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脱炭素社会とは? 実現に向けた課題と企業、個人ができることを解説

脱炭素社会とは? 実現に向けた課題と企業、個人ができることを解説
脱炭素社会の定義と企業・個人ができること(デザイン:吉田咲雪)
SDGs専門ライター・FP/服部椿

脱炭素社会とは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする社会です。かねて地球温暖化問題は注目されてきましたが、なぜ今、脱炭素が必要なのでしょうか。この記事では、国や企業の具体的な取り組みを通じて、私たちが脱炭素社会に向けてできることをご紹介していきます。

art_00374_著者_服部椿さん
服部椿(はっとり・つばき)
金融代理店での勤務経験と投資経験を生かし、ライターとして独立。近年はESG投資やSDGsに関するコラムを多数執筆中。

1.脱炭素社会とは

「脱炭素社会」とは、二酸化炭素やメタンといった温室効果ガスの排出量を、“実質ゼロ”にする社会です。

脱炭素社会が注目されるようになったきっかけは、2020年10月に行われた菅義偉首相(当時)の所信表明演説。この演説で菅氏は「2050年までに、温室効果ガス排出を全体としてゼロとする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言しました(参照:第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説|首相官邸)。2021年4月には、2050年カーボンニュートラル実現の中期目標として、「2030年度に13年度比で46%減」という目標も掲げています(参照:温室効果ガス46%削減目標 首相が示す「野心的」水準│朝日新聞デジタル)。

そもそも、なぜ「2050年まで」なのでしょうか。その理由は、温室効果ガスの増加によって引き起こされる地球温暖化です。地球温暖化対策の国際的な枠組みであるパリ協定では、地球の気温上昇を産業革命以前と比べて1.5度以内に抑えるという長期目標があります。その長期目標を達成するために、日本においても2050年までの脱炭素化が求められているのです。

では、地球の気温上昇を「1.5度以内」に抑えなければどうなるのでしょうか。

すでに気候変動による影響は深刻で、異常気象や海面上昇といった問題が起きています。しかし1.5度以上上昇すれば、各地で砂漠化が発生し、生態系の破壊や水資源の枯渇、健康被害など、さらに多くの被害が発生します。このままいけば、人類だけではなくすべての生き物の生存基盤がゆらぐことになりかねません。

また、世界の人口は80億人弱に達し(参照:世界人口白書2022|国連人口基金駐日事務所)、今後も当面、増え続ける見通しです。1人あたりの二酸化炭素排出量を減らさない限り、総排出量が増えていくことは言うまでもありません。そうなれば地球環境はさらに悪化し、その影響は人口減少が始まっている日本にも及びます。

地球温暖化は世界中で取り組まなければならない喫緊の課題です。日本でも、次世代のために今できる対策をしていく必要があります。その際、目指すべき未来像となるのが脱炭素社会なのです。

2.脱炭素社会の実現に向けての取り組み

脱炭素社会の実現に向けて注目したいのは、「カーボンニュートラル」という言葉です。

カーボンは「炭素」、ニュートラルは「中立」を意味します。これは温室効果ガスの排出を極力抑えつつも、やむを得ず排出する温室効果ガスは違う形で吸収(たとえば森林づくりなど)し、全体でプラス・マイナスゼロにしよう、という意味です。

温室効果ガスの大部分は二酸化炭素ですが、人間の活動に二酸化炭素の排出は付きもの。生きていくうえで、二酸化炭素の排出をゼロにすることはできません。できる限り排出を抑制しつつ、吸収する取り組みが必要になります。

では、国や企業ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。それぞれ紹介していきます。

(1)国の取り組み

日本政府の取り組みのなかで特に大きなものは、法律の整備と具体的なロードマップの策定です。

①脱炭素社会の実現を法律に明記

2021年5月、「改正地球温暖化対策推進法」が成立しました。改正のポイントは以下の三つです。

1. 2050年までの脱炭素社会の実現が明記される
2. 地方創生につながる再生可能エネルギーの導入を促進
3. 企業の温室効果ガス排出量をオープンデータ化する
(出典:地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案の閣議決定について|環境省

特に注視すべきポイントは、1の法律での明記でしょう。菅氏の演説に加えて、改正地球温暖化対策推進法で具体的な脱炭素目標が明記されました。これにより、脱炭素社会の実現は国だけではなく、企業、自治体、そして国民にとって取り組むべき課題になりました。

