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住宅会社アキュラホームが木のストロー 開発者がめざす「SDGsの実践者」とは

住宅会社アキュラホームが木のストロー 開発者がめざす「SDGsの実践者」とは
アキュラホームの西口彩乃さん(同社提供)
アキュラホームSDGs推進室長/西口彩乃

木造注文住宅会社・アキュラホーム(東京)が手がける「木のストロー」は、間伐材の有効活用とプラスチックごみ問題の解決につながるとして注目され、2019年の主要20カ国・地域(G20)の会合でも採用されました。広報担当の西口彩乃さんが本業の合間をぬって開発に取り組み、社内を説得して製品化にこぎつけました。社内でSDGsを進めたいとき、どうすればうまくいくのか? そんなヒントにもなりそうです。(聞き手 編集部・竹山栄太郎)

西口彩乃(にしぐち・あやの)
1989年、奈良県生まれ。立命館大学理工学部卒業。2012年、アキュラホームに入社。大阪支店での営業職を経て、2014年から東京・新宿本社で広報を担当。2018年から「木のストロー」の開発に携わった。開発の経緯は著書『木のストロー』(扶桑社)にまとめられ、ドラマにもなった。2021年1月からSDGs推進室長を兼務。現在は奈良県生駒市のSDGsアンバサダーも務める。趣味はチアリーディング。

0.15mmのスライス材を手作業で巻いて

――「木のストロー」とはどんなものですか。

杉の間伐材を0.15mmの厚さにスライスして斜めに巻いた、口径約4mm、長さ約21cmの使い捨てストローです。東京都内のホテルや成田空港で導入され、ネットでの購入もできます。身体障害者や高齢者の方が手作業でつくっています。

間伐材を活用することで、適切な森林管理に貢献できるメリットがあります。それ以外にも、製作するときにエネルギーを極力使わず、雇用を創出するなど、SDGsの多くの項目に関連しています。

木のストロー
木のストロー(アキュラホーム提供)

――住宅会社に勤める西口さんが、木のストローの開発に乗り出したのはなぜですか。

きっかけは2018年8月、広報の仕事でお世話になっていた環境ジャーナリストの竹田有里さんから相談を受けたことです。竹田さんは前月の西日本豪雨を取材した経験から、土砂災害の一因には不十分な森林管理があり、森林保全のために間伐材を有効活用できないかと考えていました。当時は廃プラ(プラスチックごみ)問題も注目されていたため、「木のストローをつくれないかな」と言われたんです。

最初に聞いたときは「ストロー?」と思いました。でも、相談してくれた人に対して自分ができることをしたい気持ちがあり、どうすればつくれるか考えてみることにしました。日ごろ会社や商品の広報活動をしていましたので、「いつもと違った切り口で会社の環境活動として、木のストローがメディアに取り上げられれば、会社にとってもメリットになるのでは」とも思いました。

取り組むうちに、あることに気づきました。森林保全や廃プラ問題の解決のためには、木のストローをつくり、それを導入してくれるホテルや飲食店があり、適切に捨てられるという「循環するビジネスモデル」を構築する必要がある――ということです。そのためには、「マイストロー」のように繰り返し使うのではなく、すでにある使い捨てのプラスチック製ストローに近いかたちにするのがいいと考えたんです。

木のストロー

――当初はひとりで手づくりされていたそうですね。

木のストローは当時、まだ世の中にないものでしたので、何が完成形なのかわからないのが大変でした。最初は木に穴を開けることも考えましたが、あるとき目をつけたのが「削り華」(けずりばな)、木をカンナで削ったときに出るスライス材です。

当社の社長(宮沢俊哉氏)は大工出身の「カンナ社長」として知られ、社長室にカンナ台を置いてカンナをかけています。「削り華をストローの材料に使えないかな」と思い、社長室のごみ箱からもらってきて試作品をつくりました。

課題は、丸めたスライス材を止めるためのノリ。市販のあらゆるノリを買って試しました。口につけるものなので食品系のほうがいいとか、ストローに賞味期限をつけるわけにはいかないとか、いろいろな問題があったんです。専門家の方に電話したり、面会のアポをとりつけたりしてアドバイスを受け、最終的には、社内の製造チームに木のストロー専用ノリを開発してもらい、解決していきました。

木のストロー

「うちはストロー屋じゃない」

――木のストローを開発することについて、社内ではどんな反応でしたか。

正式な許可が出るまでは、ひとりでこそこそと開発していました。本来やらなくてもいいことだし、やらないほうが楽だし……周囲は「大丈夫?」という感じで見ていました。いちばんよく言われたのは、「うちはストロー屋じゃなくて住宅会社だ。ストローをつくってどうするの?」という言葉です。私は「これができたら、大きなニュースになると思うんです」と言い続けていました。

