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「未利用魚」でサブスクビジネス 27歳社長が描く水産業の未来

「未利用魚」でサブスクビジネス 27歳社長が描く水産業の未来
「Fishlle!(フィシュル)」が提供しているミールパック(ベンナーズ提供)
フリーライター/永峰英太郎

水揚げされても利益が見込めず廃棄されてきた「未利用魚」を活用しようという動きが各地に起きている。福岡県で新たなサブスクビジネスを展開する株式会社ベンナーズもその一つだ。社長の井口剛志さん(27)を訪ねた。

<span>株式会社ベンナーズの井口剛志社長(ベンナーズ提供)</span>
株式会社ベンナーズの井口剛志社長(ベンナーズ提供)

「未利用魚」で新規ビジネスを開拓

アイゴ、コショウダイ、ボラ、イラ……。これらの魚は、水揚げされたものの、量が少なくロットがまとまらない、あるいは食用としての需要が少ないなどの理由から、市場にはなかなか出回らない「未利用魚」の代表例だ。

こうした未利用魚を漁師から買い付け、その日のうちに自社工場で加工・味付けし、ミールパックの状態でネット販売する――それが、株式会社ベンナーズが展開する「Fishlle!(フィシュル)」だ。

使用する未利用魚は、春夏秋冬、それぞれ旬の魚たちで、その魚がいちばんおいしくなるような味付けを目指す。

例えば、イラはハーブオイルマリネや煮切り醤油(しょうゆ)漬け、コショウダイはハーブオイルマリネやジェノベーゼといった具合だ。

どの商品も、仕入れ後すぐにさばき、下味だけつけて瞬間凍結させ、ミールパックに加工する。解凍後はご飯にのせたり焼いたりするだけ。手間いらずで鮮度の高い味を食卓で味わえるようにしようとの試みだ。ほかの食材と組み合わせたレシピは、フィシュルのインスタグラムで紹介している。

ミールパックは毎月、あるいは2カ月に1回のペースで配送する。「6パックおまかせ便」で1回4200円(税込み)。会員制の定額サービス――いわゆる魚のサブスクだ。2021年3月に事業をスタートし、2022年4月現在で会員は約800人まで拡大した。

フィシュルのミールパックとアレンジレシピ。左から「煮切り醤油漬け」のミールパックと「旬魚とアボカドの丼」、「ハーブオイルマリネ」のミールパックと「ハーブオイルのイタリアンマリネ」(ベンナーズ提供)
フィシュルのミールパックとアレンジレシピ。左から「煮切り醤油漬け」のミールパックとアレンジレシピ「旬魚とアボカドの丼」、「ハーブオイルマリネ」のミールパックとアレンジレシピ「ハーブオイルのイタリアンマリネ」(ベンナーズ提供)

水産業にもプラットフォーム戦略を

井口さんは、祖父が水産加工業、父親が魚の卸業を営む漁業一家に生まれた。祖父は、もともとひき縄など漁具を作っていたが、40歳のときに、当時は釣り餌でしかなかった甘えびがおいしいと知って付加価値の高いすしネタへと転換させた人物だ。

だが、自身は漁業の道を歩もうとは思っていなかった。「水産業には関わるな」という祖母の遺言があったからだ。ずっと夫や息子の働く姿を見ていた祖母の目には、水産業は重労働にもかかわらず、まったくもうからない――そう映っていた。ただ、祖父や父親の起業家魂は受け継いでいた。

高校を1年で中退すると、アメリカの学校に編入。その後、ボストン大学に進学し、社会起業学(アントレプレナーシップ)を専攻した。

そこで出会ったのが「プラットフォーム戦略」。簡単にいえば「複数の関係する組織を一つの舞台にのせることで、効率的なシステムを構築する」というビジネスモデルだ。

「プラットフォーム戦略は、『特定の業種に偏りがちな情報の不均衡を改善するのに役立つ』と学びました。そのとき真っ先に頭に浮かんだのが水産業だったんです」

「水産業は、売り手から買い手に至るまで、漁師や仲買、問屋など、およそ七つのプレーヤーがいます。そのため、伝言ゲームのように途中で情報がゆがんでしまい、もうけもその都度搾取されてしまう。流通に時間がかかるため、魚の鮮度も悪くなります。プラットフォーム戦略によって、こうしたデメリットが解消できるのではと思ったんです」