また、2では各自治体に再生可能エネルギーの導入が促され、3では各企業の情報公開が進められています。

それらの具体的な取り組み内容と工程表は、②の地域脱炭素ロードマップで明らかにされています。

②地域脱炭素ロードマップの策定

脱炭素社会を実現するためには、企業や地方自治体の協力が欠かせません。そこで国は「地域脱炭素ロードマップ」を策定し、具体的な工程表と取り組みの基盤を明らかにしました。

地球脱炭素ロードマップによると、2030年度までに100カ所の「脱炭素先行地域」を作り、再生可能エネルギーの導入を中心とした先行的な取り組みを実施することが記載されています。そして2030年以降には、脱炭素先行地域の取り組みを生かした重点対策が全国で実施される予定です。

全国で実施される主な重点対策は、以下のとおりです。

<脱炭素の基盤となる主な重点対策>
・屋根置きなどの太陽光発電パネルを設置し、自家消費できる太陽光発電を導入
・住宅や建築物の省エネ性能の向上
・EV(電気自動車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)といった電動車の導入促進
・食料・農林水産業の生産力向上など

住宅、建築物や自動車のエネルギー見直し、食料生産力の向上など多方面の取り組み課題が示されています。例えば電動車の導入促進については、「2035年までに乗用車の新車販売に占める電動車の割合を100%とすることを目指す」ことが目標として掲げられています。まだ具体的な法案が成立したわけではありませんが、今後ガソリン車の取り扱いは間違いなく変わっていくでしょう。

現在、企業や地方自治体で行われている脱炭素化に向けた取り組みは、上記の重点対策がベースになっています。それをふまえて、各企業でどのような取り組みが行われているのか見ていきましょう。

(2)企業の取り組み

①積水ハウス

住宅や建築物の省エネ化、自家消費できる太陽光発電(再生可能エネルギー)の導入は、地域脱炭素ロードマップでも重点対策の一つとしてあげられています。

積水ハウスは、新築戸建て住宅におけるZEH(ゼッチ)商品をいち早く投入。日本初のZEH賃貸住宅の建設など、住宅業界で先陣を切ってZEH化を進めています(出典:脱炭素社会|積水ハウス)。

ZEHとは「ネット・ゼロ・エネルギーハウス」の略で、家庭で消費するエネルギー量を実質ゼロ以下にする住宅です。温室効果ガス排出の大半はエネルギー起源のため、暮らしに欠かせない住宅のエネルギーそのものがゼロになるよう設計されています。

ZEHは自家発電のエネルギーを使って暮らせるため、光熱費もほとんどかかりません。家計にも環境にも優しく、政府もZEHの普及には力を入れています。住宅ローン減税も一般住宅より優遇されているため、今後も住宅市場でZEH化の流れは活発化していくでしょう。

②明治ホールディングス

明治ホールディングスでは、脱炭素社会実現のために、事業のあらゆる段階において省エネルギーに努めています。具体的には、以下の取り組みを行っています。

・省エネ性能設備の導入
優れたエネルギー消費効率性能を基準とする「トップランナー制度」対象機器の導入
・環境に配慮した物流の取り組み
トラック中心の輸送から船舶や鉄道の輸送に切り替えることで二酸化炭素の排出量を削減する「モーダルシフト」への取り組みを実施
・環境に配慮したエコカーへの切り替えや車両台数低減の取り組み
2012年度から営業車を順次エコカーに切り替え、二酸化炭素の排出量を抑制

このほか、同社では各事業所や工場に太陽光発電設備を導入。グループ全体での温室効果ガス削減に取り組んでいます(出典:脱炭素社会|明治ホールディングス)。

3.脱炭素社会への課題と企業に求められること

2020年度の日本の温室効果ガスの総排出量(二酸化炭素換算)は11億5000万t。森林などの「吸収源対策」による吸収量を差し引くと11億600万tで、2013年度比21.5%減でした(参照:2020年度(令和2年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について│環境省)。近年、排出量は減少傾向にあるものの、目標達成のためにはさらなる取り組みが欠かせません。

国が脱炭素社会実現の道筋を示したことを受けて、企業も対応を加速させていますが、課題も多く残されています。詳しく見ていきましょう。

(1)企業に求められているのは「再生可能エネルギー100%」

企業にとって、脱炭素社会に向けた取り組みの軸になるのは、エネルギーの見直しです。

具体的には、事業で使用するエネルギー量を極力抑えること、そして発電時に温室効果ガスを排出しないエネルギーを利用することが求められています。

温室効果ガスを排出しないエネルギーの代表格は、太陽光発電や風力発電、水力発電といった再生可能エネルギーです。特に注目されているのは太陽光発電で、先述した積水ハウスや明治ホールディングスでも、各事業所や住宅に導入しています。

