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どうやって防ぐ? 海洋プラスチックごみ「ゴーストギア」 WWFと考える~SDGsの実践~【6】

どうやって防ぐ? 海洋プラスチックごみ「ゴーストギア」 WWFと考える~SDGsの実践~【6】
©Asami Yamamoto/WWF Japan
WWFジャパン/浅井総一郎

今や広く認識されるようになったSDGs。ですが、期限とされる2030年までにゴールするには、まだ多くの課題が山積みです。このシリーズでは、国際環境保全団体WWFジャパン(世界自然保護基金ジャパン)が、SDGs達成に貢献するためのカギとなる視点や取り組みを、世界の最新の動きと共に紹介します。

浅井総一郎さん
浅井総一郎(あさい・そういちろう)
WWFジャパン海洋水産グループ所属。広告会社営業職勤務を経て、WWFジャパンに入局。海洋プラスチックごみ対策のフィールドプロジェクトを担当。趣味のサーフィンを通じて、海のプラスチックごみの多さを実感し、近所の海岸でビーチクリーンなどに取り組む一方、問題の根本的な解決を目指す活動に取り組む。

海洋プラスチックにかかわるSDGsは?

近年、より深刻化が指摘されるようになった環境問題の一つに、プラスチックごみの問題があります。とりわけ、海洋に流出したプラスチックごみは、回収が難しく、年々増加する一方。しかも、自然分解しないプラスチックは、海中に蓄積し続けることになります。

今や、深海でも確認されるようになった海洋プラスチックごみ。

SDGsではどのように扱われているか、ご存じでしょうか?

まず、よく知られている17の目標を見ると… 「プラスチック」の文字は見当たりません。しかし、目標14「海の豊かさを守ろう」の最初のターゲットには、こう書いてあります。「2025年までに、海洋ごみや富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する」。そして、その国際的な達成指標に、「プラスチックごみの密度」が設定されています。これは、世界の海洋汚染の中で、プラスチックごみが深刻な影響を及ぼす要因となっていることを示しています。

実際、世界の海に流出しているプラスチックごみは、推定で毎年1100万t。また、これらのプラスチックごみは、陸域から流出したものも多くある一方、海で発生し、海に廃棄されているものも少なくありません。その代表が「ゴーストギア」です。

海を漂う「ゴーストギア」の被害

「ゴーストギア」とは、漁網やロープ、釣り糸、浮きなど、海で使われているプラスチック製の漁具が、廃棄されたり、流出したりすることで、海洋ごみとなったものです。ゴーストギアは、世界で年間50万~115万tが海に流出していると考えられていますが、これが恐ろしいのは、さまざまな生物の命を奪ってしまうこと。

海洋プラスチックごみは、アザラシやイルカなど海生哺乳類の66%の種、カモメやミズナギドリ、ペンギンといった海鳥の50%の種、そして全てのウミガメ類に被害を及ぼしていることが明らかになっています。そのなかでも、廃棄された漁網やロープ、魚を取るための仕掛けなどのゴーストギアは、多様な海の生きものを絡めとり、溺れさせたり、首に巻き付いて窒息させたりするほか、海底を覆ってサンゴや海藻の群落などの生育を妨げるといった問題も引き起こします。

サンゴに絡みついた古い漁網
©Jürgen Freund / WWF
サンゴに絡みついた古い漁網。時に数百メートルもの漁具が廃棄され、ゴーストギアになることもあります。これらは海の中で、多くの生きものを犠牲にします。

また、発泡スチロール製の浮きなどの漁具の破片も、海面を浮遊し、生きものに誤食、誤飲されることで、消化管を閉塞(へいそく)させ、他の食物を食べられなくして死に追いやってしまうことが知られています。まさに、取りつかれたら恐ろしい目に遭う、ゴースト(幽霊)となったプラスチックごみです。

さらに、野生生物や海洋生態系以外にも、ゴーストギアの悪影響は及んでいます。本来取れるはずの魚が減少する▼観光資源となるはずのきれいな浜辺を汚染する▼船のスクリューに絡まったり、衝突したりして航行を妨げる――といった社会的、経済的な影響も発生しています。

日本の「ゴーストギア」対策の課題

水産業が盛んな日本においても、沿岸漁業におけるゴーストギアの問題は、今後さらに深刻な課題となることが予想されます。しかし、現在のところ、その対策は十分ではありません。政策や規制にも不備が多く、全国的にはまだ対策が進んでいないのが現状です。

特に、使わなくなった漁網などを処分する際の困難が、この問題を大きくしています。

日本の水産庁では「漁業系廃棄物計画的処理推進指針」の中で、プラスチック製の網などの漁具を廃棄する場合、「事業者たる漁業者」が、自費で産業廃棄物として処分することを定めています。しかし、この処分にかかる産廃費用は数十万円から数百万円以上になることもあり、これが漁業者にとって大きな負担となっています。