祖母の遺言は、水産業が「もうからない」からこその言葉。新しいビジネスモデルに乗せれば、もっと健全な業界になる。井口さんはそう考えた。

「プラットフォーム戦略というと、中間のプレーヤーを排除するといった話になりがちですが、そうではありません。例えば、仲買さんには、市場に集まってくる魚の中から目利きをして、顧客ごとに最適な魚を選んで届けるといった“本来の役割”がある。各プレーヤーが本来の役割を果たせるようなプラットフォームを構築することが大事なんです」

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流通プレーヤーの多い水産業界の流通経路 農林水産省資料などから編集部作成

大学卒業後は一度就職して経験を積んだうえで起業するつもりだったが、「自分で商いをすることがいちばんの修業だ」と心境が変わった。こうして2018年4月、帰国してすぐにベンナーズを立ち上げ、新しい水産業のプラットフォーム作りに乗り出した。マリンコミュニティー全体を包むという意志のもと、事業名は「マリニティ」とした。

マリニティ構想を実現する第一歩として、まず始めたのが、漁師と小売店が直接売買できるEC事業だった。しかし顧客も徐々に増え始めた矢先に、新型コロナウイルスが猛威を振るい始める。

「取引先の小売店は、飲食業がメインだったため、取引が一気に滞ってしまったんです。会社を持続させるには、何か新しい手を打たないといけない。そんなときに頭に浮かんだのが、多くの漁師さんから聞かされていた“ある要望”でした」

井口さんはマリニティ構想の準備のために、時間を見つけては、漁師に話を聞いて回っていた。そのとき、よく耳にしたのが「食用にならない魚をどうにかできないものか?」というものだった。「未利用魚」の存在を知ったのは、このときだった。

取引先の漁師(中央)と一緒に船上に立つ井口社長(左)。現場に足を運ぶことで、未利用魚だけではなく、様々な水産業界の情報を仕入れている(ベンナーズ提供)
取引先の漁師(中央)と一緒に船上に立つ井口社長(左)。現場に足を運ぶことで、未利用魚だけではなく、様々な水産業界の情報を仕入れている(ベンナーズ提供)

「売れない魚」を生かすミールパック

未利用魚の存在は、多くの漁師にとって、悩みの種だ。

日本では、定置網漁業やまき網漁業、底引き網漁業など、魚を一網打尽で捕獲する漁が多い。水産庁が2020年におこなった「定置網漁業の技術研究会」の中間とりまとめによると、沿岸漁業の漁獲量に占める定置網の割合は、2007年に4割を超え、その後も4割前後で推移している。

こうした漁で、どうしても出てしまうのが未利用魚だ。2020年に国際連合食糧農業機関(FAO)が公表した「世界漁業・養殖業白書」によると、世界全体で全捕獲高の約35%が未利用魚だという。

「1tくらい入るおけの中に大量の未利用魚が入っていて、行き場を失っているのを見て、あぜんとしました。漁師さんは、堆肥(たいひ)や養殖用の餌にするなど努力もしていますが、まったく追いつかない。その結果、破棄せざるをえないことも多いんです」

「もったいない」と、井口さんは素直に思ったという。

「未利用魚の中には、おいしいものも多くあるんです。サンマやイカが不漁といったニュースが流れる一方で、破棄する魚がいるというのは、矛盾しています。未利用魚を有効活用すれば、それがお金にも変わる。プラットフォーム戦略とは少し離れるけれど、未利用魚を使ったビジネスに挑もうと決めました」

井口さんは、水産業のビジネスに関わる以上、最大ともいえる課題にも立ち向かわなければならないと、覚悟を決めていた。それは「魚離れ」だ。

農林水産省「食料需給表」(2018年度)によると、国民1人1年当たりの食用魚介類供給量は、2001年度の40.2kgをピークに、2018年度には23.9kgまで4割減っている。