自家発電のエネルギーは災害時のリスク対策にもなり、光熱費の削減にもつながります。脱炭素化を迫られる企業にとって、再生可能エネルギーの導入は今後も大きな取り組み課題となるでしょう。

実際、企業が事業で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す枠組みとして「RE100」が発足しています。すでに世界や日本の企業が参加し、環境省もRE100を後押ししています(出典:環境省RE100の取組|環境省)。

しかし、こうした枠組みが発足して再生可能エネルギーが盛り上がる一方で、多くの企業には導入障壁があります。次項で詳しく解説していきましょう。

(2)課題は化石燃料への依存度の高さ

実は、日本で利用されているエネルギーの大半は石油や石炭といった化石燃料です。

環境省によると、東日本大震災以降はより化石燃料への依存度が高まり、2018年度のエネルギー利用のうち85.5%が化石燃料でした(出典:日本のエネルギー2020 エネルギーの今を知る10の質問 p.1|資源エネルギー庁)。

原子力発電にも、「発電時に二酸化炭素が発生しない」「安定供給しやすい」というメリットがあります。しかし震災後、原子力発電をエネルギーの主力とすることに対して批判の声が強まり、二酸化炭素排出量が特に大きい石炭火力を含む、化石燃料による発電に頼らざるを得ない現状があるのです。

とはいえ、現在利用している化石燃料から再生可能エネルギーに切り替えるには、大きな設備投資が必要です。資金力がある大企業やグローバル企業であれば、長期の視点で設備投資できるでしょう。しかし日本の企業のうち、85%は小規模企業。なかにはコロナ禍で赤字経営となり、事業の立て直しを迫られている企業もあるでしょう。

このような状況下で、地球環境保全のために再生可能エネルギーに設備投資できる企業がどれほどあるでしょうか。

国は脱炭素社会の実現に向けて、企業や地方自治体への支援を拡充させると公表しています。また、脱炭素と経済成長の両立を図る「グリーン成長戦略」をかかげ、さまざまな政策を打ち出しています。各企業の担当者は、これらの情報を注視しておくとよいでしょう。

4.脱炭素社会の実現において私たちにできることは?

脱炭素社会を実現するために個人ができることは、国や企業とそう大きく変わりません。

基本的に、脱炭素社会の軸になるのはエネルギーの見直しです。企業であれば事業で利用するエネルギーを見直すように、個人の場合は日々の生活で利用するエネルギーを見直すことが大切です。

先述した「地域脱炭素ロードマップ」でも、個人が取り組める「ゼロカーボンアクション30」を公表しています(同 p.39-42)。そのなかから、毎日できるもの、効果が高いものをご紹介しましょう。

<毎日できるもの>
・クールビズ・ウォームビズ:季節に適したビジネススタイルを
・節電:エアコンを使う前に服で調整する
・節水:トイレの大小洗浄をきちんと使い分ける
・食事の食べ残しをなくす:食べられる量を作る
・今持っている服を長く大切に着る:長く着られる服を買うこと。着られない服はフリマアプリで売り、「捨てない」ことも大切

<初期投資や手間がかかるけれど、効果が高いもの>
・太陽光パネルの設置:エネルギーを自家発電すれば災害時にも備えられて、光熱費も軽減できる
・ZEHの建設:マイホームは補助や税制優遇もあるZEHで検討。入居後の光熱費を削減できる
・車は電動車に:購入時は、EVやPHEVといったエコカーも検討する
・利用する電気を再生可能エネルギーに切り替える:電力会社を切り替え、再生可能エネルギーを供給する会社と契約する

住宅や車、電力会社の見直しはタイミングが合わなければ難しいですが、節電や節水であれば誰でもちょっとした心がけでできます。まずは、個人で簡単にできることから始めてみてください。

5.脱炭素社会への道のりは遠いが、できることはある

脱炭素社会に向けて温室効果ガスを実質ゼロにするためには、企業や個人が日々使うエネルギーそのものを見直す必要があります。

すでに太陽光発電パネルを設置し、自社の電力を再生可能エネルギーで調達している企業もあります。一方で、日本のエネルギー源の多くは化石燃料。導入コストもかかる再生可能エネルギーへの切り替えは簡単ではありません。

ただ、企業においても個人においても、大切なのはエネルギーを無駄遣いしない意識と、日々の小さな行動の積み重ねです。企業の場合は、補助金を使って公用車を電動車にしたり、社員にクールビズを推進したり。ペーパーレスを実施するだけでも効果はあるはずです。各企業や個人でできることを意識し、少しずつ取り組んでいきたいですね。

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