対策としては、いずれ廃棄することを見込んで、費用を積み立てておくなどの手立てがありますが、日本の沿岸漁業では個人経営体が96%を占めており、個々の規模がどうしても小さくなることから、こうした対応をあらかじめしていないケースが大半です。

結果的に、廃棄された漁具がなかなか処分されないまま港や海岸などに放置され、荒天時に波にさらわれて海に流出してしまうほか、洋上で意図的に投棄されてしまう例もあるといわれています。

港の岸壁に山積みされた漁網
©WWFジャパン
港の岸壁に山積みされた漁網。放置されたこれらの漁具も、高い波にさらわれ、海に流出してゴーストギアになるケースがあります。

地方自治体でも、海岸や海中の清掃などを実施したり、プラスチックごみの海への流出を防止する取り組みを行ったりしている例はあるものの、ゴーストギアの問題を、地元の漁業に直接かかわる問題として位置づけ、対策をとっているところは、まだわずかです。

「ゴーストギア」の発生を防ぐプロジェクト

そこでWWFジャパンでは、2021年から、日本沿岸でのゴーストギア発生予防を目指す、新たなプロジェクトを開始。多くの地域の漁業者に直接お話をうかがいながら、どうすればゴーストギアのない未来の漁業が実現できるのか、検討を重ねてきました。

そして、その中で出会った、この問題に高い関心を持つ地方自治体や地元の漁業協同組合の方々と協力し、使用済みの漁網を回収して、そのプラスチック素材をリサイクルし、製品化する「仕組みづくり」をスタートさせました。

このポイントとなるのは、まず何よりも「ゴーストギアを発生させない」という、予防原則に基づいた取り組みの姿勢です。

WWFも参加している、ゴーストギア問題を手掛ける国際組織GGGI(Global Ghost Gear Initiative:ゴーストギア問題の解決推進に取り組んでいる分野横断的なグローバル組織)は、ゴーストギア対策として重要な三つの点を明らかにしています。この中で最も重要とされているのは、1番目の「漁具流出の予防策:ゴーストギアの発生を未然に防ぐための管理等の改善」です。

ゴーストギア、3つの対策
地域でのゴーストギアの発生予防のカギを握るのは、漁具を実際に扱っている漁業者と、地元の自治体の動き。

WWFジャパンのプロジェクトでは、漁業者や自治体だけでなく、リサイクルを手掛ける企業、再生プラスチックを使用して製品を作る企業にも参加してもらい、さまざまな立場のステークホルダーが協力しながら、漁網のリサイクルと、それを使った新たな製品の製造・販売を、事業化していくことを目指しています。

そして、最終的には、WWFジャパンが間に立たなくても、この「仕組み」がビジネスモデルとして定着し、自主的な運営が他の地域や自治体に広がっていくことが、活動のゴールとなります。

ゴーストギアプロジェクトの仕組み

「海の環境保全」という観点で考える

漁業という人と海の関わりに端を発する、ゴーストギアの問題。

ゴーストギアをプラスチック製品のライフサイクルという観点から見つめ直すと、次のような要素がさまざまな形で関係してくることが分かります。

● プラスチック原材料メーカー・漁具メーカーによる循環型漁具の設計・製造・販売・回収への関わり

● 海洋生態系に配慮した持続可能な漁業、そしてそれを手掛ける漁業者による適正な漁具管理

● 自治体や地域の人々による地域としての海洋プラスチックごみ対策

● リサイクルを通じた新たな産業やサービス など

もちろん、漁法や漁具は地域や対象魚種によって異なりますし、リサイクルと一言で言っても、そのためには使った漁具を清掃し、ナイロンやポリエチレンなどを素材ごとに分別する必要があります。その負担は大きく、仕組みづくりは一朝一夕でできるものではありません。

しかし、逆に捉えるならば、この挑戦は地域の「持続可能な漁業」を後押しし、プラスチックごみを資源とした新たなビジネスを生み出す、チャンスでもあるといえます。そしてそれは、SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」だけにとどまらない、他の目標にも通じた取り組みといえるでしょう。

海に行くと、たくさんのプラスチックごみが目にとまります。全部無くすなど、無理に思えるかもしれません。でも、これは私たちが海の未来のため、必ず達成していかなければならない目標なのです。

宮城県気仙沼市でのプロジェクトの発足発表会
©WWFジャパン、気仙沼市
2022年5月30日に開催した宮城県気仙沼市でのプロジェクトの発足発表会。漁業者、自治体、企業、さまざまな立場の人たちが協力しながら、回収した使用済み漁網はリサイクルし、新たな製品の製造・販売を事業化していく。この多様な協力の形も、プロジェクトの大きな特徴です。

地域と一緒に!漁網のみらいプロジェクト

当プロジェクトに参加いただける自治体、漁網から再生したプラスチック原料を使用した製品の製造を考えられている企業を募集しています。詳細は「地域と一緒に!漁網のみらいプロジェクト」サイトをご覧ください。

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