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人生100年時代の「アクティブ・エイジング」とは? 「SDGs」の先の世界を描こう!

人生100年時代の「アクティブ・エイジング」とは? 「SDGs」の先の世界を描こう!
三菱総合研究所主席研究員/中川浩一

※2021年8月から2022年3月まで5回にわたって朝日新聞社の「bizble」に連載されていたコンテンツを転載しています。第2回は、2021年9月30日の配信でした。掲載内容は当時のbizbleのものを踏襲しています。

2030年の世界のあるべき姿を示し国連が採択したSDGs(持続可能な開発目標)。“SDGs”を達成しつつ、どうビジネスを切り開けるのか――。外務省でSDGs交渉官を務め、現在は三菱総合研究所でビジネスコンサルタントとして活躍している中川浩一さんに、最先端のビジネスの動きを紹介してもらいながら、SDGsの先にある、“2050年のビジネスのカタチ”を考えます。

中川浩一さん
中川浩一 ( なかがわ ・こういち )
三菱総合研究所主席研究員。1969年生まれ。慶應義塾大学卒業後、外務省入省。対パレスチナ日本政府代表事務所勤務を経て、天皇陛下や首相の通訳を務める。アメリカ、エジプトなどでの勤務を経て、2020年8月より現職。著書に「総理通訳の外国語勉強法」。

こんにちは。第1回のコラムでは、このコラムのテーマ「2050年」を念頭に「カーボンニュートラル」をとりあげました。地域としては、日本が原油輸入の約9割を依存する「中東」、そして究極の未来エネルギーとして「水素」をキーワードにしました。

2回目の今回のキーワードは「アクティブ・エイジング」です。地域としては私たちの日本を含む「アジア」を見ていきましょう。

「100億人が100歳」という時代に求められるものは?

元気に働くボランティアの女性
年を重ねても元気に、生き生きと働くボランティアの女性=宮城県塩釜市、朝日新聞社

前回のコラムでも触れましたが、21世紀の後半には世界の人口が100億人に近づき、日本をはじめとする各国で100歳を超える人の割合が増えます。

人類史上、誰も体験したことのない「100億人・100歳時代」が確実に到来します。

ちなみに、三菱総合研究所では創立50周年記念研究として、「これからの50年で目指す未来 『100億人・100歳時代』の豊かで持続可能な社会の実現」を発表しています。

そして、そこには「人間は100歳までどのように健康的に歳を重ねていけるか」、「歳を重ねても自立し活動的でいられるように支援するにはどうしたらよいか」、「健康増進・介護予防を特に高齢者向けにどうすれば強化できるか」、「老年期の生活の質を改善するにはどうしたらよいか」、「高齢者人口の増加で社会保障制度が破綻(はたん)しないか」という永遠のテーマが含まれます。

逆に言えば、この答えを見つけることができれば、それは「ビジネス」に直結するということです。

ちなみに、「高齢化社会」、「高齢社会」や、「超高齢社会」という言葉には国際的に明確な定義はありません。

「高齢化社会」ということばは1956年の国連報告書において、当時のヨーロッパやアメリカなどの先進国の水準を基準にしながら、人口の7%以上が高齢化した(aged)社会を「高齢化社会」と呼んだことに由来するのではないかと、日本の政府は考えています。

「高齢化率」は国際的に共通の尺度として使用されており、0~14歳を「年少人口」、15~64歳を「生産年齢人口」、65歳以上を「高齢者人口」と分類し、総人口に占める高齢者の割合に応じて定義しています。

高齢化率が7%以上だと「高齢化社会」、14%以上だと「高齢社会」、21%以上だと「超高齢社会」という分類です。

この基準に当てはめると、日本は2018年時点で高齢化率が28.1%あり、すでに「超高齢社会」に突入しているということができます。

一方、私たちを取り巻くアジアは1970年代以降、人口構成や出生率、死亡率の変動に伴って労働力人口の増加率が人口増加率よりも高くなる「人口ボーナス」が進んだ恩恵を受け、持続的な経済成長を実現してきました。