開発を認めてもらうために、上司に相談し、企画書を突き返されて書き直して、を繰り返しました。「『木のストロー』と書いたら通らないから、『木の消耗品』と書きなさい」とアドバイスを受け、何の企画書かわからなくなってしまったこともあります。最終的には、担当の役員から社長に話してもらい、「やってみなさい」と背中を押していただきました。

組織に属している以上、自分の意見が通らないことはあります。でも、木のストローについては、自分のやりたい思いをちゃんと伝え続けたことがよかったと思います。「本業の広報の仕事で結果を出さなければ、すぐに開発をやめさせられてしまうのでは」と思い、いつも以上に取材をとってくるように心がけました。

――あきらめようと思ったことはなかったのですか。

いろいろな人と電話しながら、「やらなくてもいいことなのに、なんでやっているんだろう」と話したことは何度もありました。でも、監修に入ってくれたザ・キャピトルホテル東急さんをはじめ、途中からは「一緒にがんばろう」と言ってくれる仲間が増え、すごく助けてもらいました。

2018年12月、ザ・キャピトルホテル東急で記者発表をおこない、年明けに同ホテルでの導入が始まりました。

――木のストローは、日本が初めて議長国となった2019年のG20の首脳会議(サミット)や関係閣僚会合でも採用されました。

木のストローを紹介した新聞記事を見て、当時の環境大臣政務官が来社されました。「G20ではプラスチックごみが議題になる。木のストローは、森林保全という森の問題と、プラスチックごみという海の問題を同時に解決する糸口になるのでは」というお話でした。それを聞いて、木のストローの可能性を改めて実感しました。

5月に新潟で開かれた農相会合に始まり、6月の長野・軽井沢での環境・エネルギー関係閣僚会合と大阪でのサミット、11月の名古屋での外相会合まで、日本各地で開かれた会合で採用され、合計で約7000本のストローを提供しました。

G20福岡財務大臣・中央銀行総裁会議の昼食で提供される木のストロー
G20福岡財務大臣・中央銀行総裁会議の昼食で提供される木のストロー
G20岡山保健大臣会合での展示
G20岡山保健大臣会合での展示(いずれもアキュラホーム提供)

このとき、アキュラホーム1社で大量のストローを用意するのは大変だったので、持続可能な仕組みをつくる必要があると感じました。そこでつくったのが、行政と連携する「地産地消モデル」です。最初に連携を始めた横浜市では、市が山梨県内に持つ水源林の間伐材を使う▼市内の身体障害者の方々にストローを製作してもらう▼できたストローは市内のホテルで導入する、という仕組みを構築しました。このモデルを今後、ほかの地域にも広げていきたいと考えています。

「三方よし」で持続可能に

――2021年、SDGs推進室長に就任しました。どんな活動をしているのですか。

木のストローに関する活動に加えて、社内のいろいろなプロジェクトについて、より持続可能にするためにはどうしたらいいかを検討しています。また、学校や企業で林業やSDGsを題材にした講演もしています。

社内では、木のストローに取り組んだことでSDGsへの関心が高まりました。いまではみんながSDGsについて説明できるようになっており、すごい変化だなと思います。

――今後の目標を聞かせてください。

2022年3月まで開かれたドバイ万博で、木のストローは日本館のVIP記念品として採用されました。木のストローは環境に貢献できるだけでなく、カンナ削りのような日本ならではの文化も詰まっているので、世界中の人に知ってもらい、環境について考えるきっかけにしてほしいと考えています。

私自身はSDGsの専門家やスペシャリストではありませんが、「SDGsの実践者」という立場で、これからもいろんなことにチャレンジしていきたいなと思います。

――SDGsの実践者である条件とは何でしょうか。

「三方よし」(注)の姿勢ではないでしょうか。「誰かにとってはいいけれど、ほかの誰かにとっては悪い」では、持続可能にはなりません。自分の会社だけでなく、社会も環境も、全体にとっていいモデルを考えることが必要だと思います。

(注)商売にあたっては、「売り手によし、買い手によし、世間によし」でなければならないという考え方で、近江商人の経営哲学として知られる。企業の理念に採用されることもあり、大手商社の伊藤忠商事は2020年、経営理念を従来の「豊かさを担う責任」から「三方よし」に改めた。

――企業のなかでSDGsを実践したいと考えている人に、アドバイスをお願いします。

SDGsはこれからの時代、どの分野・職種でも取り組むべきテーマです。取り組むことで行政、企業、学校といろんなつながりが生まれ、新しいチャンスが広がり、ビジネスにも好影響があります。「やってみたいな」と少しでも思うことがあれば、チャレンジすることをおすすめします。

西口彩乃さんの著書『木のストロー』
西口彩乃さんが木のストロー開発のエピソードを記した『木のストロー』
竹山栄太郎
竹山栄太郎 ( たけやま ・えいたろう )
朝日新聞SDGs ACTION!編集部員。2009年に朝日新聞社入社。京都、高知の両総局を経て、東京・名古屋の経済部で通信、自動車、小売りなどの企業を取材。2021年から現職。
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