試着室の天井、鏡張りのワケ 「すべての人向け」オーダースーツの店舗、東京・渋谷に

オーダーメイドのメンズスーツを年齢や性別、障害の有無に関係なくすべての人が楽しめる――。そんな店舗が2022年3月、丸井グループの商業施設「渋谷モディ」(東京・渋谷)にできた。店はビジネスウェアを手がけるFABRIC TOKYO(ファブリックトウキョウ)が運営する。特徴の一つは天井が鏡張りになった試着室だ。どんなねらいがあるのだろうか。(編集部・竹山栄太郎)
「オールジェンダー」からさらに進化
FABRIC TOKYOは、オーダーメイドのメンズスーツやシャツを扱うブランド「FABRIC TOKYO」を展開する。店舗でサイズを測定して体形データを登録すれば、オンラインでオーダーメイドの服を購入できるのが特徴だ。中間業者を通さず消費者に直接販売するD2C(Direct to Consumer)の仕組みにすることで、価格を抑えている。
同社には、メンズスーツを着たい女性やLGBTQ当事者から「男性向けの店は入店のハードルが高い」という声が寄せられていたという。そこで2021年8月、渋谷モディの店舗を改装して「オールジェンダーストア」を打ち出し、あらゆる性別の客を受け入れられるようにした。
今回、半年あまりで再び店舗を改装し、性別だけでなく、障害や体形で「壁」を感じている人にも来店してもらえるようにしたという。

パラ選手が助言、車いす客も使いやすく
店の設計にあたっては、冬季パラリンピックのアイスホッケー元日本代表・上原大祐さんからアドバイスを受けた。車いすで来店した客がスムーズに移動ができるよう広いスペースをとり、机の脚に車輪が当たらないようにしている。

目玉は、天井に鏡をつけた「日本初」(同社)の試着室。「車いすの人は立ち上がるのが難しく、一般的な姿見では試着した服を見づらい。そこで、フィッティングルーム(試着室)の天井に姿見を設け、寝転がりながらズボンをはき、そのまま全身のコーディネートをチェックできるようにした」(FABRIC TOKYOの森雄一郎CEO《最高経営責任者》)。スペースを広くとり、手すりの数も充実させている。
森氏は「性別だけでなく、障害のある人、体形に個性のある人にも対応できる、『オール・インクルーシブ』な店舗に生まれ変わった」と話す。


「ヘラルボニー」とのコラボ商品も
今回の協業には、知的障害のあるアーティストの作品を世に出す「福祉実験ユニット」のヘラルボニーも加わっている。ヘラルボニーは全国の知的障害のあるアーティストらと契約を結び、2000点以上のアートデータを使って、ハンカチやネクタイなどを販売したり、インテリアを手がけたりしている。
FABRIC TOKYOは、ヘラルボニーの契約アーティスト3人の作品を裏地に使った、オーダースーツのジャケットを限定販売する。



「すべての人に」に取り組む3社結集
3社はいずれも「ダイバーシティー&インクルージョン」(多様性と包摂)に積極的に取り組んでいるという共通項がある。
丸井グループは重点テーマの一つに「インクルーシブな店づくり」を掲げる。FABRIC TOKYOの新店舗が入る渋谷モディの4階全体をインクルーシブなフロアと位置づけ、電動車いす充電器や筆談タブレットを備える「みんなの試着室」のほか、点字ブロックやトイレまでの距離表示看板なども設けた。渋谷モディの田口由香子店長は「取り組みはスタートしたばかりだが、ここを起点にほかの店でも進めていきたい」と話した。
FABRIC TOKYOは、創業者の森氏自身の洋服に関する悩みからスタートしたブランドで、「Lifestyle Design for All」を掲げる。「身長が高く腕も長いため、既製品が全然体に合わず、ファッション大好きなのに洋服を買えなかった。その経験から、自分らしいオリジナルのアイテムをつくれるオーダーメイドを広げたいと考えた」という。
ヘラルボニーの松田崇弥社長は、4歳年上の兄が自閉症で、社名の由来は兄が子どものころ自由帳に記した言葉だという。松田氏は、「今回の取り組みが入り口になり、障害のある人たちが『私たちも渋谷で買い物を楽しんでいいんだ』と思えることにつながれば」と述べた。

朝日新聞SDGs ACTION!編集部員。2009年に朝日新聞社入社。京都、高知の両総局を経て、東京・名古屋の経済部で通信、自動車、小売りなどの企業を取材。2021年から現職。
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