ところが近年、出生率の低下などによりアジアの生産年齢人口の比率は2015年がピークで、減少に転じることが見込まれています。

「高齢化社会」から「高齢社会」になるまでの期間をみると、フランスが115年、スウェーデンが85年、英国が47年という中で、日本は24年という比較的短い期間で「高齢社会」となりました。

アジアについて見ると、シンガポールで17年、タイで22年など、日本以上のスピードで「高齢社会」を迎えた国もあります。

タイでかごを作るお年寄りたち
タイ北部ランプーンの村の集会所で伝統的なかごを作るお年寄りたち。かごは売って収入にする=朝日新聞社

また、ASEANの中では後発であるベトナムでもすでに「高齢化社会」に入っており、国連推計によれば、今後15年くらいという大変速いスピードで「高齢社会」に入ると見込まれます。

ミャンマーも10年後には「高齢化社会」の仲間に入る見込みです。

つまり、このコラムで照準を当てている「ポストSDGs」の時代には、ASEANの後発国も含め、ほとんどのアジア諸国が「高齢化社会」に、シンガポールやタイに至っては「超高齢社会」に突入するのです。

また、アジアの65歳以上は2040年までに7.57億人に達すると見られており、世界全体の高齢者の半分以上を占めることになります(内閣府高齢社会白書参照)。

高齢化に根ざした「アクティブ・エイジング」に商機

卓球教室を楽しむ高齢メンバーら
高齢になっても生き生きと卓球を楽しむ卓球教室のメンバーら=新潟県十日町市、朝日新聞社

ところで、皆さん、高齢化社会における「ビジネス」って、具体的にはどんなものがあると思いますか。

先進国では、高齢者には富裕層が多く、したがって多くの消費をしてくれます。

住宅も買い替える、介護サービスの充実を求める、金融資産も増えるので、こういう分野でビジネスが伸びそうなイメージがありませんか。

しかし、アジアでは、一部の国を除いて必ずしも富裕層は多くありません。

日本のように、広範囲な介護サービスを保険でカバーできる制度ができる見込みも低く、政府の予算も日本のように潤沢ではない国が多いです。

逆に言えば、自ら健康や病気の予防に取り組もうとする意識が芽生えやすい環境にあり、「人々に健康意識を芽生えさせる」ところにビジネスチャンスが生まれそうです。

「待ち」ではなく、こちらから仕掛けていく姿勢が成功のカギを握ると言えるかもしれません。

高齢化で先行する日本の、アジアへの貢献として、日本政府は2016年に「アジア健康構想」を立ち上げました。

これは日本だけではなく、急速に高齢化が進むアジア全体で日本のノウハウを生かして健康長寿社会を実現し、地域の経済成長にもつなげていきたいという構想です。

この構想の中では、医薬品、医療・介護製品、ロボットなど事業の海外展開や、外国人患者を国内の医療機関で受け入れることなどを通じ、ヘルスケア産業を育成していくことを目指しています。

車イスへの移動を助ける介護ロボット
ベッド(左)から車イスへの移動を助ける介護ロボット=福岡県北九州市、朝日新聞社

また、日本の介護のノウハウを海外に移転する研究では、まだまだ介護というサービスがアジアで普及しておらず、介護従事者の地位も確立されているとは言えない問題もあります。

日本からの介護の知識、技術の移転を通じて介護サービスの質や介護従事者の地位を高め、将来の高齢化に備えていくことに貢献したいという考えです。このあたりにも「ビジネス」のチャンスがありそうですね。

介護施設でお年寄りに接するフィリピン人の女性
名古屋市にあるお年寄りの介護施設で、日本語でお年寄りに接するフィリピン人の女性=朝日新聞社

そして、そのカギとなるのが、「アクティブ・エイジング」だと私は思います。

「アクティブ・エイジング」は2002年4月、スペイン・マドリードで開催された第2回国際連合高齢者問題世界会議にWHO(世界保健機関)が提出した「アクティブ・エイジング―その政策的枠組み」(Active Ageing : A Policy Framework)で提唱された考えです。

