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「デジタル通貨」の未来は? 世界はどう動いている? “SDGs”のその先の世界を描こう

「デジタル通貨」の未来は? 世界はどう動いている? “SDGs”のその先の世界を描こう
三菱総合研究所主席研究員/中川浩一

※2021年8月から2022年3月まで5回にわたって朝日新聞社の「bizble」に連載されていたコンテンツを転載しています。第3回は、2021年12月22日の配信でした。掲載内容は当時のbizbleのものを踏襲しています。

2030年に達成目標の期限を迎えるSDGs。“SDGs”を達成しつつ、どうビジネスを切り開いていくべきなのか――。外務省でSDGs交渉官を務め、現在はビジネスコンサルタントとしても活躍している中川浩一さんに、最先端のビジネスの動きを紹介してもらいながら、SDGsの先にある、“2050年のビジネスのカタチ”を考えます。

中川浩一さん
中川浩一 ( なかがわ ・こういち )
三菱総合研究所主席研究員。1969年生まれ。慶應義塾大学卒業後、外務省入省。対パレスチナ日本政府代表事務所勤務を経て、天皇陛下や首相の通訳を務める。アメリカ、エジプトなどでの勤務を経て、2020年8月より現職。著書に「総理通訳の外国語勉強法」。

こんにちは。第1回のコラムでは、究極の未来エネルギーとして「水素」を、第2回では人生100歳時代に向けた「アクティブ・エイジング」をキーワードとして取り上げました。

これからのグローバル・ビジネスパーソンは、地政学、エネルギー、そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)を三種の神器として活躍することが求められています。

今回は、そのDXのうち、「デジタル通貨」をキーワードにしたいと思います。

日本で準備が進む「中央銀行デジタル通貨」

そもそも「デジタル通貨」って何でしょうか。

「デジタル通貨」とは、デジタルデータに変換され、サービスやモノの交換(購入)が可能な通貨の総称と言われます。

明確な定義がされているわけではありませんが、次の3つが「デジタル通貨」の代表例になります。

・ 電子マネー

・ 暗号資産

・ 中央銀行デジタル通貨(Central Bank Degital Currency=CBDC)

電子マネーで支払える岐阜県飛騨市役所
住民票の手数料などを電子マネーで支払える岐阜県飛騨市役所の窓口=2019年、岐阜県飛騨市、朝日新聞社

まず、「電子マネー」とは、法定通貨(円)をデジタルデータに代替したデジタル通貨で、Suicaといった交通系ICカードや、QUICPayなどが該当します。

電子マネーの特徴は、入金から決済までがスピーディーに完了する利便性の高さと、前払い(プリペイド)式だと事前にチャージする必要があることです。

「暗号資産」とは、インターネット上でやり取りできる財産的価値で、電子的に記録され移転できる貨幣決済の総称になります。

近年話題となっている「ビットコイン」もその1つです。

暗号資産の特徴は、個人間送金がしやすく、特に海外への送金手数料が銀行より安いことです。

また、非中央集権を目指していることが多く、法定通貨をベースとせず、インターネット上で世界中の人と取引できます。

一方で、需給バランスが変化しやすく、価値の変動が激しいという欠点もあります。

最後に、中央銀行発行「デジタル通貨」(CBDC)とは、デジタル化された法定通貨建ての中央銀行の債務として発行された通貨、要は世界各国の中央銀行が、電子的な形態で発行・管理する中央銀行マネーを指します。

モノとして流通している通貨をデジタル化することで、現金の輸送・保管やATMの維持・設置のコストなどが大幅に削減されます。

また、銀行口座を持てない人でも決済できるなど、SDGsの基本理念である「誰一人取り残さない」にまさに合致していると言えるでしょう。

この点、我が国の日本銀行は、「中央銀行デジタル通貨」について、以下のとおり背景と必要性を説明しています。

情報通信技術の急速な進歩を背景に、内外の様々な領域でデジタル化が進んでいる。技術革新のスピードの速さなどを踏まえると、今後、「中央銀行デジタル通貨」(CBDC)に対する社会のニーズが急激に高まる可能性もある。日本銀行では、現時点でCBDCを発行する計画はないが、決済システム全体の安定性と効率性を確保する観点から、今後の様々な環境変化に的確に対応できるよう、しっかり準備しておくことが重要であると考えている。

(出典 : 日本銀行「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」 )