「魚を敬遠する理由は、調理が面倒だったり、骨が気になったりする側面が大きいんです。その部分を考慮したビジネスを展開しなければ、失敗するだけだと思いました」

そこで開発したのが、ミールパックだった。「お皿に乗せるだけ、焼くだけ、ゆでるだけ」の簡単調理で食べられるように工夫した。

商品開発は、料理人のM-1グランプリと称される「DRAGON CHEF 2021」の東京都代表にも選出されている食のクリエーティブディレクター、井上豪希さんに監修を務めてもらうなど、おいしさをとことん追求した。

サブスクにしたのも、理由がある。天然の魚は、いつも取れるわけではない。事前注文を受けていないと、肝心なときに欲しい未利用魚を確保することができないのだ。漁師にとっても「継続的な取引」ができるため、安定的な収入につながる。双方の信頼関係の構築にも有効だ。

地元・福岡の漁師から買い付けた未利用魚。季節によって様々な種類の未利用魚が水揚げされる(ベンナーズ提供)
地元・福岡の漁師から買い付けた未利用魚。季節によって様々な種類の未利用魚が水揚げされる(ベンナーズ提供)

製造販売モデルを広げ、持続可能な水産業に

現在、フィシュルの取引先は、地元・福岡県内の志賀島や玄界島、糸島半島などの漁師や仲買などがメインであるが、今後は、全国にも目を向けていきたいと考える。

「この事業を始めて、未利用魚の問題は、全国規模なんだと実感しました。そして、さまざまなところで、未利用魚を利用する動きがあることも知りました」

例えば、横浜市は市内の小学校で未利用魚を活用した学校給食を実施する日を設けた。また、沖縄県のOSC株式会社では、定置網に入るサメやエイなどの低利用魚や未利用魚を観賞魚として販売する事業をおこなっている。

井口さんは、関係者が団結していけば、一つのムーブメントを起こすことができると、強く思ったという。

「自分たちで取引先を開拓していくのはもちろんですが、私たちの製造販売モデルを、同じビジョンを持つ方々に提供もしていきたい。そうした取り組みを積み重ねていけば、未利用魚の問題は、確実に改善されていくと思います。実際、様々なところから問い合わせが入っており、実現に向けて動いています」

ムーブメントを起こすうえで、強力な追い風も吹いている。SDGsの盛り上がりだ。同社の取り組みは、目標12と目標14への貢献が期待できる。

目標12:
「つくる責任 つかう責任」 持続可能な方法で生産し、責任を持って消費する
目標14:
「海の豊かさを守ろう」 持続可能な社会のために、海と海の資源を守る。海と海の資源を持続可能な方法で利用する

フィシュルはスタート時、クラウドファンディングで運転資金を集めた。2022年1月には、エンゼル投資家から3200万円の資金調達もできた。井口さんは、自分たちの取り組みに対する社会の期待値と捉えている。

「未利用魚の活用は、SDGsと切っても切り離せないものです。SDGs達成への貢献をしていくことで、より強いムーブメントになると確信しています」

近年は定置網漁などによる乱獲も、大きな問題となっている。

「当社では、できる限り高い値段で、漁師さんから未利用魚を購入しています。その結果、未利用魚は、破棄するものではなく、貴重な食の資源だと気づいてもらえれば、乱獲に対する意識も変わると思うんです。そうすれば、小さい魚は海に逃すなどの配慮ができるようになると期待しています」  

プラットフォーム戦略も忘れてはいない。

「フィシュルを通じて構築していく産地ネットワークが、もともとやっていたBtoBのプラットフォームに生きてくると思うし、生かしていかなければならないと思っています」

永峰英太郎
永峰英太郎 ( ながみね ・えいたろう )
1969年東京都生まれ。明治大学政治経済学部卒。業界紙・夕刊紙記者、出版社勤務を経て、フリーに。著書に『カメラど素人が、プロのカメラマンに撮影のテクニックを教わってきました。』(技術評論社)、『認知症の親と「成年後見人」 』(ワニブックスPLUS新書)、『日本の職人技』(アスキー新書)など。
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