そこでは「アクティブ・エイジング」について、「人びとが歳(年)を重ねても生活の質が向上するように、健康と参加と安全のチャンス(機会)を最適化していく過程のこと」と定義づけられています。

「アクティブ・エイジング」はときに、「活動的な高齢化」などと簡訳されますが、「アクティブ」とは身体的に活動的であるということだけではありません。

病気や障がいがあっても、すべての高齢者が社会経済的、文化的、精神的な活動に参加できる、という意味も含まれています。

ステージに立つ高齢者のモデルたち
華やかな衣装に身を包み、生き生きとステージに立つ高齢者のモデルたち=東京・秋葉原、朝日新聞社

アクティブ・エイジングの基本的な目的は、①「参加」、②「健康」、③「安全」の3つです。

この3つの視点から、高齢者の生活の質を高めるために取り組むことが示されています。

①参加(Participation)
高齢者が一人ひとりの能力やニーズ、希望などに応じて社会参加ができることを意味します。
さまざまな活動への参加をサポートする環境が整っていれば、歳を重ねても有給または無給の社会的な貢献活動を続けることができるとしています。
②健康(Health)
年を重ねても健康状態を保ちながら生活することができ、高額治療やケアサービスを受ける高齢者が少ない状態を意味しています。
世界保健機関(WHO)の「健康」の概念は、身体的・精神的な状態だけではなく、社会的に家族や地域、企業、国に関与できる状態が含まれます。
ケアが必要な高齢者に対しては、権利とニーズに応じた健康や社会サービス全般にアクセスができるようにします。
③安全(Security)
高齢者が自立した生活ができなくなり、支援が必要になったときには、政策などによって保護や尊厳、ケアが保証されていることを意味します。
また、家族やコミュニティが高齢者を支援する際も、サポートを受けられることです。

「アクティブ・エイジング」によって人々は、自らのライフスタイルに合わせた身体的、社会的、精神的な福祉を享受でき、自分のニーズ、希望、能力に応じて社会に参加できます。

同時に、援助が必要な時には十分な保護、保障、ケアを受けることができるのです。

相互扶助だけでなく世代間の連帯(個人間だけでなく高齢者と若い世代との間も含む2重のギブ・アンド・テイク関係)も、「アクティブ・エイジング」の重要な理念です。

このように、アジアでは、高齢者の「アクティブ・エイジング」に寄与する新しいサービスへの需要が伸び、ビジネスチャンスも生み出すと考えられています。

いま、私が勤務する三菱総合研究所海外事業本部でも、この「アクティブ・エイジング」はアジアに事業を広げるうえで成長分野と見込んでいます。

これまで述べましたとおり、アジアと一口に言っても、国によって高齢化の段階もさまざまです。

その国の実情にあったサービスを創出することに加え、段階に応じて、アジアの中でサービスを横展開させたり、応用したりと、ビジネスの幅を広げることもできるかもしれません。

そこに、アジアにおける「アクティブ・エイジング」ビジネスの面白さと可能性があるのです。

ビジネスを通じ、「誰一人取り残さない」に挑戦

SDGsの17の目標
SDGsの17目標

もちろん、ビジネスを通じてSDGsの精神でもある「誰一人取り残さないアクティブ・エイジング」も実現されます。

世界に先駆けて超高齢化が進む日本は、医療保険、介護保険などの社会保障制度のあり方、年金制度のあり方などたくさんの教訓を得ました。

これから高齢化する他のアジアの国や地域で、この教訓を糧にビジネスとして活(い)かせるか大きな挑戦ですが、「アクティブ・エイジング」の「2050年のビジネスのカタチ」について、これから皆さんと一緒に考えていけることを楽しみにしています。

ちなみに、今回の「アクティブ・エイジング」はSDGsでいえば、目標3「すべての人に健康と福祉を」に該当するものです。

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