というわけで日本でも準備は進められており、日本銀行内に「デジタル通貨グループ」が設置されています。2021年4月には実証実験も開始しています。

日本銀行本店
日本銀行本店=2021年7月、東京都中央区、朝日新聞社

10月、岸田政権で新しく創設された経済安全保障担当相に就任した小林鷹之氏は、金融・通貨が「広い意味で安保に関わる」として、「日本が国際秩序のルール形成で主導的な役割を果たすには、デジタル通貨のあり方についてもしっかり検討を加速し、いつでも実行に移せる準備が必要」との考え方を示しています。

また、日本が果たすべき役割について、基本的価値観を共有する同盟国、同志国の(デジタル通貨)連携を主導することであるとして、「米国は既存のドル体制が望ましいとの考えが強く、欧州は意思決定に時間がかかる」ため、「日本は民主主義陣営の連携を主導できる」との認識も示しています。

導入したカンボジアやエルサルバドルの狙いは?

世界の動きとしては、10月13日、G7の財務相・中央銀行総裁会議が、アメリカ・ワシントンD.C.で開かれました。

日本からは、日銀の黒田総裁と、財務省の神田財務官が出席しました。

会議後に発表された共同声明では、中央銀行が発行する電子的なお金、デジタル通貨について「現金を補完し、決済システムとして機能しうる」と評価した上で、将来の発行を見据えて金融システムの安定を損なわないようにさせるべく、共通の原則である「リテール中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する公共政策上の原則」を示しました。

具体的には、

・ 厳格なプライバシー基準を設け、利用者の情報を保護する責任を持つ、安全を確保するサイバーセキュリティーの対策を徹底する

・ 現金や民間の電子マネーなど既存の決済手段と共存する、などとしました。

G7各国では正式に発行を決めた国はありませんが、結束して共通の原則を示すことで将来の発行に向けて主導的な立場を担っていく狙いがあります。

一方、欧米、G7以外の諸外国では、デジタル通貨導入の具体的な検討や導入も進んでいます。

金融サービスが未成熟であるカンボジアは2020年10月、米ドル依存からの脱却や台頭する民間の決済サービスの相互運用性を狙ってCBDCの「バコン」を導入しました。

バコンのアプリダウンロード数は20万件強、利用可能店数は2000店舗程度に達しました。

カンボジアと国境を接するラオスでもデジタル通貨の開発検討に入りました。

カンボジアのデジタル通貨の開発に携わった日本のソラミツ(東京・渋谷)は10月、ラオス中央銀行と発行に向けた調査を始めると発表しました。

経済で密接につながる中国の人民元が存在感を増す中、使い勝手を高めて自国通貨の利用を促す考えです。

アリペイの支払いに対応する飲料品店
アリペイの支払いに対応する飲料品店では、スマホに表示した2次元バーコードを機器にかざすと支払いを済ませられる=2016年、北京市内、朝日新聞社

また、各国のCBDCの検討と合わせて、異なる国間での送金を可能とする仕組みも検討されています。

出稼ぎ労働者が自国に郷里送金する場合、デジタル通貨のプラットフォームを通じて、簡便に、迅速に送金できる仕組みも含まれます。

アジア地域ではドルが公式、非公式の主軸通貨となっている国が多いですが、リーマン危機以降、中国経済の規模が拡大するに伴って各国の対中貿易額は膨らみ、自国通貨の対人民元レートの安定が重視されています。

自国のCBDC開発は、自国通貨の使い勝手を高めるとともに、デジタル人民元の過剰な流入を抑える意図もありそうです。

その中国の中央銀行である中国人民銀行は、アリペイやウィーチャットペイなどのキャッシュレス決済の急速な普及を受け、2014年からデジタル通貨の研究を開始しました。

2019年から、深圳市や蘇州市などで市民参加型のデジタル人民元の配布実験を行うなど、実験の規模と範囲を着実に広げており、2022年の冬季北京オリンピックで実験することも明らかにしています。

