制度(FIT制度)の効果もあり、2012年度から2020年度にかけて12倍に拡大した。太陽光の発電コストは2020年時点で石炭火力と同程度となり、今後も更なるコストの低下が予想されている。

風力には陸上風力と洋上風力の2種類がある。風力による発電量は2012年度から2020年度にかけておおむね2倍程度に拡大したが、これは主に陸上風力によるものだ。

陸上風力の拡大に向けては、発電設備を設置しやすい平野部において適地の減少が指摘されており、今後は山林部での設置が増加するなどしてコストが高まることが予想される。他方、洋上風力は大量導入やコスト低減が可能であるとともに、経済波及効果が大きいことから、再エネの主力電源化に向けた「切り札」として推進していくとされた。政府は2020年12月に「洋上風力産業ビジョン(第1次)」を策定し、洋上風力発電の拡大に本格的に取り組んでいる。

火力は2030年度時点でも最大の電源にとどまる見通しだ。火力の内訳は天然ガスが20%、石炭が19%、石油が2%(前回計画:天然ガス27%、石炭26%、石油3%)だ。アンモニア混焼やCCUS(排出されたCO2の回収・貯留・利用)など、化石燃料の燃焼時に発生するCO2を削減する技術を併用することで、政府は火力電源を一定程度存続させつつCO2の削減を図る方針である。

火力が最大の電源と位置付けられているのは、再エネの変動性を調整する、安定供給の側面が重視されたためと考えられる。再エネのなかでも季節や時間帯、天候によって発電量が変動する太陽光と風力が主力とされたことから、電力の供給量を調整する必要性が一層増すことが予想される。

なお、第6次エネ基が目指す再エネ拡大幅は現在の取り組みの延長線上では達成不可能とみられている。政府の試算によると、徹底した省エネルギー(節電)と再エネ拡大のための更なる政策対応(政策強化の動きがあり、定量的な政策効果が見通せているもの)を組み合わせても、目標とする再エネ構成比(36~38%)に満たない。

こうした達成困難な数値目標が設定された背景には、2021年春に2030年度の温室効果ガス排出削減目標を従来の2013年度比26%減から同46%減に大幅に引き上げたことがある。

エネルギー輸入減、経済全体にプラスに作用

目標達成のためには、再エネ拡大を加速させるための技術開発や普及に向けた取り組みの強化が官民で求められる。再エネ設備投資の大幅な増強などに必要なコストへの対策も求められるだろう。

再エネ拡大は日本経済にどのような影響をもたらすのだろうか。第6次エネ基で示された通りに再エネが拡大した場合の日本経済の姿を「2015年次世代エネルギーシステム分析用産業連関表」を用いて検討してみよう。

エネルギーミックスがエネ基通りに変化した場合、日本のGDPは拡大する見込みだ(図3)。主に輸入の減少が押し上げている。事業用火力発電量の減少に伴い、石炭や天然ガスといった化石燃料の需要が減少することが主因だ。

図3 電源構成の変化によるGDPの変化のイメージ

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(注1)第6次エネルギー基本計画におけるエネルギーミックス目標が達成された場合と2015年との比較(大和総研による試算)。
(注2)総発電量は大和総研の試算に基づく。
(注3)輸入の減少は事業用火力発電縮小に伴う輸入額の減少幅を試算(化石燃料など)。
(出所)早稲田大学・スマート社会技術融合研究機構・次世代科学技術経済分析研究所ウェブサイト(2021)「2015年次世代エネルギーシステム分析用産業連関表」、資源エネルギー庁、各種資料より大和総研作成

化石燃料の減少は電力の自給率を高めることにつながるため、電力供給における地政学リスクの影響を低減させることでエネルギー安全保障にも貢献する。足元ではウクライナ情勢の緊迫化によって資源価格が高騰した。さらに、過去には中東で地政学リスクが高まり、日本のエネルギー供給体制に支障が生じた事態があった。

また、再エネが拡大することでサプライチェーンを通じて他産業の需要も拡大するだろう。例えば、再エネ設備の修繕の需要が拡大するとみられる。

再エネ拡大の過程で失業が生じる可能性

図3で示したように、再エネ拡大にはGDPを押し下げる要因もある。事業用火力発電の需要が大きく減少し、さらにそれがサプライチェーンを通じて他産業に波及するためだ。事業用火力発電の国内サプライチェーンとしては、発電に用いる化石燃料に関連する業種、それらを貯蔵や輸送に関連する業種などが挙げられる。

さらに、これらの産業の雇用にも影響が及ぶだろう。エネルギー転換による雇用へのマイナスの影響を小さくするためには、労働需要が拡大するとみられる再エネ関連産業などが、火力発電産業や関連産業で失われる雇用の受け皿となるよう、円滑な労働移動を支援する必要がある。しかし日本の労働市場は流動性が比較的低く、こうした労働市場の特徴は産業構造の転換にとっての障壁となりかねない。

この点、脱炭素化に向けて先陣を切る欧州連合(EU)では、気候変動対策を柱とした産業競争戦略の「欧州グリーンディール」の一つである「公正な移行メカニズム」によって、化石燃料に依存する国やセクターなどの脱炭素化に伴う社会的・経済的悪影響を緩和しようとしている。日本においても、労働移動やそのための教育制度といった具体的な政策への落とし込みが今後求められるだろう。

長期的視点で産業構造の変化に対応を

この記事で紹介した試算は、再エネが拡大した場合の日本経済への影響だが、その過程では、再エネ賦課金の増加、設備投資を大幅に増強する必要性などの課題を乗り越える必要があろう。また、2022年3月16日の福島県沖を震源とする地震の影響により、21日から23日にかけて関東地方と東北地方で電力需給逼迫(ひっぱく)警報が出された。前述の通り、再エネのなかで主力となる太陽光や風力は季節や時間帯、天候で発電量が変動することから、安定供給との両立のための取り組みも引き続き必要となろう。

再エネ拡大の過程で課題はあるものの、2050年カーボンニュートラル実現を目指して再エネを拡大していく流れは続くとみられる。長期的視点に立ってエネルギー転換による産業構造の変化に対応しつつ、日本の国際競争力を向上させる契機と捉え、官民を挙げて積極的に取り組む必要があるだろう。

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