中国人民銀行は、現時点で正式発行の時期は決まっておらず、依然実験を重ねる必要があるとしていますが、早晩、発行に踏み切る可能性もあるでしょう。

ビットコインの旗を掲げたエルサルバドルの雑貨店
ビットコインの旗を掲げた雑貨店=2021年10月、エルサルバドル・ソンテ、朝日新聞社

法定通貨のデジタル化を進める動きがある一方で、暗号資産を法定通貨とする動きもあります。

中米のエルサルバドルでは、9月から暗号資産の代表格ビットコインを世界で初めて法定通貨として採用しました。

起業家出身の若きブケレ大統領が、「誰一人取り残さない」というSDGsの理念に基づき、貧困層を支援する狙いも込めて開始しました。

エルサルバドルでは、出稼ぎ家族からの海外送金で暮らす貧しい世帯が多く、7割もの国民が銀行口座をもっていませんので、デジタル通貨が成功する土壌はありそうです。

ビットコインのような価格変動が激しい暗号資産を法定通貨とする難しさがある中で、自国の通貨が信用を失っている国では、エルサルバドルのように使い勝手のよい暗号資産を法定通貨として導入する動きも考えられます。

他方で、地元シンクタンクの調査では、その認知度不足から、9割近くが買い物の支払いでビットコインを使っていないという結果も出ていて、認知度をいかに向上させるかが新たな課題となっています。

エリック・アダムズ氏
エリック・アダムズ氏=2021年11月、米ニューヨーク、朝日新聞社

マイアミでは地域単位で導入も

一方、国ではなく地域単位でのデジタル通貨導入の動きも見られます。

11月2日のニューヨーク市長選挙で当選を果たしたエリック・アダムズ氏は、来年1月の就任後には最初3回分の給与をビットコインで受け取る意向だと明らかにしました。

アダムズ次期市長は、かねてからニューヨーク市を暗号資産フレンドリーな都市にしたいと述べていて、フロリダ州マイアミにならってNYCコインの導入を検討したいとの考えを示してきました。

マイアミは他市に先駆けてシティーコインと呼ばれる暗号資産を導入しています。

日本国内でも、中央銀行デジタル通貨の動きと並行して、地方自治体や地域金融機関、企業を中心にデジタル地域通貨サービスを展開する動きが見られます。

三菱総合研究所(MRI)は、2017年度にブロックチェーン技術を活用した独自のデジタル地域通貨プラットフォームを開発し、地域通貨やポイント等の経済的なインセンティブの発行により地域活性化のための消費喚起や地域課題解決につながる行動変容を促すノウハウを蓄積してきました。

それらの実績をもとに、地域課題解決型デジタル地域通貨サービス「Region Ring」の提供を開始しました。

地域通貨・ポイント等の取り組みは、地域活性化を健康増進や観光活性化、デジタル行政の推進、働き方支援、SDGs活動支援など、地域に新しいアクションを創発しながら、地域が抱えるさまざまな課題を統合的に解決し、地域の経済発展につなげることが狙いです。

「ユニバーサルアクセス」な通貨が変える未来のビジネス

このような各国や地域のデジタル通貨の取り組みは、日本や世界でどのように普及していくでしょうか。

2050年の「デジタル通貨」のあり方は、金融サービスだけでなく、我々の社会にも大きな影響を与えるでしょう

発展途上国などでは通貨の「デジタル」化が進むことで、銀行口座を持てない人も金融サービスが享受でき、国際送金となる出稼ぎ送金も即時、簡単にかつ安価にできるでしょう。

また、銀行の役割が変わることで、例えば物理的な銀行の窓口が必要なくなり、送金や投資が携帯電話などモバイル端末で完結する世界に移るでしょう。

ATMで使えるQRコードを発行する銀行窓口
三井住友銀行草津支店の窓口。現金は扱わず、出入金の際はATMで使えるQRコードを発行する=2021年3月、滋賀県草津市、滋賀県草津市

どこでも誰でも使えるという「ユニバーサルアクセス」の手段として「デジタル通貨」が普及すれば、給付金の配布、サプライチェーンにおける取引、ファイナンス分野での利用が進み、イノベーションの推進につながると期待されます。

「デジタル通貨」に関し、このコラムでも触れた、我々が直面しているいくつもの課題が2050年までに創造的に解決されれば、ビジネスのあり方も大きく変わります。

みなさんと一緒に、その世界を創造し、英知を集めることができることを楽しみにしています。

SDGsの17の目標
SDGsの17の目標=朝日新聞社

ちなみに、今回の「デジタル通貨」はSDGsで言うと、目標8「働きがいも経済成長も」、目標9「産業と技術革新の基盤を作ろう」に該当するものです。

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